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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

霊獣のパワーを貰おう/帰ってきた!どうぶつ大行進(千葉市美術館)

2020-08-31 22:23:56 | 行ったもの(美術館・見仏)

千葉市美術館 拡張リニューアルオープン・開館25周年記念 企画展『帰ってきた!どうぶつ大行進』(2020年7月11日~9月6日)

 実は、施設をリニューアルしているという認識があまりなかったのだが、久しぶりに行ってみたら、区役所関係の案内表示が全て無くなっていた。これまで千葉市中央区役所との複合施設で7-8階だけが美術館だったが、区役所の移転に伴い、改修工事を経て、建物まるごど美術館にリニューアルしたのである。企画展示室とは別の常設展示室や、市民アトリエ、子どもアトリエもできた。素晴らしい。

 リニューアルオープン第1弾は、8年前の夏休み特別企画『どうぶつ大行進』(2012年7月14日~9月2日)をバージョンアップした企画展だそうだ。8年前は、残念ながら見ていない。「個人蔵」や「摘水軒記念振興財団所蔵」が一部混じるが、基本的には同館コレクションの248件を揃える。まずそのボリュームに圧倒された。

 冒頭は、昨今の世相を反映して「疫病破邪の生きもの表現」。鍾馗図や金太郎、桃太郎の図が並ぶ。仙厓義梵の『鍾馗図』(旧ピーター・ドラッカー山荘コレクション)と石井波響の『鍾馗』がはっちゃけていてよい。波響の鍾馗は、愛嬌のある獅子に乗る。我が子のために描いて手元に残しておいた作品だという。江戸後期の狩野派『桃太郎絵巻粉本』は、桃太郎が果生型であることが注目される。明治以前の絵画は(ほぼ)全て、爺婆が桃を食べたことで子供ができるという回春型なのだそうだ。

 司馬江漢『犬のいる風景図』(絹本油彩)には、江戸絵画の(応挙・芦雪ふうの)イヌではなくて、自然体のわんこがたたずんでいる。司馬江漢がイヌ派の代表なら、ネコ派の代表は国芳だろう。『風俗三十二相 うるさそう』は若い女性に頬ずりされる猫の図だが、猫がうるさがって迷惑そうなのが可笑しい。

 鎌倉時代末期の『薬師十二神将図』や室町時代の『春日若宮曼荼羅図』のような古い作品もあれば、明治の橋口五葉、昭和の川合玉堂もあり、平成のタイガー立石『封函虎』もさりげなく並んでて、コレクションの幅広さを堪能した。

 「麒麟はまだか!?霊獣-想像上のどうぶつたち』のコーナーでは、麒麟に唐獅子、白鷹、龍虎などに囲まれて、なんだか夏バテの身体にパワーが注入される気がした。やはり主役は石井波響の『王者の瑞』。2018年の『石井波響展』で見て以来の再会だが、あらためて画面の大きさに驚く。左隻には実在のキリンをモデルにしたという、青い斑点と赤い焔(?)をまとう麒麟。狂暴な目をしている。右隻には麒麟によく似た細面の聖帝が、勝負を挑むように厳しい表情で対峙する。これに比べると、蕭白の『獅子虎図屏風』はずっと愛嬌がある。しかし蕭白の『寿老人鶴鹿図』三幅対は、真ん中の寿老人が、完全に「行っちゃった」表情をしていて怖い。

 日本にやってきた異国の動物、特にゾウに関する資料は、いつ見ても興味深くて面白い。森一鳳『象図屏風』は装飾的な描き枠も素敵。明治の錦絵、教育掛図も面白かった。『当時流行こっくりさん』の錦絵では、"狐狗狸さん"の意味か、白くて小さなキツネ・イヌ・タヌキが立ち上って踊っていた。虫、鳥、水の生きものを経て、最後は描かれた人気者の名品尽くし。宗達の『狗子図』と芦雪の『花鳥蟲獣図巻』のわんこが、思わず撫でたくなるほど可愛かった。

 千葉市美術館にお願いしておきたいと思ったのは、ホームページがリニューアルしたら、過去の展覧会の記録が消えてしまった。今はまだ、古いホームページの記録を見ることができるが、ちゃんとデータを移設しておいてほしい。お願いします。

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怒りのエネルギー/民衆暴力(藤野裕子)

2020-08-29 23:06:09 | 読んだもの(書籍)

