【ボタンと並んで美人の形容詞に】
ソメイヨシノが散り始めると、今度はカイドウの薄桃色の華やかな花が咲き始めた。日本の花木には大陸から渡ってきたものが多いが、これも中国原産で江戸時代に渡来した。海棠の「棠」は梨のことを指し、海を渡ってきた梨ということで海棠と名付けられたらしい。
中国では唐の時代の絶世の美女・楊貴妃にちなんで「睡花」や「眠りの花」ともいわれる。玄宗皇帝が楊貴妃を呼んだところ、ほろ酔いのうたたね顔で現れたため、「海棠の眠り、いまだ足らざるのみ」と、楊貴妃を海棠の花にたとえたことによる。楊貴妃自身もカイドウの花を好んだらしい。中国では古来ボタンとともに愛好され、詩歌や絵画の題材としてよく描かれてきた。
カイドウといえば通常「ハナカイドウ」を指す。花が垂れ下がって咲くため別名スイシカイドウ(垂糸海棠)。同じ仲間に「ミカイドウ」があるが、これは花が上向きに咲くのが特徴。姫リンゴに似た小さな実を付け、長崎地方から全国へ広がったため「ナガサキリンゴ」の別名を持つ。
華やかなカイドウは俳人の間でもよく詠まれてきた。「海棠や白粉に紅をあやまてる」(与謝蕪村)、「海棠の寝顔に見ゆる笑くぼ哉」(正岡子規)、「海棠の精が出てくる月夜かな」(夏目漱石)。漱石門下の久米三汀(小説家久米正雄の俳号)の忌日は「海棠忌」と呼ばれている。
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