〇国立文楽劇場 令和7年夏休み文楽特別公演 第3部・サマーレイトショーWelcome to BUNRAKU!(2025年7月19日、18:15~)
三連休は土日1吐泊だけ関西で遊んできた。目的の一つは夏休み文楽公演。あまり考えずに第3部を選んだら、外国人向け特別企画で、いつもの日本語字幕の代わりに英語字幕が表示される公演だった。確かにいつもの公演より外国人らしきお客さんが目立つが、全体としては日本人が多いか。制服姿の高校生(たぶん)グループが前方左右のブロックを占めていた。
幕が開くと、徳田久さんというおじさん(プログラムの表記は有限会社アートリンガル)が登場して、文楽および今日の演目について英語で紹介。さらにスペシャル企画で、オンラインゲーム「刀剣乱舞ONLINE」から生まれた刀剣男士・小狐丸が文楽人形となって舞台に登場する。動画・写真撮影OKのフォトセッションタイムもあったのだが、慌てて上手く撮れなかったので、あとでロビーに飾ってあった状態を撮影。隣は小烏丸。なお、第3部は会場アナウンスも小狐丸(声:近藤隆さん)の特別仕様。
・第3部『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)・古市油屋の段/奥庭十人斬りの段』
油屋が錣太夫と宗助、十人斬りが芳穂太夫と錦糸という配役を見て、ぜひ第3部を見たいと思った。錣太夫さんの演じる仲居の万野が私は大好きなのである。「お紺さ~ん」というねちっこい呼びかけ、貢に向かって「斬るかえ?斬るかえ?早うお斬り」とぐいぐい迫るところなど、ぜんぶ好き。錣太夫さんの声質は、こういう世話物の小悪党に合っていて、大阪の芸能らしくて貴重だと思う。
芳穂太夫さんは真面目で声が通って聞きやすい語り。プログラム冊子に野澤錦糸さんのインタビューが掲載されており、秋の公演では、同じコンビで『心中天網島』の大和屋の段を演じる予定だそうだ。楽しみ。大阪公演プログラムの「技芸員にきく」インタビューシリーズはいつも面白いのだが、今回の錦糸さんは特に面白かった。何も考えずに浄瑠璃の世界に没入して「もう終わったんか」と思える舞台が理想で「一度だけ、住太夫師匠と組ませていただいた時にありました」という。
人形は福岡貢を勘十郎さん。この芝居を最初に見たときは、カッとなって遊郭の人々を殺しまくるシリアルキラーぶりにぞっとしたが、勘十郎さんが遣うと、主筋のために名刀と折紙(鑑定書)を取り戻そうとする忠義の侍の風格が感じられる。貢の着物に徐々に血糊がついていき、最後は血まみれになる演出、どうやっているのだろう。ちょっと前に見た月岡芳年『英名二十八衆句』の福岡貢を思い出した。以前は顔が前後真っ二つになる「唐竹割り」のツメ人形を使っていたと思うのだが、今回はなかった。あえて笑いの要素は外したのかと思う。
・『小鍛冶(こかじ)』
能『小鍛冶』が歌舞伎舞踊に移され、さらに文楽に仕立てられたものなので、舞踊(景事)に近い。前半は松を描いた鏡板を背景にした能舞台で、刀鍛冶の小鍛冶宗近は、刀作りの勅命を受け、相槌の名手を求めて氏神の稲荷明神に祈願する。すると気高い老人が現れ、力を貸そうと約束する。暗転して舞台が変わり、中央に結界をした刀打ちの祭壇。やがて姿を変えて現れた稲荷明神の相槌で「小狐丸」を打ち出し、勅使に献上する。
後半の稲荷明神は、長い白髪を振り乱し、激しく動き回る。玉助さんが奮闘していたけど、振り回される足遣いがさらに大変そうだった。時々、宙に浮くときの足遣いを見ると、やっぱり稲荷明神はキツネの一種(?)なのだろうか。稲荷明神と宗近がリズミカルに槌を振り下ろすと、真っ赤に焼けた刀剣から火花(本物)が散る。あれはどうやっているのかなあ。暗闇を背景に飛び散る火花が美しかった。
今回のプログラム冊子には「文楽と刀剣」のカラー写真つき特別コラムあり。なるほど『小鍛冶』が小狐丸誕生の物語のほか、『紅葉狩』には小烏丸、『増補大江山』には髭切、『伊勢音頭恋寝刃』には青江下坂(モデルは葵下坂)が登場するのだな。勉強になった。