〇藤野裕子『民衆暴力:一揆・暴動・虐殺の日本近代』(中公新書) 中央公論新社 2020.8

 妙に刺激的な副題だが、扱われているのは、明治初年の「新政反対一揆」「秩父事件」、明治末の「日比谷焼き打ち事件」、そして関東大震災時の「朝鮮人虐殺」という、日本近代史の常識と言うべき四つの事件である。

 新政反対一揆は、廃藩置県・徴兵令・学制・廃止令・地租改正など、明治新政府の一連の政策に対して起きた一揆の総称である。徴兵制度に反対する「血税一揆」がよく知られていおり、1960-70年代の歴史研究は新政反対一揆を、支配権力に対する「民主主義的」な闘争であると高く評価した。一方で、廃止令への反発から、非差別への襲撃が西日本で多発したことも知られている。解放令反対一揆のことは、以前、塩見鮮一郎氏の『解放令の明治維新』で読んだが衝撃だった。この明治初年の混乱と暴動については、近世末の「世直し一揆」の系譜や、「異人」への脅威、血統の乱れが起こることへの恐怖など、さまざまな要因が議論されている。

 1884(明治17)年の秩父事件は、秩父地方の農民が減税や借金10年据え置きなどを求めて蜂起したものである。秩父困民党には自由党員が参加していたことから、自由民権運動の一環ととらえることもあるが、著者は、むしろ近世の世直し一揆との類似性を重視する。ただ、世直し一揆と明確に異なる点は、秩父困民党のリーダーたちは、国家と暴力で対決することの困難をよく理解しており、だからこそ、最後まで蜂起には慎重だったという。

 1905(明治38)年の日比谷焼き打ち事件は、近世や明治初年の農民一揆とは全く異なる、都市の暴動である。発端は日比谷公園での国民大会だが、焼き打ちが広がるにつれ、大会に参加していなかった見物人が路上で途中参加し、また離脱するパターン(隣接区で行動を終えるケースが多い)を繰り返した。焼き打ちという行為が、異なる人から人へリレーされながら東京の街路を移動していった、という表現が面白いと思った。暴動参加者は男性労働者(職人・工場労働者・日雇い)が多かった。著者は、当時の男性労働者には「通読道徳」とは別の、「男らしさ」の価値体系とエネルギーが共有されていたことを指摘する。ちょっと『ハマータウンの野郎ども』を思い出した。

 そして、1923(大正12)年の関東大震災時の朝鮮人虐殺である。東京・四ツ木や埼玉・本庄警察署などで起きた虐殺の顛末は、すでに別の書籍でも読んでいたので驚かなかった。ただ、著者の指摘で重要なのは、人々の間に自然にデマが流れ、自警団が殺害したという、いわば「民間人によるデマ、民間人による虐殺」のイメージが漠然とつくられていることへの異議である。「朝鮮人を殺害した罪で被告になったのは自警団などの民間人だけで、軍隊や警察が犯した殺人については起訴されることはなかった」。そもそも殺害者数に関する司法省調査には、警察や軍隊による虐殺が含まれておらず「自警団による被害のみがカウントされている」という。

 埼玉・本庄警察署では、自警団が警察署になだれ込み、収容中の朝鮮人(70人前後と推定)を殺害した。その翌日、今度は本庄署そのものが民衆の襲撃の標的となった。これも恐ろしいが興味深い。権力に対抗する民衆と被差別者を迫害する民衆とは、別の民衆であるかのように考えがちだが、事実は決してそうではないのだ。表面的な「サヨク」も「ウヨク」も根は同じということだろう。ひとたび暴力が解き放たれれば、ひとりの人間からどちらが噴き出すかは分からない。両方向の暴力が噴き出す可能性もある。

 過去の民衆暴力を簡単に否定することにも、権力への抵抗として称揚することにも慎重であるべき、という本書の結論は理解するが、現実にいま、目の前にある(メディアを通じて伝えられる)さまざまな暴力にどう向き合うべきかは、難しい問題だと思う。

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シャープな美人画/月岡芳年 血と妖艶(太田記念美術館)

2020-08-24 22:40:55 | 行ったもの(美術館・見仏)

太田記念美術館 『月岡芳年 血と妖艶』(2020年8月1日~10月4日:前期 8月1日~8月30日)

 近年、とみに人気の月岡芳年(1839-1892)の魅力を「血」「妖艶」「闇」という3つのキーワードから掘り下げる。展示点数は約150点(前後期で全点展示替え)。 

 1階の展示室、最初のキーワードは「妖艶」。芳年の美人画を集めて展示している。神話・伝説上の美女、おきゃんな町娘、妖艶な人妻、傾城、宮中の女官など。こんなに多数の美人画を残しているとは知らなかった。展示は明治に入ってからの作品が多く、シャープな細面に吊り上がった細い目が共通していて、芳年の好みの顔立ちだったのかなと思った。『風俗三十二相』の女性たち、表情が豊かで喜怒哀楽がはっきり分かって、すごく楽しい。こんなに共感できる浮世絵の女性像ってなかなかない。

