見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

名品揃いすぎ/桃山(東京国立博物館)

2020-10-25 21:10:11 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館 特別展『桃山-天下人の100年』(2020年10月16日~11月29日)

 政治史における安土桃山時代(1573-1603)を中心に、室町時代末期から江戸時代初期(16世紀半ば~17世紀半ば)の100年間、美術史上「桃山時代」として語られる美術の特質を約230件の優品によって紹介する。本展は新型コロナ対策として混雑を避けるため、事前予約制(日時予約券)が導入されている。入場者数が少なくなると見積もったせいか、チケット料金が異常に割高だ。一般2,400円。これではさらにお客さんがそっぽを向くのではないか。まあ私はプレミアムパスがあるので実質1,250円で入ったけど。

 確かに優品揃いではあったが、既知の作品が多いため、あまり印象に残らない展覧会だった。2010年の名古屋市美術館『変革のとき 桃山』は(当時の感想には、いまいち消化不良と書いている)今でも思い出すが、ああいう衝撃はなかった。

 見ることのできた優品としては、洛中洛外図屏風の歴博甲本と上杉家本。『聚楽第図屏風』は、それこそ『変革のとき 桃山』で見たもので懐かしかった。等伯『松林図屏風』と永徳『檜図屏風』も見ることができた。京博の式部輝忠『巌樹遊猿図屏風』(テナガザルがいっぱい)や神戸市博の『泰西王侯騎馬図屏風』を東京で見ることができるのは、お得感がある。徳川美術館の岩佐又兵衛『豊国祭礼図屏風』(10/25まで)は、やっぱりこれが見たくて今週末に出かけてきた。来週からの『洛中洛外図屏風(舟木本)』も捨てがたいところだったが。妙心寺・天球院の狩野山雪『竹林虎図襖』と『籬に草花図襖』は裏側も鑑賞できる展示になっている。風俗図は『観楓図屏風』に加え『花下遊楽図屏風』も。

 これだけ一度に見ることができて何が不満かと言われると申し訳ないのだが、名画全集をめくっているみたいで、あまり面白くないのである。あと、東博や京博の所蔵品が多いので、美術館通いをしていると、何度も見ている作品だというのもテンションがあがらない理由のひとつ。むしろ関心が動くのは、所蔵者の注記されていない初見の『日本図・世界図屏風』(個人蔵か?)や、足利義晴像紙形(去年、九博の『室町将軍』展で見た、死の直前の肖像画スケッチ)のような歴史資料だ。

 韃靼人狩猟図がミニ特集になっていたのは、ちょっと面白かった。室町から桃山にかけて好まれた画題だという。式部輝忠『韃靼人狩猟図屏風』、狩野山楽『狩猟図』、狩野山雪『韃靼人狩猟・打毬図』の3点を見比べて楽しむことができた。あと、ずっと見たいと思っていた『関ヶ原合戦図屏風』(大阪歴史博物館)が、前期は右隻だけだったのは残念だった。後期展示の左隻のほうが見どころが多そう。

 絵画のほか、茶道具、きもの、甲冑、刀剣、刀の拵えなどもたくさん出ていた。変わり冑の派手な甲冑を見ていると、桃山文化って人目を驚かすことに価値を見出すヤンキー文化だなあ、と思う。「かぶき者」に似合いの朱鞘の刀がいくつか出ていたのも興味深かった。

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コレクターの愛好品/大津絵(東京ステーションギャラリー)

2020-10-18 23:13:43 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京ステーションギャラリー 『もうひとつの江戸絵画 大津絵』(2020年9月19日~11月8日)

 大津絵というものを知ったのはいつだったろう? ぼんやり覚えているには、大学生の頃、関西方面にふらりと旅行に行くのが好きで、その頃、持っていた大津周辺のガイドブックに「大津絵の店」が載っていて、三井寺(園城寺)に行ったら、必ず寄ろうと思っていた。三井寺の境内にも大津絵を売っているお店があると書いてあって、確か私は三井寺の境内で、藤娘を描いた小さな色紙を買って、かなり長いこと、部屋に飾っていた。私にとっての大津絵は、美術品というと口はばったいが、生活を彩る工芸品だと思っていた。

 だから、本展の開催趣旨に「これまで大津絵の展覧会は、博物館や資料館で開催されることが多く、美術館で開かれたことはほとんどありませんでした」とあって、びっくりした。そうなのか。確かに美術コレクションの一部に大津絵が含まれることはあっても、大津絵だけの展覧会というのはなかったかもしれない。私はだいたい日本民藝館で、定期的に大津絵を見ているのだが、あれも美術館とはちょっと違うのかも。

 そういうわけで本展は、近代日本の名だたる目利きたちによる旧蔵歴が明らかな「コレクターズ・アイテム」「名品ぞろい」の展覧会であることを強調する。ポスターのキャッチコピーも「欲しい!欲しい!欲しい!」と直球。展示品は約150点。

