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東京国立博物館・表慶館 特別展『フランス人間国宝展』(2017年9月12日~11月26日)
「フランス人間国宝(メートル・ダール/maitre d'art)」って何かと思ったら、日本の人間国宝(正式名称:重要無形文化財の保持者)認定にならって、フランス文化省により1994年に創設された制度なのだという。ミッテラン政権の時代か。本展は、この認定を受けた13名+2名の作家を紹介する。布、紙、羽根細工、金銀細工など、いろいろな工芸品があったが、最も印象的だったのは、陶芸家ジャン・ジレル氏のセクションで、曜変天目の探求に人生を捧げている。100件近い茶碗がずらりと並んでいて、確かに曜変天目を目指していることは分かるが、どれも曜変天目とは言い難い。京博の国宝展で龍光院の曜変天目を見た直後だっただけに、あの輝きが、万分の一、百万分の一の確率でしか生まれない奇跡であることを、あらためて実感した。
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世田谷文学館 企画展『澁澤龍彥 ドラコニアの地平』(2017年10月7日~12月17日)
澁澤龍彦(1928-1987)の没後30年を記念する回顧展。手書き原稿の文字の読みやすさが、澁澤さんの頭脳の明晰さと人柄を表しているようで慕わしかった。晩年、声を失ったため、夫人や友人との気のおけない会話がメモとして残されているのも貴重である。子供時代や学生時代を紹介する資料には、初めて見るものも多かった。匿名で書いた政治ビラも発見されている。私にとって澁澤は非実在スレスレの、畏敬と憧れの対象なのだが、こういうアーカイブ資料を見ると、やっぱり現実の中に生きた人であったことを実感する。
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静嘉堂文庫美術館 『あこがれの明清絵画~日本が愛した中国絵画の名品たち~』(2017年10月28日~12月17日)
国内有数の明清絵画コレクションを12年ぶりに一挙公開!がうたい文句だった。確かに2005年に『
明清の絵画と書跡展』という催しがあって、私は見に行っている。まだ明清絵画の魅力が分かっていなかった頃の話である。本展は、藍瑛の『秋景山水図』と、その付属品として伝わる谷文晁の模写など、日中(日漢?)のコラボが見どころのひとつ。併せて、明清絵画を日本に普及させた図譜(江戸の版本)の数々も展示されていた。
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国立科学博物館 特別展『古代アンデス文明展』(2017年10月21日~2018年2月18日)
導入部で、南米大陸の太平洋岸に展開した9つの文化の存在を知る。北から順に「シカン」「チムー」「モチェ」「チャビン」「カラル」「ワリ」「インカ」「ナスカ」「ティワナク」。最も古いカラル文化は紀元前3000年頃に遡り(中国は仰韶文化期?)最も新しいインカ帝国は12~16世紀の話である。空間的にも時間的にも、あまりに広大な範囲の遺物が展示されているので、歴史的に整理しようとしても整理がつかない。単純に造形を愛でるのは面白かった。素人の感想では、南アジアに似ているかなあ。あと、1点だけ微妙にエロティックな土偶が出ているのだが、現地にはもっと山のようにあるという話を専門家がSNSで流していた。公的な美術館の展示では、いろいろ限界があるのだろう。
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山種美術館 特別展・没後60年記念『川合玉堂-四季・人々・自然-』(2017年10月28日~12月24日)
川合玉堂(1873-1957)の没後60年を記念する回顧展。玉堂といえば、日本らしい風景を写実的かつ情感豊かに描いた画家というイメージを持っていた。『鵜飼』や『春風春水』が私の考える玉堂で、正直、あまり好きなタイプではなかった。しかし今回、雪の山肌を白と黒のコントラストで描いた『宿雪』や、琳派ふうの金屏風『紅白梅』など、多様な作品があることを知って、少し認識を改めた。晩年の『荒波』『屋根草を刈る』それに『猫』など動物を描いた小品もよかった。
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サントリー美術館 六本木開館10周年記念展『フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年』(2017年11月22日~2018年1月28日)
1740年に誕生した軟質磁器製作所は、フランス国王ルイ15世の庇護を受けてパリ東端のセーヴルへ移転し、王立磁器製作所として、優雅で洗練された作品を作り出した。本展はセーヴル磁器の18世紀から現在までを紹介。やっぱり18世紀の王侯貴族に愛された作品は繊細で美しい。19世紀は装飾過剰でちょっと辟易する。19世紀末、アール・ヌーヴォーとアール・デコの作品はまた素敵。そして現在は、生活磁器の枠を超えて挑戦的な作品を作り続けていることが分かった。
これで今年の展覧会は見納め。来年も楽しい展覧会と作品に出会えますように。