 2階の途中からは「闇」。主に武者絵や歴史画など、漆黒の闇を背景にした作品を展示。名作『月百姿』もここに収める。大好きな『袴垂保輔鬼童丸術競図』も! 闇はベッタリ黒一色ではなくて、グラデーションだったり、月明かりで青や水色に輝いたりもする。鉄砲を構える真剣な表情を正面から描いた『魁題百撰相 駒木根八兵衛』は静の極みのような作品。『月百姿 朧夜月 熊坂』は、能の「熊坂」そのまま、わざと陰影を省いて平板な構成にしているのが面白いと思った。『新撰東錦絵 於富与三郎話』も、背景の人物、うずくまる犬まで、余計な動きを省いている。芳年はこの「止め」がいいんだなー。

 ここまで「血みどろ絵」が1枚もないと思ったら、最後のお楽しみは地下の展示室だった。やはり『英名二十八衆句』が抜群によい。同じ血みどろの修羅場を描いた作品でも、構図とか肉体の捉え方が稚拙だと、絵空事めいて怖くないのだが、このシリーズは人間の肉体が生々しいのだ。リアルとも違う。「因果小僧六之助」や「福岡貢(伊勢音頭恋寝刃)」の画面の主人公は、九頭身くらいあって、むしろ西洋の神話的プロポーションである。もし、これらの作品から「血」の表現がなかったら、現実離れしたカッコいい男子がカッコいいポーズを決めているだけなのだが、全てを「無惨」「残酷」の肌寒さに突き落とす、手形や血しぶき、粘る血糊の表現がすごい。あと「妲己の於百」「鬼神於松」など悪女もカッコいい。

 これら「血みどろ絵」は、どういう顛末あっての場面なのか、長い詞書を添えたものが多い。そしてその詞書の署名で目立っていたのが仮名垣魯文。近代日本文学史で必ず習う作家だが、こんな仕事をしていたのだな。怖いもの見たさで後期も行きたい。

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名品も全て/ART in LIFE, LIFE and BEAUTY(サントリー美術館)

2020-08-22 22:30:17 | 行ったもの(美術館・見仏)

サントリー美術館 リニューアル・オープン記念展I『ART in LIFE, LIFE and BEAUTY』(2020年7月22日~9月13日)

 2019年11月から半年余り休館していたサントリー美術館がリニューアルオープンした。本展は、同館の基本理念である「生活の中の美(Art in Life)」をテーマにした特別展示である。ポスターには、蒔絵、螺鈿、陶磁器、ガラス器、着物などの写真が並んでいる。このあたり、あまり得意でないので、今回は行かなくてもいいかと思ったが、リニューアル記念なので、軽い気持ちで行ってみた。

 冒頭は蒔絵や螺鈿の手箱、香合、鏡台、さまざまな櫛や簪、化粧道具セットなど。確かに「生活の中の美」ではあるけれど、たとえば日本民藝館のコレクションから感じる「生活」とはずいぶん違うと思った。生活と言っても、日常とは異なる「ハレ」の時間を飾る品々である。

 少し進むと、見慣れた絵画が登場する。大好きな『舞踊図』は6面のうち3面。『誰が袖屏風』は着物だけでなく、匂い袋や双六の盤を描き添えることで、着物の持ち主に関する想像をいろいろ逞しくさせる作品。その隣りに、同館所蔵の能装束や能面、蒔絵箱を使った「誰が袖屏風見立て」があって、楽しかった。自分の「留守模様」を考えてみるかな。またジーンズやラジカセを描いた現代作家の「誰が袖屏風」も面白かった。

 『朱漆塗矢筈札紺糸素懸威具足(しゅうるしぬりやはずざねこんいとすがけおどしぐそく)』は初めて見たような気がする。「豊」の文字があしらわれていることから、豊臣秀次所用の伝承があるそうだ。ここでは、鎧武者のフィギュアなどで知られる現代アートの野口哲哉さんとのコラボが面白かった。

 続いて、階段下のロビーにかけて屏風が多数。狩野探幽の『桐鳳凰図屏風』も出ているのか。『日吉山王祇園祭礼図屏風』も。『賀茂競馬図屏風』の前では野口哲哉さんの小さな武者人形も競馬を見物する群衆に混じっているようだった。

