Viewpoint-2015/9/23
政府は国交相に不服申し立てへ、行政訴訟になれば県が不利か
翁長(おなが)雄志(たけし)知事が14日、辺野古公有水面埋め立ての承認取り消しの手続きに入ったことを表明した。沖縄防衛局は意見聴取に応じないと県に伝え、取り消しは決定的になった。また、知事は国連の先住民の人権に関する会議で演説。多くの県民から反発を買う結果を招いた。(那覇支局・豊田 剛)
翁長知事、国連先住民会議で演説
自民党県連「世界に誤解与える発言」
辺野古移設 埋立承認取り消し決定的に
辺野古沖の埋め立て承認取り消し計画を表明した翁長雄志知事=14日、那覇市の沖縄県庁
「県は去る7月16日、埋め立て承認の法律的な瑕疵を検証する第三者委員会の検証結果報告を受け、関係部局において内容などを精査した結果、瑕疵があるものと認められました」
こう述べた翁長氏は14日付で井上一徳・沖縄防衛局長に意見聴取にかかる通知書を出したことを明らかにした。取り消しに関する意見聴取の期日として9月28日を指定した。反論の機会を与えるというのが名目上の理由だ。
これに対し、沖縄防衛局は意見聴取に応じないことを県に口頭で伝えるとともに文書を送った。これで取り消しが決定的になった。政府は行政不服審査法による不服申し立てを国交相に行うなどで対抗することになる。行政訴訟で法廷闘争となれば、政府の側が有利とみられる。
記者会見で裁判の「勝算」について聞かれると、翁長氏は「現段階での言及は控える」と述べるにとどめた。
なお、県が公表した文書によると、埋め立て承認取り消しの理由として、①普天間飛行場が他県に移転しても4軍(陸軍、海軍、空軍、海兵隊)の基地が残り、抑止力が低下することはない②いったん埋め立てられると現状の自然への回復が不可能になる③埋め立ては米軍基地の固定化を招く――などを挙げた。環境影響については、海草藻場の消失、サンゴへの影響、ジュゴンへの影響、埋立土砂搬入による外来種の進入の懸念、航空機による低周波音などを指摘した。
県の指摘は米軍における兵站(へいたん)や航空部隊など一体運用の必要性や周辺諸国の状況を踏まえた地政学的観点が欠如している。
宜野湾市の佐喜真淳市長は、知事が危険性除去に触れなかったことに遺憾の意を示し、返還合意当時の大田昌秀知事のコメント「普天間が街のど真ん中にあり、人命の危険への懸念が強い」が返還合意の原点との見方を示した。
また、自民党県連の元幹部は「取り消しが決定的となり、これでいよいよ問題は決着したに等しい。国と裁判すれば負けるのは明らかだ」とした上で、「知事は最後まで政府に立ち向かったという体裁が保てればいいのであろう」と述べた。
翁長知事は引き続き、21、22日にスイスのジュネーブで開かれた国連人権理事会の先住民族問題を扱う会議に出席、米軍普天間飛行場の辺野古移設計画を沖縄の自己決定権に反する人権問題として取り上げた。
それに先立ち、自民党県連は17日、要請書を提出した。文書の名前は「翁長知事の国連演説に対して沖縄県として『琉球人・先住民』としての意思決定がない中で、先住民族の権利を主張する国際的な場において翁長知事が演説することに懸念し、慎重発言を求める要請書」だ。
「基地問題は政治の責任で、知事を先頭に交渉力で解決すべき国内問題」とした上で、「沖縄県民であると同時に日本人であることに誇りを持って生きていて、『琉球人・先住民』として権利が侵害され差別されているという考えには違和感ある」と指摘。知事の国連演説は世界に誤ったメッセージを送ることになると危惧を表明。
具志孝助幹事長は、基地負担の問題は人権蹂躙(じゅうりん)ではなく、すなわち、人権問題ではないと強調した上で、「先住民」という言葉を使って国際社会に誤解を与えることがないよう釘(くぎ)を刺した。
また、それに先立ち、石垣市議会は15日、同市に属する尖閣諸島が日本固有の領土であることを取り上げるよう求める意見書を与党の賛成多数で可決した。意見書を提出した砥板(といた)芳行市議は、中国が一方的な領有権主張と力で現状変更しようとたくらんでいて、「沖縄県民の人権を侵害している事実を沖縄県民の代表として主張しなければならない」と訴えた。
県内11市のうち那覇と名護を除く9市の保守系市長はこのほど、「沖縄の振興を考える保守系市長の会」を結成した。会長に就任した宮古島市の下地敏彦市長は、「知事が政府と対立したままだと離島振興もおぼつかない」との理由で、昨年の知事選で仲井真弘多(ひろかず)前知事を支援していた市長らに呼び掛けた。
最近、翁長知事から「オール沖縄」という言葉があまり聞かれなくなったのもそのためだろう。
https://vpoint.jp/okinawa/49703.html