見もの・読みもの日記

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その後の上杉氏/密謀(藤沢周平)

2008-01-04 23:05:00 | 読んだもの(書籍)
○藤沢周平『密謀』上・下(新潮文庫) 新潮社 1985.9

 2009年のNHK大河ドラマ『天地人』に登場する、上杉景勝と直江兼続を主人公とした歴史小説。信長の死、秀吉による天下統一、そして関ヶ原での西軍敗北を背景に、上杉家の当主・景勝と重臣・直江兼続の苦悩と決断を描く。

 実はこれも『風林火山』マイブームの余波である。私は、戦国時代には全く疎くて、小学生程度の知識しかない。上杉氏と言えば、米沢市の上杉博物館しか知らなかったので、『風林火山』を見ていて、あれ?謙信の居城は越後(上越市)だったのか、と初めて気づいたくらいである。しかし、『風林火山』の後半で、私はかなり上杉びいきになってしまった。こうなると、2009年の大河ドラマに向けて、その後の上杉氏のことを知っておきたい。けれど、ネットの上では『天地人』の評判は芳しくない。むしろ読むなら『密謀』だろう、という意見があったので、まず本書から読んでみることにした。

 なるほど、直江兼続を主人公に据えると、こういう時代を描くことになるのか、と思った。信長・秀吉・家康という三人の英傑が覇業を争う中で、景勝は自分は「天下人の器量ではない」ことをわきまえ、恥辱を忍んで家康に降り、せめて上杉の家名を残すのである。『風林火山』の時代--誰もが天下に大望を抱くことが出来た時代とは大違いで、天下の帰趨がほぼ定まった状態で、残されたごくわずかな選択肢の中から、身の振舞いを決めなければならない。

 タイトルの「密謀」は、徳川家康の軍を破るために、石田三成と直江兼続の間に交わされた密約のこと。しかしながら、上杉軍は家康を追撃しなかった。作者はこの理由を、謙信公以来の「義によって戦う」古い名分論に縛られた景勝の決断に帰している。今や人々が剥き出しの欲で動く時代が始まっているのに、上杉氏はそれに乗り遅れたわけだ。少しもの悲しい結末である。
コメント
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