 階下の展示室は『花下遊楽図屏風』『上野花見歌舞伎図屏風』などに加えて、お銚子、徳利、重箱、煙草盆など、遊楽気分を盛り上げる。山口晃さんの『今様遊楽図』『成田国際空港 南ウィング盛況の図』も面白かった。山口さんの『今様遊楽図』は『千と千尋の神隠し』っぽい。やっぱり現代人にとっての「遊楽」といえば温泉(またはスーパー銭湯)なのかな。

 最後に驚いたのは『南蛮屏風』(伝・狩野山楽筆)と『泰西王侯騎馬図屏風』が出ていたこと。いや、サントリー美術館の名品展としては外すわけにいかないが、「生活の中の美(Art in Life)」と聞いて、今回こうした重量級の作品は出ないのだろうと思っていたので、嬉しい驚きだった。空いていたので、ゆっくり見ることができた。サントリーの『泰西王侯騎馬図屏風』は4人(4頭)とも大人しい馬の姿が描かれており、神戸市立博物館の同図には荒々しく動的な馬が描かれているというのは、言われてみればそのとおりで興味深かった。

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2020年8月関西旅行:おまけ写真集

2020-08-20 22:34:32 | なごみ写真帖

 大阪は、珍しく淀屋橋近くのホテルに泊まった。夕方、まわりを少し歩いてみたら、レトロな近代建築が多くて面白かった。写真は、日本基督教団の浪花教会。昭和5(1930)年竣工。

 さらに歩いて、淀川の八軒屋浜へラバーダックを見に行った。高さ9メートルの巨大なアヒルちゃん。「水都大阪2009」に出現して以来の再来である。前回は見に来ることができなかったので嬉しい。近づくと、風と波でゆらゆら揺れているのが分かる。

 京都では、最終日に祇園の鍵善義房でお菓子を買って帰ろうとして、火曜定休だったことを思い出した。未練がましく店の前まで行ったら、夏らしいお化け提灯が下がっていた。何年か前にも見たことがる。高台寺恒例の『百鬼夜行展』に合わせたものらしい。

 帰宅前に京都駅八条口の鶴屋吉信カフェIRODORIで、宇治金時かき氷。抹茶の苦みと甘みが絶妙で美味しかった。

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2020年8月関西旅行:京都市京セラ美術館、千本釈迦堂

2020-08-18 22:39:19 | 行ったもの(美術館・見仏)

■京都市京セラ美術館 開館記念展「京都の美術 250年の夢」『最初の一歩:コレクションの原点』(2020年6月2日~9月6日)+開館記念展『杉本博司 瑠璃の浄土』(2020年5月26日~10月4日)+『コレクションルーム 夏期』(2020年6月25日~9月22日)

 旧・京都市美術館が約3年間の休館・改修工事を経て、「京都市京セラ美術館」の名前でリニューアルオープンした。現在、入館は予約制(30分単位)で展覧会ごとに申し込まなければならない。これにはけっこう悩んだ。開催中の展覧会は『最初の一歩』『杉本博司』『コレクションルーム(常設展)』の3つ。『杉本博司』展は別館らしいので最後にした。だが、それぞれの展覧会の所要時間が全く読めない。とりあえず30分刻みで入れておけば、2つ目と3つ目は最大30分まで入館が遅れても大丈夫…と考えた。

 建物の印象はあまり変わっていなかったが、近づくと、アプローチが広くなだらかに掘り下げられ、車寄せの下に新たな入館口ができているのが分かった。ここで1つ目の展覧会の予約メールを見せて入館する。

 中に入るとチケットブースがあって、全ての展覧会の入場券をまとめて購入できる。それぞれの展覧会スペースの入退場口でチケットのバーコードを読ませることで、滞在者数を管理しているようだった。しかし2つ目と3つ目の会場では予約メールを見せる必要はなかったので、時間配分をさんざん悩んだのに拍子抜けしてしまった。

 『最初の一歩』は、開館3年目(1935年)の「本館所蔵品陳列」に出品された、コレクションの原点となる所蔵作品47点を一挙に展示する。岡田三郎助、福田平八郎、菊池契月などの名前がある。歴史画しか知らなかった川崎小虎の『森の梟』が可愛かった。中村大三郎『ピアノ』など、当時の風俗を知ることができるものもよい。また同館の建築設計図案(前田健二郎)や『欧米美術館調査報告』も興味深かった。同館の巨大なアトリウムは、先端的な欧米の美術館に倣って設けられたものだという。

