2008年もあとわずか。総体的には低め安定で落ち着いた運気だった。その中で、ひとつ心に引っかかっている不愉快な体験がある。1年の罪と穢れを祓い清める「年越しの祓」同様、ここに書き記して潔く忘れることにしたい。
10月の3連休、秘仏ご開帳を目的に和歌山に行くことにした。ついでに京都にも寄りたかったので、行きは、東京~京都(新幹線)→途中下車→京都~和歌山(在来線)、帰りは、和歌山~新大阪(在来線)~東京(新幹線)という、大まかな計画を立てた。調べてみたら、東京~和歌山は往復割引になることが分かったので、それじゃあ、先に乗車券を買っておこう、と思って、自宅からいちばん近いJR川越駅に出かけた。
最初に声をかけてくれたのは、みどりの窓口の外に立っていた制服姿の中年女性である。「どういう経路で行かれるんですか?」と聞かれたので、「行きは京都まで新幹線で、帰りは…」と説明した。そうしたら「それは経路が違うので往復割引にはなりませんね」という。びっくりした。実は私もあまり自信がなかったので、時刻表の路線図を見せてもらって「いずれにしても新大阪を通るので、東海道本線を使っても新幹線を使っても、乗車料金は同じでは?」と尋ねたら、考え直して、窓口の職員に確かめてくれた。
ところがその若い男性職員も(奥にいる先輩職員に何か確かめていたが)そもそも新幹線と在来線では営業キロが異なるのだから、乗車料金が異なると言う。窓口の外にいた女性職員が、不確かな記憶を探るように「東北新幹線の場合、特例ってなかったでしたっけ?」と口添えしてくれたのだが「いや、ないですね」と引かない。とにかく出発日は朝が早いので、行きの片道乗車券だけ購入しておくことにした。
家に帰ってから、ネットでJRの運賃規則を探して読んでみると、やっぱり駅員が間違っている気がする。それで、ネットのQ&Aサービスというのを初めて使ってみた。そうしたら、すぐに私の見解を支持する回答が複数付いた。少し力を得たので、もう一回聞いてみようと思って、平日の仕事帰りにムリをしてJR川越駅に寄った。みどりの窓口はもう閉まっていたので、改札口にいた駅員さんに事情を話してみた。そうしたら「新幹線を降りる駅が違うのだから往復割引にはなりませんよ」と実にキッパリと一蹴されてしまった。なんかもう、素人の私が駅員に説明する気力もなくて、そのまま引き下がって帰った。
でも、このまま放っておけば、今後も同じ疑問を持つユーザーが出るわけだし。そう思って、旅行から帰ったあと、JR東日本のホームページの「ご要望・ご要望受付」フォームに投稿してみた。1ヶ月以上経って、返ってきたのが以下の回答である。
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いつもJR東日本ならびにJR東日本ホームページをご利用いただきましてありがとうございます。
このたびのご意見につきまして、以下のとおり回答させていただきます。
いつも川越駅をご利用いただきましてありがとうございます。
このたびは川越駅社員の応対より、ご不快な思いをおかけし誠に申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます。また、お返事が遅れましたことを重ねてお詫び申し上げます。
お問い合わせいただきました、往復割引乗車券ですが、往復割引乗車券の適用条件は「片道の営業キロが601キロ以上あること」です。東京駅から和歌山駅間は601キロ以上ございますので、往復割引乗車券の適用になります。
弊社では、お客さまと応対させていただく際にはお客さまのご要望をしっかりとお伺いし、正確なご案内をするように指導を行っておりましたが、このたびご指摘をいただき弊社の指導が未だ至っておりませんことを痛感いたしております。社員に対しましては、業務知識の向上に努め、お客さまにご不快な思いをお掛けすることのないように、社員教育の強化に努めて参りますので、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
このたびは、貴重なご意見ありがとうございました。
今後も、みなさまに愛され、親しまれるJR東日本をめざしてまいりますので、引き続きご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます。
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何度も読み返したが、どうも腑に落ちない。慇懃に謝罪しているように見えて、どこかズレているのである。往復割引の基本的な適用条件なんて、あらためて教えてもらわなくても分かっている。私は「新幹線を降りる駅が違うと往復割引にならない」のかどうか、駅員の発言が運賃規則に照らして正しいのかどうかを聞いたはずである。で、シツコイと思いながら、もう一回同じことを聞いてみた。その回答は以下のとおり。
