見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

アイスショー"Prince Ice World 2021" 横浜公演初日

2021-05-03 23:26:37 | 行ったもの2(講演・公演)

プリンスアイスワールド2021-2022 Brand New StoryⅡ~Moving On !~ 横浜公演(2021年5月1日、11:30~)

 連休中にこの公演があると知って、チケットを購入したのは3月の末頃だった。せっかくの5連休、海外旅行は無理としても国内移動はできると思っていたので、旅行計画の邪魔にならないよう、5日間10公演から初日の昼の部を選んだ。そうしたら、結局、今年の5連休唯一の予定になってしまった。

 会場はKOSÉ新横浜スケートセンター。朝、出遅れてしまったので、余裕をもって東京から新横浜まで新幹線で移動することにした。そうしたら宮城県沖で発生した地震の影響で、いきなり新幹線が止まってしまった。ヤバい!と焦ったが、幸い15分程度の遅れで復旧。新幹線を使った意味はなくなったが、なんとか間に合った。

  出演者(ゲスト)は、荒川静香、本田武史、本田望結、宇野昌磨、鍵山優真、本田真凜、樋口新葉、田中刑事、友野一希、三浦佳生。円熟のプロスケーターと伸び盛りの若手が混じっている。他のアイスショーでは見られない、華麗な団体演技でショーを引っ張るプリンスアイスワールドチームも同じらしかった。

 私は、2010年と2012年にPIW東京公演を見ており、荒川静香さん、本田武史さん、プリンスアイスワールドチームの小林宏一さんは、そのときのメンバーでもある。荒川さんの変わらなさ、相変わらず女神のような美しさと高い身体能力を維持していることに驚嘆する。本田武史さんは、衣装のせいか、やっぱり腰回りが立派になったなあと思ったのだが、曲(リバーダンス!)が始まったら、滑らかなスケーティングに目が釘付けになった。ステップも!ジャンプも!

 2010年に初めて見たPIWは、子供向き(ファミリー向き)のゆるいアイスショーだった。それが2012年には、ぐんと芸術性の高いショーになっていて驚いた記憶があるのだが、10年ぶりの今回は、段違いに進化していた。衣装、小道具、照明、ドラマ仕立て、とにかく手を変え品を変えして楽しませてくれる。オープニングでは本物の炎が上がる演出あり。製氷車をリンクに乗り入れてきたり、巨大な旗を振り回したり。エアリアル(長いリボンやリングを使って宙に浮く)も思った以上に本格的だった。

 衣装では、女性の赤いロングフレアパンツが新鮮だった。裾を踏まないよう、スケート靴と一体になっていた。和風プロでは花魁ふうに胸の前で帯を結んだ女性スケーターと、裃姿?で提灯を持った男性スケーターが登場した。まあ和風プロは、YOSAKOIとかに通じる、ちょっとヤンキー風味ではあったな。グループ演技の解説では、男子も女子も揃いの半ズボン衣装で、ゲストの友野くん、三浦くん、鍵山くん、田中くんまで半ズボン姿で登場したのには笑ってしまった。

 途中で団体演技(シンクロナイズドスケーティング)のエレメンツ(ライン、サークル、ホイール、ブロック、インターセクション)の解説を入れてくれたのもありがたかった。後半のグループナンバーは、これらのエレメンツを複雑に組み合わせたものが多くて、スリリングだった。

 前の週のSOI横浜と共通するスケーターは、同じ演目が多かったけれど、田中刑事くんの「ジュ・テ・ヴ」は大人のしっとりプロ。こういう路線もいいね。昌磨くんの「ボレロ」は、なんとかこらえて演じ切った感じ。フィニッシュのあと、なかなか照明が明るくならなかったのは、起き上がってリンク中央に行くのに時間がかかっていたのではないかと思う。客席に一礼するときも足元がフラついていた。疲れるよねえ。でも楽しそうで何より。

 PIWには名物「ふれあいタイム」があるのだが、今季は自粛のため、フォトタイムを設けてくれた。これも嬉しいサービス。また見に行きたい。

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古筆を知る(五島美術館)+国宝燕子花図屏風(根津美術館)

2021-05-02 22:24:47 | 行ったもの(美術館・見仏)

五島美術館 館蔵・春の優品展『古筆を知る』(2021年4月3日~5月9日)

 緊急事態発令前に行った展覧会レポート続き。五島美術館はしばらく行っていなかったし、好きな古筆なので見に行った。本展は、五島美術館と大東急記念文庫の収蔵品から、平安・鎌倉時代に書写された古筆を中心に、歌仙絵や工芸作品など約50点を展観し、古筆見(こひつみ、=筆跡鑑定家)の活動にも注目して、鑑定結果を記した「極札」などの付属資料も一部紹介する。仮名文字資料だけでなく、高僧の墨蹟や古写経もあってバラエティを楽しめた。

 歌仙絵は、上畳本の紀貫之像、業兼本の猿丸太夫像、後鳥羽院本の平兼盛像、時代不同歌合絵の伊勢・後京極良経像が出ていた。上畳本の紀貫之は、小さな目・がっちりした顎が理性的で、現代にも身近にいそうな風貌なのが好き。平兼盛は、めそめそした歌ばかり詠んでいたことを知っているので、そういう心境に見えてしまう。

 古筆には、書かれている内容の説明(例:古今集とは)、伝来経路、伝承(伝称)筆者、推定作者、さらに釈文も添えられていて、親切だった。特に、伝承筆者とは別に、今日の研究で比定されている有力な筆者の説明があるのはとても良かった。私は『下絵古今集切』や『烏丸切』の定頼の筆跡が好み。源俊頼も好きだ。そういえば『高野切(第一種)』が出ていないなと思ったら、これは前期展示ですでに引っ込んでいた。鑑定資料も面白く、久能寺経『法華経功徳品巻十九』は、キャプションには採用されていなかったが、極札を見たら「後白川(河)院宸翰』と記されていた。ほんとか?

