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東京五輪、パーム油調達基準が抱えるリスクと課題

2018-03-24 | 先住民族関連
alterna 3/23(金) 19:02配信
3月16日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会(東京2020組織委員会)は紙とパーム油に関する調達基準案を作成しました。「持続可能性に配慮した紙の調達基準(案)」と「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準(案)」が公表され、一般からの意見募集を3月30日まで行っています。(川上 豊幸=レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表)
しかし、環境NGOの視点では大きな懸念があります。
まず、紙とパーム油の調達基準案の題名には大きな違いがあります。紙の基準案は「持続可能性に配慮した紙の調達基準」となっていますが、パーム油の方は「持続可能性に配慮したパーム油を推進するための調達基準」となっています。つまり、「持続可能性を満たしている基準ではない」ことをすでに認めた形になっているのです。
こうした表現になった理由は、マレーシアやインドネシアが国として進めている認証制度である「マレーシア・サステイナブル・パーム・オイル」(MSPO)や「インドネシア・サステイナブル・パーム・オイル」(ISPO)が東京2020組織委員会の基準に合致できていないにも関わらず、「活用できる」としてしまったことです。
例えば、MSPOやISPOには強制労働や移住労働者の権利といった項目がなく、同委員会の「持続可能な調達ワーキンググループ」では「持続可能性に配慮した基準を満たしているとは言えない」と議論になっていました。
しかし活用できる認証制度として列挙したことで、「持続可能性に配慮した調達基準」という名称では誤ったメッセージを送ってしまうとの懸念から、こうした修正が加えられたのです。
さて、ここからは、調達基準の4点について見ていきましょう。
パーム油については、以下の4つの基準があります(調達基準案 項目2より)。
1:生産された国、または地域における農園の開発・管理に関する法令等に照らして手続きが適切になされていること。
2:農園の開発・管理において、生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること。
3:農園の開発・管理において、先住民族等の土地に関する権利が尊重されていること。
4:農園の開発・管理や搾油工場の運営において、児童労働や強制労働がなく、農園労働者の適切な労働環境が確保されていること。
基準に含まれなかった「森林減少阻止」
まず基準2では「生態系が保全され、また、泥炭地や天然林を含む環境上重要な地域が適切に保全されていること」とあります。
基準案「別紙(調達基準4に関する確認方法)」(4ページ目に添付)には「泥炭地や貴重な天然林など保護が必要な重要な森林等がある地域についてはその保全のための措置が講じられていることを確認する」とありますが、保護が必要な「重要な」森林のみを対象としていて、一度伐採が入っているような二次林を含む一般の天然林は対象となっていません。
ちなみに、同基準で活用可能とされる「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)、MSPO、 ISPOの認証制度においては、二次林を含む一般の天然林の保全規定はありません。さらに、MSPOやISPOでは合法性を超えるような環境保全の規定は見当たりません。
「森林減少阻止」には、「貴重な天然林など保護が必要な重要な森林」だけでなく、野生動物にとって重要な生息地である一般の天然林も含める必要があります。
すでに多くの森林に伐採が入っており、熱帯林の保全という観点から非常に重要です。「持続可能な開発目標(SDGs)」でも2020年達成が掲げられている目標なので、基準に組込んでもらいたかった点でした。広く意見を募っているパブリック・コメントにおいても、多くの人に基準の強化を求めてほしい点です。
「地域住民」の土地権も
基準3については、紙の基準案では「先住民族」だけでなく「地域住民」も明記されています。しかしパーム油の基準案ではなぜか書かれていません。
「先住民族等」の「等」に地域住民は含まれているのかもしれませんが、明確ではないので、ここは、先住民族のみならず地域住民の権利尊重も明記してほしいところです。なお、RSPOやMSPOでは、地域住民からの「事前の情報提供に基づく、自由意思による合意形成」が認証基準に含まれていますが、ISPOにはありません。
基準自体が満たせていない認証も「活用」?
