ニューズウイーク12/23(金) 18:05配信
──冷却不良によって徐々に熱が蓄積し、クルーの帰還に使われるフライト・コンピュータが正常に稼働しないおそれがある
ロシアが運用し、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングしている有人宇宙船「ソユーズMS-22」において、冷却水漏れが発生した。
12月15日に起きたこの事故について、米技術サイトのアーズ・テクニカが、現在までに判明している事態と影響を解説している。フライト・コンピュータに影響が及ぶおそれもあり、同サイトで宇宙関連を担当する編集者のエリック・バーガー氏は、ISS史上「最も深刻なインシデントのひとつ」だと見る。
■ 船体を冷やす冷却水、ほぼ完全に失われたか
漏洩は15日、ソユーズの居住区画外部で発生した。機材を収容しているスペースの外装が破損し、その際にセンサーが冷却システムの圧力低下を検知した。ソユーズの冷却水漏れは人の手で止めることができず、現在までに冷却水はほぼ完全に失われたとの見方がある。
冷却水漏れの原因として、外部から飛来した物体により冷却水ラインが損傷したと考えられている。米CBSニュースは、スペースデブリあるいはマイクロメテオロイド(ごく小さな天然の流星物質)が衝突した可能性があると報じている。ISSの船外カメラの映像からは、小さな穴が確認された。
現在、NASAおよびロシア国営宇宙開発企業のロスコスモスは、事故の影響を評価している。
米テックサイトのアーズ・テクニカは、冷却水の喪失により、ソユーズが帰還する軌道を計算するためのフライト・コンピュータが過熱するおそれがあるとする独自の分析を示している。
記事は「宇宙ステーションに滞在中の7人の宇宙飛行士にただちに危険が及ぶことはない」と前置きしながらも、「これは四半世紀近く使用されているこの軌道上のラボの歴史において、最も深刻な事故のひとつだ」と指摘する。
■ クルー帰還時の軌道計算に影響のおそれ
折しもISSは現在、軌道面と太陽との角度を示す「太陽ベータ角」が大きい時期にある。これはISS全体の日照時間が長いことを意味しており、船体が過熱しやすい状況だ。アーズ・テクニカは、「このことから、時間が経つにつれフライト・コンピューターがオーバーヒートするおそれがある」と分析している。
また、フライト・コンピューターは船体の深部に設置されているため、どこかのハッチを開けて冷気を送り込むのも難しい状況だという。さらに、現在確認されている問題は冷却水漏れのみだが、スペースデブリやマイクロメテオロイドがほかの装備を貫いた可能性も否定できない。
フライト・コンピューターは、ソユーズがカザフスタンの着陸地域内に帰還できるよう、再突入の軌道を正確に計算するために使用されている。仮にこのコンピューターが動作不良に陥る危険性があると判断されれば、現在ISSにドッキング中のソユーズによって宇宙飛行士を帰還させることはリスクとなる。
手動で計算をおこなう方法も残されてはいるが、着陸予測エリアが広くなるおそれがある。着陸後のクルーたちの回収に手間取ることが予想され、最適解ではないと同記事は指摘する。コンピュータの温度の推移次第では、予定を繰り上げて一部の宇宙飛行士を早期に帰還させるなど、何らかの対応が求められる可能性もあるという。
■ 一時は「室温50度」の誤報も ロシア当局は否定
事故後は一部、誤報も出回った。冷却に問題が生じたことから、ソユーズの船内温度が50度にまで上昇したとの情報が「関係筋」の話として一部で報じられた。
ロシアのタス通信によると、ロスコスモスは16日、これを否定した。居住区画の温度を測定したところ、通常よりは上昇が見られたが、約30度であったという。ロスコスモスは「些細な変化だ」と強調している。同社はまた次のように述べ、安全性を強調した。
「現時点で温度変化は、機材の使用やクルーの快適性にとって致命的なものではない」
「状況は許容範囲内であり、宇宙飛行士たちの生命や健康に対する脅威とはなっていない。ソユーズ宇宙船MS-22の居住区画に求められる温度は、ISSのロシアセグメントのリソースによって維持されている」
■ ソユーズ不調なら、クルーの輸送はバックアップなしの単機体制に
事故の影響を受け、NASAは12月21日、幹部職員らが電話会議を通じて対応を協議すると発表している。
一方、ISSの現場では、事故前から計画されていた船外活動を予定通り実施する。NASAの宇宙飛行士2名が船外にて、ロールアウト式太陽電池アレイ増設のための活動に当たる。船内では、米先住民族として初めて宇宙へ飛び立ったNASAのニコール・マン宇宙飛行士と、日本のJAXAの若田光一宇宙飛行士が共同でロボットアームを操作し、船外の飛行士らをサポートする。
宇宙ポータルのスペース.comによると、ロスコスモスは現在、冷却水を失ったソユーズがミッションに耐え得るかを評価している。
飛行に耐えないと判断された場合に懸念されるのが、クルーの輸送体制だ。同記事は、「このソユーズは、SpaceXの『クルー・ドラゴン』カプセル型宇宙船と並び、ISSへ宇宙飛行士たちを輸送しているわずか2台の宇宙船の1つである」と指摘している。
ソユーズが使用不可と判断されれば、2023年4月にボーイング社の「スターライナー」カプセル型宇宙船が加わるまで、クルー・ドラゴン1機体制での運用となる。
輸送機はクルーの生命線でもあるだけに、今後の動向が注視される。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2fffd359c51eb7b2fd6df32ad8e5dbe12fb00044
