【万葉集や古今集には「忘れ草」として登場】
ツルボラン科ワスレグサ属の多年草。同じ属の仲間にはホンカンゾウ、ノカンゾウ、ハマカンゾウ、ニッコウキスゲ、ユウスゲなどがある。このヤブカンゾウは中国原産のホンカンゾウ(シナカンゾウ)の変種とされる。7~8月ごろ、細長い葉の間から高さ50~100cmの花茎を立ち上げ、先端に濃いオレンジ色の花を上向きに付ける。ノカンゾウが一重の6弁花なのに対し、ヤブカンゾウはシベが花弁化して八重咲き状なのが特徴。
学名は「Hemerocallis fulva var.Kwanso」。属名のヘメロカリスはラテン語の「1日」と「美しい」の合成語で、この植物の仲間がいずれも朝開き夕方に萎む一日花であることを示す。ただいくつも蕾が付いているため、盛りの時期には次々と開花する。種小名フルバは「茶褐色の」を意味する。ヤブカンゾウは単にカンゾウと呼ばれることも多いことから、変種名も「カンゾウ」になっている。日本や中国原産の野生種をもとにヨーロッパで多くの園芸品種が作出され「ヘメロカリス」や「デイリリー」として人気を集めている。
カンゾウは詩文集の古典『文選(もんぜん)』の中に「萱草忘憂」として出てくる。そのため日本ではヤブカンゾウの花を見たり身に着けたりすると憂いや辛さを忘れさせてくれると信じられ、萱草と書いて「忘れ草」と読まれた。万葉集には5首ほどあり、大伴旅人は九州・大宰府から「萱草吾が紐に付く香具山の故(ふ)りにし里を忘れむがため」(3-334)と忘れがたき故郷への想いを詠んだ。古今集にも忘れ草を詠んだ素性法師の歌などが収められている。ヤブカンゾウの若芽や花、蕾は古くから山菜として和え物や天ぷらなどにして食されてきた。
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