■藤田美術館 『酔』(2025年7月1日~9月30日)『雨』(2025年6月1日~8月31日)『鳥』(2025年5月1日~7月31日)
「酔」には菱川師宣筆『大江山酒吞童子絵巻』あり。全体にパステルカラー系の色合い。鬼たちも頼光一行も、あまり強そうでない。『饕餮禽獣文兕觥(とうてつきんじゅうもんじこう)』という古代中国の青銅器の酒器が出ていて、学芸員の方が「これから直接飲んだわけではありません」と説明していたが、そりゃそうだろと思った。「雨」に出ていた『伊賀青蛙形手焙』(初公開)は可愛かった。「鳥」に出ていた『ゴブラン色糸毛織山水人物図』には、画面上部に端午の節句の薬玉みたいに植物を束ねて丸くしたものが描かれていて、興味深かった。
■大阪歴史博物館 特別展『正倉院 THE SHOW-感じる。いま、ここにある奇跡-』(2025年6月14日~8月24日)
正倉院とその宝物の奇跡を、これまでとは異なる新しいアプローチで「感じる」「楽しむ」展示イベント。正倉院宝物実物の展示はないという情報だったので、見なくてもいいやと思っていたが、大阪に来たついでに寄ってみた。最初の展示室はシアター形式で、正倉院宝物の高精細な3D映像が大画面に流れるのを床に座って鑑賞する。最近よく聞く「没入型ミュージアム」としてはよくできていると思った。しかし正倉院宝物の愛らしさと華やかさは、奈良時代というより唐代文化の追体験である。あとは『蘭奢待』の破片から再現した香り体験コーナーあり。ほぼシナモンだと思った。
■東大寺ミュージアム 特集展示『東大寺の仮面』(2025年7月13日~10月30日)『知足院の地蔵菩薩と追善』(7月13日~9月4日)
2日目は奈良へ。奈良博『世界探検の旅』が始まっているかと思ったら翌週からだったので、ふだん省略しがちな興福寺国宝館や東大寺ミュージアムをゆっくり参観した。東大寺の塔頭・知足院は、名前は知っているが、訪ねたことはないかもしれない。奈良八重桜の原木があるそうだ。知足院伝来の地蔵菩薩立像は、鎌倉時代の学僧・貞慶が春日大社の神様のお告げを受けて作ったものと言われ、霊験あらたかなことで有名だという。鼻筋の通った理知的な表情のお地蔵様で、赤・青・緑の彩色の美しい蓮華から細い放射光が広がるタイプの光背を付けている。左足を少し踏み出しているように思った。
■奈良国立博物館・仏像館 『珠玉の仏たち』(2025年7月1日~9月28日)
初めて見たわけではないのだが『破損仏像残欠コレクション』に見入ってしまった。もとは個人収集のコレクションで、昭和50年代に奈良博へ寄贈されたが、伝承には不明なことが多いという、全500点以上のうち、100点ほどを紹介している。手や足のほんの一部のみの残欠なのに、その美しさに魅了された。
■龍谷ミュージアム 特集展示『TANGO!海の京都・山の京都の仏教美術』(2025年7月12日~ 8月17日)
同館は、改修工事中の京都府立丹後郷土資料館の館蔵品・寄託品の中から約80件を保管しており、その中から、丹後西部を中心とする約40件の仏教美術品を展観する。私が知っていたのは、西国第28番観音札所の成相寺と、丹後国一宮・籠神社くらいで、あとは、どこ?というのを地図で確かめながら眺めた。京丹後市の縁城寺には元代の十王図や、珍しい俱生神像の画幅(南北朝時代)が伝わるのだな。石造の狛犬(鎌倉~江戸まで)が5対来ていたのは楽しかった。ポスターになっているのは、宮津市・上世屋自治会のもの。私は表情なら京丹後市・高森神社、全体のフォルムなら宮津市・畑自治会の狛犬が気に入った。
■京都国立博物館 修理完了記念・特集展示・重要文化財『釈迦堂縁起』(2025年7月8日~8月24日)ほか
京博は常設展示の期間こそ、積極的に行きたいと思っている。今期、2階は室町時代の社寺縁起絵巻を大特集。まず『真如堂縁起』『桑実寺縁起』『金山天王寺縁起』を1巻ずつ展示。金山天王寺は、平安京北郊にあった聖徳太子ゆかりの天台宗寺院だというが、この建立に際して、近江で瓦を焼くと、カラスが運搬を助けてくれた。これが地名の烏丸通りの由来だという。ええ?!と思って調べたら、全く知られていない伝説のようである。
さて、『釈迦堂縁起』は狩野元信の制作で、室町時代の社寺縁起絵のなかでも特に優れた名品として知られる。修理完了を記念して全6巻を一挙公開。後発の社寺縁起絵巻に影響を与えたと、はっきり分かるところもあって面白かった。
1階の仏像展示室には京都・成相寺の菩薩半跏像が来ていた。『新収品展』(2025年7月8日~8月24日)で印象に残ったのは、狩野探幽筆『八尾狐図』。家光が夢に見たもので、紅葉山の東照宮から出現したという。家康、タヌキではなくキツネなのか?!