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実写版映画『ゴールデンカムイ』は原作ファンが見る価値あり!Netflixで配信始まる

2024-07-09 | アイヌ民族関連

武将ジャパン2024/07/08

2024年1月19日、実写版の映画『ゴールデンカムイ』が公開され、同年7月8日からはNetflixでの配信も始まりました。

精緻な考証を巧みにストーリーに盛り込んだ人気作品だけに、原作ファンの方は悩ましく感じた方もおられるでしょう。

あの内容を実写版なんかでやって大丈夫なのか?

原作を殺すことだけはやめてくれよ……。

と、そんな思いに苛まされて躊躇している方のために、漫画アニメのファンである著者が疑心暗鬼の思いを抱えながら鑑賞してきたレビューを送らせていただきます。

実写版『ゴールデンカムイ』は、果たして見にいく価値ありか?

基本DATA

info

タイトル

『ゴールデンカムイ』

制作年

2024年

制作国

日本

舞台

北海道

時代

明治40年(1907年)

主な出演者

山崎賢人、山田杏奈、矢本悠馬、玉木宏、舘ひろし他

史実再現度

原作再現度という点ならばほぼ完璧

特徴

漫画実写映画における一つの到達点

映画『ゴールデンカムイ』公式サイト(→link

あらすじ

北海道で一人の青年、杉元佐一が川で砂金取りをしている。

日露戦争二〇三高地を生き延びた杉元は、一攫千金を狙っているそうだ。

そんな杉元に、アイヌの隠した金塊があると語る男がいた。

隠し場所は、囚人の刺青に彫られているという。

荒唐無稽な話だと聞き流していた杉元であったが、男はヒグマに襲われ命を落としてしまう。

と、その体には、奇妙な刺青が彫られているではないか!

もしかして、この男が、金塊のありかを記した地図が彫られた囚人なのか?

男の遺骸を背負って移動する杉元だったが、獲物を追うヒグマが彼を追跡する。

もはやこれまでか……杉元がそう覚悟したとき、小柄なアイヌの少女が放った矢がヒグマの巨体を倒した。

アシㇼパというその少女の父は、金塊をめぐり命を落としたという。

二人は協力し、金塊を見つけ出すこととしたのであった。

かくして、北海道を舞台とした金塊争奪戦が始まる。

2024年 漫画実写映画ひとつの到達点

あの漫画が実写映画になる――そう言われて、ワクワクするファンはどれだけいることでしょうか。

第一報の時点で半信半疑。

続報が出るたびに期待感は薄れてゆく。

見てたまるか。そう思いつつ義務感でスクリーンの前に座り、「ケッ」と顔を歪めて映画館をそそくさと去る――そんな経験をお持ちの方も少なくないことでしょう。

この映画『ゴールデンカムイ』は、そうした失敗を徹底解析し、絶対に二の轍を踏むまいと気合を入れて作ったことがわかります。

原作の再現度は高い。

高すぎてちょっと無理があるんじゃないかと思える場面まで、丁寧に再現しています。

原作ファンからすれば、文句のつけどころがない。そんな高い位置に留まり続ける作品とでも言いましょうか。

ジャンルとして定着した原作漫画の実写化として、ひとつの頂点にあると思える出来です。

実写映画にする意味はあるのか?

こんな風に肯定していると、かえって疑念を持つ方もおられるかもしれません。

だったら原作あるいはアニメで十分じゃないの?

と、その答えも、 本作は用意しています。

私が個人的にがっかりさせられる近代ものの点として、衣装の再現度があります。

特に軍服となると難しく、まずウールの質感の時点でがっかりさせられることも少なくありません。

しかし 本作は、むしろ再現度が高すぎるかもしれない。原作そのままのアクションをすると、ウールの軍服であの動きができるだろうかと心配になってしまうほどでした。

銃器や刀剣の質感も重々しく、これで刺して切ったら死傷するとわかるところが素晴らしい。

鶴見が銃を構えている時点で、映画館に来ただけのことはあったと満足できました。

拳銃にしては殺傷力と命中率が高いうえに、片手で構えている割には命中率が高すぎますが、それは原作準拠ですから。

武器といえば、アイヌ毒矢の実写が見られたことも眼福の極みでした。

あの毒の丸薬が、鏃に詰められている様が、アップになってじっくりとみられるのです。 本当に素晴らしいことです。

『ゴールデンカムイ』アシㇼパさんはなぜアイヌの弓矢にこだわるのか

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質感といえば、アイヌの刺繍を実写で見るだけの意味があります。

