椰月美智子さんの短編集。主人公は全て、10代前半。彼らの心の中を覗き見るような面白さがそれぞれにあります。その中でも二つが秀逸でした。
ひとつは、「未来の息子」。コックりさんをしていた、14歳の女の子の前に、親指ぐらいの大きさのオヤジが現れました。彼女にしか見えない、会話ができない、その相手は何と、未来の自分の息子。未来とは73年後。彼は明日までの命。14歳の姿の自分の母親に、未来から、息子が母親への思いを告げ、73年前の彼女は、日常が1日、1日、続いて行き、この広い世界で、これから先、たくさんの人に出会い、別れがあることが、彼女の心に流れていきます。
もうひとつは、表題の「未来の手紙」。いじめを受けていた五年生のぼくは、未来のぼくへ、中学1年から32歳まで20年間分の、1年ごとの明るい目標を書いた手紙を書きました。それを投函し、ぼくの元へ届けられた手紙を、毎年1通ずつ読み、手紙の通り生きていくことを誓います。その手紙の通り、生きてきたぼくに、33歳になったある日、来るはずのない、身に覚えのない、「未来の手紙」が届きました。それは、悪夢の手紙でした。それから、ぼくの運命は下って行きます。そして、もう一通の手紙が・・・。彼の書いていた通りに進む人生の歩みはいかに?「思いは実現する」のであれば、どういう志を抱こうかと考えさせられます。
どの作品にも、人とのつながりの大切さが謳われています。あなたの周りの人のおかげで、あなたはいるのですね。
『未来の手紙』(椰月美智子著、光文社文庫、本体価格560円)