 展示室2には『源氏物語絵巻』(鈴虫一・鈴虫二・夕霧・御法)が出ていると思ったら、「現状模写」だった。しかし、このくらい精巧だと、かえって模写のほうが安心して見られてよい。本物は4/29~5/9展示予定だったが、今年は機会を逸してしまったわけだ。残念。

根津美術館 開館80周年記念特別展『国宝燕子花図屏風 色彩の誘惑』(2021年4月17日~5月16日)

 毎年この時期に展示される、尾形光琳の『燕子花図屏風』。去年は見られなかったので、今年はぜひ見たいと思っていた。金曜日に緊急事態発令のニュースを見て、慌てて根津美術館の予約サイトを開き、もう16:00の回しか空いていなかったので、とりあえず予約した。

 本展は、『燕子花図屏風』が用いた「青と緑と金(黄)」の組合せに着目し、この三色が活躍する絵画・陶芸作品等を展示する。交趾焼や古九谷など、やきものにこの三色が多いことはすぐに思いつくが、古い絵画でも、金身の菩薩たちが舞い踊る『阿弥陀二十五菩薩来迎図』や、参道に金泥を配して浄土を表現したという『春日宮曼荼羅』など、金(黄)が効果的に使用されている。『北野天神縁起絵巻』や『酒呑童子絵巻』なども、野外の風景は、唐代様式の青緑山水プラス金(黄)が基本である。

 本展には「個人蔵」の珍しい作品も複数出品されていた。伝・趙伯驌筆『仙山楼閣図巻』(明代)は、群青と緑青で描かれた雄大な山と海の図巻。金も使われているのだろうが、あまり目立たない。人物と動物の姿が、点々と洞窟の中や海の上に描かれている。人物は仙人らしく、平然と波の上を歩いていたりする。仙獣らしき動物も。最後は雲の上にも小さな仙人の姿。『陳情令』の世界みたいでわくわくした。『松槙図屏風』『四季竹図屏風』(どちらも室町時代)は、無背景の金地に単一の植物を描くという点で『燕子花図屏風』に類似するもの。並べてみると、『燕子花図屏風』の伝統の継承と革新性が分かる気がする。

 展示室5「上代の錦繍綾羅(きんしゅうりょうら)」は、これも珍しい上代裂(じょうだいきれ)の展示。代表的な上代裂は、7世紀の織物が主な「正倉院裂」(中国産と日本産)と8世紀の織物が主な「法隆寺裂」である。中国産は、いわゆる「蜀江錦」で、単純な図形を複雑に組み合わせ、優美で華やかな文様を作り出している。黄色、緑、紺などもあるが、全体としては赤系が目立っていた。唐を舞台とした中国ドラマの衣装を思い出すなあ。

 錦には「経錦(たてにしき)」と「緯錦(ぬきにしき)」があり、長い絹糸が入手できた中国の織物は本来、前者。複雑な文様が織り出せる後者の技法は西アジアから入り、隋代に成功を収めた。日本では「奈良の三纈」と言って、夾纈(きょうけつ、板締め)・臈纈(ろうけつ、蝋で防染)・纐纈(こうけつ、括り染め)が行われた。『濃茶地鳥襷文臈纈絁』はツバメ(?)文様が素朴で可愛かった。なお、正倉院裂は、ほぼ門外不出だったが、明治9年、大久保利通が殖産興業のため、櫃一合分を諸府県の博物館等にバラまいてから、世上に出回るようになったとのこと。初めて知る話が多くて、ひたすらメモしてきた。

 展示室6は、昭和12年5月、燕子花図屏風を飾った茶会の取り合わせを再現している。当時の写真があって、狭い待合に並んで楽しそうなおじさん六人が写っていた。こういう文化的サークルの伝統って、今でもどこかに細々とは残っているのだろうか。

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洋行帰りの職人気質/渡辺省亭(藝大美術館)

2021-05-01 23:30:58 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京藝術大学大学美術館 『渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画』(2021年3月27日~5月23日)

 先週の土曜日、翌日から緊急事態が始まると分かって、慌てて出かけた展覧会のレポートを書いておく。渡辺省亭(1852-1918)の名前は、なんとなく知っていた(このブログの初出を確かめたら、2010年に読んだ森銑三のエッセイだった)が、評価の機運が高まったのは2017年頃からだと思う。本展は、渡辺省亭の全貌を明らかにするはじめての展覧会とのこと。

 嘉永4年(1852)生まれの省亭は、最も早く洋行した画家のひとりで、明治11年(1878)の万博を機にパリに渡り、印象派の画家たちとも交流した。その後も海外では高い評価を保ち続けたため、本展は欧米の美術館や個人コレクションからの出品がけっこう多い。国内でも評価は高く、制作依頼も多かったが、公の展覧会や博覧会に出品することは好まず、特定の団体にも所属しなかった。明治31年(1898)日本美術院に誘われたときも辞退している。日本美術院といえば、東京美術学校を追われた岡倉天心が創設した団体で、その誘いを断った省亭の展覧会を藝大でやるというのが、ちょっと面白かった。

 省亭は小説の挿絵、美人画、風俗画など、さまざまなジャンルを手掛けているが、やはり神髄は花鳥画である。今回、選りすぐりの名品を集めたこともあるだろうが、その描線の確かさ、色彩の繊細さに、誇張でなく息を呑む。牡丹のピンク色のグラデーションとか、フクロウの羽根色とか。奥行の浅い展示ケースが多くて、ぐっと作品に近寄れるのが嬉しかった。

 植物も動物も、自然な姿態のままで一枚の絵になっている。なんとなくイギリスの装飾絵画(食器やファブリックに描かれる)に通じるような気がした。あと、省亭描く小動物の目には必ずハイライトが入っていることにも気づいた。

 省亭は迎賓館赤坂離宮「花鳥の間」の七宝額の原画も描いている。本展には、東博が所蔵する原画10点も(前後期5点ずつ)展示されている。カモやカワセミの羽色の繊細なグラデーションともふもふ感、これを七宝で表現させるって鬼だろう、と思うのだが、七宝制作者が濤川惣助と聞いて納得する。妥協のない技術と技術のぶつかり合いを、双方楽しんでいたのではないかと思う。この七宝額は出品されていないが、赤坂離宮に見学に行けば見られるとのこと。覚えておこう。

 そして後半には、濤川惣助作の七宝作品がいくつか展示されている。静嘉堂美術館の『七宝四季花卉図花瓶』1対は「渡辺省亭原画」であることが判明しているものだが、そのほか『柳燕図花瓶』『藤図花瓶』なども、省亭原画と「推定」されていた。なるほど。名前を残すことには無頓着だったのだろうか。省亭の全貌が明らかになるのは、まだこれからのような気がする。

