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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

復元・多賀城南門を訪ねる

2025-08-03 22:57:02 | 行ったもの(美術館・見仏)

 金曜は仕事で仙台出張だったので、自費で1泊付け足して、土曜日は東北歴史博物館を訪ねた。前回と同じで、開館時間の少し前に国府多賀城駅に着いたので、まず多賀城碑(壺の碑)と多賀城政庁跡を見てきた。

 前回というのは2023年、FaOI(ファンタジー・オン・アイス)2023宮城公演のついでに寄ったのである。当時、多賀城創建から1300年を迎える2024年の完成を目指して南門(楼門)復元が行われていたので、どうなったのか、工事の成果を確かめに来た。

 完成した南門には、駐車場とガイダンス施設の横から正面に出られるのだが、そこを通りすぎるとアプローチがなくて、ぐるりと北側に回ってしまった。壺の碑の覆屋越しに、南門の北側が「見える。

 門を潜り抜けて、南側に出たところ。ちょうど、大きなゴールデンレトリバーを連れたご夫婦が南側から門を潜っていった。

楼門の左右には、土を突き固めた築地塀が復元されていた。奈良の古いお寺で見かけるもの。

瓦当は簡略化されているが重圏文っぽい(難波宮で使われた文様)。これは典拠があるか不明。

 ガイダンス施設に展示されていた説明によれば、この南門は、8世紀中頃(政庁II期)を念頭に復元されたものだという。東北歴史博物館の常設展には、I期とIII期の軒瓦が展示されていたが、どちらも蓮華文だった。

多賀城政庁の時代区分は以下のとおり。

・第1期:養老・神亀頃~8世紀中頃
・第2期:8世紀中頃~宝亀11年(780)→伊治公呰麻呂事件による火災
・第3期:宝亀11年(780)~貞観11年(869)→貞観地震による被災
・第4期:貞観11年(869)~11世紀

第3期政庁は、貞観地震と津波で被災したが、大地震の翌年には陸奥国修理府が置かれ、大宰府にいた新羅国の瓦職人が、多賀城を再建するための瓦づくりに従事したという。→(参考)多賀城陸奥国総社宮コラム

東北の歴史、知らないことが多いのだけど、少しずつ学んでいきたい。

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2025年7月展覧会拾遺

2025-07-30 22:37:17 | 行ったもの(美術館・見仏)

太田記念美術館 『鰭崎英朋』(2025年5月31日~7月21日)

 月岡芳年の孫弟子であり、明治末から昭和にかけて、小説の単行本や雑誌の口絵に美しい女性たちを描いた鰭崎英朋(1880-1968)の作品を展示する。木版画、石版画、オフセット印刷など、さまざまな印刷技術も見どころ。私のブログにこのひとの名前が登場するのは、2016年の全生庵の幽霊画展が最初で、2020年に弥生美術館の展示を見て、しっかり覚えた。展示作品は、明治の小説や雑誌の口絵や表紙がほとんど。作者名は泉鏡花や柳川春葉、後藤宙外など、読んではいないけど文学史で習ったので、なんとなく懐かしい感じがする。そして英朋の描く女性の、苦しそうに寄せた眉根、自然とため息が漏れそうな口元は、文句なく色っぽい。

府中市美術館 『橋口五葉のデザイン世界』(2025年5月25日~7月13日)

 装幀を出発点として五葉の全仕事を展観し、装飾や美術という枠組みを超えた橋口五葉の豊饒なデザインの世界を紹介する。私は、2011年に千葉市美術館で見た『橋口五葉展』の印象が強烈で、自我を感じさせる女性像(よし悪しでなく、鰭崎英朋の美人画とは対極)と耶馬渓の記憶が記憶に残っていた。今回は、展示スペースの半分以上を装幀作品の紹介が占める。特に第1章『吾輩ハ猫デアル』は、下絵等の資料も多く、五葉が心血を注いだことが分かって圧巻だった。英語版や袖珍版の装幀も全て五葉なのだな。『虞美人草』も『門』『それから』も、別にこの装幀で読んだわけではないのに、やっぱり五葉の装幀がぴったり来る。『黄薔薇』『孔雀と印度女』等の絵画も見ることができたが、多くは鹿児島市立美術館が所蔵していた。五葉が鹿児島出身で、黒田清輝の遠縁にあたることは初めて知った。