 中心となるのは、笠間日動美術館が所蔵する、画家・小絲源太郎の旧蔵コレクション。そのほか、福岡市博物館、浜松市美術館、静岡市立芹沢銈介美術館、大津市歴史博物館など。あ、見たことある、と思ったのは日本民藝館の所蔵品だった。柳宗悦は持ち前の眼力で古作や珍品、稀少な逸品を数多く収集した。現在、日本民藝館は、柳旧蔵の40点ほどに加え、柳の没後に寄贈を受けたコレクション100点ほどを収蔵しているという。道理で見覚えのない作品もあるわけだ。雨宝童子とか勝軍地蔵とか阿弥陀三尊来迎とか、宗教性の強い大津絵は珍しくて面白い。それから、何も知らずに見ていた『不動尊(黒不動)』は柳の前の所有者が黒川真頼だったり、『塔』は渡辺霞亭だったり、『提灯釣鐘(担いでいるのはサルなのか?)』は浅井忠だったり、コレクターのつながりが分かって面白かった。本展の図録、主要作品は表具も図版に収めてあるのはありがたい。誰が表装したのかな、と想像が広がる。

 大津絵の面白さは、やっぱり「巧まざるところ」だと思うのだが、時々すごく巧い作品にも遭遇する。吉川観方旧蔵で、さらにその前は三井寺の旧蔵品だという『大津絵図巻』(26図所載)は、どの絵もかなり巧い。人物は全くバランスが崩れず、フレームにきちんと収まっている。『塔』を立体的に描けるのにも感心した。いちばん好きなのは『酒呑猫』の顔! 大きな盃を咥えた口元が生き生きしている。『雷と奴』や『五人男(雁金文七)』の表情(目元)も、癖のある絵師が描いているなあ、と感じる。

 逆に、どうしてこうなった的な面白さを感じた作品は、日本民藝館蔵の『頼光』(いい顔だ)とか個人蔵(三浦直介→梅原龍三郎)の『鬼の念仏』、浜松市美術館蔵『瓢箪鯰』(ナマズ!)など。「大黒外法の相撲」「大黒外法の梯子剃」は定番の画題だったらしく、何パターンもあって、どれも面白い。大黒と外法(福禄寿)はいいコンビだったんだなあ。

 東京ステーションギャラリーは相変わらず完全予約制で、インターネットでは3時間前までしか予約できない。ローソン・ミニストップの店内端末だと30分前まで購入ができ、丸ビル地下のナチュラルローソンで、ぎりぎり購入することができた。早く以前のように、気が向いたときにふらりと入れるようになって欲しい。

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漢籍の読みかた/古代中世 日本人の読書(丸善ギャラリー)

2020-10-13 20:50:50 | 行ったもの(美術館・見仏)

〇丸善・丸の内本店4階ギャラリー 第32回慶應義塾図書館貴重書展示会『古代中世 日本人の読書』(2020年10月7日~10月13日)

 たぶん毎秋行われている慶応大学図書館の貴重書展示会。和漢書が出るときはなるべく行くようにしている。今年は、古代・中世の日本人が「漢籍」をどのように学習し、また、どのように活用したのかをテーマとする。特に注目されたのは、直前の「プレスリリース」によって「『論語』の伝世最古の写本(出土資料を除く)と考えられる、隋以前の中国写本『論語疏』」の公開が告知されたことだ。

 本資料は、江戸時代には壬生家に収蔵されていた記録があるが、幕末以降所在不明になった。近年発見されて、同大学図書館が所蔵することとなり、2018年度より研究を進めているのだそうだ。会場では、入ってすぐの一番目立つ展示ケースに展示されていた。プレスリリースを見たとき、これは!みんな見に行くよな!と思っていたが、そんなに注目している人は多くなかった。

 この展示会も全面的に撮影OKと聞いてびっくりした。実は、土曜に見に行ったのだが、スマホを忘れていて撮影できなかったので、今日、会期最終日に仕事を早退して、駆け込みでもう一度見てきた。『論語』の伝世最古写本もこのとおり撮影可能。

 もともと慶応大学図書館は、質の高い論語コレクションを所蔵している。これは天文2年(1364)、堺の阿佐井野家による出版(阿佐井野本)。正平版論語に次ぐ天文版論語の初印本である。

 古書は蔵書印を見るのも楽しみのひとつ。兵書『黄石公三略』に弘前医官渋江氏(渋江抽斎)の蔵書印を発見。蔵書家だなあ。

 この『孝経直解』には「宝玲文庫」という知らない蔵書印が押してあって、気になったのであとで調べてみたら、イギリス出身の言語学者フランク・ホーレー(1906-1961)の旧蔵書らしい。外国人としては最高最大の古典籍蒐集家とも言われている人物である。