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庶民の夢と生活とともに/サラ金の歴史(小島庸平)

2021-04-30 20:17:36 | 読んだもの(書籍)

〇小島庸平『サラ金の歴史:消費者金融と日本社会』(中公新書) 中央公論新社 2021.2

 面白い、という感想がやたらSNSに流れてくるので、読んでみたらなるほど面白かった。本書は、無担保で小口融資を行う消費者金融の歴史を、特に1960年代に誕生した「サラ金」に焦点を当て、前後の期間を含めて記述する。

 戦前期の日本では、個人間の資金貸借が活発に行われていた。貧民窟の素人高利貸は「男伊達」であり、男性労働者の憧れだった。第一次大戦後に層として成立するサラリーマンの世界にも、職場の同僚に有利子で金を貸して副収入を得る人々がいた。また、戦前戦後を通じて庶民金融の代表格は質屋だった。サラ金は、個人間金融を源流とし、質屋を代替するかたちで登場する。

 高度成長期、人々は消費水準の上昇と生活様式の変化についていくことを義務のように感じており、とりわけ団地族の専業主婦は、家電製品の導入に積極的だった。彼らの購買意欲を助けたのが割賦販売(月賦)である。代金支払の先延ばし、つまり一種の資金貸付ともいえる月賦の利用には、借金への抵抗感を薄める効果があった。しかし大蔵省や日銀は、銀行が消費者向け金融に参入することに警戒的だったため、1960年以降、銀行を中心とするフォーマルな金融システムとは別に、消費者金融ビジネスが立ち上がる。のちのアコム、プロミス、レイク、武富士につながる企業である。

 この分野に早期に参入した企業は、団地の主婦層への小口融資を展開した。しかし安定的な収入を持たない主婦を相手にする団地金融は、高リスク・高コスト体質を脱却できずに行き詰まる。次いで1960年代半ばから、サラリーマン金融が急成長する。この頃、サラリーマンの人事評価は、意欲や態度を見る「情意考課」で、出世のためには、接待や職場の飲み会に積極的に参加し、気前よく部下におごってみせることが必須だった。サラ金は、男性サラリーマンの飲酒・ギャンブルのための借入を「前向き」と評価して歓迎する一方、主婦は原則的に排除した。

 高度経済成長が終焉した1970年代、銀行は新たな融資先としてサラ金に目をつける。これにより、サラ金各社の資金調達環境は好転するが、肝心のサラリーマンは賃金の低迷に悩み、遊興費ではなく、家計のやりくりのための借入申込が増大していた。サラ金は「前向き」需要の減少分を埋めるため「後ろ向き」需要にも積極的に対応するようになり、借入主体として主婦の取り込みを図った。

 70年代末から80年代初頭にかけて、過剰な債務によって人生に行き詰まり、家出や自殺をする人々が増大したことを受けて、「サラ金被害者の会」や弁護士たちの取組みによって、1983年、貸金業規制法が制定された。弁護士たちは、業界寄りの不十分な内容と受け止めたが、以後、サラ金は「冬の時代」を各種の経営改革によって乗り切り、バブル景気下で再び劇的な成長を遂げる。

 バブル崩壊後は、長引く不況、日本型雇用の解体、家族の戦後体制の動揺を背景に、業界の過当競争が激化した。またも過剰貸付が横行し、多重債務者や自己破産者が増加した。サラ金に対する規制強化を求める世論は日増しに強まり、当時、小泉純一郎の郵政選挙で世論の動向になった自民党の議員たちも、これを支持した。その結果、2006年に改正貸金業法が成立し、長らく金融業界の周縁部にあったサラ金は、これで完全に銀行システムの内部に組み込まれたのである。

 まず戦前の個人間融資については、明治や大正の小説を読んでいると、わりと頻繁に金の貸し借りの場面や「高利貸」という職業が出てくることを思い出した。戦後の団地族については、原武史さんのいくつかの著作を思い出したが、こういう家計面の考察はあまりなかったと思う。団地の入居審査をパスした家族なら、借金を返せなくなる可能性は低いという信用情報の判断が面白いと思った。

 サラ金の創業者たちは、信頼できる信用情報を低コストで収集するため、さまざまな工夫を凝らしている。電話局の番号案内(あったねえ)の利用もその一例。1970年代には複数の業者の信用情報を共有するシステムを構築したが、誤作動の多いコンピュータに見切りをつけ、人海戦術で職員がカードボックスに走る方式で迅速な照会を実現したというのも面白かった(図書館のカードケースっぽい写真あり)。著者はサラ金を一方的に断罪することはせず、個性的な創業者、不断の経営努力を公平で温かい目で記述している。また、金を借りる側の庶民の、生活様式・雇用・ジェンダー意識などを細かく掬い取っていることも興味深かった。

 なお、貸金業規制法・改正貸金業法をめぐっては、弁護士の木村晋介氏(怪しい探検隊の)、宇都宮健児氏、のちに法務大臣をつとめる森雅子氏も登場する。上限金利引き下げの反対派は、規制が強化されればヤミ金(違法な闇金融)被害が拡大すると主張していたが、実際はそうならなかったことを著者は検証している。しかし、全てが解決したわけではなく、規制強化を受けて、ヤミ金業者は特殊詐欺(オレオレ詐欺など)に「転業」した可能性がある。さらにSNSの世界では個人間融資が復活し、ヤミ金融と大差ない違法な取引が行われているという。あるサラ金創業者が掲げた「人間的な顔をして金融システム」の理想は、もはや昔話なのだろうか。

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失われた少年時代/中華ドラマ『非常目撃』

2021-04-29 23:42:58 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『非常目撃』全12集(愛奇藝、2020)

 昨年、サスペンスドラマの佳作を次々に生み出した「迷霧劇場」枠の作品である。日本で放映が決まった『隠秘的角落』や『沈黙的真相』ほど評価は高くないが、これも良作という感想を読んで視聴してみた。

