見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

謎解きは半歩ずつ/中華ドラマ『慶余年2』

2024-07-15 21:58:33 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『慶余年』第2季:全36集(上海騰訊企鵝影視文化伝播有限公司他、2024年)

 2019年の第1季から待つこと5年、ようやく続編が公開された。私は配信開始から少し遅れて視聴を始めたので、第1季と比べて辛めの評価を受けていることは、漏れ聞こえていた。しかしそれは期待値が上がり過ぎた結果で、公平に見れば、十分おもしろかったと思う。

 南慶国の勅使として北斉国に送られた范閑は、その帰路、二皇子の使者・謝必安から二皇子の謀略の次第を聴かされ、同僚・言冰雲の刃を受けて倒れる(ここまでが第1季)。范閑死すの報せは、たちまち南慶国に伝わるが、これは范閑と言冰雲が仕組んだ芝居だった。范閑はひそかに南慶国に潜入し、二皇子に捕えられたと思しい、亡き滕梓荊の妻子を探すが見つからない。

 范閑は再び勅使の列に戻り、生きていたことを明らかにして堂々の帰国。皇帝を偽った罪は不問に付され、監査院一処の主務に任命される。さらに科挙の責任者の大役を果たして宮廷の重臣となり、林婉児との結婚も許される。この厚遇には理由があり、范閑が慶帝と葉軽眉(監査院の創設者)の間の子供だったことが本人に明かされ、周囲も知るところとなる。

 おもしろくないのは、范閑と敵対する二皇子。都を追放された長公主とのつながりも消えていない。一方、太子とその生母の皇后は、二皇子一派に対抗するため范閑との友好関係を保っていたが、范閑も皇子の一人と知って動揺する。慶帝は、范閑以外の臣下や皇族たちへの冷酷な振舞いを徐々に垣間見せる。

 林婉児と結婚した范閑は、南慶国の財力の根本である「内庫」を相続するが、その内庫には全く資産がないことが判明する。そこで南慶国の商人たちに投資を呼びかけ、当面の資金を調達するとともに、内庫の商品を製造している江南の実情を探りに出かける。江南で范閑を待ち受けていたのは、この地方を牛耳る明家の老婦人と息子の当主・明青達。范閑は旅立ち前に慶帝を狙った刺客と大立ち回りを演じて負傷し、まだ内力が回復していない。あわやの危機を救ったのは、北斉国から駆けつけた海棠朶朶。持つべきものは友人である。

 というのがだいたいの粗筋だが、問題は何ひとつ解決せず(むしろ雪だるま式に増えて)第三季に持ち越した印象である。まあ范閑の父親が明らかになり、林婉児と結婚したことが多少の「進展」と見做せないわけではないが。滕梓荊の妻子の安否は不明のまま。監査院院長の陳萍萍が何を考えているかは相変わらず謎(今季は妙に筋トレに励んでいたのと贅沢な私生活を送る自宅が出て来た)。范閑の守護者・五竹は、彼にそっくりの「神廟使者」との一戦があって、尋常の人間ではない(ロポットかアンドロイド?)ことだけは明らかになった。科挙の縁で范閑の門下生になった史闡立の活躍はこれからかな。彼の故郷・史家鎮は、長公主と二皇子が私腹を肥やすための密貿易の現場だったが、太子が捜査の手を伸ばしたときは、村ごと焼き滅ぼされていた。この真相究明も道半ば。

 北斉行で活躍した高達の出番が序盤だけだったのは残念。新たな登場人物では、辺境暮らしが長く、太子と二皇子の権力争いから一歩身を引いた大皇子に好感を持った。大皇子に嫁入り予定の北斉大公主は、美人なのにちょっとトロくて微笑ましい。演じる毛暁彤うまいなあ。監査院一処で范閑の下僚となった鄧子越を演じる余皑磊も好きな俳優さんなので嬉しい。陳萍萍や范閑らの収賄・蓄財を批判して慶帝に嫌われ、あっという前に消された硬骨の老臣・頼名成を畢彦君など、名優を贅沢に使うドラマである。明青達の寧理は第三季の活躍に期待していいのだろうか。

 第一季に比べるとアクション(武闘)シーンは少なめだったが、見せ場(范閑vs刺客、五竹vs神廟使者)はスリリングで手抜きがない。あと、若若がただの貞淑な女子ではなく、外科医の才能に目覚めるのも面白かった。

 本編が、大学生の長慶が葉教授に読ませる創作物語の形式を取っているのは第一季と同じ。ただ冒頭で葉教授が周りの人々に「范閑は死んだんですか?」と繰り返し聞かれていたり、第二季を読み終わったあと「また何年も待たされるの…」とため息をつくなど、メタ物語に念が入っている。第三季、配役をなるべく変えずに作ってほしいなあ。

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金融業界の裏表/中華ドラマ『城中之城』

2024-06-07 23:48:50 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『城中之城』全40集(中央広播電視総台、愛奇藝他、2024年)

 見たいドラマが少し途切れていたので、豪華な配役に惹かれて本作を見始めた。上海の陸家嘴金融貿易区という「金融城」を舞台に、銀行、証券、信託、投資、不動産等に関わる人々を描いたドラマである。

 陶無忌は、程家元ら同期とともに深茂銀行に入社し、銀行員生活のスタートを切った。彼の憧れは、同行副支配人の趙輝だった。就職活動中の恋人・田暁慧とともに、早くお金を稼いで家を買い、結婚することが目下の目標だった。

 突然、深茂銀行上海支店支配人の戴其業が、不慮の交通事故で亡くなった。葬儀で顔を合わせたのは、かつて大学で戴其業に金融学を学んだ四人の中年男性。四人のうち、趙輝、蘇見仁、苗彻の三人は、深茂銀行の同僚でもあった。出世頭は副支配人の趙輝だが、愛妻・李瑩を亡くしてから、一人娘の蕊蕊の幸せだけを願い、万事質素に控えめに暮らしていた。目下の心配事は、蕊蕊の眼病が悪化し、失明の恐れがあること。趙輝には、少年時代に命を助けられた呉顕龍という恩人がいて「大哥」と呼んで家族同様に付き合っていた。今は顕龍集団という不動産会社の会長である呉顕龍は、蕊蕊のための募金を立ち上げ、多額の寄附集めに成功する。その裏に、何かのからくりがあることを趙輝はうすうす気づいていたが、何も言えなかった。

