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<チェルケス人>シリア戦火逃れ 北カフカス帰郷相次ぐ

2013-02-11 | 先住民族関連
毎日新聞 2月8日(金)20時32分配信
 内戦状態が続くシリアから、ロシアの北カフカス地方に移り住むチェルケス人が急増している。中東などに広範なコミュニティーを持つチェルケス人にとって北カフカスは、1世紀半前に帝政ロシアの圧迫で離れざるをえなかった「民族の故郷」。シリアの戦火が帰還の機運を高めている形だ。
 シリアの首都ダマスカスで技師として働いていたショウカットさん(68)は昨年春、妻イプティサムさん(63)、36歳と31歳の息子2人と北カフカスにあるカバルジノ・バルカル共和国の首都ナリチクに移住した。一家が暮らすのは、ソ連時代に建てられたサナトリウム(保養施設)の一室。施設はシリアからの帰還民に提供されており、現在38部屋に56人が滞在している。
 「曽祖父が今のシリアに逃れた。父から北カフカスが故郷であることを聞き、いつか戻りたいと思っていた。シリア情勢の悪化で帰還を決断した」とショウカットさん。仕事はまだ見つかっていないが、地元の人が食事などを支援してくれており、「不自由はしていない」と話す。
 在外チェルケス人の受け入れ支援のため08年に設立された地元の市民組織「前衛」によると、中東に住むチェルケス人の北カフカス移住はソ連崩壊前後から見られるようになり、年に100人程度が入ってきていた。だが、内戦激化に伴うシリアからの移住者が急増し、最も多いカバルジノ・バルカル共和国では昨年だけで約500人にのぼった。移住者は近隣のカラチャイ・チェルケス、アディゲ両共和国にも来ている。シリアでは今も約2000人のチェルケス人が帰還を希望しているという。
 しかし、移住後の環境は厳しい。「前衛」の代表でシリアからナリチクに移住したアフマド・スタシュさん(39)によると、帰還者はロシア語が話せず、日常生活や職探しで苦労するケースが多い。特に技能労働者はロシア語ができないと就労できず、「前衛」ではロシア語教室を開いてサポートしている。
 また、ロシア政府は国外のチェルケス人を「同胞」と認定していない。このため、ソ連崩壊で独立した共和国に住む「同胞」ロシア人が本国に移住する場合に受けられる公的支援を得られない。通常の外国移民と同じ扱いとなり、毎年の受け入れ枠が制限されている。居住許可に煩雑な行政手続きが必要で、さらに市民権を取るには最低5年かかるという。
 政権側がチェルケス人の受け入れに消極的な理由として、中東のイスラム過激主義や、逆に「アラブの春」のような民主化運動がロシアに広がることを警戒しているともいわれる。在外チェルケス人組織の一部は、来年2月にロシア南部ソチで開かれる冬季五輪について「1864年に帝政ロシアによるチェルケス人大虐殺が起きた場所だ」として反対しており、政権は神経をとがらせている。
 これに対し、スタシュ代表は「シリアのチェルケス人でアサド政権支持または反体制派支持の人はごく少数で、9割は政治的に中立だ」と話す。シリアの内戦が泥沼化するなか、「チェルケス人はロシアを唯一の『庇護(ひご)者』としてみている。政府は我々の声をもっと聞いてほしい」と積極的な支援を求めた。【ナリチク(ロシア南部)田中洋之、写真も】
 ◇チェルケス人とは
 北カフカスの先住民で、19世紀にカフカス征服を進めた帝政ロシアの迫害を受け、多くが当時のオスマントルコ領内に逃れた。主にイスラム教を信仰する。現在ロシアに78万人が住み、国外ではトルコ(約400万人)、ヨルダン(約12万人)、シリア(約9万人)のほか米国やドイツなどに計500万人以上が暮らしているといわれる。
http://mainichi.jp/select/news/20130209k0000m030061000c.html

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【地球人間模様】@スウェーデン 民族の誇りと伝統

2013-02-11 | 先住民族関連
47NEWS-2013/02/08
サーミとして死ぬなら
故郷は「汚染地帯」に 原発事故から四半世紀
早春の雨が幼いマルグレット・フィエルストロームに降り注いだのは1986年4月29日、ソ連のチェルノブイリ原発が爆発して3日後の朝だった。トナカイを飼育する両親と暮らしていたスウェーデン北部の山あいで浴びた重く冷たい雨粒を、先住民族サーミのマルグレットは31歳になった今も覚えている。
 「トナカイと遊んでいたら大きな雨音がして…。土砂降りになったの」
 深い緑色の毛布を広げたような丘陵に湖沼が点在する美しい故郷は、その日を境に放射能の「汚染地帯」となった。
 事故のニュースが届いたのは数日後。それから約1年間は理由も分からぬまま、被ばく検査を繰り返し受けた。「体や生活がどうなっていくのか分からず、怖かった」。あれから四半世紀、マルグレットは北部ビョーナで、民族の誇りであるトナカイ飼育を引き継ぎ、安全な暮らしを取り戻す日を待ち続ける。