 舞台は長江流域の巫江県(重慶市がモデル)。山林で女性の遺体が発見された。女性の名は秦菲。劇団員・李鋭の妻である。市警察から派遣された山峰刑事(宋洋)は、現地の江流刑事(袁文康)らとともに捜査を開始する。山峰をはじめ、多くの人々は、20年前の未解決事件との類似性に気づいていた。

 1998年、小白鴿(白い小バトちゃん)の愛称で呼ばれていた18歳の少女・白歌が、同じように雨の夜、何者かに殺害され、山林で遺体となって発見された。その直前、白歌は野外映画の上映会に出かけたが、仲のよい男友達が来ないことが分かり、ひとりで帰ったのである。少年時代の山峰はその場に居合わせ、憧れの白歌の後を着いていったが、途中で見失っていた。

 今なお小白鴿事件にこだわる人々は他にもいた。白歌の父親である白衛軍老人は、ひとりで犯人を捜し続けていた。アルツハイマーを発症して記憶も不確かな老刑事・葉永年も、長年の考察をノートに書き留めていた。葉永年の娘・葉小禾と恋人の周宇も白歌と同世代だった。葉小禾は、白歌と秦菲が、どちらも李鋭を好きだったことを覚えている。あの日、秦菲は白歌に「李鋭は来ない」と告げ、先に帰った白歌は何者かに殺害された。10年後、秦菲は李鋭と結婚したが、罪の意識に苛まれ、二人の結婚生活はうまくいかなかった。全てを清算するため、李鋭は妻の秦菲を殺害したのである。

 では小白鴿は? 葉小禾の恋人・周宇は、自分が殺したと告白する。周宇を溺愛する兄の周勝は、口封じのため、葉小禾を殺そうとヤクザ者たちを送り込み、乱闘の中で周宇は落命する。怒りに震える周勝は、彼らにつきまとっていた白衛軍老人に真相を告げ、爆殺する。あの晩、周勝と周宇は、ぐったりした白歌を乗せた竹筏が川岸に流れついているのを見た。気の優しい周宇は彼女を助けようとしたが、周勝は、川岸に建設中の観光ホテルにケチがつくことを恐れ、息を吹き返しかけた白歌を絞殺し、遺体を山林に棄てたのだ。

 周勝が小白鴿事件にかかわったと知った殺し屋の石磊は、なぜか執拗に周勝を狙い始める。一方、山峰、江流らの捜査チームも、あの晩、白歌を竹筏に乗せた何者かがいることを突き止め、さらに当時、竹筏に遺体が放置される事件が他にも(男性2人、女性1人)あったことを発見する。そのひとつ、呉翠蘭事件の遺族を訪ねた山峰らは、呉翠蘭の息子である石磊が、今も母親殺しの犯人を追っていることを知る。

 呉翠蘭は、殺害される前に張漢東という運転手と会っていたことが分かっていた。山峰らは張漢東を探し当てるが、彼は事件前に免許証を盗まれたと主張する。犯人は運転手仲間か? そこへ新たな殺人が発生する。山峰が通っていた麺料理屋の店主・謝希偉の養女の遺体が、竹筏に乗せられて発見された。山峰は、謝希偉を慰めようとして、その反応に不可解なものを感じ取る。その後、養女の謝甜甜を殺害したのは、夫の趙傑だと判明するが、謝希偉は娘婿の趙傑を監禁し、半殺しの状態にしていた。かつて張漢東の免許証を盗んだのも謝希偉であることが判明する。

 【本格的ネタバレ】謝希偉は十代の頃に養子に出された。難病に苦しむ末の弟の手術代を工面するためだった。しかし養家が合わずに逃げ出し、ただ1枚の写真、両親、兄、姉、妹、弟、そして自分という家族の記憶だけを支えに孤独に生きてきた。そして、ある時から、写真の中の家族になぞらえて、人を殺し、竹筏に乗せて、長江下流の故郷・巴都に送り出すという儀式を始めた。家族の揃う「全家福」を夢見て。すでに5人を流し終えて、あとは弟1人である。

 捜査チームが邪魔になった謝希偉は、山峰の老母や江流の妻子に近づく。山峰は、謝希偉の実の両親を探し出し、お前の家族はここにいると言って説得に当たるが、聞き入れない。いったん姿を消した謝希偉は、両親たちが暮らす巴都に現れる。折しも祭りの夜。遊園地で、乳母車に寝かされた、実の妹の子供をうっとり眺める謝希偉に向けて銃の引き金を引いたのは石磊だった。

 序盤で、秦菲事件の犯人が判明し、周宇が小白鴿殺害を告白したときは、え?これからどうするんだ?と慌てたが、後半の意外な展開はとても面白かった。謝希偉を演じた焦剛は『摩天大楼』でも極悪な父親・顔永原を演じているが、本作はさらに強烈な役柄である。上記のあらすじでは唐突に感じられるだろうが、実際は序盤から画面に登場している。はじめは流行らない麺屋のぼんやりした店主という感じなのだが、中盤からじわじわと狂気が増し、大写しの笑顔が怖くなっていく。

 本作の評価が高くない理由として、リアリティに欠けるという批評を読んだ。確かにミステリーやサスペンスにリアリティを求める視聴者には、失った家族を取り戻すため、人を殺して竹筏で流すなどという動機は受け入れにくいだろう。しかし私は、こういう「つくりごと」の物語が嫌いじゃない。ちょっと横溝正史に通じる感じがした。

 こんな殺伐とした物語だが、画面は美しくて旅情豊かである。急斜面に張り付くように細い小路に面して建つ家、入り組んだ坂と階段、そして悠々と流れる長江。あらすじでは省略したが、山峰も葉小禾も、最終的に20年前の遺恨や葛藤を解消することができてよかった。

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アイスショー"Stars on Ice 2021" 横浜公演千秋楽

2021-04-27 22:24:33 | 行ったもの2(講演・公演)

SOI(スターズ・オン・アイス)Japan Tour 2021 横浜公演(2021年4月25日 13:00~)

 私の手元にある半券には、2020年4月12日(日)の日付が入っている。”STARS on ICE"は老舗のアイスショーのひとつだと思うが、一度も行ったことはなかった。それが、どうしても行きたくて、かなり無理をしてチケットを取ったのは、羽生結弦くんと宇野昌磨くんの共演が発表されたためだ。どちらも好きで、それぞれ、別のアイスショーでは見ていたのだが、久しぶりの共演をなんとしても見たいと思ったのだ。