 浜江支店の副支配人・蘇見仁は直情径行、かつて趙輝と李瑩を争って破れたことを、今も根に持っている。その後も恋多き人生を送っており、程家元は蘇見仁の隠し子だった。苗彻は深茂銀行の監査部門に所属し、義に厚く、理非を重んじる態度から「苗大侠」と仇名されている。趙輝とは家族ぐるみの親友。

 最後の一人である謝致遠は、遠舟信託という信託会社の総裁である。手段を選ばない経営で事業を拡大しており、趙輝の弱みを握って、深茂銀行の資金を吸い上げようと画策していた。そのため謝致遠が用意したのは、趙輝の亡き妻・李瑩に瓜二つの子連れシングルマザーの周琳。謝致遠の指示に従って、趙輝に近づく周琳だが、趙輝は警戒心を緩めない。かえって、たちまち周琳に惚れてしまう蘇見仁。しかし周琳の気持ちは趙輝に傾き、二度目の失恋を味わう蘇見仁。怒りのあまり、蘇見仁は趙輝の車に隠しカメラを仕掛け、ついに趙輝が呉顕龍に不正な便宜を図っていた証拠を入手する。

 中年男女の恋模様はひとまず置いて、謝致遠は、違法行為が露見して牢獄入りとなる。謝致遠の妻・沈婧は、復讐のため、趙輝と呉顕龍に近づく。蘇見仁のことは早急に「始末」させた呉顕龍だったが、沈婧の甘言には騙され、手を組む約束をする。

 その頃、趙輝の勧めで監査部門の苗彻に師事していた陶無忌は、次第に趙輝の不正の証拠に迫っていく。そして、ついにその訴えは党の紀律検査委員会の取り上げるところとなる。絶対絶命に追い込まれた趙輝は自殺を企てかけるが、周琳と蕊蕊、そして陶無忌の説得によって思いとどまり、静かに連行される。

 私は、日本語でも金融関係の用語に疎いので、まして中国語にはなじみがなく、序盤は何が起きているのか理解するのに苦労した。終盤は盛り上がって、まあまあ面白かったと思う。主な登場人物は、生き馬の目を抜く金融業界で生きる人々だが、田暁慧の母親は、ふつうの中年婦人であるにもかかわらず、娘のために投資に手を出して稼ごうとする。はじめは安心できる商品で満足していたのだが、株価(証券?)の上下動に熱くなって、ついに全財産を失ってしまう。しかもその価格を操作していたのが、叔母の沈婧に抱き込まれた田暁慧だったという皮肉。母親の命まで失いかけて、田暁慧は真人間に立ち戻る。こういう悲劇は、おそらく実際にあったのだろうな。本作(原作小説)の設定は2018年頃だというが、中国の投機加熱のニュースは何度も見てきた。現在もその傾向は続いているようだ。

 普通の人間を不正に踏み切らせるのも家族(あるいは家族に近い親密な人間関係)なら、立ち戻らせるのも家族というのは、中国人には納得のいく描き方なのかなと思った。オジサン俳優陣の中では、珍しく悪人役の涂松岩(謝致遠役)、可愛げのあった馮嘉怡(謝致遠役)がよかった。苗彻役の王驍は役得。しかし、上海のサラリーマンは、あんなきっちりした背広姿で出勤し、仕事が終わると日本風あるいは韓国風の居酒屋で酔いつぶれてるのか。もはや映像では日本社会と区別がつかなくなっている。

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民事警察の人びと/中華ドラマ『警察栄誉』

2024-05-06 21:58:08 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『警察栄誉』全38集(愛奇藝他、2022年)

 中国の視聴者レビューサイト「豆瓣」で、2022年ドラマの最高得点を獲得した作品だが、なんとなく自分の好みでないような気がして手を出さずにいた。今年4月、『甘くないボクらの日常~警察栄誉~』のタイトルで日本向けのDVD-BOXが発売されたが、ラブコメ路線を想像させる宣伝ビジュアルに対して、いや、そういうドラマじゃないし、という不満のコメントをSNSで見かけた。それで、逆に興味が湧いて、視聴を始めたのである。

 舞台は架空の都市・平陵市(ロケ地は青島)、ほどほどに発展した地方の中級都市の設定である。八里河派出所に4人の新人警察官が実習生として配属された(日本でいう派出所より規模が大きく、食堂もあり、おそらく20~30人が勤務している)。王守一所長は、警察の伝統に従い、4人の新人の師父を定める。北京大学の修士を卒業した秀才の楊樹には、頭脳より武闘派の曹健軍。農村育ちの趙継偉には、地域コミュニティの御用聞き担当・張志傑。殉職した警官を父親に持つ夏潔(女性)には、かつて夏潔の父親を師父としていた程浩。何かと目端の利く李大為(張若昀)には、出世と無縁の老警察・陳新城(寧理)。

 新人たちは、人情の機微が分からず、四角四面に対応して住民の不興を買ったり、逆に住民の個人生活に深入りし過ぎたり、功名心に駆られて危険を犯したり、はじめは失敗の連続。そのたびに所長は、上司の命令に必ず従い、規律ある行動を取るのが警察の本分であることを繰り返し言明する。夏潔の母親は、夫の殉職を苦い思い出として、娘が危険な現場に出ることを恐れており、師父の程浩も王所長も、夏潔の扱いに慎重にならざるを得ない。夏潔自身はそれが不満。李大為も母親と二人暮らしで、自由人の父親は、李大為が幼い頃に家出していたが、なぜかその父親が戻ってくる。夏潔と李大為は、仕事だけでなく、家庭(親子関係)の悩みにも直面することになる。

 こうして若者の悩みと成長を描いて最終話まで行くのかと思ったら、全然違った。新人たちは、比較的早い段階で警察の一員らしい行動を身につける(親子関係の解決はもう少し先)。そこから、むしろ師父たちの「仕事と家庭」に焦点が移ってゆく。李大為の師父・陳新城は単身生活。妻は一人娘の佳佳を連れて離婚し、資産家と再婚していた。しかし佳佳が義理の父親から性的ハラスメントを受けていることが分かり、陳新城は佳佳を引き取って、父娘水入らずの生活を始める。この過程では、年齢的に佳佳に近い李大為が、悩みの多い師父にアドバイスする立場になっていて、愉快だった。