 漢籍の貴重書というと版本中心になることが多いが、「日本人の読書」というテーマのせいか、本展は写本が多かった。本文を書き写したり、書入れをしたり、あるいは抄本をつくることが即ち読むこと、学ぶことだったのだと感じた。 

 展示会鑑賞後は、丸善店内のカフェでお茶。たまにはこういう平日の午後があってもよい。

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見えない魅力の発見/日本美術の裏の裏(サントリー美術館)

2020-10-11 21:46:37 | 行ったもの(美術館・見仏)

サントリー美術館 リニューアル・オープン記念展II『日本美術の裏の裏』(2020年9月30日~11月29日)

 行ってみたら楽しい展覧会だったが、タイトルを聞いたときは意味がよく分からなかった。裏打ちとか裏彩色とか紙背文書とか、物理的な「裏」に注目するのかと思い込んでいたが、いまホームページに掲げられた開催趣旨を読んでみると、こういうことらしい。なるほどね。

 ――「裏」には、見えない部分だけでなく、奥深く、隠された内部という意味があります。日本美術をより深く愉しめるように、教科書では教えてくれない面白さの一端をご案内します。目に見えていない(=裏)ところにこそ、魅力が隠れている(=裏)かもしれません。

 会場は5つのセクションで構成されている。「空間をつくる」は主に屏風、「小をめでる」は雛道具と日常のうつわ、「心でえがく」は素朴絵系の絵巻と絵入本、「景色をさがす」はやきもの、「和歌でわかる」は歌仙絵・和歌色紙と和歌にまつわる調度品など、「風景にはいる」は名所風景画。どれもサントリー美術館の得意分野で、過去のさまざまな展覧会が記憶によみがえる。

 襖みたいなパーテーションなど、会場のつくりに遊びがあって面白かった。この展覧会、驚いたことに展示品は全て写真撮影可能だった。海外の美術館では珍しくないが、日本でこういう展覧会は珍しいので驚いてしまう。特に「心でえがく」のセクションでは、絵入本『かるかや』が大きく広げてあって(本来、冊子体のはずだが、綴じを外して絵巻のように並べていた)夢中で写真を撮りまくった。この、ゆるくて素朴な絵がつづる、純粋で真剣な信仰と家族愛の物語、大好きなのだ。

 これも大好きな『鼠草子絵巻』。白馬の顔もネズミふうなのがかわいい。ほかに『雀の小藤太絵巻』『藤袋草子絵巻』『おようのあま絵巻』『新蔵人物語絵巻』も出ていた。

 写真撮影できるのは、作者不詳の絵巻や絵入本に限らない。円山応挙や池大雅や谷文晁作品もOK。しかし階下の展示室で、佐竹本三十六歌仙絵『源順』(鎌倉時代)が出ているのを見たときは、ちょっとうろたえてしまった。いいの?ほんとにいいの?と思いながら撮影。学者官僚である源順が好きなので、大事にしよう、この写真。

 というわけで、あまり話題になっていないけど、お得感のある展覧会である。

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2020年8-9月@東京:展覧会拾遺

2020-09-28 23:33:01 | 行ったもの(美術館・見仏)

三井記念美術館 開館15周年記念特別展『三井家が伝えた名品・優品』第2部:日本の古美術(2020年8月1日~8月31日)

 第1部「東洋の古美術」に続く第2部。冒頭の『伊賀耳付花入(銘:業平)』は伊賀焼にしては細身で華奢な印象。表側は緑色の釉薬がキラキラ輝いて雅やかだが、裏にまわると焼け焦げたような茶色が目立ち、寂びの魅力を感じる。仁清の『流釉輪花建水』は上品で可愛い。久しぶりに見た「継色紙」「寸松庵色紙」「升色紙」の揃い踏みを堪能。特に升色紙の「くるるかとみればあけぬるなつのよをあかすとや」(ここまで左側)「なく山ほととぎす」(右側、空白多め)の配置が好き!

静嘉堂文庫美術館 『美の競演-静嘉堂の名宝-』(後期:2020年8月4日~9月22日)

 展示替えがあったので後期も見て来た。前期の山水画が引っ込んだかわりに「信仰の造形」が増えて、鎌倉時代の『春日本迹曼荼羅』、南北朝時代の『春日宮曼荼羅』(色彩が鮮明でカラフル)、室町時代の『春日鹿曼荼羅』(背景の御蓋山が春日権現験記絵のようなウロコ模様)などを見ることができた。元時代の華やかで巨大な仏画『文殊菩薩像』『普賢菩薩像』は若冲が手本にしたと考えられるもの。しかしこの文殊は文殊らしくない。『羯鼓催花・紅葉賀図密陀絵屏風』は初めて左右一双を見ることができた。2016年に片方しか見ることができず、悔しがったもの。玄宗の宮廷を描いた羯鼓催花図のほうが残りがよく、古代日本の貴公子たちを描いた紅葉賀図のほうは、退色が目立っていた。