千葉市美術館 企画展・開館30周年記念『日本美術とあゆむー若冲・蕭白から新版画まで』(2025年5月30日~7月21日)

 ちょうどこの時期、仕事が忙しくて、レポートを書き逃してしまったが、とにかく素晴らしい展覧会だった。特に冒頭の「江戸絵画とあゆむ」のセクションでは、主な作品に入手方法(〇〇年度購入)の説明が付いているのだが、蕭白の『獅子虎図屏風』が1993年度、若冲の『鸚鵡図』が1995年度、『雷神図』が1999年度購入などの注記を見ると、よくぞ買っておいてくれました!と拝みたくなる。「ラヴィッツコレクション」(人類学者ロバート・ラヴィッツ氏が収集した絵本コレクション)「谷信一コレクション」(東博に勤務していた美術史家)「嬉遊会コレクション」(千葉県内の美術愛好家による収集、関東文人画の優品あり)など、コレクション紹介も面白かった。

 30年間の展覧会のポスターがずらり並んだコーナーは懐かしくて気分が上ったし、ロビーに流れていた、歴代館長のインタビュービデオも面白かった。辻惟雄先生、小林忠先生の話を聞けて、得をした気分。さきほど、千葉市美術館のYoutubeチャンネルに長尺版があるのを見つけた。

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2025年7月関西旅行:藤田美術館、大阪歴史博物館など

2025-07-27 23:54:39 | 読んだもの(書籍)

藤田美術館 『酔』(2025年7月1日~9月30日)『雨』(2025年6月1日~8月31日)『鳥』(2025年5月1日~7月31日)

 「酔」には菱川師宣筆『大江山酒吞童子絵巻』あり。全体にパステルカラー系の色合い。鬼たちも頼光一行も、あまり強そうでない。『饕餮禽獣文兕觥(とうてつきんじゅうもんじこう)』という古代中国の青銅器の酒器が出ていて、学芸員の方が「これから直接飲んだわけではありません」と説明していたが、そりゃそうだろと思った。「雨」に出ていた『伊賀青蛙形手焙』(初公開)は可愛かった。「鳥」に出ていた『ゴブラン色糸毛織山水人物図』には、画面上部に端午の節句の薬玉みたいに植物を束ねて丸くしたものが描かれていて、興味深かった。

大阪歴史博物館 特別展『正倉院 THE SHOW-感じる。いま、ここにある奇跡-』(2025年6月14日~8月24日)

 正倉院とその宝物の奇跡を、これまでとは異なる新しいアプローチで「感じる」「楽しむ」展示イベント。正倉院宝物実物の展示はないという情報だったので、見なくてもいいやと思っていたが、大阪に来たついでに寄ってみた。最初の展示室はシアター形式で、正倉院宝物の高精細な3D映像が大画面に流れるのを床に座って鑑賞する。最近よく聞く「没入型ミュージアム」としてはよくできていると思った。しかし正倉院宝物の愛らしさと華やかさは、奈良時代というより唐代文化の追体験である。あとは『蘭奢待』の破片から再現した香り体験コーナーあり。ほぼシナモンだと思った。

東大寺ミュージアム 特集展示『東大寺の仮面』(2025年7月13日~10月30日)『知足院の地蔵菩薩と追善』(7月13日~9月4日)

 2日目は奈良へ。奈良博『世界探検の旅』が始まっているかと思ったら翌週からだったので、ふだん省略しがちな興福寺国宝館や東大寺ミュージアムをゆっくり参観した。東大寺の塔頭・知足院は、名前は知っているが、訪ねたことはないかもしれない。奈良八重桜の原木があるそうだ。知足院伝来の地蔵菩薩立像は、鎌倉時代の学僧・貞慶が春日大社の神様のお告げを受けて作ったものと言われ、霊験あらたかなことで有名だという。鼻筋の通った理知的な表情のお地蔵様で、赤・青・緑の彩色の美しい蓮華から細い放射光が広がるタイプの光背を付けている。左足を少し踏み出しているように思った。

奈良国立博物館・仏像館 『珠玉の仏たち』(2025年7月1日~9月28日)

 初めて見たわけではないのだが『破損仏像残欠コレクション』に見入ってしまった。もとは個人収集のコレクションで、昭和50年代に奈良博へ寄贈されたが、伝承には不明なことが多いという、全500点以上のうち、100点ほどを紹介している。手や足のほんの一部のみの残欠なのに、その美しさに魅了された。