 『コレクションルーム(常設展)』は季節に合わせて展示替えをするそうで、夏らしい作品が多く出ていた。野長瀬晩花の『初夏の流』は、2018年の和歌山県立近代美樹館『国画創作協会の全貌展』で見て、とても印象的だったもの。再会できて嬉しかった。 女性画の特集もあり、上村松園の美人画を初めてよいと思った。数少ない仏画『天人』(屏風と対幅)を見ることもできた。『杉本博司 瑠璃の浄土』は、同氏の審美眼によって集めた古美術品と同氏の創作が混じり合う不思議な世界だった。

相国寺承天閣美術館(休館)

 この日は関西旅行最終日。どうやら新幹線もガラガラらしいので、もう少し遊んで行こうと考えた。承天閣美樹館で『若冲と近世絵画』(I期 2020年8月2日~10月11日)開催という情報をどこかで見たはずなのだが、行ってみたら休館中だった。ガッカリ。

千本釈迦堂 大報恩寺(京都市上京区)

 そこで、再びバスに乗って、昨日、時間があれば行きたかった千本釈迦堂へ足を伸ばす。ここは8月8日~16日の間、「六道参り」または「精霊迎え」と呼ばれる行事が行われる。境内の至るところに紙製の灯籠が飾られ、参拝客を迎えるテントがしつらえられていた。

 たぶん最後に来たのは2007年の年末で、人の少ない宝物館が寒かったことを覚えている。今回も私がいた間はひとりで、入れ代わりにおじさん二人連れが入っていった。建物は13年ぶりだが、六観音をはじめとする仏様には、2018年の東博『京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ』でお会いしている。やっぱり准胝観音がいいなあと思う(東博展の鑑賞記では「巧すぎる」と書いているけど)。そうそう、十大弟子のみなさんにも東京でお会いしました。

 この時期は本堂に上って本尊・釈迦如来坐像を拝観することもできる。東博展の記録には、厨子の内部の天蓋が云々と書いているが、そこまでは気をつけて見なかった。

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2020年8月関西旅行:清水寺と石山寺に千日詣り

2020-08-17 21:49:59 | 行ったもの(美術館・見仏)

音羽山 清水寺(京都市東山区)

 毎年8月9日~16日は千日詣りの本堂内々陣特別拝観が行われていると聞いたので行ってみた。「密」を避けて入場者の人数制限をしているらしく、入場口で少し並んだ。その分、中は人が少なくて快適だった。ほの暗い須弥壇には迫力ある二十八部衆が並んでいて、壇上のほうがずっと「密」だった。本尊のお厨子の扉は閉じられていて、金色の御前立が正面を守っていた。本来なら、お厨子の扉から伸びた結縁の紐に触ることができるはずだが、感染予防で紐には触れられないようになっていた。

 お堂の隅に特別な「千日詣りお守り札」が積んであり、欲しい人は自分で貰っていく方式。お寺のおじさんから「はい、また来年もいらっしゃいね」と声をかけられた。ご近所の方は、毎年古いお札を収めて新しいお札を貰っていくのかなあ。次はいつ来られるか分からない観光客なのが寂しい。

大本山 石山寺(大津市石山寺)

 予定していなかったのが、急に思い立って石山寺へ。石山寺の本尊・如意輪観音菩薩は「日本唯一勅封観音」と呼ばれる秘仏で、原則「33年に一度および新天皇即位の翌年のみ開かれる」ことになっている。ちなみに直近では2016年に「33年に一度」の開扉をしている。私はこのときは来ていなくて、調べたら2009年の「西国三十三所結縁御開帳」で参拝している。今回のご即位記念御開帳は、当初、2020年3月18日~6月30日までの予定だったが、新型コロナ感染症拡大と完全に時期が重なり、4月22日~5月31日まで石山寺は閉門(!)、再開後は「宮内庁の許可を得て」8月10日まで特別公開を延長することになった。まさにその最終日にあたっていたので、これもご縁と思って、石山寺へ向かうことにした。

 到着したのが午後3時過ぎ。猛烈に暑い。拝観券売り場のおばさんに「本堂は3時半までですよ」と言われたので、慌てて石段を登って本堂に直行する。秘仏ご本尊の厨子(というか土間に作り付けられた部屋)の前まで進んで、美しくて巨大な如意輪観音坐像と相対することができる。夢見るようにほぼ閉じた目。両手も台座に上げた片足の足裏も、柔らかそうで大きい。

 観音さま、今回のご開帳ではマスク姿の参拝客しかご覧にならなかっただろう。次のご開帳が、私の生きているうちにあるのなら、マスクなしで参拝できるといいなあ、などと考える。