 楊樹の師父・曹健軍と妻・周慧の家庭生活は円満だったが、周慧の母親は、二人の娘のうち、稼ぎのよい妹婿を贔屓にしていた。妹婿が買春容疑で摘発されても、それを揉み消す力のない曹健軍を軽蔑するばかり。妻と自分の面子を立てるため、なんとか仕事上で大きな功績を上げ、栄誉を得ようとする曹健軍。だが、酒席の後、レストランの駐車場で車を移動させようとして接触事故を起こしてしまう。飲酒運転の罪が確定し、警察は免職に。派出所の同僚たちは、寛大な措置を願い出るが、王所長は、警察は法を執行する立場であるからこそ、原則を曲げてはならないと説く。そして曹健軍には、過去を忘れて生きろと諭し、民間の警備員の職を紹介する。しかし警察の日々を忘れることができない曹健軍。

 【ネタバレ】その頃、八里河派出所では、陳新城と李大為がずっと追ってきた連続女性強姦殺人犯の証拠が整い、いよいよ隠れ家に踏み込むことになった。そこに武器もなく防具もない一民間人の身で、一緒に参加させてほしいとやってくる曹健軍。断り切れずに許してしまう陳新城。結果、李大為の命を守って凶弾に倒れたのは曹健軍だった。そして、曹健軍の棺は八里河派出所に迎えられ、同僚の敬礼に送られて墓地へ出発していった。

 この結末は、予想できたが辛かった。曹健軍は、警察官としても、ひとりの人間としても理想から程遠い、ダメなやつなのだが、それだけに愛おしい存在だった。八里河派出所の面々は、いずれも現実世界の隣人のような人間味があり、味わい深い登場人物が多かった。王所長は、いつもテキトーなことを言っているようで、部下をよく見て最適な指導法を考えている。教導員の葉葦(女性)が、一時、父親の介護で離職を考えるのも、いかにもありそうな話だった。ベテランの警察官も、ふつうに仕事と家庭の間で、悩みながら生活しているのである。

 なお、彼らは「民事警察」で、凶悪犯罪は「刑事警察」に引き渡す仕組みになっている。中国の「民事警察」は所掌が非常に広くて、あらゆる困り事の相談窓口になっていること、庶民が強気で訴え出ること、何でも撮影してネットに上げる風潮など、中国社会の世相が分かる点も面白かった。

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持つべきものは仲間/中華ドラマ『大理寺少卿游』

2024-03-17 23:55:57 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『大理寺少卿游』全36集(愛奇藝、2024年)

 原作はマンガ「大理寺日誌」でアニメ版もあり、日本にもファンが多いことは伝え聞いていたが、私はこのドラマで初めて作品世界に触れた。舞台は唐・武則天の時代の神都・洛陽。刑罰と司法を所管する大理寺の面々が活躍する。大理寺の若きリーダー李餅(丁禹兮)は、マンガとアニメでは人間の衣服を着た白猫の姿で描かれる。ドラマ版の李餅は、基本的には人間の姿だが、猫のように動きは俊敏、猫並みの視力と嗅覚の持ち主。時々、猫の顔になったり、まれに完全に猫の姿に変身することもある。

 田舎育ちの陳拾は、生き別れの兄を探して上京し、洛陽城で不思議な猫に出会う。この猫こそ実は李餅。李餅は前の大理寺卿・李稷の息子だが、かつて何者かに父親を殺害され、さらに葬儀のために故郷へ戻る途中を襲われ、気づいたときは奇妙な体質(半人半猫?)を獲得していたのだった。その頃、神都は妖猫出現の噂に動揺していた。李餅は、妖猫事件の真相を解明したことで聖人(皇帝)に引き立てられ、大理寺少卿に任じられる。李餅は自分の秘密を知る陳拾を連れて大理寺に入る。

 李餅を待っていたのは、明鏡堂の仲間たち。お調子者の王七(女装が得意)。官話が苦手な胡人の阿里巴巴(実は富裕な西域国の王子)。つねに不運を呼び込む星まわりの崔倍。従軍経験のある武闘派の孫豹。抜群に有能とは言えないけれど、仲間思いの彼らが、チームワークでさまざまな難事件を解決に導く。ただ、中盤までは、どの事件も本当に解決なの?という疑問を残して進んでいくので、ちょっとフラストレーションが溜まった。ポーカーフェイスの金吾衛将軍・邱慶之とか、やはり半人半猫の残忍な怪人・一枝花とか、気になるキャラは見え隠れするのだが、どう決着するのか、なかなか分からなかった。

 【ネタバレ】終盤は怒涛の種明かし。李家を襲った刺客・黒羅刹の正体は、陳拾の双子の兄だった。刺客を放ったのは宮廷の大官である上官大人。さらにその背後には永安閣と呼ばれる元老たちがいた。彼らは、子墟国に伝わる不老不死の法を求めて同国との戦争を起こし、秘密を握る怪物・一枝花を捕えようとしていたのである。彼らの意図に気づいた大理寺卿・李稷は、邪魔者として始末された。

 邱慶之は李家の奴僕として育ったが、李稷は彼の才能を愛し、李餅とは知己の間柄だった。子墟国との戦いに志願した邱慶之は、辺境の地で一枝花を知る。その後、邱慶之が再び一枝花に出会ったのは、まさに李餅が黒羅刹に襲われた直後だった。邱慶之は一枝花に李餅の命を救う方法を請い、一枝花は李餅を半人半猫の妖怪に変えてしまう。以来、邱慶之は李餅を人間に戻す方法を探していた。そして、自分の命と引き換えに手に入れた霊薬の石を李餅に託して事切れる。

 李餅は一枝花に取引を迫る。永安閣の元老たちの罪状を証言するなら、この石をお前に与えよう。石はひとつしかない。李餅は、自分が普通の人間でないことをすでに明鏡堂の仲間たちに知られていた。けれども彼らは全く動じなかった。彼らにとって李餅は李餅なのだ。神と呼ばれ、妖怪と蔑まれてきた一枝花は、敗北を認めて人間に戻ることを選択する。この結末は全く予想外で、かなり感動した。

