〇『小巷人家』全40集(正午陽光、湖南衛視、2024年)
新作ドラマをいくつか挫折した後、半年前の公開である本作を探し当てて完走した。やっぱり正午陽光作品の安定感は抜群である。
舞台は蘇州、1970年代末。紡績工場の女工の黄玲は、成績優秀と認められて住宅を給付され、夫である高校教師の荘超英、幼い息子の図南、娘の篠婷とともに新居に引っ越す。新居と言っても、庭と台所は隣家と共有、トイレはさらに周辺の住民と共有する、伝統的な「小巷」の住まいである。隣家の住人となったのは、工場の同僚の宋莹。夫の林武峰は、この界隈にはめずらしい大卒で、圧縮機工場の技師をしていた。息子の棟哲は父親に似ず、勉強嫌いのやんちゃ坊主。この2つの家族を軸に、90年代末まで、20年間にわたる中国庶民の暮らしぶりを描いていく。
80年代はじめ、庶民の生活はまだ貧しく、黄玲と宋莹は庭に蛇瓜(ヘビウリ)を植えて食費を節約する。努力の甲斐あって、冷蔵庫や白黒テレビを購入することができ、徐々に生活に余裕が生まれる。大きな変化の1つは、荘家の長男・図南が上海の大学に合格したことだ。図南の専攻は建築学で、ゼミ旅行では雲瑶古城の調査を体験し、伝統的な街並み保存と生活環境の現代化の調和について考え、女子学生の李佳に淡い恋心を抱く。
成績優秀な妹の篠婷も大学進学を志し、幼なじみの林棟哲も、篠婷と同じ大学を目指して必死で勉学に取り組む。一方、林武峰の勤める国営工場は経営が悪化。広東に新しい仕事を見つけることができた林武峰は、妻と息子にも広東移住を提案する。家族の絆を選び、蘇州を離れる宋莹。家族以上の親友・宋莹を失って悲嘆にくれる黄玲。
篠婷と林棟哲は上海の大学で愛を育むが、当時の就職は基本的に国(党?)が決めるものだった。物理的に離れ離れになった結果、別れてしまうことを恐れた二人は、親に黙って結婚手続きをしてしまう。これがバレて、昔気質の父親・荘超英は大激怒。しかし、もはや子供は親の言うことを聞かないものだとあきらめる。最後は、姻戚関係になった林家と荘家の人々が集う(仲直りした図南と李佳も)年越しの団欒でドラマは終わる。
昔気質の荘超英は両親に絶対服従で、荘家の老夫妻は、長男とその家族が自分たちに孝行を尽くすのは当然と考えている。芯の強い黄玲は、夫と対立しても言うべきことを言い、子供たちの自由を守り抜く。黄玲の支えは仕事(自分の収入)を持っていたことで、だからこそ、娘の篠婷が就職をないがしろにして結婚に走った選択には、厳しい苦言を呈する。また、80年代の終わり、国営の紡績工場が停業になり、仕事を失ったときは大きなショックを受けるが、共稼ぎの夫婦から近所の子供たちを預かることに、徐々に新たな生き甲斐を見出す。さんざん言い争ってきた夫とは、お互いに老境を迎えて、いつの間にか労わり合う関係になっているのが逆に自然だった。
荘超英の甥の向鵬飛は、わけあって荘家に預けられる。学校の勉強は苦手だったが、目端が利き、働き者で、伯母の黄玲のことも大事にした。在学中の図南を誘って一儲けするエピソードもあり、金を稼ぐ(豊かになる)ことに対して、中国庶民のあらゆる階層が積極的な意義を認めていた雰囲気が分かるような気がした。
荘家・林家の近所には、呉建国と張阿妹という夫婦がいるのだが、学のない木工の呉建国は、最後まで貧乏暮らしを抜け出すことができない。張阿妹は、空き家となった林家の住居を手に入れようと策を弄するが、黄玲は親友・宋莹の財産を守り抜く。呉家の娘の姗姗は、上級の学校に進むことを母親に許されず、経済的に豊かな相手と結婚するものの、最後まで望んだ幸せを手に入れたようには感じられなかった。さまざまな人生を前にして、幸せの意味を考えてしまうドラマである。