太田記念美術館 『月岡芳年 血と妖艶』(後期 :2020年9月4日~10月4日)

 これも後期再訪。好きな作品『月花の内 雪 岩倉の宗玄 尾上梅幸』を見ることができて満足。小学生くらいの男子を連れた若いご夫婦がいて、確かに劇画調でカッコいい武者絵もあるけど、血みどろ絵、大丈夫なのだろうか?と横で心配してしまった。

永青文庫 令和2年度秋季展 財団設立70周年記念『永青文庫名品展-没後50年”美術の殿様“細川護立コレクション-』(2020年9月12日~11月8日)

 永青文庫の設立者である細川護立(1883-1970)の没後50年を記念し、そのコレクションの魅力を楽しむ。4階展示室には、今年、新たに重要文化財に指定された松岡映丘の『室君(むろぎみ)』と平福百穂の『豫譲(よじょう)』を展示。どちらも六曲一双の大画面で、この展示室ができてよかったとしみじみ思った。中国古代を舞台にした『豫譲』制作のため、百穂が朝鮮総督府博物館の小場恒吉に冠や馬具の細部について問い合わせた手紙が一緒に展示されていて面白かった。狩野元信筆『細川澄元像』(永正4/1507年)はとても鮮明。刀ではなく薙刀みたいな長巻を持っているのだな。

 菱田春草『黒き猫』は写実というより、猫の概念が描かれているような気がする。着物か帯の柄のように美しく平面に収められた柏の枯れ葉の風情もよい。

山種美術館 特別展『竹内栖鳳《班猫》とアニマルパラダイス』(2020年9月19日~11月15日)

 『黒き猫』を見たらこっちも、と思って、ハシゴで竹内栖鳳の『班猫』を見に行った。こちらは、個性というか具体性を強く感じる猫で、ゴロゴロと喉を鳴らす声、柔らかな体毛に埋もれた華奢な骨格まで想像できる。第2展示室では「ローマ教皇献呈画 守屋多々志《西教伝来絵巻》試作 特別公開」という併設展示をやっていて、大作『慶長使節支倉常長』と併せて、『西教伝来絵巻』(試作)を見ることができた。上巻は、青海原を渡る帆船によって、ヨーロッパから日本へ宣教師たちの旅を象徴する(雲の上で天使たちが祝福している)。下巻は聖母子の左右には、安土桃山時代の日本の男女の姿が明るい色彩で描かれている。絵を描く少年、甲冑を来た武士、直垂姿の侍、百姓、高貴な女性など。楽しい作品だった。

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赤壁図屏風で祝再開/モノクロームの冒険(根津美術館)

2020-09-23 22:32:50 | 行ったもの(美術館・見仏)

根津美術館 企画展『モノクロームの冒険-日本近世の水墨と白描』(2020年9月19日~11月3日)

 新型コロナの影響でずっと休館していた根津美術館がようやく再開したので、1月末に企画展『〈対〉(つい)で見る絵画』を見に行って以来8か月ぶりの参観に行ってきた。長かったなあ。前日にホームページを見たら「ご来館前日までに日時指定入館券をご購入ください」という案内が掲載されていたので、慌てて購入した。行ってみたら、アプローチの先(屋外)に特別な受付が設置されていて、日時指定入館券を購入せずに来てしまった人にも対応しているようではあった(同館でおなじみのおじさんの姿を見て懐かしかった)。

 本展は、墨の可能性を追求してきた水墨と白描の魅力を、日本近世の作例によって紹介するコレクション展。展示室1には屏風、軸物、画巻などの水墨画17件。伝・宗達筆『老子図』は、明確な線で構成された老子の肖像と、たらしこみのせいで溶け出しそうな墨色の牛の対比が面白い。狩野山雪筆『梟鶏図』2幅は大好きな作品なので再会を喜ぶ。目つきの悪いニワトリとかわいいフクロウ。あさってのほうを向いているフクロウの視線がよい。大阪の『奇才』展でも山雪をたくさん見たが、ほんとに振れ幅の大きい絵師だと感じる。

 展示室に入った瞬間に気づいていたのだが、壁面の大部分を占領していたのが、長沢芦雪筆『赤壁図屏風』。六曲一双で、屏風の一枚がタタミ一畳分くらいある。昨年、出光美術館の『名勝八景』で初めて見たのだが、あのときは展示室のかどを利用して、右隻と左隻を90度の角度で展示していなかったかしら。今回は左右に並べているので、規格外の大きさが際立つ。端から端まで歩いてみて、その遠さに笑ってしまう。大画面の左右に展開する幻想的な岩壁。幽霊の行進みたいな松の木。水上に浮かぶ小さな船、数名の文人たち。船のトモでは、縦長の涼炉に茶瓶を掛けている様子なのが、江戸の煎茶趣味を反映しているようで面白い。いま気づいたが、今回の展覧会のポスターは、この『赤壁図屏風』じゃないか。欲しい!