 明鏡堂の面々は、それぞれ人に言えない秘密やコンプレックスを持って登場し、それを乗り越えていく。李餅さえも、半人半猫という秘密がバレることを極度に恐れていたのだが、ありのままを仲間たちに肯定されることで、確固とした自己肯定感を獲得する。いや~ほんと、終盤はみんな強くなって、的確な判断で動けるようになっていて、私は母親目線で感心した。文字を知らなかった陳拾が、檄文を書いて市井の人々を動かし、李餅と仲間たちを助けに来るのもよかった。邱慶之(魏哲鳴)の死だけが報われなくて悲しい。

 本作では、若い俳優さんたち(90年代生まれ)をたくさん新しく覚えた。李稷(于栄光)とか上官大人(連奕名)とか、要所に渋い俳優さんを使っているのもよかった。大理寺のもうひとりの少卿・上官檎(女性)も好きだった。任敏にしては癖がないキャラクターで、阿里巴巴の憧れの存在。ほかにも明鏡堂メンバーと関わる女性キャラは、いることはいるが、甘い恋愛モードはほぼ無し。男子たちの「明鏡堂少一箇人、就不是明鏡堂了」(ひとりでも欠けたら、明鏡堂じゃない)というフラットな友情が、スカッと気持ちのいいドラマである。

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時代は変わり、歳月は続く/中華ドラマ『大江大河之歳月如歌』

2024-02-10 11:45:37 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『大江大河之歳月如歌』全34集(東陽正午陽光影視、2024年)

 2018年公開の第1部、2021年公開の第2部に続く第3部。おそらくこれが完結編になるのだろう。1993年、宋運輝は東海化工を追われ、彭陽という田舎の農薬工場勤務を命じられる。新しい同僚たちからは暖かく迎えられるが、工場の経営は振るわず、やがて停業命令が下る(国営なので政府から)。東海化工に呼び戻されかけた宋運輝は、別れ際に中年女性の技術者・曹工から託された資料に目を通すうち、彭陽工場を救う希望を見出して戻ってくる。それは、竹胺という物質を用いた新しい安全な農薬を製造することだった。最終的に、屋外の農地で使用する農薬としては成功できなかったものの、家庭用の殺虫剤として製造ラインに乗せる見通しが立ち、彭陽工場は存続を認められる。

 この竹胺プロジェクトの段は「プロジェクトX」風味もあり、見ていて胸が熱くなった。彭陽工場の副工場長・老王(黄覚)とその下の優秀な女性技術者・曹工(劉丹)、曹工を支える夫の老斉(寧文彤)は、おなじみの名優さん揃いだった。

 個人経営者の道を歩む楊巡は、梁思申を事業協力者として、東海市に新たな商業施設を建設しようと奮闘するが、二重帳簿を用いていたことが梁思申に見つかり、協力関係は破綻。失恋の打撃で荒れる楊巡だが、少しずつ事業への意欲を取り戻していく。その楊巡を、データ処理と的確な提案で助けるのが経理担当の女性職員・任遐迩(xia er 読めなかった)。彼女の能力と人柄に惚れ込んだ楊巡は猛烈なアタックをかけるが、地道な生き方を望む任遐迩は戸惑うばかり。それでも最後は幸せいっぱいの結婚式を挙げる。やったね! 饅頭(マントウ)売りの少年時代を思い出して、親戚のおばちゃん気分で感涙にひたった。楊巡は、亡き両親に代わって弟や妹の成長を助け、家長の役割も立派に果たしていくことになる。

 梁思申は、東海化工に戻った宋運輝に自分の気持ちを打ち明け、宋運輝も彼女を受け入れる。梁思申の両親に育ちの違いを心配されたり、梁思申が仕事の関係で一時アメリカに帰国したり、事件はいろいろ起きるが、賢い二人は着実に新しい道を歩み始める。

 そして雷東宝は、電線を製造販売する雷霆工場を郷鎮企業として立ち上げ、広州交易会に潜り込んで海外に販路を拡大し、股份有限公司(株式会社)に成長させる。雷総(雷社長)と呼ばれ、つきあいで高級酒を飲み歩き、高価な外車を乗り回すようになり、最初の妻・宋萍萍の面影のある若い女性秘書・小馮に手を出して妊娠させる。実は、現在の妻・韋春紅が子供を産めない身体であると分かった後の話で、いったんは妻を労わる態度を見せていたのに解せない。どうしても自分の子供がほしい、と春紅に懇願するのだが、この気持ちは中国人的に「分かる」んだろうか。夫の不実が許せない春紅は、子飼いのチンピラたちに小馮のマンションを襲撃させる(うわなり打ち?)。その結果、小馮は赤ん坊を置いて姿を消してしまい、東宝は赤子の小宝を連れて春紅と元の鞘に収まる。

 それでも雷東宝は、郷里の小雷家村の人々には、冠婚葬祭のお祝い金や老人の生活手当を欠かさなかった。しかし1997年、アジア通貨危機の影響が中国にも及ぶ。雷東宝は、小雷家村の福利厚生よりも雷霆工場の資金繰りを優先し、工場の成長を継続することが、最後には小雷家村の利益になると主張するが、村人たちの怒りは爆発する。抗議に押し寄せた村人たちに囲まれた雷東宝は地面に昏倒する。中風(脳卒中)だった。

 その後の雷東宝は、意識は戻ったものの、言語障害、運動障害を発症して社会復帰は不可能となる。雷霆工場の事業は整理され、小雷家村の老朋友でもある史紅偉たちが分担して引き継ぐことになった。小雷家村への福利厚生は停止(事実上の廃止)。韋春紅は、かつて楊巡が育った家屋を譲り受け、介護が必要な東宝と赤子の小宝を連れて移り住む。たぶん東宝の老母の生活も彼女が支えなければならないので、韋春紅、それでいいのか?と思ったが、どこかで「私は古い女だから」と言っていたように、これが彼女の選んだ幸せなのかもしれない。このドラマは、前に進む、成功を勝ち取る人間だけを称揚するものではないのだ。