龍谷ミュージアム 特集展示『TANGO!海の京都・山の京都の仏教美術』(2025年7月12日~ 8月17日)

 同館は、改修工事中の京都府立丹後郷土資料館の館蔵品・寄託品の中から約80件を保管しており、その中から、丹後西部を中心とする約40件の仏教美術品を展観する。私が知っていたのは、西国第28番観音札所の成相寺と、丹後国一宮・籠神社くらいで、あとは、どこ?というのを地図で確かめながら眺めた。京丹後市の縁城寺には元代の十王図や、珍しい俱生神像の画幅(南北朝時代)が伝わるのだな。石造の狛犬(鎌倉~江戸まで)が5対来ていたのは楽しかった。ポスターになっているのは、宮津市・上世屋自治会のもの。私は表情なら京丹後市・高森神社、全体のフォルムなら宮津市・畑自治会の狛犬が気に入った。

京都国立博物館 修理完了記念・特集展示・重要文化財『釈迦堂縁起』(2025年7月8日~8月24日)ほか

 京博は常設展示の期間こそ、積極的に行きたいと思っている。今期、2階は室町時代の社寺縁起絵巻を大特集。まず『真如堂縁起』『桑実寺縁起』『金山天王寺縁起』を1巻ずつ展示。金山天王寺は、平安京北郊にあった聖徳太子ゆかりの天台宗寺院だというが、この建立に際して、近江で瓦を焼くと、カラスが運搬を助けてくれた。これが地名の烏丸通りの由来だという。ええ?!と思って調べたら、全く知られていない伝説のようである。

 さて、『釈迦堂縁起』は狩野元信の制作で、室町時代の社寺縁起絵のなかでも特に優れた名品として知られる。修理完了を記念して全6巻を一挙公開。後発の社寺縁起絵巻に影響を与えたと、はっきり分かるところもあって面白かった。

 1階の仏像展示室には京都・成相寺の菩薩半跏像が来ていた。『新収品展』(2025年7月8日~8月24日)で印象に残ったのは、狩野探幽筆『八尾狐図』。家光が夢に見たもので、紅葉山の東照宮から出現したという。家康、タヌキではなくキツネなのか?!

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門前仲町グルメ散歩:2025夏・初かき氷

2025-07-26 22:03:51 | 食べたもの(銘菓・名産)

門前仲町の深川伊勢屋で、この夏初のかき氷(イチゴ、練乳添え)+ソフトクリームトッピングをいただく。昨年よりソフトクリームの盛りがよくなったように思ったのは気のせいかな。

例年、かき氷を食べたあとは、身体の中からクールダウンされる感覚があったのだが、今日は店の外に出るとすぐ、暑さが戻ってきてしまった。今年の暑さは異常。

見たもの・読んだものも溜まっているのだが、部屋に帰ると、冷房を入れてぐったり、ぼんやりしている。困ったものだ。

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2025年7月関西旅行:日本美術の鉱脈展(大阪中之島美術館)

2025-07-24 22:51:09 | 行ったもの(美術館・見仏)

大阪中之島美術館 『日本美術の鉱脈展:未来の国宝を探せ!』(2025年6月21日~8月31日)

 縄文から近現代まで、日本美術のいまだ知られざる鉱脈を掘り起こし、美しい宝石として今後の日本美術史に定着していくことを目標とする展覧会。山下裕二先生の監修である。

 冒頭は蕭白の『柳下鬼女図屏風』で、蘆雪、若冲など「奇想の画家」の作品が並ぶ。いきなり伝・岩佐又兵衛筆『妖怪退治図屏風』があって、しかも撮影可なのに歓喜。この展覧会、けっこう写真の撮れるものが多かった。若冲は『乗興舟』も(今年はすでに3回くらい見ているが、何度も見ても好き)。

 次のコーナーには、なんだかカラフルで巨大な屏風(八曲一双)があってびっくりしながら近づいたら、若冲『釈迦十六羅漢図屏風』のデジタル推定復元作品だという。昭和8年(1933)に府立大阪博物場(戦前、大阪にあった総合文化施設)に展示されたが、その後、行方不明となり、戦火で焼失したと考えられている作品である。図録に掲載された1枚のモノクロ写真をもとに、2022年から2024年にかけて、TOPPAN株式会社の木下悠氏の主導で復元が行われた。最終的にはデジタル復元だが、実際に絵具を調合してみるなどアナログの技術も大いに活用されたという。いわゆる「升目描き」の手法を用いているのだが、復元された「今出来」の状態を見ると、升目のタイルらしさが際立つ。紙の上にタイル画を再現したかったのかなあ、と改めて思った。