絵やアニメだと、あの立体感はどうしても伝わりにくいが映画ならばわかる。改めてアイヌの刺繍は美しいと思えました。

博物館などで現物を見たことはあります。

それでも、実際に身につけた姿は格別です。

アイヌのコタンで人びとが暮らす場面は、見ていると胸が熱くなるような感慨がありました。

エンドロールを見ると、アイヌ工芸を手掛ける多くの方の名前が見られます。 本物の持つ魅力がスクリーンに広がる理由も納得できたものです。

ゴールデンカムイ』関連グッズは、アイヌ紋様がプリントであることがほとんどでした。

仕方ないとはいえ、あの緻密な美しさとは何かが違う。そんな不満点が解消される大きな一歩と思えました。

そして北海道の大自然です。

雪国の景色は、やはり冬が最も厳しく美しいもの。その雄大な自然を背景にしているからこそできる場面ばかりでした。

ただし、そのせいでリアリティラインが上がってしまい、この状況ではさすがに凍死するのではないか?と思える場面が多くなってしまったのは、仕方のないことではあるのでしょう。

漫画を実写化することで吹き込まれる命はあります。

映画『ゴールデンカムイ』には、確かにそんな命のきらめきが随所にありました。

ミスキャストが一人もいない

 本作は原作単行 本4巻あたりまでとなります。

第七師団は鶴見以外、顔見せ程度と考えておきましょう。

杉元とアシㇼパの出会いと金塊探しに旅立つまでが描かれ、この二人のキャストと演技は、問題がないと思えます。

原作通りに丁寧にこなしていくからこそ、こうも漫画原作主演が多いとわかる山崎賢人さん。

難役を丁寧に挑んでいく山田杏奈さん。とても誠意をこめて丁寧に演じていると思えるのですが、良くも悪くもそこまでともいえる。

それが変わって滑らかに動き出すには、後半に出てくる白石が重要な役割を果たします。

この映画については、不満点がないとはいえない。

しかし、白石のことを思い出すと、どうでもよくなってしまう。

白石を見るだけでも、映画館に行く価値があるともいえる。矢 本悠馬さんは外すことのないバイプレイヤーだとは以前から思っておりましたが、その実力がこれほどまでとは思いませんでした。

原作通りのようでちょっとはみ出す。

明治末落伍者が持つ嫌なリアリティがある。

見ながら自然とこう思ってしまいました。

「『 仁義なき戦い』のリメイクを作るなら、川谷拓三さんの役は矢 本悠馬さんしかいないな」

これは私のあくまで趣味なのですが、傑出した役者を見ると『 仁義なき戦い』リメイク版に指名したくなります。

川谷拓三さんというのは、二枚目でもなく、ちょっと抜けていて、それでいて素晴らしい味がある。

そして見ているだけで微笑みたくなるような、見るものから心の暖かさを引き出すような名優です。

こう説明すると人情派のようで、ヤクザ映画では大抵酷い死に方をする役回りをつとめます。そんな往年の名脇役を思い出しました。

この1970年代感覚を醸し出す俳優が、もう一人おります。

尾形役の眞栄田郷敦さんです。

尾形は原作通り、初登場時に杉元と戦い、敗北して川に転落します。

その戦闘シーンは、なんて卑劣な尾形なのかと思いました。

何が卑劣かというと、狙撃手という遠距離では無双の戦力を誇るキャラクターでありながら、実写になると接近戦でも異常に強いオーラがヒリヒリするほど放たれていたのです。只者ではありません。

見ながら思わず「どうしてこれで杉元が勝てるんだよ!」と言いたくなりました。

いや、山崎さんのせいではありません。眞栄田郷敦さんが強すぎるんですね。

そしてこれは既視感があると、川に転げ落ちた尾形を見て思いました。

70年代の香港映画には、倉田保昭さんという名優がおりました。

顔もいい、アクションもできる。けれども当時の香港映画は、日 本人には悪役を演じさせたいもの。そのため彼はずっと倒され続けました。

主役より強そうなのに、どうして彼が負けるんだろう。只者ではないオーラがあるのに……そう、この感覚です!