 海北友松の『呂洞賓・鷺・鶴図』3幅対は、オバQみたいな白抜きの鷺図がかわいかった。点目が愛らしい呂洞賓は、抜き身の剣に立って宙を飛んでいる。中国の仙術の定番のひとつだ。『牧谿瀟湘八景図模本』は同館の水墨画コレクションでは欠かせない名品だが、私はむしろ狩野常信筆『瀟湘八景図巻』が気に入った。モノクロームの世界だが、むかし見た江南の風景がよみがえる。雨を含んで重たそうな竹の緑、黒い瓦に白壁の村など。

 展示室2は白描画。『伊勢物語・源氏物語図屏風』のほか、『鳥獣戯画断簡模本』(ウサギとサルの競べ馬。江戸期の摸本だが巧すぎてそう見えない)、冷泉為恭、吉川霊華、安田靫彦の作品など、多彩だった。

 展示室3(仏教美術)は、木造彩色の増長天立像(平安時代、12世紀)をこのコーナーでは初めて見るような気がした。どこか力の抜けたやさしい造形。2019年の企画展『優しいほとけ・怖いほとけ』では見たものかもしれない。展示室5は「陶片から学ぶ-中国陶磁編」を特集。根津美術館、こういうコレクションも持っているんだ、と認識を新たにする。展示室6は「秋寂の茶」。寂しいけれど華やかな名品が揃っていて、再開記念の気持ちを込めたセレクションではないかと思った。

 展示室の中ほどに設置されていた展示ケースやベンチを減らして、空間を広くするなど、感染症予防に配慮した会場づくりだった。何事もなく、再開が続きますように。

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2020年9月関西旅行:奇才(あべのハルカス)

2020-09-17 23:10:32 | 行ったもの(美術館・見仏)

あべのハルカス美術館 『奇才-江戸絵画の冒険者たち-』(2020年9月12日〜11月8日)

 6月に江戸東京博物館で見た展覧会の巡回展をまた見に来た。大阪展の出品リストはNo. 229まであるが、実は間の番号が飛んでいるので、全170件くらい。展示替えがあるので、一回で見られるのはその半分弱である。それでも見たい作品がいくつかあって、来てしまった。

 京都の絵師から始まる冒頭には俵屋宗達の『扇面貼交屏風』(醍醐寺像)。四つん這いのまま、首をくるっと上向きにした不思議な野良犬が描かれているもの。古絵巻の図様を転用しており、おおらかでのんびりした雰囲気だが、扇面という空間の使い方が独特で面白い。狩野山雪の大作が4件も見られたのにはテンションが上がった。個人蔵の『楼閣山水図屏風』六曲一双がすごくよかった!右端には人工の粋を尽くした巨大な楼閣。豆粒のように小さな人々が行き交っている。中央は湖面。遠景に丸い島影。樹木や人工物の姿はなく、強い陰影が強調されている。傍らに低い月。左端は巨大な太湖石のような(ベトナムのハロン湾のような)自然が造り出した絶景。

 芦雪(この展覧会は長澤蘆雪と表記)は『岩上猿・唐子遊図屏風』(個人蔵)、蕭白は『群仙図屏風』だけだったが満足。若冲の『鶏図押絵貼屏風』(個人蔵、金地)は、類似の作品がいくつかあるが、これは生き生きした躍動感があって、出来のよいもの。狩野永岳の『西園雅集図舞良戸』(京都・隣華院)は金地の大画面に濃彩、意表をついた画面構成で気に入った。「山雪に近い魅力がある」という解説に同感。知らない名前だなあと思ったが、2016年に府中市美術館で作品を見ているようだ。

 大阪~江戸では、北斎の紙本着色『南瓜花群虫図』が珍しかった。常州草虫画を思い出す。狩野一信の五百羅漢図もよい作品が来ていた。

 諸国は蠣崎波響の『夷酋列像図』(函館市中央図書館)「イトコイ」を見ることができて満足。林十江は大好きな『蜻蛉図』(個人蔵)。河鍋暁斎は問題作『処刑場跡描絵羽織』が、さりげなく一般作品の列に混じって展示されていた。中央の血みどろの処刑図に目が行ってしまうが、両袖にはガス灯や電柱、洋装の男女のシルエットが描かれている。その落差に背筋が寒くなる。