若冲といえば、白い象さん。

この豚鼻の茶色い動物は何だろう? 気に入ってしまった。

 次室に入ると、金地に墨画の二曲屏風が2つ。おお!先ごろ発見された応挙と若冲の競作屏風である。応挙(右)が『梅鯉図屏風』、若冲(左)が『竹鶏図屏風』。それぞれの作者を尊重してか、本展図録では「一双」の扱いにはなっていない。応挙と若冲の競作ということで、もの珍しさからの関心を集めていたが、実は作品としてとてもいいと思う。それぞれ全力で描いていて(若冲のニワトリの羽色の豊かさ=墨画なのに、とか)しかも互いを邪魔してないのだ。いったい注文主は誰なのか、二人を前に並べて注文したのか、など、いろいろ想像力を刺激された。応挙の落款に「天明」という文字が見えたので、そうか、江戸では蔦重が活躍している頃(まさに大河ドラマと同時進行の時代)、京都ではこんな作品が制作されていたんだな、としみじみ感慨に耽る。本作品の制作事情については、図録にもいろいろ考察が載っていて面白かった。

 続いて室町水墨画。山下先生の「推し」である式部輝忠、雪村などの作品が並ぶ。もうひとり、霊彩の『寒山図』は展示替えで見られなかったが、図録で確認すると、五島美術館で見たことがあるものだと思う。

 素朴画と禅画には「つきしま」と「かるかや」。『つきしま(築島物語絵巻)』が全面展開に加えて、長谷川巴龍筆『洛中洛外図屏風』(山下先生お気に入りのゆるい洛中洛外図)を久しぶりに見ることができて歓喜。歴史画は、菊池容斎の『呂后斬戚夫人図』と『阿房宮』が見たかったなあ。所蔵元の静嘉堂文庫ではあまり展示される機会がないので。

 ここで順路は中間地点というか、窓のある開放的なロビー(?)に到達する。この空間に展示されていたのが、加藤智大による『鉄茶室徹亭』(てってい、と読むのかしら)と山口晃による『携行折畳式喫茶室』。山口さんの作品には笑ったけど、鴨長明の方丈とか松浦武四郎の一畳敷とか、先達がたくさんいそうな気がする。

 幕末から近代へ。狩野一信の『五百羅漢図』、工芸の宮川香山、安藤禄山、生人形の安本亀八など、ああ、山下先生が推してきた作家たちだ、と何度も納得した。笠木次郎吉も嬉しかったが、図録の巻頭文によると、山下先生が笠木次郎吉を意識したのは、2018年、横浜市歴博の『神奈川の記憶』展であるとのこと。これは私は見ていないのだ。そして牧島如鳩『魚籃観音像』の前で、私は手を合わせて涙を流しそうになった。山下先生がこの作品に出会ったのは、2009年、三鷹市美術ギャラリーの『牧島如鳩展』だという。ええ、私と同じじゃないか!この作品は、小名浜漁業組合の所蔵だったが、いろいろあって(図録に詳細あり)足利市民文化財団に移管された結果、2011年の東日本大震災で被災せずに済んだ。私は美術ファンとして作品の無事を喜ぶ。しかし観音は、むしろ津波に流されてしまいたかったんじゃないかなと思って、描かれた観音の顔をつくづく眺めた。

 最後は縄文土器と現代美術を一緒に。会田誠『電信柱、カラス、その他』は、縦3メートルを超える巨大な屏風で、一見、抒情的な筆致なのだが、よく見ると、このぼんやりした空の下に広がる地獄図が想像できて身震いする作品。慌てて、可愛い縄文土器の印象をよく目に焼き付けて、会場を離れた。

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夏は納涼血みどろホラー/文楽・伊勢音頭恋寝刃ほか

2025-07-21 23:58:54 | 行ったもの2(講演・公演)

国立文楽劇場 令和7年夏休み文楽特別公演 第3部・サマーレイトショーWelcome to BUNRAKU!(2025年7月19日、18:15~)