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いつもJR東日本ならびにJR東日本ホームページをご利用いただきましてありがとうございます。
このたびのご意見につきまして、以下のとおり回答させていただきます。
このたびは、お忙しいなか、再度の投稿をいただきましてありがとうございます。
また、お返事が遅れましたことをお詫び申し上げます。
お問い合わせいただきました往復割引の適用条件として、今回の東京~和歌山の乗車券については、新幹線と在来線は経路上の駅であれば、同一区間とみなす対応をさせていただきますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
このたびは、貴重なご意見ありがとうございました。
今後も、みなさまに愛され、親しまれるJR東日本をめざしてまいりますので、引き続きご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます。
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何をか言わんや。こういうのが、顧客クレームに対する大きな組織の模範的な回答なんだろう。内田樹さんの『昭和のエートス』に「負け方を習得する」という一文があったが、「適切に負ける」(その第一条件は、敗因が自分自身にあることをきっぱり認めることである)仕方を知っている組織は、官にも民にも、少ないように思う。私は「駅員の言ったことは間違いでした。すみません」という単純な回答が欲しかっただけなんだけどね。
さて、閑話休題。
自宅で過ごす年末休み。天気がよいので、ぶらぶら歩いて、坂戸市塚越にある聖天宮に行ってみた。なぜか埼玉県の田園風景の真ん中に、派手な中国寺院が建っているのである。あやしい宗教法人が建てたニセ寺院?と思っていたら、とんでもなかった。伝統様式を踏まえ、素材にお金をかけた、しっかりした建築であるし、中国寺院(道観)での礼拝作法やお神籤の引き方もちゃんと教えてくれる。案内の方に「台湾の方が建てたんですか?」とお聞きしたら「そうです」とおっしゃっていた。
というわけで、高麗神社への初詣で開けた1年は、道教寺院への参拝で締めよう。来年も東アジアと縁の深い1年でありますように。
過年好~! みなさま、よいお年を!
10月の3連休、秘仏ご開帳を目的に和歌山に行くことにした。ついでに京都にも寄りたかったので、行きは、東京~京都(新幹線)→途中下車→京都~和歌山(在来線)、帰りは、和歌山~新大阪(在来線)~東京(新幹線)という、大まかな計画を立てた。調べてみたら、東京~和歌山は往復割引になることが分かったので、それじゃあ、先に乗車券を買っておこう、と思って、自宅からいちばん近いJR川越駅に出かけた。
最初に声をかけてくれたのは、みどりの窓口の外に立っていた制服姿の中年女性である。「どういう経路で行かれるんですか?」と聞かれたので、「行きは京都まで新幹線で、帰りは…」と説明した。そうしたら「それは経路が違うので往復割引にはなりませんね」という。びっくりした。実は私もあまり自信がなかったので、時刻表の路線図を見せてもらって「いずれにしても新大阪を通るので、東海道本線を使っても新幹線を使っても、乗車料金は同じでは?」と尋ねたら、考え直して、窓口の職員に確かめてくれた。
ところがその若い男性職員も(奥にいる先輩職員に何か確かめていたが)そもそも新幹線と在来線では営業キロが異なるのだから、乗車料金が異なると言う。窓口の外にいた女性職員が、不確かな記憶を探るように「東北新幹線の場合、特例ってなかったでしたっけ?」と口添えしてくれたのだが「いや、ないですね」と引かない。とにかく出発日は朝が早いので、行きの片道乗車券だけ購入しておくことにした。
家に帰ってから、ネットでJRの運賃規則を探して読んでみると、やっぱり駅員が間違っている気がする。それで、ネットのQ&Aサービスというのを初めて使ってみた。そうしたら、すぐに私の見解を支持する回答が複数付いた。少し力を得たので、もう一回聞いてみようと思って、平日の仕事帰りにムリをしてJR川越駅に寄った。みどりの窓口はもう閉まっていたので、改札口にいた駅員さんに事情を話してみた。そうしたら「新幹線を降りる駅が違うのだから往復割引にはなりませんよ」と実にキッパリと一蹴されてしまった。なんかもう、素人の私が駅員に説明する気力もなくて、そのまま引き下がって帰った。