 チケットを入手したのは、まだ新型コロナが日本で猛威を振るい始める前だったはず。ところが、開催日が近づくにつれて、だんだん雲行きが怪しくなってきて、とうとう中止(延期)が発表されてしまった。そして1年後の2021年2月、4月8~11日に振替公演を行うとの発表があったが、2度目の緊急事態の延長によりまた延期。3月半ば、4月22~25日の再振替公演が決定した。しかし4月25日(日)から3度目の緊急事態宣言が発令され、どうなるかと思ったが、会場が横浜アリーナ(新横浜)だったので、あやうくセーフ。

 羽生くんは4月15~18日の国別対抗戦に出場が決まっていたので、SOI出演はないかなと思っていたが、直前にまさかのIN。これ、振替公演が当初の4月8~11日だったら、出られなかったんじゃないだろうか。禍福はあざなえる縄のごとし。2020年には、パトリック・チャンをはじめ海外スケーターの来日も予定されていたが、振替公演は全て日本人スケーターで行われることになった。これはこれで、気になる若い選手がたくさん見られて面白かった。

 出演者は以下のとおり:羽生結弦、宇野昌磨、鍵山優真、無良崇人、田中刑事、佐藤駿、友野一希、山本草太、三浦佳生、三宅星南、樋口新葉、紀平梨花、坂本花織、三原舞依、横井ゆは菜、山下真瑚、新田谷凜、小松原美里&小松原尊。無良くん以外は全て現役。あと振付の佐藤有香さんも滑ったが、なんだか全日本選手権を見に来たみたいだった。

 この日は、いよいよオープニングというとき、スケーターたちがみんなで気合を入れる大きな掛け声が聞こえて、おお!とテンションが上がったのに、場内に流れたのは、事前情報と違う曲。ざわつく場内…と、音楽が止まって仕切り直し。と思ったら、また違う曲…でさらにざわめきが広がる。もう一回、気合を入れ直す掛け声が聞こえて、拍手でようやくスタート!という貴重な体験をした。まあこういうアクシデントも含めて、生観戦の面白さである。

 前半は、友野一希くんが眼鏡をかけて背広にネクタイ、ビジネスバッグと新聞を小道具に滑る「Bills」が楽しかった。三浦佳生くんの「Rise」は前のめりにガンガン攻めていく感じが好き。山本草太くん「Anthem」は文句なしの美しさ。これでしょ、あなたの本領は!と膝を打つ。前半の最後は、仮装用の髭・鼻・メガネをつけた無良くんが司会で登場し、男子5人(髭つき)によるジャンプ大会。BGMはもちろん髭ダンスの曲。淡々と「まずはアクセル」と言われて全員3Aを成功し、「じゃあ~四回転」と言われてこれも全員成功(草太くんはやり直し成功)するのだから、日本男子すごい。

 後半の最初は、昌磨くん+女性スケーター4人のコラボ。SNSで「ハーレムプロ」と呼ばれていたが、強いお姉さんたちに翻弄される弟の雰囲気で微笑ましかった。どのプログラムも楽しかったが、やはり坂本花織「No Roots」→鍵山優真「宿命」→紀平梨花「Rain」あたりから格の違いを感じた。ラス前は宇野昌磨くんの新プロ「Bolero」。耳慣れたボレロの演奏ではなくて、ちょっと変わったアレンジ。ゆっくり、力強く氷を踏みしめるようなステップは次第に早くなっていく。そして何度も何度もジャンプを飛ぶ。ひたすら跳び続ける鬼プロ。終盤、大きく転倒してしまった昌磨くん、フィニッシュで天を仰いだ姿勢から、ぺたっと背中を氷につけてしまった。苦笑いしていたが楽しそうだった。ランビエール先生もボレロを滑ったことがなかったっけ?と思ったが、2015年のFaOI神戸のフィナーレ曲だった印象が混線しているかもしれない。

 さて羽生くんである。オープニングは「Blinding Lights」(去年流行ったなあ)の群舞を黒衣装でカッコよく決めた。トリは白衣装で「Let's go crazy」、連続ジャンプをちょっとミスりかけるも、ドンマイ!という表情で歓声の中を滑っていく。これがアイスショーの楽しさ。フィナーレ「smile」はサザン桑田さんの曲なのか。男子は白のポロシャツ(かすかにストライプ)に黒のボトムで、これはSOIの定番衣装らしいのだが、羽生くんがこういう素っ気ない衣装姿を見せる機会は少ないので新鮮だった。

 マイクを握った羽生くんのメッセージは「どうかこの特別な日を忘れないで。僕たちも一生懸命頑張っていきます。そして、最後まで健康でいてください」だったかな。本当に楽しい特別な日をありがとう。いつかまた、もっと楽しい日のために健康で生き抜かなくては、と思った。

 会場はかなり「密」だったけれど、私のまわりは、正しくマスクを着用して、声は出さずに手を振ったり、拍手で応援していたので、あまり感染リスクは感じなかった。これなら、コロナ禍でもアイスショーは開催できると思う。とは言え、もちろん心置きなく声を出せる日が早く戻って来てほしい。

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2021緊急事態宣言と博物館・美術館の休館情報

2021-04-25 23:06:53 | 行ったもの(美術館・見仏)

 2021年4月25日から5月11日まで、東京都が3度目の緊急事態宣言に入ることが23日(金)夜に公表された。正直、「またかよ」という感想である。1回目(昨年4月7日~5月25日)は、何もかも初めての体験で先が見通せなかった。仕事は原則在宅勤務になり、イベントの中止や延期が続々と決まるのを呆然と眺めていた。

 2回目(今年1月8日~3月21日)は、かなり慣れてしまって、職場では出勤率7割以下を推奨と言われながら、ほぼ毎日ふつうに出勤していたし、街の風景もあまり変わらなかった。博物館・美術館も感染対策をしながら開けていた気がする。

 そして3回目。4月に替わった新しい職場では、週3出勤・週2在宅が認められていたが、緊急事態宣言発令を受けて「より在宅にシフトするように」という指示が来たので、来週からどうするか、悩んでいる。