 三連休は土日1泊だけ関西で遊んできた。目的の一つは夏休み文楽公演。あまり考えずに第3部を選んだら、外国人向け特別企画で、いつもの日本語字幕の代わりに英語字幕が表示される公演だった。確かにいつもの公演より外国人らしきお客さんが目立つが、全体としては日本人が多いか。制服姿の高校生(たぶん)グループが前方左右のブロックを占めていた。

 幕が開くと、徳田久さんというおじさん(プログラムの表記は有限会社アートリンガル)が登場して、文楽および今日の演目について英語で紹介。さらにスペシャル企画で、オンラインゲーム「刀剣乱舞ONLINE」から生まれた刀剣男士・小狐丸が文楽人形となって舞台に登場する。動画・写真撮影OKのフォトセッションタイムもあったのだが、慌てて上手く撮れなかったので、あとでロビーに飾ってあった状態を撮影。隣は小烏丸。なお、第3部は会場アナウンスも小狐丸(声:近藤隆さん)の特別仕様。

・第3部『伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)・古市油屋の段/奥庭十人斬りの段』

 油屋が錣太夫と宗助、十人斬りが芳穂太夫と錦糸という配役を見て、ぜひ第3部を見たいと思った。錣太夫さんの演じる仲居の万野が私は大好きなのである。「お紺さ~ん」というねちっこい呼びかけ、貢に向かって「斬るかえ?斬るかえ?早うお斬り」とぐいぐい迫るところなど、ぜんぶ好き。錣太夫さんの声質は、こういう世話物の小悪党に合っていて、大阪の芸能らしくて貴重だと思う。

 芳穂太夫さんは真面目で声が通って聞きやすい語り。プログラム冊子に野澤錦糸さんのインタビューが掲載されており、秋の公演では、同じコンビで『心中天網島』の大和屋の段を演じる予定だそうだ。楽しみ。大阪公演プログラムの「技芸員にきく」インタビューシリーズはいつも面白いのだが、今回の錦糸さんは特に面白かった。何も考えずに浄瑠璃の世界に没入して「もう終わったんか」と思える舞台が理想で「一度だけ、住太夫師匠と組ませていただいた時にありました」という。

 人形は福岡貢を勘十郎さん。この芝居を最初に見たときは、カッとなって遊郭の人々を殺しまくるシリアルキラーぶりにぞっとしたが、勘十郎さんが遣うと、主筋のために名刀と折紙(鑑定書)を取り戻そうとする忠義の侍の風格が感じられる。貢の着物に徐々に血糊がついていき、最後は血まみれになる演出、どうやっているのだろう。ちょっと前に見た月岡芳年『英名二十八衆句』の福岡貢を思い出した。以前は顔が前後真っ二つになる「唐竹割り」のツメ人形を使っていたと思うのだが、今回はなかった。あえて笑いの要素は外したのかと思う。

・『小鍛冶(こかじ)』

 能『小鍛冶』が歌舞伎舞踊に移され、さらに文楽に仕立てられたものなので、舞踊(景事)に近い。前半は松を描いた鏡板を背景にした能舞台で、刀鍛冶の小鍛冶宗近は、刀作りの勅命を受け、相槌の名手を求めて氏神の稲荷明神に祈願する。すると気高い老人が現れ、力を貸そうと約束する。暗転して舞台が変わり、中央に結界をした刀打ちの祭壇。やがて姿を変えて現れた稲荷明神の相槌で「小狐丸」を打ち出し、勅使に献上する。

 後半の稲荷明神は、長い白髪を振り乱し、激しく動き回る。玉助さんが奮闘していたけど、振り回される足遣いがさらに大変そうだった。時々、宙に浮くときの足遣いを見ると、やっぱり稲荷明神はキツネの一種(?)なのだろうか。稲荷明神と宗近がリズミカルに槌を振り下ろすと、真っ赤に焼けた刀剣から火花(本物)が散る。あれはどうやっているのかなあ。暗闇を背景に飛び散る火花が美しかった。

 今回のプログラム冊子には「文楽と刀剣」のカラー写真つき特別コラムあり。なるほど『小鍛冶』が小狐丸誕生の物語のほか、『紅葉狩』には小烏丸、『増補大江山』には髭切、『伊勢音頭恋寝刃』には青江下坂(モデルは葵下坂)が登場するのだな。勉強になった。

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本郷三丁目でマレーシア家庭料理

2025-07-18 23:05:13 | 食べたもの(銘菓・名産)

