見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

年の瀬京都旅行:娑婆と極楽(大和文華館)

2008-01-07 22:18:31 | 行ったもの(美術館・見仏)
○大和文華館 特別企画展『日本の仏教美術-祈りの形象-』

http://www.kintetsu.jp/kouhou/yamato/index.html

 今日からついに仕事始め。しかし、実は年末年始に書き込みをサボっていた読んだもの・行ったものネタがたまっている。そこで、とりあえず日記は昨年暮れに戻る。

 折りしもクリスマスイブに日本の仏教美術じゃ、どうせ空いているだろう、とタカをくくって行ってみたら、意外とお客さんがいた。何が出品されているのか、あまりきちんとチェックはしてこなかったのだが、会場を見渡して、なるほど、と思った。何でもあり、なのである。

 最初の「ほとけのすがた」というセクションは、展覧会のタイトルに即していて分かりやすい。奈良時代の磚仏、印仏・摺仏(素朴な墨摺りから木版とは思えないほど華麗に彩色したものも)、仏画、さらに空海の太政官符、入唐僧・常暁の請来目録など。正面向きの獅子に乗った文殊菩薩像は、白い肌に朱の唇が、勇ましい少女のようで美しかった(鎌倉時代)。それから、波立つ海の只中の岩(あるいは亀の背?)に立ち、袈裟をたくし上げ、きっと後ろを振り返った若い羅漢像もカッコいい(鎌倉後期)。鋭い眼光が、実際に光線で表現されている。

 次のセクション「娑婆世界」には、いきなり『病草紙』の「痔瘻の男」と『病草紙断簡』とされる「鍼医」。いやーこれが見たくて来たんだよ~今回は。『病草紙』は京博からの特別出陳。昨年9月の奈良博『美麗 院政期の絵画』展にも数点出ていて、すごいなあと思ったが、「痔瘻の男」は初見。京博は全部で9図10面を所蔵しているそうだ。それにしても「痔瘻の男」(国宝)って、題名と扱いの落差が笑える。

 後者の「鍼医」は、描かれたテーマは『病草紙』と同類だが、描線や彩色から見ると、いわゆる『病草紙』(関戸本)の断簡とは考えられないそうだ。こっちのほうが巧い。13.8×17.9cmのきわめて小さい画面に、医者、枕を抱えて半裸で寝そべる患者(中高年の男性)、伺候する老僧、几帳の隙間から覗き込む童女(?)が効率よく収まっている。男性患者の、ちょっとメタボな体型が妙にリアル。この絵も、それから京博の『病草紙』全般も「まなざし=見ることの力学」に焦点をあてているという指摘は、重要であると思った。

 それから『遊行上人縁起絵断簡』(これも巧いなあ~。衣のはね方、足の上がり方にリズムを感じる)に『平治物語絵巻断簡(六波羅合戦巻)』(馬が大ぶりで、ギリシャのレリーフみたいにカッコいい)などなど。さらに烏沙帽(うさぼう)を被って琵琶を抱いた胡散臭げな『雪舟像』あり(後人の模本らしい。顔が四角い)。頓阿筆の『法然上人像』あり(これは真筆らしい。歌人なのに巧い)。いろいろな作品が見られて楽しかったが、こうなるともう、展覧会のタイトル「仏教美術」は、ほとんど「こじつけ」ではないかと思う。

 後半には、仏具・工芸品もあって、「春日卓(かすがじょく)」という用語を覚えた。仏殿に香華を供える机を卓(じょく)と言い、美しい曲線の長い脚を持つものをこう呼ぶのだそうだ。左右に4本ずつの足がつく「八足机」はケモノの足を模したものだという。面白かった。
コメント
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