 会場の最後に神田等謙の『西湖・金山寺図屏風』(山口・顕孝院)の右隻「金山寺」が展示されていた。知らない画家だが、東京展のとき「事情により展示中止になりました」という断り書きが掲示されていたので記憶に残っていた。この「金山寺」がとてもよい。ペン画のような几帳面な描線、計算され尽くした画面構成で、空想上の異世界のように見える。解説によれば、「雲谷派の中には、きっと奇才がいるはずだと確信して探してもらい、ついに等謙を発見した」が、詳しいことは分からない、謎だらけの絵師だそうだ。これからの研究の進展が楽しみである。後期にもう一度、来られたら来たい。

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2020年9月関西旅行:泉屋博古館分館、龍谷ミュージアム、他

2020-09-16 23:22:04 | 行ったもの(美術館・見仏)

泉屋博古館分館 60周年特別展『瑞獣伝来-空想動物でめぐる東アジア三千年の旅』(2020年9月12日~10月18日)

 古来より、東アジアの美術工芸の重要なモチーフだった瑞獣(吉祥をもたらすとされた動物たち)。本展は、数ある瑞獣のなかから、龍・鳳凰・虎を取りあげ、古代中国から近代日本まで三千年の歴史を追う。展覧会のタイトルを聞いたときは、ははあ、泉屋博古館所蔵の青銅器『虎卣』や『虎鴞兕觥』が出るのかな、絵画は『雲龍図』や『風虎図』があったな、と思っていた。それらもあるにはあったが、見慣れない作品が多くて驚いた。点数60件余のうち、半数以上(たぶん)が他館からの出品だったのだ。

 龍は、ひときわ目を引く大作、海北友松が描いた建仁寺大方丈の襖絵が出ていた。鼻息の熱さまで感じられそうな、生き生きした龍の表情。首の後ろに雲か風か、ぐるぐる大渦巻が巻いている。本展のポスターに使われているのはこの龍なのだが、アップにし過ぎて迫力を削いでいる気がする。東博から伝・陳容筆『五龍図巻』が来ていたのにも驚いた。大阪市美の『人物鳳凰飾龍把香炉』(3~6世紀)や京大人文研の『飛龍画像石拓本』(1~2世紀)など珍しいものも。黒川古文化研究所の『龍袍』(青地に金糸の刺繍)には、流行りの清朝宮廷ドラマを思い出した。

 虎は、泉屋博古館のシンボルみたいな『虎卣』を久しぶりにじっくり見る。大きな口を開けた虎に抱えられているのに、母に抱かれた子供のように安心した表情を見せる人間。人間の両足が、立ち上がった虎の後ろ足に乗っているのも面白い。そして虎の後頭部にヤギのような四つ足の小動物が乗っていることに初めて気づいた。京大人文研の『西王母画像拓本』は、虎を従えた西王母を描くが、同じ画面に擬人化されたガマガエルとウサギがいるのを見て、もしや『鳥獣戯画』の発想ってここから?と思った。応挙が描いた『虎図』は三日月型の瞳孔が特徴。木島櫻谷の写生帖にはさまざまな虎の姿態が描かれていた。ぶ厚い肉球のアップまで。

 鳳凰は、なんと大阪市美の『五星二十八宿神形図』(6世紀)が出ていて、声をあげそうになった。朱雀に乗る女性の姿で描かれた太白星がメインで、その前の黒い牛に乗った鎮星、後ろの辰星と二十八宿の角宿の図が開いていた。どの図様も妖しくて好き。相国寺の『鳳凰石竹図』は墨画にかすかな朱(解説を読んで気づく)を加えた作品。鹿苑寺の『百鳥図』については、百鳥は宮廷に仕える文官を表し、猛禽類が見えないのは、シビリアンコントロールが行き届いた安寧の世を表すという解説が腑に落ちて面白かった。儒教的である。清代の補子(官服の胸につける四角い織物)の刺繍も、文官は鳥、武官は獣だったことを思い出した。

龍谷ミュージアム 特集展示『西七条のえんま堂-十王と地獄の美術-』(2020年9月12日~11月3日)

 「西七条えんま堂」(正法寺七条別院)の十王坐像および本尊の不動明王立像(鎌倉時代)を寺外で初公開。同寺には11躯の十王像があり、最も大きな閻魔王坐像は鎌倉時代の作、他の10躯は南北朝から室町時代の十王像5セットを寄せ集めたものと見られている。写真展示の『京羽二重大全』という書物には、京都の有名な閻魔王像として「引接寺、珍皇寺、閻魔堂(六波羅)、壬生寺、十王堂(西七条)」が挙げられていて、興味深く思った。

 この展示は「西七繁栄会」と龍谷ミュージアムの連携事業による調査の成果であるとのこと。今回は、時間がなくてえんま堂には寄れなかったが、次の機会には必ず行ってみよう。