本郷三丁目で友人たちと会うことになり、夕食に選んだのが、マレーシア料理のThe Kopitiam Hongo(ザ・コピティアム・ホンゴウ)。駅前を少し離れた住宅街の小さなレストランだが、さまざまな言葉を話すお客さんでにぎわっていた。

コースメニューの最後に出てきたのが、看板メニューの1つ、カリーラクサ。辛くて美味しい。

帰宅してから見つけた『さんたつ(散歩の達人)』の記事:本郷三丁目で絶品!海南鶏飯のランチ。『The Kopitiam Hongo』でマレーシアの家庭の味を楽しもう

いつかランチも行ってみたい。

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浮世絵見て歩き/上野の森、千葉市美、慶応義塾

2025-07-16 22:30:12 | 行ったもの(美術館・見仏)

上野の森美術館 『五大浮世絵師展-歌麿、写楽、北斎、広重、国芳』(2025年5月27日~7月6日)

 大河ドラマ『べらぼう』の影響か、今年は浮世絵展が大流行りである。私は東京近郊の展覧会は全て見に行こうと決めている。この展覧会は、閉幕1週間前に出かけたら、ものすごい行列だったので、閉幕直前の土曜日に出直した。10時開館だったので、1時間は並ぶつもりで9時近くに到着したら、なんとすぐに開館して中に入れてくれた。館内は、五大浮世絵師のセクションがそれぞれ区切られている。最初の歌麿、写楽はもう観客でいっぱいだったので、先に北斎を見て、写楽に戻り、歌麿はお客さんの頭越しに眺め、2階に上がって、広重、国芳を見た。分量的には、歌麿、写楽は少なめ。絵師ごとにテーマカラーが決められているのが面白かった。歌麿:茶色、写楽:ピンク、北斎:青、広重:緑、国芳:赤、だったかな。

 歌麿は『契情三人酔(笑上戸)』がとてもよかった。腹立上戸、泣上戸と3枚組らしい。同輩に背中から抱きかかえられるようにして笑っている遊女の生き生きとした表情や仕草が愛らしい。ああ、遊女を人間として見ていたんだなあと感じさせる。北斎の風景画(東海道五十三次や富岳三十六景)はやっぱりいい。超有名作品でないものも普通にいい。広重の風景画は黒の使い方が巧みだと思った。一方で、初めて見た(?)広重の美人画にも惹かれた。遊里の風景を近江八景に見立てた『内と外姿八景 桟橋の秋月 九あけの妓はん』は、股火鉢ではないけれど、ぼんやり囲炉裏に向かって暖を取る遊女の姿を描いている。

 国芳はどれもいいのだけれど、この作品、久しぶりに見たな、というものが意外と多くて嬉しかった。地雷也や天竺徳兵衛とともに登場する巨大ガマに興奮する。通俗水滸伝豪傑シリーズの『旱地忽律朱貴』は古装ドラマに出てほしいタイプのイケメンで好き。

千葉市美術館 開館30周年記念『江戸の名プロデューザー蔦屋重三郎と浮世絵のキセキ』(2025年5月30日~7月21日)

 同じ日にハシゴをしてこちらにも寄る。千葉市美術館の開館30周年を記念する本展では、浮世絵の始祖で房州出身(ここ強調)の菱川師宣に始まり、春信、歌麿、写楽、北斎、英泉、広重に至る浮世絵の歴史をたどりつつ、蔦屋重三郎が生まれた時代から華やかな黄金期の浮世絵への展開、そして “世界のUkiyo-e”へと進化していくさまを紹介する。「五大浮世絵師」よりはやや古い時代、あるいは同時代だけどあまり尖っていない、どちらかというと伝統的な作品が多くて、それでそれで、浮世絵初心者の私には面白かった。鈴木春信は言わずもがな、鳥居清長とか勝川春章とかの美人画は、いいなあと思ってしまう。

 歌麿は、俳書や狂歌本の挿絵に始まり、美人画もたくさんあって、比較的ゆっくり見ることができた。『当世三美人』とか『江戸高名美人』とか、眉のかたち、目のかたちなど、ちゃんと女性の個性を描き分けている。そして大河ドラマの影響で、蔦屋だけでなく西村屋とか鶴屋などの版元がいちいち気になってしまうのが自分でも可笑しい。英泉の版元は「蔦屋吉蔵」が多い。蔦屋重三郎(二代目)から暖簾分けした可能性が考えられるという。

