1 近く5月の連休がやってくると,孫たちもわが家にやって来る。そうするとわが家の庭の草花は殆どむしり取られて,無残な姿になる。チューリップも水仙も矢車草も紫露草もなくなることになりそうである。それらの花々は,満面の笑みを浮かべた女の子の両手のひらに捕まれて,わが家の大き目の花瓶に生けられることになる。
2 わが夫婦が私の郷里にマイホームを所有するようになったのは平成8年のことであるから,丁度20年が経過した。当時長女が高2,次女が中1であった。私は当時姫路市に単身赴任し,平成11年4月から自宅に住むようになった。姫路から土日に帰宅したり,自宅に居住するようになってからは頻繁に,草花の苗木を衝動買いするのが趣味となり,セッセと苗木を買って来たのである。家の庭の草花が増えるので,大いに結構なことなのではあるが,私の熱意と気力は主として苗木を購入するところで尽きてしまい,苗木を自宅の玄関の前まで運ぶと,それで目的を達成したかのごとき思いとなり,「まあ,明日植えればよいだろう。」ということになったのである。
3 苗木を購入するのは概ね土曜日であることが多いので,翌日である日曜日になると,突然私の心は,「忙しい。仕事をしなくては」ということになって,苗木を植える気力が低下し,植え換えていないままの苗木に,ジョロで水を掛けるなどして日を過ごし,結局枯れてしまうという事態がよく繰り返された。
4 妻は,苗木を買って来た人が責任を持って植え換えるべきと,甚だ正当な主張をして,私は何度も苦情を言われた。私を信頼していると何度も苗木を枯らしてしまうという事態となることが判明してからは,3日間程度の間に私が植え換えない場合には,諦めて,妻が自分で植えるようになったのである。仕様のない亭主だと愛想を尽かしたに違いない。
5 ある時妻に,「申し訳ないことをしているので,お詫びの印に家出でもさせていただきましょうか?」と言うと,妻は「是非お願いします。」と答えた。その後私は家出したままで,家出は解除されていない筈なので,私の心はまだ家出中であり,私の心は,わが家の屋根の上で寝ているのではないかと思われる。
6 しかし変な亭主のお陰で,わが家の庭や塀の外の花壇は,結構綺麗な花が咲いているということになる。わが家の塀の外は幅約50センチの細い花壇となっている。私は主としてその花壇に植えるためにセッセと苗木を買って来るのである。今も結構賑やかに草花が咲いている。三色すみれ,ペチュニア(朝鮮あさがお)などが咲いているし,間もなくカーネーションやナデシコ,キキョウなどが咲きそうである。通行人が暫し足を止めてその花を眺めていることもある。今年も例年のように,キキョウやナデシコが窃盗の被害に遭うことになるのだろうか。
7 孫が庭の花を手折ることについては,複雑な思いもないわけではない。しかし折って捨てるのであれば許せないに違いないが,手折って小さな両手を一杯にして,花瓶に生けてくれるという話なのである。そんなことを許してくれる所はそうあるまい。「おじいちゃんの家に行って,花を一杯折って,花瓶に生けてあげよう。」と小さな胸を弾ませて,連休を楽しみに待っているのであれば,それを咎めるのは何とまあ心貧しきことであろうか。「おじいちゃんも手伝ってあげようか?」と言って,私も孫と一緒に,大はしゃぎして庭の花を無茶苦茶沢山折ることにしようと思っているのである。(ムサシ)