えきにし:「西七繁栄会」による地域活性化の新しい取り組み 〜商店街マップづくりから、七条えんま堂駒札設置まで〜(2020/3/1)

京都文化博物館 特別展『池大雅-文人たちの交流-』+『木島櫻谷と京都画壇』(2020年8月12日~9月22日)

 『池大雅』展は、池大雅美術館から京都府に寄贈されたコレクションを中心に、大雅をめぐる文人たちの交流を紹介する。池大雅美術館は1959年に開設された私設美術館だが、2013年に閉館。その所蔵品は京都府に引き継がれた。コレクションには、池大雅と妻の玉瀾の両人を偲んで弟子たちが東山に建てた大雅堂ゆかりの品も含まれている。

 『木島櫻谷』展は、三条御倉町で染織物の問屋業を営んできた旧家・大橋家の資料をもとに、四代目・大橋松次郎が物心両面で支援した、木島櫻谷ら京都画壇の画家の作品を紹介する。櫻谷のほか、都路華香、山元春挙、土田麦僊らの作品もあった。明治から昭和の初めの絵葉書コレクションが面白かった。

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2020年9月関西旅行:聖地をたずねて(京都国立博物館)再訪

2020-09-15 21:56:46 | 行ったもの(美術館・見仏)

京都国立博物館 西国三十三所草創1300年記念特別展『聖地をたずねて-西国三十三所の信仰と至宝-』(2020年7月23日~9月13日)

 金曜の午後に国立劇場で文楽を見たあと、新幹線で京都入り。駅前のビジネスホテルに泊まって、土曜は朝から展覧会巡りに出かけた。京博の『聖地をたずねて』は再訪になる。8月に前期を見に来たときは人が少なかったが、今回は入館に15分ほど待たされた。とはいえ、いつもの特別展に比べればずっと空いているし、会話を控えているので、展示室が静かで快適である。

 後期出品を見逃さないよう展示リストをチェックしながら、2階から見ていく。前期も、あまり見る機会のない縁起絵巻を面白いと感じたが、後期の展示も楽しめた。『壺坂観音縁起絵巻』(江戸時代)では、大蛇の生贄とされた娘の身代わりになった姫君が法華経を読誦して大蛇を昇天させる。姫君が観音の化身かと思ったが、解説を読み直したら、姫君は弁財天の化身で、大蛇が壺阪観音の化身だった。海面(?)から大蛇(ほぼ龍)が出現するところは、岩佐又兵衛ふうにスペクタクル。次の場面、法華経の功徳で回心した大蛇は柔和な顔をしている。『石山寺縁起絵巻』巻二にも、歴海和尚の読経を聴こうとして池の中から龍王たちが次々に上ってくるシーンがあり、赤い龍、白い龍、緑の龍などが描かれている。しかも読経を終えた和尚をおぶって送ってくれるんだ。かわいい。

 土佐光信筆『清水寺縁起絵巻』巻下は、大蛇(角がある)に襲われた僧侶が山門の天王を寄進しますと祈ったら助かったという霊験譚で始まる。僧侶をぐるぐる巻きにする大蛇、斜面を去っていく大蛇の描写が面白い。あと、貴人の葬送の場面で、牛車に従う男たちが烏帽子に白いハチマキをしているのは、いつの時代の風俗なのだろう。伝・住吉如慶筆『播州書写山縁起絵巻』は、きらきらした金砂子をふんだんに用いた豪華な作品。桜と天女のシーンが美しかった。

 参詣曼荼羅もずいぶん入れ替わっていて、後期を見に来た甲斐があった。桃山時代の『清水寺参詣曼荼羅図』(個人蔵)は、左下隅の五条大橋に弁慶と牛若丸の姿が描かれている。この図は、建物の立体感や遠近感にあまり狂いがないことに感心した。『中山寺伽藍古絵図』(江戸時代)は、川筋や山の尾根など地形をある程度写実的に描いた境内絵図に、参詣曼荼羅ふうの伽藍が嵌め込まれている変わり種。よく見ると天界も地獄も描かれている。『松尾寺参詣曼荼羅図』(室町時代)も同様に、青葉山の景観に伽藍が嵌め込まれているが、三頭身くらいの小さな人々の描き方など、古拙で素朴。

 ここで3階へ。六道絵、餓鬼草紙などが出ていたが、紀三井寺の『熊野観心十界曼荼羅図』(江戸時代)、微妙にゆるくていいなあ。鬼も亡者も、見れば見る程かわいい。1階は、仏画を中心にチェック。兵庫・一乗寺の『不空羂索観音像』(鎌倉~南北朝)は大きくて美麗。観音を囲む四隅の四天王像の甲冑の彩色、截金がほぼ完璧に残っている。松尾寺の『普賢延命菩薩像』は、後期、これを見るために来たと言っても過言ではない、大好きな作品。普賢菩薩の母性的でおだやかな丸顔、赤い唇と肩にかかる黒髪の妖艶さ。なのに画面の下半分は、対照的に荒ぶる異形の白象。

