あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

「生きがい」と出会うために

2021-04-19 15:14:27 | 

 新型コロナウィルスの感染拡大で、何もかもが今まで通りに進まなくなりました。それは個々人の生きがいにも影響を少なからず与えています。持っていた生きがいが消えていきつつあったり、また見つけられなくなったりします。

 それでは、「生きがい」っていかにして見出すのか?

 本書は、「生きがいを求め、生きた人間の姿を表現しようとした」、精神科医の神谷美恵子著の『生きがいについて』を読み解き、どう生きるべきかを問うています。

 まず第一に、生きがいは作り出すものではなく、「発見する」ものです。

 それでは、どこから発見するのか?それに関しては、「すべての人の人生にすでに種子として存在しており、その種子を見出し、朽ちることのない生きがいの花を咲かせる」と述べています。つまり、自身の中に宿しているものを発見せよ!ということです。

 発見のカギは何か?「他者がかけがえのない存在だと感じるとき、自分が単に生きているのではなく、生かされている」という視点を抱くことが大切で、生きがいが自分のためだけではなく、他者、広くは人類や地球、宇宙にまで関与するものであれば本物なのでしょう。宗教以前の霊性にも言及し、「自分が何か大きなものに包まれている実感」と書かれているのは、生かされている存在を意識することにつながるかと考えます。

 だからこそ、「より丁寧に生きること」「個に起こった出来事を深めること、その道行きこそが、もっとも確実な普遍へと続く」としています。「いま、ここ」に集中することを意味すると思います。

 1966年初版の『生きがいについて』は読み継がれていく本になると信じます。

『「生きがい」と出会うために 神谷恵美子のいのちの哲学』(若松英輔著、NHK出版、本体価格1,400円、税込価格1,540円)

 

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日本が売られる

2021-04-15 16:19:23 | 

 2018年の本を今さら読みましたが、既知のこともわずかながらありましたが、未知のことが多くて恐ろしい。日本の資産、未来が知らぬ間に奪われているのは取り返しのつかないことになります。それも国にとっての安全保障につながることが、こっそりと法律まで改変、いや改悪され、規制を無くし、官の事業を民営化した上で、株主を喜ばせるために4半期の利益の増大を図る「今だけカネだけ自分だけ」のビジネス論理に基づくグローバル企業に一網打尽のごとく持っていかれている現実は許しがたいことです。

 特に腹立たしいのは、遺伝子組み換えのタネとそれに対応した農薬を合わせて製造販売する化学メーカーの戦略です。本書に掲載されている農薬使用量と自閉症、広汎性発達障害の発症率のグラフは驚愕の相関であり、日本は単位面積当たりの農薬使用量が極めて多い。食という漢字は「人」を「良くする」と書きますが、安全な食は健康だけでなく、国土も健全になります。

 このような哀れな状況をどうすればよいか。「自分たちの住む社会に責任を持って関わるべき〈市民〉であることを忘れない」で、「自分の頭で考える消費者になる」べきであり、巨大企業に対して、個人が連帯する必要を訴えています。ネットで個人同士はつながりやすくなっていることも援けになります。起きている現象をよく理解し、それにどう対応するかを念頭に置かなければなりません。

『日本が売られる』(堤未果著、幻冬舎新書、本体価格860円、税込価格946円)

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旅する練習

2021-04-14 13:45:50 | 

 中学受験を目出度く合格したサッカー少女の亜美。昨夏に宿泊した鹿島のサッカーの合宿所の本棚から取った文庫本を読んだところ、あまりに感動したため、持って帰ってきてしまったのを返しに行きたいと小説家の叔父に告げます。鹿島アントラーズのホームゲームを二人で観戦することを計画しますが、新型コロナウイルス感染拡大になり、亜美にとって卒業式も卒業生のみの開催、サッカーの練習は無し、けれど、進学する中学校からは宿題が送られてきました。

 利根川沿いを歩いて、我孫子から鹿島までの、4~5日間の旅行を叔父が計画。亜美はドリブルしながら進み、途中では叔父は各所でその場のエッセイを書き、その時に亜美はリフティングをする。叔父は鳥にも詳しく、鳥の観察もしながらの行程です。亜美はカワウに興味を持ちます。

 旅は道連れ、世は情けとはよく言ったもので、旅先で大学卒業し就職直前のみどりと出会う。彼女も歩く旅に同行するも、就職が決まっていた会社から「内定を辞退しないか」というメールが届き、どうすればよいか悩みます。

