現代ビジネス5/2(火) 6:56配信
知識とは次から次へとつながるもの。『齋藤孝の大人の教養図鑑』では、齋藤孝先生の連想によって、一つの知識から次の知識へと、どんどんつながっていきます。そのつながりには、オーソドックスなものもありますが、時にはとんでもないジャンプがあることもあります。
今回は、その一部、「腸内細菌」→「免疫細胞」→「mRNAワクチン」→「サーペント・マウンド」→「アメリカ先住民 イシ」の大ジャンプをご紹介します。
*本記事は、『齋藤孝の大人の教養図鑑』から、内容を再構成してお届けします。
腸内細菌が免疫を強くする?
ヒトの体には、皮膚、口腔内、腸内などに、数百兆個の常在菌が存在しており、ヒトはいわば細菌との共生生物といえる。なかでも、腸内には、1000種以上、約百兆個もの細菌が存在しており、消化や吸収に役立っているだけでなく、免疫にも大きく関わっているとされている。
腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、どちらでもない日和見菌と、3つに分けられる。善玉菌は乳酸菌やビフィジス菌、酪酸菌、悪玉菌はウェルシュ菌やブドウ球菌など。善玉菌が多いほうがよいわけではなく、大切なのはバランスである。
腸には全身の免疫細胞のおよそ7割が集まっているとされ、腸内細菌は、各種T細胞を増やしたり、抗体IgAやIgEなどの産生の増強に関わっていると考えられている。免疫を強化して感染を防ぐだけでなく、免疫の異常反応であるアレルギー反応にも、腸内細菌のバランスが関係していると考えられている。
腸内細菌と連携して体を守っているのが、免疫細胞ですが、一口に免疫細胞といっても、いろいろな種類とはたらきがあります。
免疫細胞にはどんな種類があるのか?
いわゆる白血球が免疫細胞である。その種類は多く、主なものに、単球、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球)、リンパ球(B細胞、T細胞、NK細胞)がある。さらにリンパ球は機能によって種類が分かれている。たとえば、T細胞は、キラーT細胞、ヘルパーT細胞、制御性T細胞に分かれる。
分化(変化)して別の細胞へと成長する免疫細胞も多く、たとえば単球はマクロファージに分化し、死んだ細胞や細菌などを取り込んで分解する。
免疫のはたらきかた 自然免疫と獲得免疫とは?
自然免疫では、体に病原体などの異物が侵入したときに、好中球、マクロファージなどの貪食細胞が異物を食べて除去する。
いっぽう、獲得免疫のはたらきかたは、ヘルパーT細胞がマクロファージや樹状細胞から病原体の抗原情報を得て、他の免疫細胞に指令を出す。指令に基づき、B細胞は抗体をつくり、キラーT細胞は病原体を攻撃する。得られた抗原情報は記憶細胞が維持する。
ワクチンなどで得られた抗原情報を記憶細胞がもっていれば、感染時にはその病原体に対する抗体がすみやかに産生される。
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獲得免疫と言えば、新型コロナ対策でつくられたのは、mRNAワクチンです。
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質をつくる遺伝情報の設計図=mRNAを投与して免疫を獲得するというものでした。
がんも治せる? mRNAワクチンのしくみとは?
生命をかたちづくる材料であるタンパク質の設計図(配列情報)はDNAにあるが、DNAからタンパク質の設計図をコピー(転写)したものがmRNA(メッセンジャーRNA)だ。mRNAはリボソームで翻訳されて、設計図通りのタンパク質が合成される。
新型コロナワクチンの場合は、ウイルスが細胞に取りつくためのスパイクの設計図をコピーしたmRNAを細胞に取り込ませ、スパイクタンパク質を産生する。つくられたスパイクタンパク質の情報(抗原情報)が免疫細胞に伝わり、B細胞によって、新型コロナウイルスに対する抗体がつくられる。
そして、その抗原情報は記憶細胞に保持され、新型コロナウイルスが体に侵入すると、再び抗体がつくられるというわけだ。mRNAワクチンは、がん特有の抗原に対応した、がんワクチンへの応用も期待されている。
mRNAワクチンにつかわれる、RNAはDNAのような二重らせんではなく、1本鎖の核酸です。その形はまるでヘビがうねっているように見え、そのさまは、まるで上空から見たサーペント・マウンドのようです。ヘビは脱皮を繰り返すことから、生命の象徴とも神の化身ともされていました。
謎の建造物 サーペント・マウンドとは?
