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同じ釜の飯を食った仲(1)

2009年07月03日 | ムサシ
1 あれは今から約15年も前のことである。私たちは夫婦裁判官として別々の裁判所に勤務していた。そのころその地方の高等裁判所で,裁判官による協議会が行われ,夫婦で参加した。有意義な協議会が行われ,懇親会の後スナックで二次会が行われることになった。時の高裁長官はとても気さくな方であったし,妻の司法研修所のクラス教官であったことなどから,長官も二次会に参加されたが,そのためもあってか,二次会の参加者は甚だ多く,大盛会となった。

2 その二次会の席には,裁判官になる前からの私の友人も参加していた。大学を卒業して行政職の国家公務員になった時の同期で,私よりも先に司法試験に合格して裁判官になっていた。その友人が,「長官,実は私とムサシ君は,同じパンツを穿いた仲なんですよ。」と言ったのである。長官はニコニコされながらも怪訝(けげん)な表情で,「同じ釜の飯を食った仲という話はよくあるが,同じパンツを穿いた仲とは一体どういうことかね?」と聞かれた。妻も近くで怪訝そうな顔をして聞いていた。

3 同期入省者は9人で,他にも在学中司法試験を目指していた者は何人かいたが,私と彼の2人だけが,なお司法試験を諦め切れずにいたのである。就職後3か月の新任研修があり,夕方5時になると解散となり,ほぼ毎日皆で麻雀をすることになった。麻雀は2卓で8人なので1人あぶれる。私も麻雀はできたのであるが,できないことにして麻雀はせず,帰宅してセッセと司法試験の勉強をしたのである。

4 彼は在学中は超真面目人間で,麻雀をしたことはなかったそうで,「世の中にこんなに面白い遊びがあるとは知らなかった。」などと言って,就職後は余り試験勉強もせず,周囲の心配を余所に,麻雀に狂っていたのである。私もある時「お前,本気で合格する気があるのか。」と彼を叱りつけたことがあったと彼は言う。しかし結果として彼は麻雀のお陰で試験に合格できたなどと自慢しているのであるから,世の中というのは結構不思議なものである。

5 私は3か月の新任研修終了後も,仕事が終われば急いで下宿に帰り,セッセと勉強をしていたが,彼は残業や麻雀などに明け暮れて,ロクに勉強はしていなかったようである。しかし私が頑張って勉強していることは気にはなっていたようで,時に私の下宿を偵察に来た。「おい,勉強を頑張っているか。たまには酒でも飲もう。」と言って,酒瓶をぶら下げて私の勉強を邪魔しに来るのである。私は「勉強の邪魔だから帰れ。」と言うのに,「まあまあそう固いことを言うな。」と言って,無理矢理酒を飲むことになり,挙げ句の果てに,「今日は泊めてくれ。」と言って勝手に泊まり,翌朝「下着を借りるぞ。」と言って勝手に私の粗末な下着入れの引き出しを開けて,洗濯してはあるものの,決して純白とは言えないパンツやシャツを取り出して,着て帰ったのである。こうして彼は,何回か私のパンツとシャツを「借りた」と称して着て帰り,決して返却することはなかった。返却されても処置に困っただろうが,どうやら彼はその後も洗濯して下着を使っていたのではないかと思われる。

6 ところが私のパンツやシャツには,全てマジックインクで黒く名前が書いてあった。私は在学中寮生活を送り,一本の物干し竿に複数の学生が洗濯物を干したので,名前を書いておかないと紛失する恐れがあり,パンツに名前を書くのはごく当たり前のことだったのである。ところが,やがて結婚した彼のパンツに,ムサシという名前が書かれたものが何枚も出てきたのである。新婚の奥さんは,彼と私の関係を只ならぬ仲と疑って,「一体どうゆうことなの?」と柳眉を逆立てて,彼に詰め寄ったというのである。

7 二次会のスナックの席で,彼は皆の前でこのような話をした後で,「ムサシ君!お前なー,パンツに名前など書くなよな。お前のお陰で妻に変な疑いをかけられて大変迷惑した。」と私に苦情を言ったのである。その場は大爆笑の渦となり,長官も笑い転げておられた。妻も大笑いをしていた。(ムサシ)
(本稿と次回稿は本人の査閲済みであることを付記しておきます。)


1 コメント

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傑作 (瑞祥)
2009-07-04 14:23:18
いや,傑作ですね。私も「笑い転げて」しまいました。こんな友人関係は,「三丁目の夕日」的で懐かしい感じがします。
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