北海道新聞04/01 09:46

記念館スタッフは月1回集まり、館の運営や新たな翻訳について話し合う
アイヌ文化の伝承者、知里幸恵がつづった「アイヌ神謡集」の序文に当たる「序」の翻訳は、人から人へと紡がれているのが特徴だ。
「『アイヌ神謡集』をあなたの言葉で書いてもらえませんか」。幸恵の故郷、登別市の「知里幸恵 銀のしずく記念館」はホームページに英語でこう記した。留学生のネットワークを使った翻訳とともに各国の友人や地元在住の外国人、観光客らに協力を呼びかけた。
協力の申し出はフィンランド語、スウェーデン語、ギリシャ語、ベトナム語などの翻訳に広がった。スタッフの清野良憲さん(76)は「神謡集の魅力を知った人が、一人、また一人と自発的に翻訳してくれた」という。
■人から人へ紡ぐ
個人それぞれが幸恵の功績や思いを伝えていく。その姿勢は、幸恵の生き方に魅了された人が自ら伝達役を担う記念館のあり方とも結び付く。
記念館は2010年、登別市内の幸恵や幸恵の弟の真志保の生家の敷地に建った。資金は延べ約2500人からの寄付金3200万円。行政などの公的資金には頼らなかった。
アイヌ神謡集の初版本や幸恵の手紙などゆかりの品を所蔵する178平方メートルの館内。スタッフは手弁当で幸恵にまつわる知識やエピソードを来館者に伝えている。
■魅力の再認識を
記念館の設立に力を尽くした北大名誉教授の小野有五さん(74)は語る。「記念館が草の根の活動を貫いているのは、知里幸恵の生涯に共感し、心を寄せた人の手でアイヌ文化を継承したいという思いの表れ。翻訳も、その流れを継いでいる」
北大大学院の中国人留学生馬長城さん(36)から19年に届いた「翻訳を担いたい」というメール。記念館のスタッフたちは当時、心を躍らせたという。幸恵の思いを伝えるリレーがつながっていく可能性を感じたからだ。
20年には胆振管内白老町にアイヌ文化の復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」が開業するなど、アイヌ民族の文化の伝承の取り組みが広がる。記念館館長の金崎重弥さん(76)は「身近な言語で『序』を読んだ時、幸恵の思いをさらに感じることができる。巨大な展示施設はあっても、この記念館にしか伝えられないことがある」と力を込める。
今は各国の主要言語に加え、それぞれの国の方言による「序」の翻訳や、訳文を音声化する構想も進む。「翻訳の広がりは、アイヌ民族の人たちに自分たちの文化の素晴らしさを再認識してもらうことにもつながる。それが記念館が最も成し遂げたいことなのです」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/664052


記念館スタッフは月1回集まり、館の運営や新たな翻訳について話し合う
アイヌ文化の伝承者、知里幸恵がつづった「アイヌ神謡集」の序文に当たる「序」の翻訳は、人から人へと紡がれているのが特徴だ。
「『アイヌ神謡集』をあなたの言葉で書いてもらえませんか」。幸恵の故郷、登別市の「知里幸恵 銀のしずく記念館」はホームページに英語でこう記した。留学生のネットワークを使った翻訳とともに各国の友人や地元在住の外国人、観光客らに協力を呼びかけた。
協力の申し出はフィンランド語、スウェーデン語、ギリシャ語、ベトナム語などの翻訳に広がった。スタッフの清野良憲さん(76)は「神謡集の魅力を知った人が、一人、また一人と自発的に翻訳してくれた」という。
■人から人へ紡ぐ
個人それぞれが幸恵の功績や思いを伝えていく。その姿勢は、幸恵の生き方に魅了された人が自ら伝達役を担う記念館のあり方とも結び付く。
記念館は2010年、登別市内の幸恵や幸恵の弟の真志保の生家の敷地に建った。資金は延べ約2500人からの寄付金3200万円。行政などの公的資金には頼らなかった。
アイヌ神謡集の初版本や幸恵の手紙などゆかりの品を所蔵する178平方メートルの館内。スタッフは手弁当で幸恵にまつわる知識やエピソードを来館者に伝えている。
■魅力の再認識を
記念館の設立に力を尽くした北大名誉教授の小野有五さん(74)は語る。「記念館が草の根の活動を貫いているのは、知里幸恵の生涯に共感し、心を寄せた人の手でアイヌ文化を継承したいという思いの表れ。翻訳も、その流れを継いでいる」
北大大学院の中国人留学生馬長城さん(36)から19年に届いた「翻訳を担いたい」というメール。記念館のスタッフたちは当時、心を躍らせたという。幸恵の思いを伝えるリレーがつながっていく可能性を感じたからだ。
20年には胆振管内白老町にアイヌ文化の復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」が開業するなど、アイヌ民族の文化の伝承の取り組みが広がる。記念館館長の金崎重弥さん(76)は「身近な言語で『序』を読んだ時、幸恵の思いをさらに感じることができる。巨大な展示施設はあっても、この記念館にしか伝えられないことがある」と力を込める。
今は各国の主要言語に加え、それぞれの国の方言による「序」の翻訳や、訳文を音声化する構想も進む。「翻訳の広がりは、アイヌ民族の人たちに自分たちの文化の素晴らしさを再認識してもらうことにもつながる。それが記念館が最も成し遂げたいことなのです」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/664052