〇董成鵬監督『長安の荔枝(ライチ)』(グランドシネマサンシャイン池袋)
先日、ドラマ版を見終わった『長安的荔枝』、実は映画版も作られていて、この夏、中国でヒットしたらしい。そして、なんと中国語字幕・英語字幕版(日本語字幕なし)が期間限定で日本で上映されるというので見てきた。中国語字幕で映画を見るのは初めての経験だが、ふだんからネットで中国ドラマを中国語字幕で見ているので特に問題はなかった。
主人公・李善徳(董成鵬、監督と主演)は、大唐・長安の上林署に勤める下級役人。気の強い奥さん(楊冪)と幼い娘の幸せな家庭のためにコツコツ働き続ける日々。あるとき「嶺南からライチを輸送するライチ使」の勅命が下り、上林署の上司と同僚たちは、これを体よく李善徳に押しつける。ひとり嶺南・高州に下った李善徳は、ライチ園や胡人の商人・蘇諒の協力を得て、テスト輸送の早馬を都へ走らせるが成功しない。成功させるには、宮廷の絶大な権力によるバックアップが必須と考えた李善徳は、いったん長安に戻り、官僚機構の間を嘆願して回り、最後は右相・楊国忠の支持を取り付ける。
再び嶺南に赴いた李善徳は、大規模なライチ輸送部隊を組織して長安に向かう。貴妃の誕生日宴までの日限は11日。しかし、都が近づくと、替えの馬と人員が用意されているはずだった駅家はもぬけのカラ。ライチ輸送プロジェクトのため重税を課された農民たちは流民化してしまったらしい。やむなく馬を替えずに走り続けることで多くの輸送員が脱落。それでも胡人の蘇諒が(長江に?)船を出してくれたことで、なんとか遅れを挽回する。
長安まであとわずか、陸路を馬で行く一行。そこに忍者のような暗殺隊が襲い掛かる(これは魚常侍の差し金だったかな?)。嶺南から李善徳に従ってきた林邑奴は李善徳を守って殉職。ただ1騎となった李善徳は宮廷の祝宴に駆け込み、ライチを献ずる。
輸送の成功に満足した右相は、来年も李善徳をライチ使に留めおこうとするが、李善徳は、ライチと国民の生活の軽重を考えない右相の政治を批判し、都を去る。1年後、嶺南でライチ園の再建に励む李善徳とその妻子。そこにもたらされたのは、安禄山の謀反の知らせだった。李善徳は戦火で失われた長安の繁栄を思って涙する。
2時間枠の映画としては、面白く、分かりやすくまとまった内容だった。登場人物の善悪も基本的にブレない。ドラマ版の李善徳は、かなりめんどくさい性格で、同僚から疎まれているのも納得なのだが、映画版だと、素直で好感度が高い。映画版のほうが、全体に登場人物が若くて、行動に裏表がない。ドラマ版はクセのあるおじさんばっかりで、そこが私の好みだったので、映画版はちょっと寂しい気もした。何刺史と趙掌書は、絶対ドラマ版推し。しかし、大スクリーンで見る中国各地の風景と、そこで展開するアクションは見ごたえがあって満足した。
最も大きな違いは、映画版が「ライチ輸送に成功した上で、政治に不満を表明する」なのに対して「ライチ輸送に失敗した(ことにして)、政治に不満を表明する」作りになっていることだ。これは全くの想像だが、映画版のほうが原作に近いのではないかと思う。想像が当たっているかどうか、ぜひ原作を読みたい。日本語翻訳版を出してほしい。