 お厨子の裏側にまわると、2002年にご本尊の胎内から発見されたという4躯の小さな金銅仏(飛鳥~天平時代)が展示されていた。無造作に置かれた『塑像金剛蔵王立像心木』が目に入ったときは、はっとした。やっぱり前回、ここで見たのか。ただの直線の木材の組み合わせだが、現代アートみたいな魅力があるのだ。昨年、MIHOミュージアムの『紫香楽宮と甲賀の神仏』展にも出ていた。

 京博の西国三十三所草創1300年記念特別展に始まり、しっかり観音さまとご縁を結んだ一日だった。

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2020年8月関西旅行:聖地をたずねて(京都国立博物館)

2020-08-16 23:20:29 | 行ったもの(美術館・見仏)

京都国立博物館 西国三十三所草創1300年記念特別展『聖地をたずねて-西国三十三所の信仰と至宝-』(2020年7月23日~9月13日)

 連休3日目は京博の西国三十三所草創1300年記念特別展から。これは、養老2年(718)、大和国長谷寺の開基・徳道上人が、 閻魔大王から授かった33の宝印を33の観音霊場に配り、日本最古の巡礼路を開いたという伝承に拠る。本展には33の札所だけでなく、近畿圏の寺院を中心に、170件を超える寺宝・文化財が集結している(展示替えあり)。1階の大展示室(彫刻)の一部に常設の仏像が残ってるほかは、全館を挙げて特別展仕様だった。

 3階は、観音信仰に関係する文書・古経、飛鳥~奈良時代の小さな銅造観音菩薩像、地獄にかかわる六道絵や十王図、そして西国三十三所ゆかりの徳道上人、花山天皇、性空上人らの肖像など。銅造仏の中に、私の好きな兵庫・一乗寺の観音像(顔が異様に大きい)や播州清水寺の観音像(童子のような無心の笑顔)や南法華寺の観音像(水平にした両手で宝珠を挟む)などが来ていた。六道絵は聖衆来迎寺から「人道苦相」「人道無常相」の2件。京博の『病草紙』「痔瘻の男」「口臭の温女」も出ていた。あまり予習してこなかったので、これは何が出ているか分からないぞ、とわくわくする。

 2階に下りて、面白いと思ったのは『那智山経塚出土仏教遺品』(青岸渡寺+東京国立博物館)。お椀のような蓮華座に光背付きの諸尊や諸尊のシンボル(法具や印形の両手など)が載ったパーツが30件余り出土している。今回は、これらを実際に立体曼荼羅に仕立てて展示しているのがとても面白い。

 絵巻は国宝『粉河寺縁起絵巻』のほか、あまり見る機会のない、土佐光信筆『清水寺縁起絵巻』や海北友雪筆『総持寺縁起絵巻』などを見ることができた。参詣曼荼羅図はどれも見飽きない。細部にいろいろ隠し味があって、『粉河寺参詣曼荼羅図』には、猟師の大伴孔子古がイノシシを狩るという創建説話が描かれているのだが、解説を読まなければ絶対気づかなかった。

 1階の大展示室(彫刻)は、安祥寺の五智如来坐像などいくつかの常設作品を除いて、特別展関連の仏像で埋まっている。どっしりと重量感のあるした滋賀・三井寺千手観音立像。静かな表情で全体に彫りも浅い紀三井寺の十一面観音立像。醍醐寺の千手観音立像は神秘的で古風な顔立ち、左右に錫杖を構え、お腹の前に鉢を抱える。松尾寺からは秘仏の御前立ちの馬頭観音坐像。京都・清水寺の伝・観音菩薩・勢至菩薩立像がいらしたのも嬉しかった。明らかに慶派の顔だが、作者は決着がついていないそうだ。

 彫刻のあとの仏画も珍しいものが多くて眼福。兵庫・中山寺の『十一面観音像』(鎌倉時代)は初見のような気がする。ふだん、どこかで定期的に見られるものなのだろうか。醍醐寺の『清瀧本地両尊像』は蓮華座に座った准胝観音と如意輪観音が並ぶ図。両尊の顔立ちが妙に人間っぽくて可愛い(室町時代)。仏画は展示替えが多いので、できれば後期も見に来たい。

 さらに西国巡礼に関するガイドブックや納経帳、巡礼札、工芸品、刀剣、装飾経などを展示する。珍しかったのは京都・観音寺(今熊野観音堂)が所蔵する『刀八毘沙門天像(とうはちびしゃもんてんぞう)』の図像(室町時代)。獅子の背中に三面十二臂の髭面の男神が跨る。手には八振りの刀。光背を白狐が囲む。男神の頭の上には三体の小さな神? 呆れるほどの異形。最後は中山寺の『西国三十三所観音集会図』(江戸時代)という最高に華やかでハッピーな絵画で終わるのもよかった。

