〇パナソニック汐留美術館 『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』(2022年10月29日~12月18日)
2003年4月に開館した美術館だというが、初訪問である。過去の展覧会を見ると、西欧の近代絵画や工芸をテーマにしたものが多いので、なかなか食指が動かなかったようだ。今回は、明治から昭和にかけて活躍した図案家・画家の神坂雪佳(1866-1942)を取り上げ、さらに雪佳が手本とした、江戸期の琳派の作品も紹介する展覧会と聞いて見に行った。
はじめは雪佳が手本にした、江戸期の琳派から。光悦、宗達、光琳、乾山らの作品が並ぶ。京都の細見美術館所蔵の作品が多いのを見て、この展覧会が、今年5月に細見美術館で見た琳派展22『つながる琳派スピリット 神坂雪佳』の巡回展であることに気づいた。なんだ、そうだったのか。しかし宗達の『双犬図』(白犬が黒犬にじゃれついて首筋を抑えている)や光琳の『柳図香包』など、確実に見た記憶があるものもあれば、全くないものもある。
乾山の『唐子図筆筒』は、ずん胴の筒の側面に、素朴な筆致で花唐草と腹掛け一枚の唐子を描く。渋い赤色に緑を少し使っている。細見美術館には何度も行っているが、これは初めて見たように思う。また「成乙」印(光琳の弟子らしいが未詳)の『秋草図団扇』は、彩色で細やかな秋草を描いた団扇を表装して軸物に仕立てている。団扇のまわり(中回し?)に使われているのは、金銀の摺りで秋草をシンプルに表現した料紙。団扇の中の秋草に比べて格段に大きな秋の花(桔梗?)が、一瞬、蝶に見えた。これも初見のような気がする。
細見美術館の『神坂雪佳』展の出品リストがネットに残っていたので比べてみたら、第一章「あこがれの琳派」は、実は東京展の半分強しか出ていなかった。逆に考えれば、東京展はとてもお得である。
この美術館、展示ケースの奥行が浅くて、作品に接近できるのも嬉しい。酒井抱一の『桜に小禽図』は、桜の幹や枝の微妙な色合いに唸り、鈴木其一の『藤花図』は藤の花房の透明感に見とれた。どちらも絹本の美しさを最大限に活かしていると思う。其一の『春秋草花図屏風』は小さい作品だが、根津美術館の『夏秋渓流図屏風』に通じる雰囲気がある。特に左隻。中村芳中の『白梅小禽図屏風』はやっぱり可愛い。この白頭の小禽は何なのかなあ。
本題の神坂雪佳は、おなじみ『百々世草』『金魚玉』に京都でも見た『光悦村図』『天平美人図壁掛』など。初期の作品である『滑稽図案』に「ねこしゃくし形」と題して、黄色地に赤い杓子と黒猫を配した図案があって、笑ってしまった。『蝶千種』は黒い紙の切絵かステンドグラスのようで、エキゾチックで妖艶な図案。多様な作品があることを知る。
細見美術館のおかげで、関西では、わりと定期的に見る機会のある雪佳だが、東京でまとめて作品が展示されるのは珍しいのではないか。本展を機に新しいファンが増えるとうれしい。
また、パナソニック汐留美術館の近くには、旧新橋停車場駅舎が再現されており、館内の鉄道歴史展示室では『鉄道開業150年記念 新橋停車場、開業!』(2022年7月20日~11月6日)が開催されていたので、ついでに見てきた。常設展コーナーに、発掘された遺稿や遺物が展示されており、洋食器や土瓶(崎陽軒の文字あり!)もあって面白かった。