──冷却不良によって徐々に熱が蓄積し、クルーの帰還に使われるフライト・コンピュータが正常に稼働しないおそれがある
ロシアが運用し、国際宇宙ステーション(ISS)にドッキングしている有人宇宙船「ソユーズMS-22」において、冷却水漏れが発生した。
12月15日に起きたこの事故について、米技術サイトのアーズ・テクニカが、現在までに判明している事態と影響を解説している。フライト・コンピュータに影響が及ぶおそれもあり、同サイトで宇宙関連を担当する編集者のエリック・バーガー氏は、ISS史上「最も深刻なインシデントのひとつ」だと見る。
■ 船体を冷やす冷却水、ほぼ完全に失われたか
漏洩は15日、ソユーズの居住区画外部で発生した。機材を収容しているスペースの外装が破損し、その際にセンサーが冷却システムの圧力低下を検知した。ソユーズの冷却水漏れは人の手で止めることができず、現在までに冷却水はほぼ完全に失われたとの見方がある。
冷却水漏れの原因として、外部から飛来した物体により冷却水ラインが損傷したと考えられている。米CBSニュースは、スペースデブリあるいはマイクロメテオロイド(ごく小さな天然の流星物質)が衝突した可能性があると報じている。ISSの船外カメラの映像からは、小さな穴が確認された。
現在、NASAおよびロシア国営宇宙開発企業のロスコスモスは、事故の影響を評価している。
米テックサイトのアーズ・テクニカは、冷却水の喪失により、ソユーズが帰還する軌道を計算するためのフライト・コンピュータが過熱するおそれがあるとする独自の分析を示している。
記事は「宇宙ステーションに滞在中の7人の宇宙飛行士にただちに危険が及ぶことはない」と前置きしながらも、「これは四半世紀近く使用されているこの軌道上のラボの歴史において、最も深刻な事故のひとつだ」と指摘する。
■ クルー帰還時の軌道計算に影響のおそれ
折しもISSは現在、軌道面と太陽との角度を示す「太陽ベータ角」が大きい時期にある。これはISS全体の日照時間が長いことを意味しており、船体が過熱しやすい状況だ。アーズ・テクニカは、「このことから、時間が経つにつれフライト・コンピューターがオーバーヒートするおそれがある」と分析している。
また、フライト・コンピューターは船体の深部に設置されているため、どこかのハッチを開けて冷気を送り込むのも難しい状況だという。さらに、現在確認されている問題は冷却水漏れのみだが、スペースデブリやマイクロメテオロイドがほかの装備を貫いた可能性も否定できない。
フライト・コンピューターは、ソユーズがカザフスタンの着陸地域内に帰還できるよう、再突入の軌道を正確に計算するために使用されている。仮にこのコンピューターが動作不良に陥る危険性があると判断されれば、現在ISSにドッキング中のソユーズによって宇宙飛行士を帰還させることはリスクとなる。
手動で計算をおこなう方法も残されてはいるが、着陸予測エリアが広くなるおそれがある。着陸後のクルーたちの回収に手間取ることが予想され、最適解ではないと同記事は指摘する。コンピュータの温度の推移次第では、予定を繰り上げて一部の宇宙飛行士を早期に帰還させるなど、何らかの対応が求められる可能性もあるという。
■ 一時は「室温50度」の誤報も ロシア当局は否定
事故後は一部、誤報も出回った。冷却に問題が生じたことから、ソユーズの船内温度が50度にまで上昇したとの情報が「関係筋」の話として一部で報じられた。
ロシアのタス通信によると、ロスコスモスは16日、これを否定した。居住区画の温度を測定したところ、通常よりは上昇が見られたが、約30度であったという。ロスコスモスは「些細な変化だ」と強調している。同社はまた次のように述べ、安全性を強調した。
「現時点で温度変化は、機材の使用やクルーの快適性にとって致命的なものではない」
「状況は許容範囲内であり、宇宙飛行士たちの生命や健康に対する脅威とはなっていない。ソユーズ宇宙船MS-22の居住区画に求められる温度は、ISSのロシアセグメントのリソースによって維持されている」
■ ソユーズ不調なら、クルーの輸送はバックアップなしの単機体制に
事故の影響を受け、NASAは12月21日、幹部職員らが電話会議を通じて対応を協議すると発表している。
一方、ISSの現場では、事故前から計画されていた船外活動を予定通り実施する。NASAの宇宙飛行士2名が船外にて、ロールアウト式太陽電池アレイ増設のための活動に当たる。船内では、米先住民族として初めて宇宙へ飛び立ったNASAのニコール・マン宇宙飛行士と、日本のJAXAの若田光一宇宙飛行士が共同でロボットアームを操作し、船外の飛行士らをサポートする。
宇宙ポータルのスペース.comによると、ロスコスモスは現在、冷却水を失ったソユーズがミッションに耐え得るかを評価している。
飛行に耐えないと判断された場合に懸念されるのが、クルーの輸送体制だ。同記事は、「このソユーズは、SpaceXの『クルー・ドラゴン』カプセル型宇宙船と並び、ISSへ宇宙飛行士たちを輸送しているわずか2台の宇宙船の1つである」と指摘している。
ソユーズが使用不可と判断されれば、2023年4月にボーイング社の「スターライナー」カプセル型宇宙船が加わるまで、クルー・ドラゴン1機体制での運用となる。
輸送機はクルーの生命線でもあるだけに、今後の動向が注視される。
https://news.yahoo.co.jp/articles/2fffd359c51eb7b2fd6df32ad8e5dbe12fb00044