迫られた選択
 チェルノブイリが吐き出した放射性物質は千キロ以上離れた北欧上空にも達し、雨で地上に落下した。トナカイが冬季に好んで食べるハナゴケは「放射能のスポンジ」と呼ばれるほど放射性物質を吸収しやすい。
 深刻な影響を受けたのがサーミだ。事故間もない調査では、食用トナカイ肉の約8割がスウェーデン政府の定めたセシウム137の残留基準を超え、約3年間、販売が禁止された。
 地元の大学病院の放射線医療医師、レナート・ヨハンソン(60)は「成長の遅いハナゴケは動物に食べられない限り、約30年は生きる」と話す。自然と共存するサーミには欠かせない食料のキノコやコケモモなどのベリー類も残留量が多い。
 民族の権利向上を目指すサーミ議会の議員でもあるマルグレットは「サーミは選択を迫られた」と言う。トナカイと生きる自然との暮らしを捨てるか、放射能の影響を受け入れて生きるか。彼女は後者を選んだ。
 トナカイの皮靴をはき、肉を食べ、骨で狩猟道具をつくってきたサーミの伝統、「それを捨てたら、サーミではなくなる」。
自宅にある皮加工用の作業場で話をしていたマルグレットの目が一瞬、鋭くなった。
 「放射能のためにがんで死ぬかもしれない。でもサーミとして生きて、サーミとして死ぬなら仕方ない」。約10年前にスウェーデン人の夫ダニエル(30)と結婚し、少数民族の生活に飛び込もうとする夫の決意を知り、覚悟ができた。
 ダニエルはトナカイ飼育の合間に、ヘラジカを撃ちに山に入る。「一昨年、ヘラジカを売ろうとしたら、セシウム値が大きくて業者に拒否された」。ヘラジカはキノコを食べるためだ。
 その獲物はどうしたの?と聞くと、ダニエルは「もちろん食っちまったよ。俺の肉も規制値超えで売れないさ」と、野太い声で冗談を飛ばす。温かい笑顔の裏に、放射能と共存せざるを得ない冷たい現実が見えた。
 
現実と向き合う
 甲状腺に異常があり数年来治療を続けるマルグレット。事故に対する人々の関心が年々低くなっていることに、時々叫び出したくなる。「私たちはまだここにいる。放射能被害におびえて生きている」
 2人が飼っているトナカイは今でも、セシウムがキロ当たり4千〜5千ベクレルと高く、政府基準の1500ベクレルを大きく上回る。食肉用には柵の中で40〜50日間、人工飼料だけを与えて数値を下げてから出荷する。
 9歳と6歳の娘2人にはチェルノブイリ事故のことを話していない。出産前に「手が3本ある赤ちゃんが生まれたら」と心配したことを思い「汚染の事実が風化するなら、いっそ知らない方が良いのではないか」と沈黙を選んだ。
 だが、昨年春、次女リリーが、福島の原発事故のことを聞いてきた。「放射能って、目に見えないの?」「どんな悪いことがあるの?」
 同じことが私たちの故郷でも起きたのよ—。マルグレットはそう娘に伝え、一緒に現実と向き合う時が来たと感じ始めている。

数千年の歴史 失われる伝統の生活
 数千年前からスカンディナビア地方に住んでいたとされる先住民族サーミの人口は現在、推計で約7万人。うちノルウェーに約4万人、スウェーデン約2万人、フィンランド約7500人で、ロシアにも約2千人が暮らす。かつては移動式テントでトナカイを遊牧し、狩猟生活をしてきたサーミだが、次第に伝統の生活を失いつつある。
 サーミの遊牧生活に大きな影響を与えたのは、20世紀初頭に顕著になった工業化だった。スウェーデンやノルウェー北部で森林や鉱物資源を目当てにした開発が進み、数千年もの間、自然の恵みを 謳歌 (おうか) してきたサーミの伝統と利害が衝突した。
 スウェーデンのサーミは、トナカイの食性に合わせ夏の間は西部の山間部に滞在、冬は東部の平野部に移動するが、その距離は約800キロに及ぶ。放牧に必要な広大な土地は徐々に私有地化され、所有者とのあつれきも生じた。道路や建物の建設で移動がしにくくなり、トナカイ飼育を捨てて都市生活を始めるサーミも現れた。1986年のチェルノブイリ原発事故の影響もあり、スウェーデン政府によると、トナカイだけで生計を立てるサーミは10%程度まで減っていると推定される。
 80年代以降は各国でサーミ議会が創設され、民族の権利を主張し、学校でのサーミ語教育を促進するなど民族文化復興の動きも活発化している。(文・写真 半沢隆実、文中敬称略) 

「地球村」の人びとは今、何を喜び、なにゆえに悲しみ、日々の暮らしを送っているか。「@LOVE」では世界各地のラブストーリーを紹介。このほか「@コリア」「@チャイナ」「@アメリカ」「@その他地域」と五週を一クールとするこの企画では、地域ごとに主人公やテーマを立て、「今を生きる」人間模様を描く。
http://www.47news.jp/47topics/ningenmoyou/185.html

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