 最後に仏像にも後期のみ出品が1躯だけあることを確認して探しに行った。粉河寺の本堂背面に置かれている裏観音だという。粉河寺には何度か行っているが、全く記憶になかった。千手観音立像だが、もとは聖観音か十一面観音だった可能性が指摘されているそうだ。斜め後ろにまわってみると、背中に背負ったランドセルのようなものから脇手が生えていることが分かる。脇手の持物は、後補が多いのか、なんとなく安っぽさがある。しかしそんな改変も気にしないような、穏やかな表情はなかなかよい。

 本展は、たぶん展示品の九割以上が、博物館や美術館の所蔵ではなく、寺社の宝物だった。全て見ようと思えば、数少ない公開日に各地の寺社を訪ねてまわらなければならないところ、こうした機会をつくってもらえて本当によかった。

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更紗の魅力を併せて/至高の陶芸(五島美術館)

2020-09-09 23:53:31 | 行ったもの(美術館・見仏)

五島美術館 開館60周年記念名品展IV『至高の陶芸-日本・中国・朝鮮-』(2020年8月29日~10月25日)

 コロナ禍からの復活第二弾は陶芸名品展。前回は、玄関前に職員の方が待っていて検温を求められたが、今回は入口に見慣れない装置が設置されていて、センサーの前に手首を差し出すと検温結果が表示される。また装置の下に手を差し入れると消毒液が噴霧される。おおー未来的!と(言うほどでもないが)感心した。

 会場には日本・中国・朝鮮のやきもの約60点が並ぶ。鼠志野茶碗『銘:峯紅葉』や古伊賀水指『銘:破袋』、信楽一重口水指『銘:若緑』などは同館でおなじみの名品。初見ではないが、今回あらためて、いいなあと思ったのは古九谷(青手)の『色絵山水文大鉢』。色も形も抽象化された山水図で、皿の中心に向かって深く落ち込んでいくような、遠近感の強調が面白いと思った。

 伯庵茶碗(所有者・曽谷伯庵の名前からこう呼ばれる。瀬戸茶碗と考えられているが窯跡は分かっていない)『銘:冬木』と『銘:朽木』が出ていて、特に前者の大ぶり(うどんも食べられそう)なところが好きになった。「冬木」は材木商の冬木家からついた銘だというが、冬木小袖、冬木弁財天(深川七福神)の冬木か。

 中国のやきものでは、南宋の『青磁鳳凰耳瓶(砧青磁)』が美しいなあと思った。かたちが同タイプでも色味が違って、もっと緑が強いものもあるが、これは水色(空色)に近い。汝窯水仙盆を思い出すミルキーな青。むかしは、緑の強い青磁が好きだったのだが、だんだん好みが変わってきた。『青花樹鳥図大壺』は景徳鎮の民窯。短くなった箒(またはハタキ)のような柳、どこを見ているのか分からない鳥の顔など、素朴な絵付けがかわいい。磁州窯の優品も見ることができて満足。

 朝鮮のやきものでは、朝鮮時代の『白磁辰砂蓮花文壺』がよかった。辰砂というけれど、ピンク色のインクで描いたように見える。

 展示室2は何だっけ?と考えながら行ったら、更紗の特集だった。いくつかの更紗手鑑のほか、実際に同館コレクションの収納に使われている包み袋・包み裂が展示されていた。鼠志野茶碗『峯紅葉』の包み裂は『黄色縞小花文様西欧更紗』で、名前どおり、赤地に黄色のチロリアンテープみたいなストライプがものすごく可愛い。オランダ製の生地だという。黄瀬戸茶碗『柳かげ』の包み裂は『緑地七面鳥文様西欧更紗』で大きくてリアルな七面鳥のプリントがユニーク。イギリス製。

 本展に出ていない作品の包み裂もあって、『白地小花文様西欧更紗畳紙』は、三十六歌仙『猿丸太夫像』に付属する。細かいチェック柄の升目のひとつひとつに、薔薇の蕾のようなピンク色の小花が配されている。秩仕立て。あの鬼神のように恐ろし気な猿丸太夫像が、こんな可愛い外箱に収まっているのかと思うと少し幸せな気分になる。インド更紗の『縞手更紗畳紙』は赤と青のシャープなストライプ。長方形の箱に仕立てられていて、伝・馬麟筆『梅花小禽図』を巻いて収めるためのものである。こんな美麗な包み裂に、個々の美術品を包ませた収蔵庫の風景を見ることは、所蔵者だけの特権なのだろうなあ。

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