基準4で「児童労働や強制労働がなく」と明記していますが、MSPOとISPOには「強制労働」を禁止する規定がありません。
また、前述の「別紙(調達基準4に関する確認方法)」では「移住労働者を含め、適切な雇用手続きや最低賃金その他労働条件が確保」とあり、調達全体に関わる「持続可能性に配慮した調達コード」でも「移住労働者」の人権尊重が述べられていますが、移住労働者に配慮した規定はMSPOやISPOにはありません。
油脂業界の方によれば、MSPOは強制労働については法律で対処していると説明し、「強制労働が行われているといった証拠ははない」と述べているそうです。
しかしマレーシアでのパーム油業界の強制労働問題は、大手メディアの調査報道や米国労働省も認めている課題です。法規制があるのならば、そうした規制の実施にも大きな課題があり、それこそ認証制度による確認が必要な部分と言えるのではないでしょうか。
またRSPO認証農園においても、様々な違法労働の慣行や労働環境の問題も報告されており、基準があったとしても、適切な監査が行われていない点も考慮しておく必要があります。
非認証油も混入
さて、不十分とはいえ、上記の基準があるにもかかわらず、非認証油の利用も認めている点も大きな問題です。
現在のパーム油の基準案では、非認証油を混入して利用することも可能なので、最終的に調達されたパーム油は基準を満たしていなくても問題になりません。
調達基準案の項目3(2)と(3)では、「上記(1)の認証パーム油については、流通の各段階で受け渡しが正しく行われるよう適切な流通管理が確保されている必要がある」とあります。
この文言だけ読むとわかりませんが、これは認証されていない油を混ぜることを認めている「マス・バランス方式」も利用可能であるという提案です。
さらには、「上記(1)の認証パーム油の確保が難しい場合には、生産現場の改善に資するものとして、これらの認証に基づき、使用するパーム油量に相当するクレジットを購入する方法も活用できることとする」とあり、結果として「持続可能性に配慮した調達コード」の規定を満たさないことが可能となってしまいます。
「これらの認証」とは、ISPO、MSPO、そしてRSPOを指していますが、つまり、認証制度を取得した農園生産において、基準を満たしたものを「後押し」していれば、実際に調達しているパーム油自体は基準はクリアしていなくてもいいということです。
サプライヤー企業の責任
さて、今回の基準案で評価できる点もあります。項目6で「サプライヤーは、トレーサビリティ確保の観点も含め、可能な範囲で使用されるパーム油の原産地や製造事業者に関する指摘等の情報を収集し、その信頼性・客観性等に十分留意しつつ、上記2を満たさないパーム油を生産する事業者から調達するリスクの低減に活用することが推奨される」との規定が行われている点です。
この規定は、たとえ認証が得られていても、調達先の農園だけでなく、同じパーム油生産事業者の別の農園で基準を満たさない事例がある場合にも対応を検討すべきことが明記されています。
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)は、製品レベルでの調達先の評価に限らず、企業レベルでの評価により、持続可能性のリスク管理を行うことを求めてきたので、これは評価できる点です。
東京2020大会は持続可能性に対する責任を
パーム油の基準案は、全体的な「持続可能性に配慮した調達コード」を満たしていないと考えられる認証制度の活用を認め、さらに非認証油も混入できることとなってしまったことから、大きな課題とリスクを抱えている状況にあります。
これでは、東京オリンピック・パラリンピック大会が持続可能性に対する責任を果たしているとは言い難い状況ではないでしょうか。
川上 豊幸(かわかみとよゆき) レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表
米国のサンフランシスコに本部を持つ環境 NGO 「レインフォレスト・アクション・ネットワーク」(RAN)日本代表。 経済学博士。専門は国際環境経済学。NPO 法人 AM ネット理事。熱帯林行動ネットワーク(JATAN)運営委員。2005 年にRAN の日本代表として事務所を設立し、豪州タスマニアの原生林保護に取り組んだ。その後、インドネシアの熱帯林保護活動に取り組み、森林に依存して生活する人々への悪影響是正に向けて、紙パルプやパーム油業界、金融業界への働きかけを行っている。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180323-00010001-alterna-soci
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