 それより驚いたのは、博物館・美術館が、昨年並みにバタバタと休館を発表したこと。以下に、連休中に行くつもりだった展覧会を中心に、休館情報を記録しておく。終了日の早いものから並べており、5月11日以前に会期が終わるものは、打ち切りが決定してしまった。府中市美術館の「春の江戸絵画まつり」は2年連続の中断終了である。悔しい。5月16日までの展覧会は、再開を期待したいが、微妙かなあ…。

◇松屋銀座 『アニメージュとジブリ展 一冊の雑誌からジブリは始まった』(2021年4月15日~5月5日)

 完全に見逃しが決定して、地味に残念に思っている展覧会。ジブリ作品はそんなに好きではないのだが、雑誌『アニメージュ』は愛読誌だったので。

◇【参観済】府中市美術館 企画展『与謝蕪村 「ぎこちない」を芸術にした画家』(2021年3月13日~5月9日)

◇【参観済】五島美術館 館蔵・春の優品展『古筆を知る』(2021年4月3日~5月9日)

◇【参観済】根津美術館 開館80周年記念特別展『国宝燕子花図屏風 色彩の誘惑』(2021年4月17日~5月16日)

 23日(金)に緊急事態宣言発出のニュースを聞いたあと、速攻で24日(土)の日時指定入場券を購入して見てきた。24日は、藝大美術館→五島美術館→根津美術館をまわって大忙し。

◇【参観済】東京国立近代美術館 企画展『あやしい絵』(2021年3月23日~5月16日)

◇太田記念美術館 『江戸の敗者たち』(2021年4月15日~5月16日)※有料のオンライン展覧会あり

◇【参観済】東京藝術大学大学美術館 『渡辺省亭 欧米を魅了した花鳥画』(2021年3月27日~5月23日)

◇東京国立博物館 特別展『国宝 鳥獣戯画のすべて』(2021年4月13日~5月30日)

 再開したら即座にオンライン予約する。東洋館の特集陳列『中国の絵画 草虫図の世界』(2021年4月13日~5月16日、個人蔵の出品多し)も、可能なら併せて見たい。

◇静嘉堂文庫美術館 『旅立ちの美術』(2021年4月10日~6月6日)

◇国立科学博物館 特別展『大地のハンター展〜陸の上にも4億年〜』(2021年3月9日~ 6月13日)

 同時開催、ご生誕120年記念企画展『昭和天皇の生物学ご研究』(2021年4月20日~6月20日)も併せて見たい。

◇【参観済】サントリー美術館 開館60周年記念展『ミネアポリス美術館 日本絵画の名品』(2021年4月14日~6月27日)

◇Bunkamura ザ・ミュージアム 『ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展-美しき棺のメッセージ-』(2021年4月16日~6月27日)

※休館情報が出ていないところ:東京ステーションギャラリー(要予約)、出光美術館(要予約)、【参観済】日本民藝館、大倉集古館、三井記念美術館(5/1~)。床面積の関係なのかなあ。

【4/26補記】以下の施設も休館情報が出た。

◇東京ステーションギャラリー 『コレクター福富太郎の眼 昭和のキャバレー王が愛した絵画』(2021年4月24日~6月27日)

◇出光美術館 松平不昧生誕270年『茶の湯の美』(2021年4月13日~5月30日)

◇大倉集古館 企画展『彩られた紙-料紙装飾の世界-』(2021年4月6日~6月6日)【/補記ここまで】

【4/29さらに補記】結局、都内で開いているのは日本民藝館くらいか。去年も頑張っていたな。

◇三井記念美術館 『茶箱と茶籠』(2021年5月1日~6月27日)【/補記ここまで】

 個人的に、いっそう悩みが深いのは、連休中に行こうと思っていた関西方面の休館情報。京都・大阪の以下の展覧会は休止。

◇京都国立博物館 凝然国師没後700年・特別展『鑑真和上と戒律のあゆみ』(2021年3月27日~5月16日)

◇京都文化博物館 特別展『よみがえる承久の乱-後鳥羽上皇 vs 鎌倉北条氏-』(2021年4月6日~5月23日)

◇大阪市立美術館 特別展『豊臣の美術』(2021年4月3日~5月16日)

 しかし、奈良博、大和文華館は開いているのだな。京都も小さい美術館には開いているところがあるので、とても悩ましい。

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日本絵画の多様性/ミネアポリス美術館(サントリー美術館)

2021-04-23 23:53:17 | 行ったもの(美術館・見仏)

サントリー美術館 開館60周年記念展『ミネアポリス美術館 日本絵画の名品』(2021年4月14日~6月27日)

 ミネソタ州ミネアポリスに設立されたミネアポリス美術館(Minneapolis Institute of Art、通称Mia)の日本美術コレクションは、約2500点の浮世絵をはじめ、質・量ともに国際的にも高い評価を得ているという。その中から全92点を選び、中世から近代にいたる日本絵画の優品を紹介する。アメリカの美術館事情には疎いので、ミネアポリスがどこにあるのかも知らなかったが、展示作品の中には、これは以前、確実に見たことがあると思うものがいくつかあった。展示替えがあるのは浮世絵だけなので、早めに見てきた。会場は全作品、写真撮影OK。

 構成はおおまかに時代順で、はじめは室町~桃山時代の水墨画。自由な小鳥たちがめちゃくちゃ可愛い『花鳥図屏風』があって、これはもしや雪村?と近寄ったら、ほんとに雪村だったので嬉しかった。生きのいい鯉が『琴高仙人図』の鯉と同じ顔をしている。雪村はもう1点『山水図』も来ていて、これは2017年の芸大美術館『雪村』展で見たものらしい。

 ほか、芸愛、海北友松、雲谷等顔も。なかなか国内でも見られない充実ぶりである。山田道安『龍虎図屏風』の虎は、顔はかわいいのに逆三角形のマッチョ体形だった。

 続くセクションは、片側に狩野派、向い側にやまと絵を配した対比の構成がオシャレ。伝・狩野山楽『四季耕作図襖』は、もと大覚寺正寝殿の襖絵であり、狩野山雪『群仙図襖絵』は(妙心寺)天祥院客殿の襖絵であるという説明に唸る。どうして流出したのかなあ…。群仙図は、空と地面の区別もつかない、一面の金の雲か霞の中に、スタンプを押したように仙人たちが浮かんでいる。探幽の『瀟湘八景図屛風』(八曲一隻)は、余白を大胆に使って、空間の広さを演出する。住吉如慶の『きりぎりす絵巻』は、よく見ると登場人物が虫の顔をしている(よく見ないと分からない)。