でも、このまま放っておけば、今後も同じ疑問を持つユーザーが出るわけだし。そう思って、旅行から帰ったあと、JR東日本のホームページの「ご要望・ご要望受付」フォームに投稿してみた。1ヶ月以上経って、返ってきたのが以下の回答である。
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いつもJR東日本ならびにJR東日本ホームページをご利用いただきましてありがとうございます。
このたびのご意見につきまして、以下のとおり回答させていただきます。
いつも川越駅をご利用いただきましてありがとうございます。
このたびは川越駅社員の応対より、ご不快な思いをおかけし誠に申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます。また、お返事が遅れましたことを重ねてお詫び申し上げます。
お問い合わせいただきました、往復割引乗車券ですが、往復割引乗車券の適用条件は「片道の営業キロが601キロ以上あること」です。東京駅から和歌山駅間は601キロ以上ございますので、往復割引乗車券の適用になります。
弊社では、お客さまと応対させていただく際にはお客さまのご要望をしっかりとお伺いし、正確なご案内をするように指導を行っておりましたが、このたびご指摘をいただき弊社の指導が未だ至っておりませんことを痛感いたしております。社員に対しましては、業務知識の向上に努め、お客さまにご不快な思いをお掛けすることのないように、社員教育の強化に努めて参りますので、何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。
このたびは、貴重なご意見ありがとうございました。
今後も、みなさまに愛され、親しまれるJR東日本をめざしてまいりますので、引き続きご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます。
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何度も読み返したが、どうも腑に落ちない。慇懃に謝罪しているように見えて、どこかズレているのである。往復割引の基本的な適用条件なんて、あらためて教えてもらわなくても分かっている。私は「新幹線を降りる駅が違うと往復割引にならない」のかどうか、駅員の発言が運賃規則に照らして正しいのかどうかを聞いたはずである。で、シツコイと思いながら、もう一回同じことを聞いてみた。その回答は以下のとおり。
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いつもJR東日本ならびにJR東日本ホームページをご利用いただきましてありがとうございます。
このたびのご意見につきまして、以下のとおり回答させていただきます。
このたびは、お忙しいなか、再度の投稿をいただきましてありがとうございます。
また、お返事が遅れましたことをお詫び申し上げます。
お問い合わせいただきました往復割引の適用条件として、今回の東京~和歌山の乗車券については、新幹線と在来線は経路上の駅であれば、同一区間とみなす対応をさせていただきますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。
このたびは、貴重なご意見ありがとうございました。
今後も、みなさまに愛され、親しまれるJR東日本をめざしてまいりますので、引き続きご愛顧賜りますようよろしくお願い申し上げます。
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何をか言わんや。こういうのが、顧客クレームに対する大きな組織の模範的な回答なんだろう。内田樹さんの『昭和のエートス』に「負け方を習得する」という一文があったが、「適切に負ける」(その第一条件は、敗因が自分自身にあることをきっぱり認めることである)仕方を知っている組織は、官にも民にも、少ないように思う。私は「駅員の言ったことは間違いでした。すみません」という単純な回答が欲しかっただけなんだけどね。
さて、閑話休題。
自宅で過ごす年末休み。天気がよいので、ぶらぶら歩いて、坂戸市塚越にある聖天宮に行ってみた。なぜか埼玉県の田園風景の真ん中に、派手な中国寺院が建っているのである。あやしい宗教法人が建てたニセ寺院?と思っていたら、とんでもなかった。伝統様式を踏まえ、素材にお金をかけた、しっかりした建築であるし、中国寺院(道観)での礼拝作法やお神籤の引き方もちゃんと教えてくれる。案内の方に「台湾の方が建てたんですか?」とお聞きしたら「そうです」とおっしゃっていた。
というわけで、高麗神社への初詣で開けた1年は、道教寺院への参拝で締めよう。来年も東アジアと縁の深い1年でありますように。
過年好~! みなさま、よいお年を!