■大和文華館 特別展・没後50年『矢代幸雄と大和文華館-芸術を愛する喜び-』(2025年4月12日~5月25日)
観劇と展覧会めぐりを目的にした2泊3日の関西旅行。初日は同館を訪ねた。本展は、初代館長・矢代幸雄(1890-1975)の没後50年を記念し、矢代が蒐集した初期のコレクションと関連する諸作品を展示し、その足跡をたどる。冒頭には伝・趙令穣筆『秋塘図』(北宋時代)。やさしい雰囲気の小品で、モノクロだと思ったら、夕靄(?)にかすかな赤みが差している。隣りの『饕餮文方盉』は、どこかで見たことがあると思ったら、根津美術館の所蔵だった。『源氏物語浮舟帖』(鎌倉時代)は、三人の女性が描かれ、うち一人の前に硯が置かれている。硯の蓋に点々とにじむ水玉模様は、匂宮の文を見て落涙する浮舟を描いているのではないかという解説が興味深かった。
『秋塘図』と『源氏物語浮舟帖』は原三渓旧蔵。西洋美術を学んだ矢代(横浜生まれ)は原三渓との交流を通して、東洋美術への造詣を深めていく。近鉄社長の種田虎雄(おいた とらお)の知遇を得て、現・大和文華館の開館準備をまかされてからも、三渓ゆかりの美術品の蒐集に努めた。『寝覚物語絵巻』も『佐竹本三十六歌仙・小大君』も『婦女遊楽図屏風(松浦屏風)』も三渓旧蔵。三渓から松永耳庵に渡り、現在は福岡市美術館に入ってる『病草紙・肥満の女』や『地獄草紙・勘当の鬼』も来ていて、眼福だった。
■大阪市立美術館 特別展・大阪・関西万博開催記念・大阪市立美術館リニューアル記念特別展『日本国宝展』(2025年4月26日~6月15日)
2日目はここから。私は朝イチの日時指定券を買っていたが、チケットあり・なし合わせると100人以上が開館前から並んでいた。建物に沿って並ばせ、入場は大階段を上がって正面玄関からという方式だった。本展はタイトルどおり135件の国宝指定品を展示するもの(他に参考展示が20件くらい有り)。考古、工芸、書画、彫刻など、バランスよく揃っているが、展示替えが多いので、訪ねた時期によって、かなり印象が変わるのではないかと思う。
私は、東博の『洛中洛外図屏風(舟木本)』を見ることができて嬉しかったが、会場が込み過ぎて、あまり近づけなかった。小品だが池大雅・与謝蕪村筆『十便十宜図』も気に入った。蕪村の『宜暁』(朝の光で白壁に波の模様が映るのを楽しむ)が粋でオシャレ。京博の『病草紙』もたくさん来ていた。『信貴山縁起絵巻・飛倉巻』は、スカッとしてよい。仏像は、薬師寺の聖観音菩薩立像が、あまりにも無作為にズドンと置かれていて、ホンモノ?と疑ってしまった。奈良博だったら、もうちょっと「映える」展示にするだろうと思ったが、これはこれでいいのかもしれない。
海外からのお客さんも多かったが、中国系のグループが固まっていたのは、王義之『葬乱帖』(三の丸尚蔵館)の前。まあ唐代の模写なんだけどね。ガイドさんが中国音で読み上げるのに聞き耳を立ててしまった。
■四天王寺・宝物館 春季名宝展『もふもふ!日本美術~どうぶつのかたち~』(2025年3月8日~5月6日)
文楽公演の前に、大阪市美から徒歩で四天王寺に向かい、宝物館に寄り道。本展は、四天王寺の所蔵品の中から動物モチーフの美術工芸品を展示し、多彩な動物のかたちについて紹介する。書画や仏教美術に関しては、あまり珍しいものはなかったが、舞楽装束の中の動物は面白かった。『林歌』の袍には、金糸・銀糸・黄糸で30匹以上のネズミが刺繍されている。展示はされていなかったが、これに鼠甲(ねずみかぶと)という独特の被り物が付くらしい。
■東寺・宝物館 東寺宝物館開館60周年記念・東寺名宝展『国宝 十二天屏風と灌頂』(2025年3月20日〜5月25日)
最終日、奈良博の後、重い図録をかついで東寺に立ち寄る。東寺では、昭和32年(1957)に文化財総合調査が行われ、昭和38年(1963)に宝物館が完成、昭和40年(1965年)に開館した。今年は開館60周年を記念して、名宝展を春期と秋期の2期に分けて開催し、春期は、国宝十二天屏風と灌頂に関する記録を公開する。主な展示品は『国宝十二天屏風』(鎌倉時代)6幅と近代の『十二天屏風(版本)』。十二天屏風は蝶番を外して並べ替えることができるそうで、古本系(東寺)と新本系(仁和寺)の並べ方があるそうだ。また、古記録によれば、往古の灌頂会では十二天の面を付け扮装をしていたが、次第に屏風で代替するようになったというのも面白いと思った。
夜叉神立像2躯は、巨大な千手観音像の足元にすっかり落ち着いたようだ。以前は食堂前の夜叉神堂に祀られていたことも、少しずつ忘れられていくのかもしれない。