 琳派。伝・宗達の伊勢物語図色紙『布引の滝』は、狩衣姿の四人の貴公子が瀧を眺めている、ひねりのない構成だが、青・緑・茶の寒色でまとめた色彩が美しい。同じく伝・宗達の墨画『童子図』は、ざんばら髪で座り込んだ童子がちょっと怖かった。

 階段下の第2展示室は「奇想」の画家たち。若冲、熊斐、渡辺崋山などもあったが、度肝を抜かれたのは蕭白の『群鶴図屛風』(六曲一双)、これは見に来てよかった。力でねじふせているように見えて、間違いなく高い芸術性を宿している。ネイサン・チェンのスケートみたいだ、という意外な連想をしてしまった。

 後半は、浮世絵、南画、そして近代へ。浮世絵は、どれも状態がすばらしくよいことに感心した。私は南画がおもしろくて、1点だけ『山水画帖』という作品が出ていた高芙蓉(1722-1784、儒学者・篆刻家)という名前を初めて覚えた。明清の繊細で清新な山水画を思わせる画風である。与謝蕪村の『虎渓三笑図』に「ぎこちなさ」を堪能し、谷文晁の『松島図』は何を描いても巧いので笑ってしまった。浦上春琴の『春秋山水図屛風』(六曲一双)はとても好き。繊細でのびのびした筆の運びは、やはり本物を間近に見ないと味わえないと思う。どこか既視感があったのは、2016年、千葉市美術館の『浦上玉堂と春琴・秋琴』展で見ているらしい。私は、春琴のほうが、玉堂より好きかもしれない。

 最後に青木年雄の『鍾馗鬼共之図』、鈴木松年、池田蕉園など、めずらしい画家の作品も見ることができて大満足。しかしこれだけの、時代も流派もバラエティ豊かな日本絵画コレクション、どのくらいの人数のスタッフが収集・研究・管理にかかわっているのだろう。気になる。

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諸侯の国際機構から「中国」へ/戦争の中国古代史(佐藤信弥)

2021-04-22 20:33:41 | 読んだもの(書籍)

〇佐藤信弥『戦争の中国古代史』(講談社現代新書) 講談社 2021.3

 本書は殷から漢王朝初期まで、様々な勢力間の戦争を見ていくことで「中国」形成の様子を描き出すことを目的とする。ある勢力と別の勢力が、戦争によって覇権を争い、興亡する様子を描くのは、最もスタンダードな歴史記述だと思う。最近は、経済とか生産力とか、新しい切り口の歴史記述が増えているように思うので、「戦争」に着目するのは、わりとオールドスタイルな感じがした。

 はじめに戦争の起源について。黄河の中下流域では、新石器時代後期には集落間の戦争が頻繁に起こるようになっていたと推定されている。河南省偃師市の二里頭遺跡では宮殿址や青銅礼器が発見され、殷に先立つ王権の存在が認められている(中国では夏王朝に比定)。

 「二里頭王朝」に取って代わったのが殷で、複数の都城が発見されているが、偃師商城・鄭州商城が内城外郭を具えるのに対して、安陽市の殷墟には城壁が確認されておらず、中国古代の都市は外郭を具えていないのが常態だったのではないかと考える中国の考古学者もいるという。これには通俗的な理解を覆されてびっくり。なお、殷代には戦車の使用が始まるが、騎兵が存在したかどうかは議論があるそうだ。

 周は兵農一致の常備軍を持ち、前線には諸侯を封じ、軍事力によって様々な勢力を服属させ、膨張していった。しかし後継者をめぐる政治的混乱に加え、西戎の侵攻によって東遷を余儀なくされ、以後、群雄割拠の時代(春秋、戦国時代)が始まる。東周時代の諸侯国の関係は、「国際政治」の観点から語られることが多いというのは面白い指摘だ。覇者を中心とする多国間の同盟関係は、現代の「国際機構」のような役割を果たし、同盟内の平和維持や内紛の調停、同盟外に対する共同防衛などが協議された。台北故宮博物院の「散氏盤」には、紛争解決の約定が記録されているという。ただし蛮夷戎狄は会盟の場から排除され、周王朝を奉じる諸侯国が「中国」の範囲と考えられるようになる。

 「尊王攘夷」が『春秋九羊伝』に出典を持つことは初めて知った。斉の桓公が、東周の襄王を保護し(尊王)、戎夷に侵攻された諸国を援け、自ら南方の楚国と戦ったり(攘夷)したことを評した言葉である。また『左伝』には、楚の荘王が「戈を止めるを武と為す」と語ったと記録されている。『義経千本桜』の渡海屋銀平、実は平知盛のセリフじゃないか! 日本の伝統と思って疑ったことのなかったもののルーツが、こんなところにあるなんて面白い。

 戦国時代には諸侯国の滅亡が進行し、生き残った諸国は競って「帝国」化を進め、最終的に秦が「中国」を統一する。この時代の兵法書『孫子』は「兵は詭道なり」で知られている。近年、中国古代の兵法や軍事思想に関する文献がいくつか発見されており、そのひとつ『曹沫之陳(そうばつのじん)』は、奇襲戦法を説かず、奇襲に対する用心も説かない。これは、同書の想定する戦争が、戦車中心の堂々たる会戦で、「軍礼」に基づくものだったからだ。宋の襄公は春秋時代の人物で、敵軍が川を渡り切る間、攻撃を控えたため、かえって敗北を喫し、「宋襄の仁」のいわれとなった。しかし、研究によれば、当時の人々には、戦争にまつわるルールと、スポーツマンシップ的な規範意識「軍礼」が共有されていたという。春秋から戦国にかけて、戦争が車兵中心から歩兵中心に変化し、戦争の大規模化と長期化が進行すると、詭計や陰謀が普通に受け入れられるようになった。そのほか、鉄製の武器や大型の弓「弩」が用いられるようになったこと、戦車でなく騎兵が導入されたのもこの時代の変化である。

