【本名徹次指揮、日越外交樹立40周年記念の日本ツアー最終日】
本名徹次指揮・ベトナム国立交響楽団の演奏会が1日、奈良市の東大寺大仏殿内で開かれた。日越外交関係樹立40周年を記念した日本ツアー(全国7カ所)の締めくくり。752年の東大寺大仏開眼供養ではベトナムからの渡来僧、仏哲(ぶってつ)が伝授した〝林邑楽(りんゆうがく)〟という舞楽が奉納された。そのゆかりの地での熱演に、大仏様も優しく微笑んでいるように見えた。
指揮の本名(写真㊥)はトスカニーニ国際指揮者コンクール2位、ブダペスト国際指揮者コンクール1位。2001年から同交響楽団の音楽顧問を務め、09年に音楽監督・首席指揮者に就任した。長年の貢献に対し昨年、ベトナム政府から文化功労賞が授与されている。演奏会場ではオーケストラが大仏様の真正面に位置し、聴衆はその両側に座った。本名だけが大仏様に背を向ける格好。演奏に先立ち、まず全員が起立して大仏様に三礼(さんらい)、続いて僧侶の読経、再び三礼、両国の国歌演奏と続いた。
最初の演奏曲は作者不詳でゴ・ホァン・クァンがオーケストラ用に編曲したベトナムの曲「入寺」。荘厳な鐘の音に続いて奏者が立ち上がり「ナモアジダファット」(南無阿弥陀仏)を合唱。その後、弦の深く豊かな響きが続き、最後にまた合唱と鐘の音。本名は棒を持たず、両手両指の微妙な動きで音を紡ぎだすように指揮した。奉納演奏にふさわしい曲目と演奏だった。
2曲目は芥川也寸志が父・龍之介の短編小説を基に作曲したバレエ音楽「蜘蛛の糸」。ベトナムを代表する女優レ・カイン(写真㊨)が物語をベトナム語で朗読した。地獄の様子を描いたような、鋭く甲高い弦の響きから始まった。太鼓の連打、静寂、管と打楽器の激しい響き、強さを増す不気味な音、そしてフルートが奏でる優しい旋律――。蜘蛛の糸をよじ登り、下の罪人に「降りろ」と喚き、ぷっつり糸が切れて元の地獄に落ちていくカンダタ。その様子が目に浮かぶような演奏だった。
次にベートーベンの交響曲第7番。第1楽章はややゆったりと始まったが、中盤からは明るく軽快なテンポで乗ってきた。葬送行進曲風の第2楽章は逆にやや速めのテンポでスタート。演奏時間は最終第4楽章までで約38分。管と弦のバランスなど少し気になった部分はあったものの、日越両国の友好を祝うにふさわしい明るく力強い演奏だった。アンコールは本名の出身地福島の民謡「会津磐梯山」と美しい旋律が印象的なベトナム民謡「セ・チ・ルオン・キム」だった。
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