 併催の『日本美術とあゆむー若冲、蕭白から新版画まで』もすごい展覧会だったが、これはまた稿をあらためて。

慶應義塾ミュージアム・コモンズ 『夢みる!歌麿、謎めく?写楽-江戸のセンセーション』(2025年6月3日〜8月6日)

 経済学者・高橋誠一郎(1884-1982)が収集した浮世絵コレクションを紹介する展覧会。私はこの方の名前を全く知らなかったのだが、調べたら、慶応義塾図書館監督(現在の館長)や塾長代理、さらに国立劇場会長、東京国立博物館長も務めていらっしゃるらしい。本展は、4月に小松茂美旧蔵資料展を見にきたとき、1階の警備員のおばさんが、ニコニコしながらチラシを渡してくれて「次は浮世絵展なんですよ!」と嬉しそうにおっしゃっていたので、ぜひ来てみようと思っていたのだ。しかし例によって土曜開館は会期中に3回しかないので、忘れて見逃さないようドキドキしていた。

 展示は前後期で112件、1回で見られるのはその半分だから、大規模な展覧会ではない。しかし歌麿は多様なジャンルの作品20件以上出ており、どれも摺りがよかった。「教訓 親の目鑑」シリーズが楽しくて、これは「ばくれん」(莫連、あばずれ、すれっからし)。グラスで酒をあおっているのはともかく、左手に持っている大きなカニは酒の肴なのだろうか。

 これは「もの好」。庶民が犬猫を溺愛するのは見苦しいと説いているそうだ。まあ親からすれば、対象が何にせよ、物好きが高ずると婚期が遅れるという心配かもしれない。

 写楽は『松本米三郎のけわひ坂の少将実は松下造酒之進妹しのぶ』が面白くて見とれた。この展覧会、ほとんど写真撮影OKなのだが、この作品は個人蔵らしく撮影不可なのが残念だった。

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さまざまな美女/上村松園と麗しき女性たち(山種美術館)

2025-07-15 22:46:03 | 行ったもの(美術館・見仏)

山種美術館 特別展・生誕150周年記念『上村松園と麗しき女性たち』(2025年5月17日~7月27日)

 2025年、上村松園(1875-1949)が誕生して150年を迎えることを記念し、数々の名品を取り揃えてその画業をたどるとともに、松園と同時代の画家から現在活躍中の若手作家にいたるまで、女性の姿を描いた作品を紹介する特別展。

 むかしは日本画の美人画というのは、何がよいのか分からなくて敬遠していたのだが、最近少し親しみを感じるようになってきた。松園には『蛍』『新蛍』『夕べ』など、蚊帳や簾を効果的に用いた美人画があり、美人画の先達である歌麿をしっかり学んでいることを感じさせる。しかし同時に松園は「近松式でもなく歌麿式でもなく」崇高で森厳とした女性美を描きたいと言っている。見ている人に邪念を起こさせない、邪な心も清められるような美人画が理想なのだという。まあ松園には、女の情念を感じる作品もないではないのだが、本展の出品作は、キリッとした美女の図が多かった。普通の町娘やおかみさんなのに、キリッとし過ぎて、尼僧に見えてくるものもあった。あと、浮世絵の美人画に比べると、首が太くて短いと思った。

 名品『蛍』(1913年)で蚊帳を吊るす女性の浴衣には百合が描かれている。松園は「天明頃をねらいました」と語っているそうだが、この百合は、当時最先端のアール・ヌーボー趣味を取り入れたもの。というのは、最近、どこかの展覧会で見て、へええと思ったのだが、どこだか思い出せない。同じ山種美術館だっただろうか。

 そして、さまざまな画家による美人画。松園と同じ和装美人でも、梶田半古、鏑木清方、池田輝方、みんな違うなあと思って眺める。いま太田記念美術館で特別展を開催中の鰭崎英朋なんかも思い浮かべて比較してしまう。珍しいところでは、尾竹竹坡の木版口絵があったり、島成園『花占い』(個人蔵)という作品を初めて眺めたりした。大きな立涌模様の着物が大正モダンふうでオシャレ。伊東深水描く、パーマヘアにつけまつげ(たぶん)のバタくさい美女たちも大好き。

