アメリカ東海岸最後の夜は、ブロードウェイでミュージカルを楽しむことになった。何の下調べもしていなかったので、行き当たりばったりにブロードウェイに行ってみたところ、見たかった「Cats」はやっていないし、「ライオン・キング」はソールドアウト。結局、マジェスティック・シアターの「オペラ座の怪人」を見ることにした。
同行の上司は、以前もニューヨークで同じものを見たというので、ちょっと不満だったかもしれない。私にとっては、作品の梗概の分かる(日本で見たことのある)数少ないミュージカルであり、耳になじんだ曲も多いので、ありがたかった。
私が見たのは、14、5年も前の劇団四季の公演である。「怪人」役の市村正親はよかったが、ヒロイン役が物足りなかった。声が弱いので、運命に押し流される可憐な少女を感じさせてしまい、これは違うだろう、と首をひねった。他人の人生を狂わせるディーバの凄みがなければ。のちに、本場アメリカでこの役を歌ったという女性歌手(サラ・ブライトマン?)の歌声を聴いて、ああ、本物はこうでなければならない、と納得したことを覚えている。
さて、マジェスティック・シアターの窓口で「チケットはあるか?」と聞いてみると、111.25ドル(最高額)の席ならある、という。それでもいいや、と思って、とにかくチケットを入手。20:00の開演まで、1時間ほどしかないので、近場のレストランで食事にしようと思ったのだが、どこのお店も開演待ちの客でいっぱい。なかなか入れるところがない。とうとう、仕方がないので、席のある軽食屋に入って、ピザとアイスティー(上司はコーラ)で済ませることにする。最後の夕食なのに...
開演間近のシアターに戻ってみると、つめかけた観客で、入口には長い列ができていた。1時間前に、最高額の席しか残っていないと言われたのも、あながち嘘ではなかったようだ。場内に入り、席を確かめると、なんとオーケストラピット前の最前列。ちょうど指揮者の後ろである。
やがて公演が始まると、音楽とともにストーリーがよみがえってきた。劇団四季の公演(新橋演舞場?)が、ものすごく大掛かりだったのに比べると、この劇場は舞台も狭く、狂言回しとなるシャンデリアのセットも、四季バージョンよりずっと小さい(多分)。しかし、この物語の、象徴的なおとぎ話じみた魅力を楽しむには、このくらいの規模の舞台が、かえって適当なのではないかと思った。
ストーリーは単純だが、冒頭のグランドオペラ「アイーダ」もどきとか、途中のモーツァルトもどきとか、舞台芸術への偏愛(と、もしかしたら舞台に生きる人々への偏愛)が随所に感じられて、飽きない。途中の休憩時間も、全然疲れを感じず、2時間があっという間に過ぎた。
終演後は、ロビーでお土産品を買い求め、看板(ファントムのマスク)と一緒に記念写真を撮り、街路に吐き出された人波に揉まれながら、劇場を後にした。雨は小降りになったようである。百年前の永井荷風が「雪のやどり」に写し取った「芝居町の夜更」の風景の中に自分がいるようで、わくわくした。
明けて11月17日。早朝、ホテルを発って、JFK空港に向かう。この空港、ターミナルによっては、搭乗ゲートを通過しないと、全く売店や飲食店がないことを付記しておこう。はじめは事情が分からず、空港内をうろうろしてしまった。そのほかは、往路のようなトラブルもなく、無事、帰国。(ここには敢えて書かないが)仕事の上でも、その他の面でも、たくさんのお土産を胸に抱えて帰ってきた気分である。関係諸氏に感謝々々。
同行の上司は、以前もニューヨークで同じものを見たというので、ちょっと不満だったかもしれない。私にとっては、作品の梗概の分かる(日本で見たことのある)数少ないミュージカルであり、耳になじんだ曲も多いので、ありがたかった。
私が見たのは、14、5年も前の劇団四季の公演である。「怪人」役の市村正親はよかったが、ヒロイン役が物足りなかった。声が弱いので、運命に押し流される可憐な少女を感じさせてしまい、これは違うだろう、と首をひねった。他人の人生を狂わせるディーバの凄みがなければ。のちに、本場アメリカでこの役を歌ったという女性歌手(サラ・ブライトマン?)の歌声を聴いて、ああ、本物はこうでなければならない、と納得したことを覚えている。
さて、マジェスティック・シアターの窓口で「チケットはあるか?」と聞いてみると、111.25ドル(最高額)の席ならある、という。それでもいいや、と思って、とにかくチケットを入手。20:00の開演まで、1時間ほどしかないので、近場のレストランで食事にしようと思ったのだが、どこのお店も開演待ちの客でいっぱい。なかなか入れるところがない。とうとう、仕方がないので、席のある軽食屋に入って、ピザとアイスティー(上司はコーラ)で済ませることにする。最後の夕食なのに...
開演間近のシアターに戻ってみると、つめかけた観客で、入口には長い列ができていた。1時間前に、最高額の席しか残っていないと言われたのも、あながち嘘ではなかったようだ。場内に入り、席を確かめると、なんとオーケストラピット前の最前列。ちょうど指揮者の後ろである。
やがて公演が始まると、音楽とともにストーリーがよみがえってきた。劇団四季の公演(新橋演舞場?)が、ものすごく大掛かりだったのに比べると、この劇場は舞台も狭く、狂言回しとなるシャンデリアのセットも、四季バージョンよりずっと小さい(多分)。しかし、この物語の、象徴的なおとぎ話じみた魅力を楽しむには、このくらいの規模の舞台が、かえって適当なのではないかと思った。
ストーリーは単純だが、冒頭のグランドオペラ「アイーダ」もどきとか、途中のモーツァルトもどきとか、舞台芸術への偏愛(と、もしかしたら舞台に生きる人々への偏愛)が随所に感じられて、飽きない。途中の休憩時間も、全然疲れを感じず、2時間があっという間に過ぎた。
終演後は、ロビーでお土産品を買い求め、看板(ファントムのマスク)と一緒に記念写真を撮り、街路に吐き出された人波に揉まれながら、劇場を後にした。雨は小降りになったようである。百年前の永井荷風が「雪のやどり」に写し取った「芝居町の夜更」の風景の中に自分がいるようで、わくわくした。
明けて11月17日。早朝、ホテルを発って、JFK空港に向かう。この空港、ターミナルによっては、搭乗ゲートを通過しないと、全く売店や飲食店がないことを付記しておこう。はじめは事情が分からず、空港内をうろうろしてしまった。そのほかは、往路のようなトラブルもなく、無事、帰国。(ここには敢えて書かないが)仕事の上でも、その他の面でも、たくさんのお土産を胸に抱えて帰ってきた気分である。関係諸氏に感謝々々。