【「生態系を壊す」との批判を受け金魚に代えて】
奈良市の興福寺で17日、殺生を戒めて猿沢池に魚を放つ伝統行事「放生会(ほうじょうえ)」が営まれた。昨年までは信徒から寄進された大量の金魚を放流していたが、今年から在来種のモツゴの放流に切り替えた。もともと自然界に生息しない金魚の放流は生態系を壊すといった批判が出ていることを踏まえたもの。今年は新型コロナウイルスの感染防止のため、放流の規模も一般の参加者のないこじんまりとしたものになった。
放生会は午後1時、国宝南円堂のすぐ北側にある一言観音堂で始まった。お堂の前には近畿大学農学部の学生たちによって数日前に捕獲されたモツゴ約200匹が泳ぐ大きな桶が2つ。僧侶たちの読経は小一時間ほど続いた。この法要は「生きとし生けるものは全ていつか仏になれる」という教えに基づき魚たちに戒を授けるというもの。この後、僧侶ら寺関係者は石段を下って猿沢池のほとりへ。奈良を代表する観光名所にもなっているこの池は奈良時代の749年(天平21年)に放生池として造られたともいわれる。
僧侶たちは般若心経を唱えた後、プラスチック製の2本のスロープ(長さ約4m)に桶を傾けて魚たちを池の中に戻した。昨年までは約2000匹の金魚をちびっ子たちも加わって手桶でにぎやかに放流していた。ところが今年は魚の入った桶は2つだけ、放流するのも僧侶のみ。観光客もほとんどいない中での放流はあっという間に静かに終わってしまった。
金魚の放流については日本魚類学会が〝第3の外来魚〟として生態系に悪い影響を及ぼすとして問題提議。放流ガイドラインを作ったり、「第3の外来魚問題―人工改良品種の野外放流をめぐって」をテーマにシンポジウム(2017年)を開いたりするなど警鐘を鳴らしてきた。猿沢池での金魚放流については「カメや鳥の餌になってかわいそう」といった声もあったそうだ。この猿沢池では一時北米原産のアカミミガメが爆発的に増殖、カメがハトを襲う衝撃的な場面に出くわしたこともあった(2012年8月12日のブログで紹介)。その後、水抜きによる駆除などで激減した。ただ、この日放生会の前に池をぐるっと1周したところ、7匹のカメを目撃した(多分全てアカミミガメ?)。この日放ったモツゴたちがカメの餌にならず生きながらえますように。