これは先週土曜日の記録。朝イチ、続々と天孫神社前に向かう大津祭の曳山を後にして、大津市歴博に向かった。
■大津市歴史博物館 第96回企画展『石山寺-密教と観音の聖地-』(2024年10月12日~11月24日)
紫式部が「源氏物語」の着想を得たといわれ、「枕草子」などにも登場する文学の寺として知られる石山寺。近江屈指の古刹・石山寺の歴史と仏教文化を紹介する。1階ホールには大河ドラマ『光る君へ』の大型パネルが飾られ、常設展示室内では、特集展示『源氏物語と大津』(2024年1月10日~2025年2月2日)も開催中。この際、大河ドラマに乗ってしまおうという企画だろう。だが企画展の内容はかなり地味で、第1室の前半はほぼ文書ばかり。それも密教の教義や儀軌に関する固い内容ばかりで「文学」の要素は薄い。後半は仏像・仏画が多数出ていて嬉しかった。
平安時代の二天立像は福々しい顔立ちでかわいい(四天王だったかもしれないが、二天しか伝わっていないとのこと)。大日如来坐像は複数出ていたが、小顔で肉を削ぎ落したような体躯の像(平安時代、重文指定でないほう)が私の好み。第2室は『石山寺縁起絵巻』巻1~7を少しずつ展示。巻3の東三条院詮子の石山詣(道長らも従う)、巻4の紫式部が「源氏物語」を起筆する図をしっかり見ることができた。ただ個人的には巻1の比良明神の示現とか、巻6の聖教を護る鬼となった学僧の逸話に興味を感じた。
■福田美術館 開館5周年記念・京都の嵐山に舞い降りた奇跡!!『伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ?!』(略称:若冲激レア展)(2024年10月12日~2025年1月19日)
大津市役所前→京阪大津京→JR大津京→(京都駅乗換え)→JR嵯峨嵐山と言うルートで、意外とスムーズに移動できた。本展は、今年3月に同館が発表した新発見の『果蔬図巻』に加え、同館が所蔵する若冲作品約30点を公開するもの。同館の若冲コレクションは、正直、玉石混交で、見ていてつらい感じもする。むしろ関連作家として並んでいる宋紫石、鶴亭、熊斐、佚山などのほうが見応えがある。鶴亭『梅・竹図押絵貼屏風』はとてもよかった。
『果蔬図巻』はヨーロッパの個人が所蔵していたもので、2023年2月に大阪の美術商から福田美術館に画像確認の依頼があり、7月に真贋鑑定を行ったうえで、同年8月にオークション会社経由で所有者から購入したそうだ(美術手帖)。巻末には梅荘顕常の跋文があり、寛政3(1791)年、若冲79歳の作と分かる。若冲と顕常(大典和尚)といえば、明和4年(1767)春には『乗興舟』の川下りを楽しんだ親友ということで、会場では『乗興舟』が並べて展示されていた。挿絵つきの説明パネルが丁寧で嬉しかったのだけど、↓これは日が暮れて、船の上で早春の寒さに震える二人(笑)。
ともに70代の老翁になっても親交が続いており、大典さんが跋文の中で川下りの一日を懐かしんでいるのがとてもよくて、画巻そのものよりも印象に残った。いや画巻も、もちろんよかったのだが。
■龍谷ミュージアム 秋季特別展『眷属(けんぞく)』(2024年9月21日~11月24日)
移動がスムーズに運んだので、お昼を抜いて、京都でもう1ヶ所寄っていくことにする。本展は、昨年度開催した特集展示『眷属-ほとけにしたがう仲間たち-』(2024年1月9日~2月12日)を特別展としてパワーアップしたもの。年初めの特集展示は見に来られなかったので大変ありがたい。
眷属とは、仏菩薩など信仰の対象となる主尊に付き従う尊格のことで、薬師如来の十二神将、釈迦如来の十六善神、普賢菩薩の十羅刹女など、多様な眷属が取り上げられていた。彫刻では、金剛峯寺の『不動明王八大童子像』から指徳童子と阿耨達童子(龍に乗る)が来ていて、ケースなしの露出展示でじっくり眺めることができた。中世の補作と伝わる2像を敢えて持ってきた選択が心にくい。同館の展示は、やはり浄土真宗のネットワークが強いのか、他の美術館・博物館では見たことのない作品に出会うことが多い。今回でいえば、たとえば東京・霊雲寺の『大威徳明王像』(鎌倉時代)。人間のドクロを山ほど身につけ、恐ろしい形相で疾駆する大威徳のまわりを旗や得物を持った童子たちが一緒に走っている。霊雲寺、調べたら湯島のお寺で、昨年の『中国書画精華』でも気になったお寺だった。
大阪・正圓寺の『厨子入 天川弁才天曼荼羅』(田中主水作、江戸時代)にはびっくりした。三頭の蛇頭人身のお姿が立体彫刻で表現されているのである。実は大津市歴博の『石山寺』にも天川弁才天の仏画が出ていて、珍しいなあ、と思ったその日に、こんな変わりものに出会うとは。滋賀・大清寺の『千手観音二十八部衆像』(後期)は、図録で見ると私好みで魅力的なので、後期も行こうかと考えてしまったが、仏画は図録の写真で楽しむほうがよいかもしれない。しかし一度は足を運んで損のない展覧会。東京に巡回してくれたらいいのになあ。
■大和文華館 特別企画展『禅宗の美』(2024年9月6日~10月14日)
墨蹟、頂相、道釋人物画、禅僧にまつわる水墨画などを展示し、中世に花開いた禅宗文化の多様な美術品の魅力を紹介する。前半は墨蹟が中心で、保存修理が完成した虎関師錬筆『墨蹟 法語』のお披露目にもなっている。虎関師錬の書は、素人目にも確かに巧いが、巧すぎる感もある。私はむしろ禅僧の日常的な書状のほうに惹かれた。
絵画はなんといっても雪村の『呂洞賓図』。これを見るために東京から来たのであるが、ほかにも雪村筆『楼閣山水図』『潭底月図』『花鳥図屏風』(左隻)が見られて嬉しかった。『楼閣山水図』は、山水図の基本形式(近景・中景・遠景)を全く無視しているようで面白かった。
この日は大阪泊。