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2020年8月関西旅行:五劫院、東大寺、奈良国立博物館など

2020-08-16 10:33:14 | 行ったもの(美術館・見仏)

思惟山 五劫院(奈良市北御門町)

 大和文華館でゆっくりしたので、近鉄奈良駅に着いたのは正午頃。東大寺の北側に位置する五劫院で五劫思惟阿弥陀仏坐像が公開中(毎年8月1日~12日)と聞いたので拝観に行く。佐保川のほとりの今在家というバス停で下りて、スマホの地図をたよりに静かな住宅街の細い道を入っていく。

 奈良のお寺らしい(と私が勝手に思っている)開放的な境内。風通しのいい本堂では、お寺の方々が盆供養の準備をされていた。本尊は外陣からの参拝になるが、わりと高いところに安置されていて見やすかった。長い長い修行の間に髪が伸びて螺髪のボリュームが増し、四角いアフロヘア状態になっている。変わったお姿だが、意外と違和感がない。むしろ両手を膝の上で袖の中に隠しているのが珍しいと思った。肩が細くて撫で肩なので、全身が三角おむすびみたいで可愛い。

 拝観後は住宅街を南に下って東大寺へ向かう。東大寺の西側は、奈良公園と一体化していて、どこから境内かよく分からないのだが、北側は高いフェンスできっちり仕切られていることを初めて知った。正倉院の西側から境内に入る。

■東大寺二月堂

 この日(8月9日)は全国的に(全世界的に?)観音さまの大功徳日と言われている。東京では「四万六千日」と呼ぶことが多いが、関西では「千日まいり」が一般的だ。秘仏・十一面観音を本尊とする二月堂では「功徳日(およく・およく日)」と呼んでおり、福引・法要・万燈明などの行事が行われる。今年は新型コロナの影響で、行事の一部は中止・縮小されたが、この日限定の「およく餅」の販売はあるというので、行ってみた。

 強烈な日差しとマスクに籠る熱気でへとへとになりながら、裏参道の長い石段を上がると、北側の茶店の前にテントが出ていて「二月堂およく餅」の幟が揺れていた。しかし長机の上の小さな籠はカラっぽ。おじさんに「もう売り切れです、また来年いらっしゃい」と慰められた。実は、直前のお客さんが籠の中の最後のお菓子(およく餅ではなかったかも)を買っていくのを見ていたので、タッチの差だったかもしれない。残念。まだ午後1時頃だったが、おじさんたちは、そさくさとテントをたたみ始めた。

 私は二月堂といえば、修二会しか来たことがなかったのだが、この「およく」だけでなく、9月17日の「十七夜」など、地域に根づいた庶民の楽しみ的な行事も行われてることを初めて知った。来年は無理かもしれないが、機会があったらまた来てみたい。

東大寺ミュージアム 『特別公開・戒壇堂四天王立像』(2020年7月23日~およそ3年間)

 戒壇院戒壇堂が6月末からおよそ3年間、耐震対策と保存修理に伴う工事のため閉堂となり、四天王立像が同館に来ているというので見に行った。千手観音菩薩立像(もと四月堂)を挟んで天平の塑像、日光・月光菩薩立像(もと三月堂)が並ぶ展示ケースの反対側に、露出展示(!)の四天王像が並んでいる。まあ戒壇院でも「露出」だったわけだが、日光・月光菩薩みたいに、ミュージアムではガラスケース入りになるのだろうと思っていたので、ちょっと意外だった。

 素晴らしいのは照明。私が戒壇院の四天王像を好きになったきっかけは、たぶん土門拳の写真である。しかし実際の戒壇院では、イメージどおりの四天王像に会えることもあれば、なにか違うと思うこともあった。天候や光線の具合によっては、平板で迫力が足りない印象になるのだ。それが、ここでは「私の見たかった四天王像」が目の前にあって、すごいなあと思った。

奈良国立博物館 御大典記念特別展『よみがえる正倉院宝物-再現模造にみる天平の技-』(2020年7月4日~9月6日)

 明治以来、これまでに製作された数百点におよぶ正倉院宝物の再現模造作品の中から、選りすぐりの逸品を公開。昨年の東博の特別展『正倉院の世界』や毎年の正倉院展で参考展示として見たものが多かったが、明治時代につくられた墨や筆、刀剣や武具の模造品が目新しくて面白かった。