 雷霆工場の破綻の直前、現下の経済状況を全く理解できていない雷東宝を、義理の弟である宋運輝が厳しく諫める場面があるのだが、「你的文化程度、学習能力」ではこの問題に追いつけない、という物言いが、率直すぎて胸に刺さった。ふと、ドラマ『覚醒年代』で陳独秀が言っていた「現在の保守派は過去の進歩派、現在の革新派も未来には保守派となる」が頭に浮かんだりもした。雷東宝役の楊爍さんは、この結末を知っていてこの役を引き受けたのかなあ。スタイルもよく紳士服モデルもできるイケおじ系の俳優さんなのに、最後はよだれかけをされて介護される姿が凄絶だった。

 ラストシーンは、雷東宝の発病から半年後くらいだろうか。韋春紅と雷東宝のもとに、楊巡夫妻、宋運輝夫妻が訪ねてくる。幼い子供たちも交えた和やかな食卓。楊巡が「敬生命、敬生活、敬我們的這箇時代」(生命に、生活に、我々のこの時代に)と乾杯を促す。第3部のエンディング曲『敬敬』につながり、かつ映像的には第1部の冒頭がよみがえる演出に涙。ほんとによい大河ドラマを見せてもらった。

 ただ、第3部は(当局の方針である話数制限に応えるため)かなり削られた部分があるらしいのは勿体なかった。私が好きだった登場人物のひとり尋建祥は、最終話に「我媳婦(うちの嫁)」というセリフがあるのだが、そこはドラマの中で見たかった。

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中年刑事の再生/中華ドラマ『三大隊』

2024-01-21 23:46:13 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『三大隊』全24集(愛奇藝、2023年)

 1998年、寧州市警察の「三大隊」は、凶悪犯の王大勇と二勇の兄弟を追っていた(三大隊は隊長の程兵のほか6人の刑事チームとして描かれている)。住民を巻き込んだ路上の大乱戦の末、ついに二勇を捕まえたが、王大勇は逃してしまう。程兵による尋問の最中、二勇は容態が急変して死亡。程兵は責任を問われ、傷害罪で11年の懲役刑に服することになる。

 2007年秋(刑期を9年6か月に短縮されて)程兵は出獄。しかし妻は娘の桐桐を連れて離婚し、別の男性と再婚していた。三大隊はすでに解散。刑事を続けていたのは最年長の老馬と最年少(女子)の林頴だけで、老馬は停年を迎え、ほかの4人は刑事を辞めて転職していた。程兵ら三大隊の面々が師父と慕う七叔は、脳梗塞で倒れて老妻の介護を受けていた。王大勇の行方は知れず、程兵の同僚で「二大隊」の隊長だった潘大海は支局長に出世した今も事件を忘れていなかった。

 程兵は、かつて王大勇事件に関係した六子の洗車場に拾われ、仕事の合間にひとり王大勇の足取り捜査を開始する。刑事を辞めた三大隊の面々も、程兵を手伝おうと集まってくる。王大勇は雲南省の瑞麗から国外の察邦(架空の地名、ミャンマーあたり)へ逃亡。ここで高価な翡翠の原石を強奪し、中国国内に戻ったことが判明する。さらに程兵は雪深い東北地方に赴き、田舎町の入浴場や森林地帯の監視人小屋を訪ね、そこで得た手がかりをもとに四川省の綿陽へ。単独捜査の開始から4年目、顔を変え、名前を変えて潜伏中だった王大勇をついに発見し、逮捕に導く。

 …とまとめてしまうと、執念の犯人逮捕が主題のようだが、私は、少し違うところにドラマの面白さを感じた。若い頃の程兵は、家庭を顧みずに仕事に邁進していた。その上、幼かった娘が一番父親を必要とする時期に刑務所に入ってしまい、桐桐(周子玄)は「殺人犯の子」と蔑まれて育った。彼女は、出獄した程兵を父親と認めず、絶縁を言い渡す。一方、王大勇の手がかりを求めて、程兵は王二勇の遺した娘・苗苗(任敏)に接近する。やはり父親の愛情を知らずに育った苗苗は、詐欺集団の手先をさせられており、程兵を洗脳合宿に誘い込む。程兵に助け出され、真面目な生活を始めようとした苗苗だが、偶然から、程兵の目的を知ってしまう。裏切られたと感じた苗苗は程兵を殺そうとするが、刃を振り下ろすことができない。二人は全ての真実を知った上で、父娘のように生きていこうとする。けれども程兵が実の娘・桐桐に抱いている悔いと愛情を知った苗苗は、QQ(メッセージツール)で桐桐に連絡を取り、実際に会って、程兵の気持ちを告げる。この、心に傷を負ったどうしの少女二人の交流が、私にはドラマ最大の見どころだった。苗苗役の任敏は、大体いつも面倒くさい役柄だが、何を演じさせても可憐で透明感があって、巧い。

 程兵は、途中、七叔の死に遭って自暴自棄になり、王大勇の捜査を諦めて、酒場の用心棒に成り下がる時期もあるのだが、10年を超えて家族ぐるみのつきあいの続く三大隊の仲間たちと、新しい「家族」となる苗苗の存在に助けられて再生する。七叔の遺言「好好生活」は、中国ドラマではよく聞く表現なんだけど、正しく、そして愉快に生きる、日常を大切にして生きる、みたいな意味になるのかな。

 最終話、逮捕された王大勇は尋問室で程兵と対峙し、こんなに長い年月を費やして、もし最終的に自分を捕まえることができなかったら、意味があっただろうか?と冷笑的に尋ねる。程兵は答える。我々は結果を生きるのではなく過程を生きる(不是活箇結果、而是活的過程)、その過程の中でさまざまな問題を解決する、だから結果がどうであっても意味はあった(値得)と。本作は、まさに生きる「過程」を描くドラマだったと思う。だから、旧三大隊メンバーの家庭の事情とか、犯人逮捕という目的から見れば、冗長な描写も多いのだが、最後は全てのキャラに愛着が湧いていた。

 程兵役の秦昊、いろんなドラマ、いろんな役柄で見ているのだけれど、本作はかなり好き。王大勇役の陳明昊は、序盤はいいんだけれど、最後は整形で顔を変えた設定で(特殊メイク?)のっぺりした顔で出てくるのが残念だった。

