見もの・読みもの日記

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戦争を超えて/日本の版画 1941-1950(千葉市美術館)

2008-01-28 12:29:25 | 行ったもの(美術館・見仏)
○千葉市美術館 『日本の版画 1941-1950:「日本」の版画とは何か』

http://www.ccma-net.jp/

 「日本の版画」シリーズの第5弾に当たるそうだ。知らなかった。と言っても、第4弾が2004年秋の『1931-1940:棟方志功登場』だそうだから、かなりのんびりした流れのシリーズ企画である。

 本展が扱う年代は、太平洋戦争開戦の1941年から始まるが、第1室には、あまり戦時色の濃くない作品が並ぶ。知らない名前の作家ばかりだが、惹かれる作品が多かった。私は木版が好きだ。複雑な現実を、単純な色と形に分解して捉えようとする、ある種の”いさぎよさ”が性に合うのだと思う。たとえば、伊東健乃典の『光芒』。ビル(工場?)の屋上から見た街の風景を描いたもの。間近に迫る三角形の尖塔が面白い。高野山・斑鳩など古い日本の風景を、民話ふうに描いた平塚健一の作品も好きだ。畦地梅太郎の『満州』シリーズを見ていると、赤い壁、青い空、黄色い大地という具合に、コントラストの強い大陸の風景は、版画によく合うなあと思う。

 第2章「奉公する版画」では、大政翼賛会のもとに結成された日本版画奉公会にかかわる作品を展示。しかし、版画家たちの自意識にもかかわらず、既にメディアの主流は、映画や新聞、雑誌などの大量生産型メディアに代わられており、結果的に大した「奉仕」はできなかった、というのが興味深い。美人画で知られる伊東深水が、ジャワやボルネオの風景を作品にしているのにはびっくりした。海軍報道班員として南方諸島へ派遣されたそうだ。これがまた美しい。

 圧巻は、第3章「戦争中版画本」。息を呑むような美しい本の数々が並ぶ。武井武雄、川上澄生らが作った私家版の版画本の数々だ。知識としては知っていたが、こんなにまとめて見たのは初めてである。川上澄生『いんへるの(るしへる版)』は、銀地に赤で摺り出したもの。紅蓮というより薔薇色の炎に向かって、女房装束の女性や、天草四郎のような小姓姿の若者、伴天連などが花びらのように落ちていく。彼らに影響を与えた志茂太郎(中野の酒店主、趣味で活字を組み、のちアオイ書房を設立)という人物の名前も、初めて知った。

 後半は、戦後の版画の展開を概観するが、技法も主題も多様化して、ちょっと追い切れない感じがした。1940年代は、日本の版画のひとつのピークと言えるのかもしれない。

 併設展『芳年・芳幾の錦絵新聞-東京日々新聞・郵便報知新聞全作品-』レポートはこちら
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