 小倉遊亀『舞う(舞妓・芸者)』『涼』、片岡球子『むすめ』『北斎の娘おゑい』などが並ぶ第1展示室のフィナーレは目まいがしそうなほど豪華絢爛。小倉遊亀氏が『舞う』の金色の背景について、青金泥を20回くらい塗り重ねると嫌な感じになるが、さらに塗り重ねた、と語っているのが興味深かった。金屏風を背景に着物姿の女性を描く趣向は、第2展示室、青山亘幹『舞妓四題』(うち2幅)(個人蔵、1985年)に受け継がれていく。和田英作『黄衣の少女』は、戦後のエスニックブームの反映か思ったら、ずっと古い作品(1931年)。しかし褐色の肌の少女、背後の赤いカーテンなど、エキゾチックな雰囲気が漂う。和田英作は、東京美術学校の校長として苦労された方である。

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自然観察と書画工芸/花と鳥(三井記念美術館)

2025-07-13 23:04:54 | 行ったもの(美術館・見仏)

三井記念美術館 美術の遊びとこころIX『花と鳥』(2025年7月1日~9月7日)

 この「美術と遊びとこころ」というシリーズ、私のメモでは2013年のVI(第6回)まで遡ってしまうのだが、最近も使われていたのかな。気づいていなかった。第9弾の今回のテーマは花と鳥で、絵画・茶道具・工芸品など美術の中の花と鳥が織りなす多彩な表現や奥深い美の世界を紹介する。ときどき、選りすぐりの名品展には出てこないような珍しい作品が混じっていて、面白かった。

 展示室1は「花」から。冒頭の『青磁浮牡丹文不遊環耳付花入』(南宋~元時代)は、時代から見て名品のひとつだろうけれど、仏前が似合いそうながっちりした形式ではなく、丸く膨らんだ胴が優雅。仏器でない日常の調度品として使われたのだろうか。仁清作『色絵蓬菖蒲文茶碗』に菖蒲の花はなく、長く伸びた葉っぱのみ。五月の節句にヨモギと葉菖蒲を束ねて飾ったことに由来するのだろう。この茶碗で飲むお茶は薬になりそう。『唐物肩衝茶入(銘:遅桜)』(南宋時代)は外連味がなくて好き。

 萩と紫陽花をそれぞれモチーフにした蒔絵の茶箱が出ていたが、小さな花がたくさん集まって咲く植物は、蒔絵の技法との相性がよい。『紫陽花蒔絵茶箱』(江戸時代・19世紀)は、大小の茶碗、茶杓、棗など、中に収められた茶道具がぜんぶ銀製。いいなあ、これ欲しいなあと強く惹かれたが、帰りがけにミュージアムショップを覗いたら、銀製(銀彩?)の茶碗が売られていた。

 先に進んで、展示室4は「鳥」。この展覧会、「花」も「鳥」も、現実の花や鳥の写真が添えられているのが面白かった。特に「鳥」は詳しくないので、気がつくと作品よりも写真のほうに気を取られていたりした。いちばん気に入ったのは古径筆『木菟図』。ミミズクは誰が描いてもかわいい。『海辺群鶴図屏風』は誰の作品か分からなくて、訝りながら近づいたら、三井高幅筆(1885年)だった。応挙の作品を写したものだというが、玄人はだしに巧い。渡辺始興筆『鳥類真写図巻』も眼福だった。小鳥の顔を正面から、あるいは頭上から描いて、模様の全体図を理解しようとしているのが面白かった。ホオジロの正面顔は歌舞伎の隈取みたいだった。

 展示室3「如庵」茶室には、国宝『志野茶碗(卯花墻)』が出ていた。奥の床の間に掛かっていた軸物は、解説を見たら『継色紙(くるるかと)』だったが、老眼にはよく見えなかった。残念。

 展示室5では、永楽妙全作『色絵雉香炉』(明治~大正時代)に惹かれた。仁清の『色絵雉香炉』(この間、大阪市美で見た)を念頭に置いて作られたのだろうが、こちらは2羽とも細い脚ですっくり立っている。そして2羽とも色がきれいで、どちらがメスなのかよく分からなかった。オスとオスで1対ということはないだろうけど。三井家が徳川治宝から拝領したという『紫交趾写鴨香合』『青交趾写雀香合』も可愛かった。

 最後の展示室には室町時代の『日月松鶴図屏風』が出ていた。古い作品には真鶴がよく描かれているが、ツルといえばタンチョウになってしまったのは、いつ頃からなのだろう。草花模様をちりばめた豪華な能装束(明治~大正時代)も素晴らしかった。花も鳥も、つい最近まで日本人には本当に身近だったのだなと強く感じた。

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