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古装SF・ホラー・アクション/中華ドラマ『天啓異聞録』

2024-01-18 23:20:12 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『天啓異聞録』全12集(愛奇藝、2023年)

 年末年始に楽しませてもらったドラマ。明の天啓年間、錦衣衛の一員である褚思鏡は、山海関を超えて、雪の積もる遼東地方に赴いた。この地方で奇妙な疫病が流行っており、感染した者は妖魔の餌食になるという噂を確かめるためである。褚思鏡は寧遠城で楊公公に拝謁したあと、韃官(モンゴル系)の伯顔とともに沿岸の寧海堡に向かう。寧海堡の周辺には、烏暮島の島民が出没していた。彼らの動きを怪しんだ褚思鏡と伯顔は、夜の海を泳いで烏暮島に渡る。島で二人が見たものは、皮膚が鱗化する奇病に苦しむ島民、長老とその弟子、黒衣の集団、謎の少女、そしてクモ形の怪物…。

 長老と島民たちは、島の秘密が外に伝わることを恐れ、伯顔を捉えて幽閉する。褚思鏡は、謎の少女・沈淙の助けを得て、舟で海上へ逃れる。その褚思鏡を助け上げた大型帆船の艦長はフランキ(ポルトガル)人のアンジェリカ。彼女の兄は、かつて烏暮島で怪物に出会って命を落としたと伝えられていた。彼女は島でトカゲ形の怪物を捕獲し、帰国の途につこうとするが、黒衣の集団に襲われ、帆船は大破し、再び島へ流れ着く。その頃、幽閉先を抜け出した伯顔は、トカゲ形の怪物の正体が、沈淙の父親・沈譲であることを知る。沈譲は、まだ意志の力で人間の形に戻ることができた。

 一方、褚思鏡は、横公という神を祀る異教集団に捕まり、怪物になるための薬水を飲まされる。朦朧とした意識の中で、2年前、この地で消息を絶った双子の弟・褚思鈺が近くにいて自分を呼んでいることを感じる。

 【ネタバレ】少しずつ明かされる謎。万暦年間に烏暮島の近海に隕石が落ちた。そこから何らかの病原菌が流れ出し、徐々に海産物を汚染していったのである。烏暮島では魚を食べることを禁忌にしていたが、それを破った者から奇病が広まった。2年前、明軍の兵士だった沈譲は、戦いに敗れて故郷の烏暮島に戻ってきたが、妻の蘇沐冉の様子がおかしいことに気づく。蘇沐冉は横公に忠誠を誓い、怪物を操って人々を支配しようとしていた。その野望を阻止したのは、島に滞在していた褚思鈺である。蘇沐冉と褚思鈺は崖上から海に落ちたが、蘇沐冉の遺体しか見つかっていなかった。

 蘇沐冉の野望を受け継いだのは、長老の弟子、賀子礁だった。彼は、蘇沐冉の能力を受け継いだ沈淙に怪物を操らせ、島民と褚思鏡らを襲う。父親の沈譲は命を賭けて島民たちを守り、愛娘の沈淙をも救おうとする。しかし賀子礁の弟・賀六渾は、混乱する沈淙に再び怪物を操らせ「尊主」に会わせようと、彼女を連れて海の底に消える。

 褚思鏡、伯顔、アンジェリカらは、舟で海に乗り出し、珊瑚礁の中の洞窟に踏み入る。ひとり夢幻境に迷い込んだ褚思鏡は、弟の褚思鈺と対面するが、その正体が、弟の姿を借りた別の何者かであることを見破る。褚思鏡は、その何者かに向かって、自分が沈淙に代わってここに残ることを申し出る。褚思鏡は海底の洞窟に残り、他の人々は無事に帰還する。その後、母国へ向かうアンジェリカの船には沈淙の姿があった。

 う~ん、最後はよく分からないまとまり方だったが、全体的におもしろかったからいいか、という感想である(海底で褚思鏡の前に現れたのは、隕石とともに地球に到達した宇宙生命体なのかな?)。舞台はずっとどんよりした雪景色の海辺、暗い画面、奇病の原因となる魚が思わせぶりにビチビチ跳ねていたり、ホラーな雰囲気もよい。怪物との戦いは、重心の低いリアリティのあるアクション(武侠ファンタジー的な超人技は見せない)で手に汗握った。

 俳優さんが私の好きな演技巧者揃いだったのもポイントが高い。褚思鏡/褚思鈺二役の黄軒は少し体重を増やしたかな。私はイケメン枠だと思っているのだが、劇中で「叔叔(おじさん)」と呼ばれていて苦笑してしまった。伯顔の呉樾を見たのは初めてかもしれないが、大好きになった。沈譲の蘆芳生さんは父性を感じさせる役が似合う。半分トカゲになりかかっていてもカッコよかったが(笑)、完全なトカゲ男はデジタル合成なのかな。どうやって撮っているんだろう。アンジェリカは台湾国籍の張榕容さん。映画『黒猫伝』の楊貴妃を演じた方だが、全然雰囲気が違っていて驚いた。

 なお、視聴者投票サイトの評価はあまり芳しくない。中国の視聴者は、こういう荒唐無稽なドラマ作品をあまり好まないように思われるが、昭和の特撮ドラマで育った私には大好物なので、嘘八百を大人の俳優が真面目に演じるドラマ、どんどん作ってほしい。

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新しい古典の誕生/映画・ゴジラ-1.0

2024-01-02 20:03:41 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇山崎貴監督・脚本『ゴジラ-1.0(マイナスワン)』(TOHOシネマズ日本橋)

 年末年始休暇のうちに映画館で映画が見たくなって、大晦日の朝に見てきた。事前に私が仕入れていた情報は「敗戦後すぐが舞台」「朝ドラ『らんまん』の主役コンビ、神木隆之介くんと浜辺美波さんが主演」「神木隆之介くんは元特攻隊員」「ゴジラが怖い」くらいだったが、とてもおもしろかった。