この尾形からは、倉田保昭さんが扮した悪役に通じるオーラを感じました。

ちなみに倉田保昭さんは、眞栄田郷敦さんの父である千葉真一さんとライバルとされ、しばしば共演し、対決してきました。

そんな血筋だけでは到達できない。彼が磨き上げたオーラで、往年の邦画を連想させてしまう。これはただ事ではないと思いました。

エンドロールには、そんな倉田さんが率いる倉田プロモーションがアクション担当に並んでおりました。

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この映画に漂う往年の邦画らしさの謎が解けた気がします。

この作品はちょっと古いと思える箇所があるのですが、もっとこなれていけば、かえって昭和レトロの味わいとしてうまくマッチするのではないかと思えます。

玉木鶴見、舘土方という奇跡

若い頃はキラキラした美形だった。微笑むだけで観客が入る。

そんな役者は言うまでもなく素敵です。

それが歳をとり、不惑を過ぎたところで、癖のある役を演じる。

キラキラ時代からは想像もつかないほど癖の強い悪党を楽しそうに演じる。こんな瞬間を見ることも、至福のときです。

キラキラ感では、もう若手に勝てない。そのぶん積み重ねてきた演技力や表現で、新しい魅力を切り開くのですから。

この映画でそこに挑んでいるのが玉木宏さんです。

あの額当てをつけ、火傷のあとがあるのに、ふっとその下から優しく甘い顔が見える。そんな鶴見を、これ以上はないと思えるほど演じています。

しかも鶴見に欠かせない、ゲームを遊んでいるような軽快さや不穏さも出ている。

彼のファンであればこの覚醒を見逃すことはできないのではないか。そう思える熱演です。

この演技で、彼はキャリアをまた一歩大きく踏み出したのだと思うと、実に素晴らしいことだと思えます。

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生き延びて年老いた土方を演じられるのは、もう舘ひろしさんしかそもそもいなかったのではないか?

そう思えるほど、土方も素晴らしい。この土方は白い髭と皺の下から、バラガキと呼ばれた頃のやんちゃな顔がチラリと時々のぞきます。

若い頃、ワイルドでやんちゃであった彼だからこそ、説得力があります。

銀行強盗をして、馬に乗っていく場面は心の底から、なんて素晴らしいのかと感動が湧き上がってきました。

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この作品は基本的に全員適役であり、ミスキャストはおりません。

それでも演技力やキャリアによって、原作にあえてひとつまみ加えることで実写化する意義がさらに増すと思えます。

原作を再現するだけでも十分だけども、あえて上を目指すものがあればさらによくなるのでしょう。

気になる点がないわけでもないが

この作品は、前半よりも後半が盛り上がっていく印象でした。それは役者の演技によるものがあるかと思います。

杉元とアシㇼパは、丁寧で誠実で、固くなっているようにすら思えます。

前半は、原作にあったセリフのクセや、ちょっと古いと思える雑味がありました。

説明台詞が多いわりに、説明不足で原作未読者がついてこられるのか? そこが気になってしまうのも、本作の宿命的な欠点といえます。

そして、映画版を見て、改めて痛感させられました。

この作品は情報量が多い。近代史知識必須であると。さらに北海道独自の歴史や事情も加わるため、厳しいものはあるかもしれません。

だからこそ、ともかく見て感じて面白いように、さまざまな工夫をこらし、盛り上げていく工夫がある。引き込む工夫がある。それも静と動の両方があります。

静謐なコタンで料理を食べる場面のあたたかさ。馬車の上で激しく戦う動。どちらも魅力があります。

先ほど本作にミスキャストはいないと書きましたが、アシㇼパは年齢が少し高すぎると思えました。

山田杏奈さんは素晴らしいですし、幼く見える顔立ちです。それでもアシㇼパは子どもだということが重要ですので、そこは気になりました。

アイヌルーツの出演者が、秋山デボさんしかいない点は惜しまれます。

マイノリティを扱う作品では、オーディションをして、ルーツの一致する新人を起用することが近年世界標準となりつつあります。

本作が十年前ならば気にならなかったことかもしれませんが、現在ですとどうしてもそこがひっかかってしまいます。

私としては、チカパシやエノノカにアイヌルーツの子役が起用されたらよいのではないかと思います。

そして原作が長いこと。

映画をどこまで続けるのか。ドラマ化するのか。長い原作だけに、完結するのかどうかは気になります。

本作の脚本はうまくまとまっています。

原作を換骨奪胎しながら基本的な要素を失わないという点で、ドラマ10『大奥』に次ぐ出来だと私は思います。

完結した話でもあるため、伏線の張り方はむしろ工夫できるはずです。

最終盤が若干駆け足気味の原作を上方修正することも期待できます。

実写版が完結して『ゴールデンカムイ』は完成する――そんな未来を夢見たくなるほど、この映画版は素晴らしいものでした。

漫画作品の映画化として、邦画ではひとつの頂点に立ったと思えます。

そんな天下をとった作品だからこそ、私を含め、要望し、苦言を呈するものは出てきます。

それをケチつけられたとファンダムでギスギスするのではなく、天下人の務めだと前向きに捉えていただければと思います。

期待が大きいものは、それだけ責任も伴う。

だからこそ、本作はよりよい邦画として、二歩先、三歩先を期待されてしまうのでしょう。

もちろん私も期待しています。

https://bushoojapan.com/hiscontents/2024/07/08/179352

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