サーペント・マウンドは、尾を巻いたヘビをかたどった塚で、アメリカ合衆国のオハイオ州で発見された。北アメリカには、動物の形をした塚=エフィジー・マウンドがたくさん発見されており、いずれも古代のアメリカ先住民によって建造された。
エフィジー・マウンドの多くは鳥の形をしているが、ヘビやクマ、カメなどもよく見られる。サーペント・マウンドは、これまでに見つかっているエフィジー・マウンドのなかで最大級の規模を誇っており、全長約400m高さ90cmにもなる。
建造された時期については現在も議論が続いているが、1990年代の発掘調査で行われた放射性炭素年代測定法によると、最大で約900年前の建造時期とされた。
その建造目的についても謎が多いが、発掘調査では埋められた装飾品などの遺物はいっさい見つかっていない。墳墓の可能性はなく、主に宗教的な機能を持っていたと考えられている。
古代のアメリカ先住民にとって、ヘビは神の化身であり、その形をかたどるサーペント・マウンドは、病気を治癒したり狩猟の成功をもたらしたりしてくれる、聖なる力を宿す場所であったと言われている。
アメリカ先住民と言えば、ネイティブ・アメリカンのイシ(1860頃─1916)の人生はドラマチックで示唆に富んでいます。その生涯は、『イシ 北米最後の野生インディアン』(岩波書店)で読むことができます。
「イシ」の意味すること。そしてその「数奇な運命」
アメリカ先住民ヤヒの言葉で「人間」を意味し、最後のヤヒ人につけられた名前。名づけたのは、アメリカの文化人類学者アルフレッド・L・クローバー。その理由は、誰もイシの本名を知ることができなかったから。
ヤヒの間では、本名を口に出すことは忌避されており、他のヤヒに紹介してもらうことで初めて名乗ることができた。当時、イシ以外のヤヒ人はすでにおらず、彼は生涯本名を口にすることはなかった。
19世紀、ゴールドラッシュでカリフォルニアに多くの白人入植者が集まると、食料や水をめぐって先住民グループと対立が起こるようになった。1865年頃から先住民に対する虐殺が始まり、400人程いたヤヒは飢餓や虐殺によって数十年で激減した。
イシとその家族は、長い間、白人入植者による虐殺から逃れながら暮らしていたが、やがて、イシは最後の一人となった。1911年、カリフォルニア北部の町オーロビル付近で発見されて牢屋に入れられるが、イシの存在を聞きつけたアルフレッド・L・クローバーとT.T.ウォーターマンに保護される。
イシは、二人が勤めていたカリフォルニア大学バークレー校の文化人類学博物館に住むようになり、結核で亡くなるまでヤヒ文化の研究に協力した。
1916年にイシが亡くなり、ヤヒは地球上から姿を消した。
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「腸内細菌」→「免疫細胞」→「mRNAワクチン」→「サーペント・マウンド」→「アメリカ先住民 イシ」の大ジャンプはいかがだったでしょうか?
「mRNAワクチン」→「サーペント・マウンド」のジャンプはちょっと強引に見えるかもしれませんが、生命の設計図であるDNAの二重らせんを、小説などではからみあうヘビのように表現することもありますし、脱皮を繰り返すヘビは「死」と「再生」の象徴ともされることがあります。
日本ではネズミなどの害獣を獲物とし、水田でよくみられたことから「豊穣」の象徴ともされていました。お正月にかざる「鏡餅」もヘビのすがたを模したものだという研究もあります。
さて、次回は、「ガンディー」→「リューベック」→「ヴェニスに死す」→「ノイシュバンシュタイン城」の大ジャンプをご紹介します。
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齋藤孝の大人の教養図鑑
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齋藤 孝
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