 大戦末期、特攻隊として出撃した敷島浩一(神木隆之介)は、搭乗機の故障のため、大戸島の守備隊基地に不時着する。しかし整備兵の橘(青木崇高)は故障個所を見つけられず、敷島が特攻逃れのために故障を偽ったのではないかと疑う。その晩、基地は巨大な怪獣「呉爾羅(ゴジラ)」に襲われる。橘は敷島に、零戦に装着されている20ミリ砲でゴジラを撃つよう懇願するが、敷島は恐怖で撃つことができず、敷島と橘以外の整備兵は全滅してしまう。

 終戦。東京に戻った敷島だが、両親は空襲で亡くなっていた。ぼんやり暮らしていた敷島のところに、戦災孤児である赤子の明子を連れた典子(浜辺美波)という女性がころがり込み、奇妙な同居生活が始まる。典子と明子のために仕事を探していた敷島は、機雷の撤去作業の職を得て、掃海艇に乗り込む。

 1946年、ビキニ環礁で米軍による核実験が行われる(ゴジラが巨大化・凶悪化するには、やはりこれが必須なのね)。1947年5月、巨大生物が日本に向かって移動していることが観測される。日本政府は混乱を恐れて、国民に事実を秘匿したまま、ひそかに迎え撃とうとするが全く歯が立たない。上陸したゴジラは、熱線で東京中心部を壊滅的に破壊し、典子も行方不明になってしまう。

 占領下で独自の軍隊を持たない日本は、民間人のみでゴジラに立ち向かうこととなり、駆逐艦「雪風」の元艦長・堀田は、元海軍関係者を集め、作戦への参加者を募る。科学者の野田は、ゴジラを相模湾の海溝に沈めて急激な水圧の上昇を与え、さらに海底から海上へ引き揚げて減圧を与える作戦を提案した。敷島は、自分が戦闘機でゴジラを誘導することを申し出、日本に1機だけ残っていた戦闘機「震電」の整備のために橘を呼び寄せる。

 【ネタバレ】ついに日本再上陸を目指すゴジラが出現。堀田らは作戦を遂行するが、急激な加圧も減圧も効かない。敷島は、爆薬を搭載した震電でゴジラの口の中に突っ込む。爆破成功。そして敷島は、特攻直前、パラシュートで脱出していた。帰還した敷島は、典子が病院で待っていることを知る。

 本作で敷島個人および日本という国が体験する、失敗→自責→困難の克服、というのは、ある種、古典的な作劇パターンだと思うが、分かっていても劇中人物と一緒に怯え、手に汗握り、最後は涙してしまう。困難の克服が「特攻」のやり直しではなく、敵を撃破して、かつ生き延びるという描写なのがとてもよい。最後、生きていた典子に再会した敷島は、典子にすがっておんおん泣くのだが、神木くん、女性にすがって泣く姿がこんなにさまになる俳優もいないのではないか。

 敷島が新しい人生に踏み出すには、典子の存在が不可欠だったが、より大きな意味を持っているのは、整備兵の橘である。大戸島の一件以来、敷島の臆病さを罵り、軽蔑していた橘が、震電に脱出装置を取り付けて、敷島に引き渡すのである。神木くんと青木崇高さんといえば、大河ドラマ『平清盛』では義経と弁慶の主従役だった、などと古い記憶まで呼び覚まされて、感慨にふけってしまった。今後、本作がテレビ放映等で親しまれ、ゴジラ映画の古典の位置を占めてくれることを願ってやまない。

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後に残る者たちへ/中華ドラマ『一念関山』

2023-12-31 20:17:19 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『一念関山』全40集( 檸檬影業、愛奇藝、2023年)

 架空の王朝を舞台にした武侠劇。中原では、梧国・安国という2つの強国が覇権を争っていた。戦いに敗れた梧国皇帝は安国の捕虜となり、安国は梧国に対して、十万両の身代金を携えて迎帝使として皇子を寄こすよう要求する。迎帝使の人選に苦慮した梧国宮廷は、皇帝の異母妹で、母親の身分が低かったため、冷宮で育った公主の楊盈を皇子礼王と偽って送り出すことにした。

 梧国の秘密警察組織である六道堂の堂主・寧遠舟は、礼王の護衛として旅に同行することになった。一行には、六道堂の仲間たちのほか、寧遠舟の表妹を名乗る謎の美女・任如意が加わっていた。如意はもとの名を任辛と言い、安国の秘密警察・朱衣衛の左使をつとめた伝説の刺客だった。しかし7年前、敬愛していた安国皇后が何者かに殺害される事件に出会って以来、安国を去り、皇后殺害に関わった人々への復讐を続けていた。たまたま梧国に潜入して寧遠舟を知り、「自分の子供の父親になってほしい」と迫る。如意は亡き皇后の遺言「男性に惚れてはいけない。しかし子供は持つべき」を忠実に守ろうと考えていた。はじめは如意を持て余していた寧遠舟だが、次第に二人は惹かれ合っていく。

 【ややネタバレ】如意は、皇后殺害の首謀者が安国皇帝そのひとであり、大皇子も二皇子も真実を知りながら、見て見ぬふりをしていたことを知り、彼らを血祭りにあげた後、朱衣衛で各種の汚れ仕事に従事させられていた仲間たちを解放する。六道堂の人々は、安国に囚われていた梧国皇帝の奪還に成功、しかし帰国を急ぐ途中、北方の異民族である北盤人の襲撃を受ける。安国の二皇子が天門関を開いて、中原に北盤人を招き入れてしまったためだった。梧国皇帝は戦死。多大な犠牲を出した一行は合県城に籠城する。

 安国では前皇帝の死後、赤子の新帝が即位し、かつて如意を師父として武芸を磨いた李同光が摂政王となった。楊盈は、自分が女性であることを明かし、両国の和睦のため、李同光に嫁ぐことを望む。二人を中心とする援軍が合県城に到着するが、北盤人の攻撃は厳しさを増す。梧国には皇帝戦死の報が届けられ、皇弟・丹陽王が即位する。新帝は直ちに援軍を派遣するが、合県の民衆を守るため、六道堂が払った犠牲は大きかった…。