 秦の始皇帝により統一された中国は、たちまち瓦解に瀕する。著者は「中央集権的な統一への忌避感が秦への反抗を促した」と述べる。そして、よりゆるやかな結合である郡国制を選択した漢は、「草原帝国」匈奴と共存共栄を図る。しかし武帝の時代には、国内の体制は中央集権的な郡県制に変質し、対外的には積極攻勢によって匈奴との共存を清算する。以後、漢の衰退は、長い「古代の終わり」である。

 中国史の概説書は、どうも長いタイムスパンを1冊に詰め込みすぎるきらいがあるが、次は春秋戦国時代に焦点をしぼった本を読んでみたい。あと、この時代を題材にした中国ドラマの情報がさりげなく盛り込まれていたのも、いずれ活用したいと思う。

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真相探しと自分探し/中華ドラマ『侠探簡不知』

2021-04-21 17:07:15 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『侠探簡不知』全24集(優酷他、2020年)

 武侠ファンタジー世界を舞台にした古装犯罪推理ドラマ。いま、CSで『侠客探偵簡不知』のタイトルで放映中らしいが、視聴者は、以下の【ネタバレ】を読まないことをお勧めする。最終話に驚きの仕掛けが隠されているので。

 かつて江湖の人々は鬼面の殺人鬼・王画に苦しめられていた。神機谷の谷主・簡尽歓は、仲間たちとともに王画に決戦を挑み、相討ちになって果てた。ただし王画の遺体は見つかっていない(ここまでは第1話の冒頭、アニメで語られる)。簡尽歓の息子・簡不知は激戦の場に居合わせ、生き延びたが記憶を失くしていた。八年後、若き探事人(探偵)として成長した簡不知(于済瑋)は、神機谷の戦いの真相を求めて、四人の生き残り、寒月山荘の李二爺、燕州の白大侠、常楽賭坊の巧手唐、三通鏢局の王老大を訪ねる旅に出る。

 寒月山荘の李二爺のもとには、武芸比べのために腕自慢の侠客たちが集まっていた。そこで起きる連続殺人事件。混乱の中で、簡不知は灼心蠱という蠱毒を飲まされてしまう。丐幇の胡長老は寒氷掌によって、簡不知に寒毒を打ち込む。これによって、簡不知は寒さに苦しまなければならないが、蠱毒の孵化を抑えることができる。蠱毒を解くことができるのは黒霧峰に住む黒霧娘々だけだという。連続殺人の犯人を解き明かした簡不知だったが、一瞬の隙をついて、李二爺は何者かに殺害されてしまい、神機谷の話を聞くことはできなかった。

 次に簡不知は、巧手唐の足跡を求めて傀儡島を訪ねるが、巧手唐はすでに死んでいることが判明する。傀儡島で、また帰途に立ち寄った杜鵑湾の宿屋で、簡不知は次々に難事件を解決するが、神機谷の真相に達することはできない。この頃までに簡不知のまわりには、頭脳は単純だが武闘派の趙我還(王燕陽)、殺人組織「十殺門」から逃亡した女殺し屋の展十七(王若珊)、神医・葉笑笑など、個性的な仲間たちが揃う。

 燕州では、白大侠はすでに何者かに殺害されたと燕山派一門の弟子たちに告げられる。最後の望み、三通鏢局の王老大からは、真相を語る条件として三つの難題を与えられ、簡不知はそれらを全てクリアするが、またも一瞬の隙をついて王老大は殺害されてしまう。しかし簡不知は、寒月山荘の李二爺殺害と王老大殺害の現場に居合わせた丐幇の胡長老こそ犯人であり、その正体は、死亡を装って身を隠していた白大侠であることを見抜く。白大侠は、神機谷の戦いに参加した仲間たちが王画を恐れて簡尽歓を助けなかったこと、それを深く恥じていることを語り、自決する。

 ショックで昏倒した簡不知が目覚めると燕州に運ばれており、小妖女こと宮雀が黒霧娘々(実は男性)を連れてきていた。黒霧娘々の医術で蠱毒と寒毒を除くことができ、燕山派の侠客たちの協力で「十殺門」の刺客を撃退することもできた。そして簡不知と仲間たちの新たな旅が始まる。

 と、さわやかに終わるのかと思ったら、突然、亡き白大侠が画面に出てきて独白を始める。【ネタバレ】神機谷の戦いで、白大侠たちは鬼面の殺人鬼・王画の素顔を見ていた。それはすなわち簡不知だったのだ。寒月山荘で簡不知(王画)に出会った白大侠(胡長老)は、彼を殺そうと思ったが、彼が自分を簡尽歓の息子と心から信じ、探事人のつとめを誠実に果たしているのを見て、彼を生かすために、自分を含め、王画の顔を知っている生存者たちを抹殺することに決めたのだった。

 ええ~!! なんというトリッキーな設定。しかし改めて見直してみると、ところどころに隠されていたヒントに気づく。寒月山荘の李二爺は、神機谷の戦い以後、盲目になっているのだが、簡不知の顔を触らせてもらい、驚いた素振りを見せ、その直後に殺害されてしまう。だいたい、簡不知は武術はからきし駄目という設定なのに、演じている俳優さんのガタイがよすぎると思っていたことも最後に納得。それから白大侠の独白では、本物の簡不知は東瀛(日本)にいるらしいのだが、最後の最後、日本刀を提げた人物がシルエットで登場し「私がこの目でヤツ(簡不知)に会いに行こう」と不敵につぶやくのである。これは!?

 本作は低予算のウェブドラマで、特に人気俳優も出ていないが、個性的なキャラが多くて面白かった。特に女性たちの造形は現代的。展十七は、愛する簡不知を守り抜くための行動が全て男前でよい。目力の強さが印象的な女優さんだった。趙我還が惚れた唖の美少女・明月は、実は「十殺門」の一員で、次第に趙我還に惹かれていくが、最後まで任務との間で葛藤する。江湖の記録を使命とする録院の司馬当、イケメン神医・葉笑笑に成りすまして、その医術まで習得してしまった千面人、LGBTを意識した黒霧娘々なども、お笑い要素と同時に、ちゃんと見せ場がある。これで終わらせるのはもったいない。ぜひ第2季を制作してほしい。

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