■奈良県立美術館 特別展『みやびの色と意匠 公家服飾から見る日本美』( 2020年7月25日~9月22日)

 東博の『きもの』展を見に行ったら、思いがけず奈良県立美術館からの出品が多かったので気になっていた。画家の吉川観方旧蔵コレクションが中心になっているらしい。展示品は江戸後期~近代ものだが、古代の令制以来の服飾の変遷がよく分かった。黒田西塘『即位図』と原在明『新嘗祭図』(どちらも江戸時代・19世紀)に描かれた服飾の解説はとても面白かった。新嘗祭で用いられる小忌衣(おみごろも)(男性が着用)とか、青海波文の唐衣(女官が着用)とか、独特である。東豎子(あずまわらわ)という男装の女官が日本にあったことも初めて知った。

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2020年8月関西旅行:コレクションの歩み展I(大和文華館)

2020-08-14 21:05:10 | 行ったもの(美術館・見仏)

大和文華館 開館60周年記念『コレクションの歩み展I』(2020年7月10日~ 8月16日)

 1960年10月31日に開館した同館の開館60周年記念展。新型コロナの影響でパート2が先になったが、パート1では「開館記念特別展」を再現する。1946年の財団法人設立後、初代館長となる矢代幸雄(1890-1975)は直ちに美術品の蒐集を開始した。矢代が本来、ルネサンス美術の研究者だったという解説に、いまさらながら驚いた。

 同館の展示室は、入るとすぐ、小さめの独立ケースが3つ並んでいて、その時々の「推し」の優品が展示される。今回、選りすぐりの名品展で選ばれる3件は何だろう?と想像をめぐらせていたのだが、左側は唐代の『三彩立女』。顔立ちは若々しく頬がふっくらしているが、立ち姿はすらりとして健康的。藍釉と褐釉が混ざり合って少し緑色が見える。右側は乾山の『色絵夕顔文茶碗』。黒地にぽってりした白い夕顔の花、裏にまわると白い文字で和歌が記されている。中央のケースには、開館記念特別展のポスターと冊子(?)が展示されていた。ポスターには、美術品でなく建物の外観の写真が使われているのが面白い。そして講演会の案内に、矢代幸雄館長と並んで吉川幸次郎氏の名前があった。どんなお話をされたのかなあ。

 展示品は全48件。もちろん見たことのある作品が多かったが、中には、ふだんあまり見る機会のないものもあった。冒頭の土偶や埴輪はその一例である。

 本展の白眉は『婦女遊楽図屏風』(松浦屏風)だろう。先日、東博の『きもの』展(わずか6日間だけ展示)では見逃したけど、本来の所蔵館でゆっくり見ることができて嬉しい。個々のきものの柄も面白いし、全体の構成(互いにぶつからないように工夫された色の置き方)も素晴らしい。私は、右隻第4扇の座って三味線を弾いている女性のコーディネートが好きなのだが、左隻第2扇の立女が羽織っている着物(袖に橋、裾に船)も好き。その隣りに桃山時代の『婦人像』や宮川長春の肉筆浮世絵『美人図』あり、佐竹本三十六歌仙絵断簡『小大君』もあって、美人さん揃いのコレクションだなあと思った。

 『寝覚物語絵巻』は何度か見ているが、全巻開示は滅多にない経験でテンションが上がった。いつも、きれいだなあ、可愛いなあで終わるのだが、4つの場面はいずれも高い視点から、舞台(建物)を独特の切り取りかたで描いており、それぞれ変化をつけた幾何学的で装飾的な構図(琳派を思わせる)が面白かった。

 琳派といえば尾形光琳の『扇面貼交手筥』。箱の四面と底に加え、蓋と懸子に扇8面、団扇4面が用いられている。写真パネルを添えて全て見せてくれていたのが嬉しかった。いちばん華やかな「樹下人物図」の裏側には、船に乗った「白楽天図」があるのか。

 水墨画は、いつ見ても大好きな雪村の『呂洞賓図』など。中国絵画は少なめだが、国宝・李迪筆『雪中帰牧図』双福と重文が3件。伝・毛益筆『蜀葵遊猫図』は茶と白の親猫のそばで、黒白ブチの仔猫と三毛の子猫が遊んでいる。同『萱草遊狗図』は、テリアかポメラニアンふうの親犬と4匹の子犬を描く。ああ、応挙や芦雪はこういう絵を意識しながら、自分のスタイルをつくり出したのかな、と思った。

コメント (2)
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