 【ネタバレ】本作は11月28日に配信が始まり、ゆるゆる楽しんでいたら、12月18日に最終話が配信された翌日、日本語サイト「Record China」に「武侠ドラマ『一念関山』の結末に視聴者から不満噴出」というニュースが掲載された。よせばいいのに本文を読んでみたら「メインキャラが全員戦死」とまで書かれていた。このドラマ、序盤は如意と寧遠舟の不器用な恋のゆくえを、六道堂の面々+楊盈がキャッキャうふふで見守るラブコメ古装モードが全開なのだ(あまり得意でないので途中リタイアしようと思ったくらい)。たまにシリアス展開も混じるけれど、全員戦死ってどういうこと?と思っていた。

 それが30話くらいから急降下で地獄展開に入る。六道堂の仲間たち、銭昭、孫朗、元禄、于十三だけでなく、メインキャラの次くらいの人たちも(鄧恢~)、北盤人との戦いで次々に命を落としていく。寧遠舟は、乱戦の中から李同光を救出するのと引き換えに凄絶な戦死を遂げる。李同光は、師父の如意に一途な思慕を寄せ続け、寧遠舟には嫉妬の炎を燃やしていたのだが、最後の最後は、師丈(先生の夫)、寧大哥、と呼びかける。武侠ドラマって、成長する少年少女が主人公となるケースが多いと思うのだが、本作は、すでに自我の確立した如意や寧遠舟が主人公で、李同光や楊盈など次世代の若者に教えを残し、成長を助けて死んでゆく物語とも言える。如意は爆弾を隠し持って北盤狼王の幕屋に赴き、自爆テロを仕掛ける。寧遠舟のいない世界に生き続けたいという望みはなかったのだろう。覚悟を決めた如意(劉詩詩)は凄絶で美しかった。為すべきことを終えてこの世を去った者たちは、どこかで楽しく暮らしていると言いたげな終わり方だったけど、やっぱり辛いなあ。

 本作のアクションシーンは見栄えがしてカッコいいのだが、カッコよさの基準が、映画やアニメからゲームに移行しているように思われ、古い人間としては、ちょっと違和感も感じた。出演者では、『虎鶴妖師録』で覚えた何藍逗さん(楊盈)、陳宥維くん(元禄)の活躍を見ることができて嬉しかった。本作の収穫、李同光を演じた常華森くんと于十三の方逸倫さんとは、また違う作品で会うことを期待したい。

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画家と刑事のバディ/中華ドラマ『猟罪図鑑』

2023-12-10 22:43:39 | 見たもの(Webサイト・TV)

〇『猟罪図鑑』全20集(愛奇藝、檸檬影視、2022年)

 中国では2022年公開。日本でも同時期から『猟罪図鑑~見えない肖像画~』のタイトルで知られているのは、そうか、国際版プラットフォームで日本語字幕版が配信されているためか、と気づき、いい時代になったなあと思う。檀健次くんの出演作、最近見ていなかったのだが、『蓮花楼』で10年ぶりくらいに肖順堯さんを見て、同じMIC男団の檀健次くんの最近作を見たくなり、本作を見てみた。

 舞台は中国南方の北江市(ロケ地は厦門)。美術学校の教師を勤める青年画家・沈翊は、市警察分局の模擬画像師(似顔絵師)の職を引き受けるが、刑事隊長の杜城は反発する。7年前、杜城の恩師の雷刑事が何者かに殺害される事件が起きた。当時、画学生だった沈翊は、事件の鍵を握る女性の顔を見たはずなのに、絵に描くことができなかったのだ。雷刑事の事件は今なお未解決で、杜城はずっと犯人を追っていた。しぶしぶ沈翊を受け入れた杜城だったが、沈翊が天才的な画力を発揮し、真摯に捜査に取り組む姿を見て、あっと言う間に「同僚」と認め、「朋友」になってしまう(笑)。

 作中に描かれる事件を、順番どおり【ネタバレ】込みでメモしておく。(1)マンション殺人事件。外売配達員が証言。(2)美容整形外科医の殺害。お客の女性を性的にもてあそんでいたことが判明。(3)高校の校庭で白骨化した遺体が見つかる。10年前に失踪した女子学生の日記から、彼女の学園生活を解き明かす。(4)死刑囚の女性が何度も証言を変更し、共犯者の恋人をかばっていた。(5)旧弊な大学教授を父親に持つ少女が男友達に誘拐され、自力で逃げ出す。(6)妻と幼い娘を残した父親の失踪。被害者に見えた女性には別の顔があった。(7)DV男性から逃れた元妻のもとに男性が現れる。(8)幻覚剤を飲まされて性的暴行を受けた女子学生の証言を読み解く。(9)沈翊の恩師である老画家が妻とともに自殺する。発端は息子を騙ったAI詐欺だった。(10)杜城のお見合い相手となった女性モデル。写真の顔が切り取られる事件が起きる。(11)配達物による連続爆破事件。(12)人身売買組織の首謀者と見られていた女性「M」が遺体で発見される。市警察本局から派遣された路刑事は杜城の行動を疑うが、沈翊らは杜城への信頼を堅持する。そして、情報セキュリティサービス会社の社長が、人身売買組織の黒幕であったこと、雷刑事の殺害にも関与していたことを突き止める。最後は杜城と沈翊が、警官の職務にかける決意を新たにして幕。

 天才・沈翊は、曖昧な証言から犯人の似顔絵を描き出すだけでなく、幼少期の写真や、時には白骨から人物の容貌を推測するとか、ちょっと無理があるんじゃないか、とも思ったが、まあ面白いからいいことにする。扱われる事件の多くが、女性を加害者・被害者とするもので、古いタイプの痴情のもつれとかではなく、非常に現代的な「女性の困難」を題材にしているのが、興味深かった。あと、AIフェイク画像とか、情報セキュリティ企業が市民の個人情報を盗もうとしているというテーマは、ずいぶん現代的だと思った。

 檀健次くんの演じた沈翊は、画力については天才だが、温厚な常識人で、むしろちょっとドン臭いところもあってかわいい。金世佳が演じた杜城は体育会系の単純率直な好男子で、二人の凸凹バディ感(身長差がよい)がこのドラマの最大の魅力だろう。また、杜城をはじめ北江市警察分局の面々はいつも仲が良さそうで、ジェンダーと年齢のバランスもよく、警察ドラマにありがちな一匹狼の問題児もいなくて、理想的な職場に感じられた。悲しい事件もあるが、全体としては気持ちの明るくなる刑事ドラマである。

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