 亜美は、ジーコの言葉「自分の生きざまを仕事に合わせなければならない」をみどりさんに教えてもらい、この旅をする中で、「本当に大切なことを見つけて、それに自分を合わせて生きる」という思いを抱きます。進学の前に素敵な生き方を見出しました。

 驚きのエンディングでしたが、亜美にとってはサッカーだけでなく、旅も人生の中での練習だったのかなぁと思い、第164回芥川賞候補作を読了しました。

『旅する練習』(乗代雄介著、講談社、本体価格1,550円、税込1,705円)

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魔法のてぬきごはん

2021-04-13 13:32:24 | 

 店頭に「ズボラ」「てぬき」と書名の料理本があっても、作ることに興味がありませんでした。しかし、新型コロナウイルス感染拡大からか、以前からの嫁からのお言葉、「料理しとかな、私が先立って一人になったらどうするのん?」にやっとこさの開眼。ほんならということで手を伸ばしたのが本書。副題の「世界一ラクチンなのに超美味しい!」に誘われました。

 電子レンジを重宝に使い、揚げ物はフライパン利用、ポリ袋で混ぜるので洗い物は減り、包丁ではなく、キッチンバサミやスライサー、挙句の果てには手で食材をカットなど、ド素人にはハードルが低い。掲載85品のうち、実際に13品を作りましたが、嫁は文句の言わずに、「美味しい」と食べてくれました。副題通りでした。

 次は、「ズボラ」を試します。

『世界一ラクチンなのに超美味しい! 魔法のてぬきごはん』(てぬキッチン著、ワニブックス、本体価格1,200円、税込1,320円)

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人間主義的経営

2021-04-12 14:22:43 | 

 1978年創業の、イタリアのカシミヤセーターメーカーのブルネロ・クチネリは人間の尊厳を追求する、「人間のための資本主義」の会社です。1982年、ウインブリアの小さな村、ソロメオに移転、1985年には廃墟になっていた古城を買い取って、本社としています。

 本書は創業者のブルネロ・クチネリの回想録であり、また、「人間のための資本主義」を構築するための哲学的思索の本です。それについてこのように書かれています。

 「会社は健全な利益を上げる一方で、経営は哲学を掲げました。過剰な利益を求めず、正当な成長、正当な利益、すべてにおいて穏やかであること目指しながら、製品の輸出先は広大で美しい南米まで拡大しました。」

 また、ブルネロ・クチネリの奥さんの故郷であるソロメオに移った思いは、

 「私たちの会社は、その土地に住む人々に敬意を払いながら、土地の持つ潜在力を守り、引き出し、育てていくことを大切にしています。その思想が均衡の取れた希望の持てる成果を上げ、その利益を人々に還元するという倫理的な目的を具体的な形にしてくれます。」

と表現し、本社である古城については、

 「過去は単なる郷愁や附属物ではなく、明るい未来のための骨格となり、人々の意識を導く案内品なのだ。私たちは過去から学ばなければならない。肉体は滅んでも精神は生き続けるのだから。」

のように、過去をどうとらえるかで古の城の扱いも理解できます。

 欧米の資本主義といえば、略奪的であり、利益至上主義を思い浮かべますが、このように洋の東西を問わず、哲学を学び、それをベースに経営する人間的な会社もあることを知る必要もあり、そのようなメーカーの商品を購入することを心掛けなければなりません。

『人間主義的経営』(ブルネロ・クチネリ著、クロスメディアパブリッシング、本体価格1,580円、税込1,738円)

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それでも僕は歩き続ける

2021-04-07 13:08:04 | 

 NHKで放映されています、グレートトラバース。日本百名山ひと筆書き、日本2百名山ひと筆書きはそれぞれ7~8か月で完了し、日本3百名山ひと筆書きは残すところ18座でコロナウイルス感染拡大でストップ状態の田中陽希さん。今までを振り返って、聞き書きでの半生記を書き上げました。

 高校、大学とクロスカントリースキーに競技人生をかけ、選手としてよりも指導の道に進むべく、教員免許を取得しようと大学院に進学しましたが、アドベンチャーレースを知り、また体験し、アドベンチャーレースにチャレンジしたいと決断。埼玉で暮らしていたが、子どもたちを自然の中で育てたいと思い、北海道富良野市麓郷(北の国からの舞台)へ移住した彼のお父さんは、「それじゃあ、俺がスポンサーになればいいんだな。」とバックアップ。収入も、将来もわからない息子を信じる父は本当に美しい。

 アドベンチャーレースチームに所属して6年、30歳目前で、個人とてのさらなる高みへの挑戦として、日本百名山ひと筆書きを想起し、支援のスポンサーだけでなく、NHKが取材する形で2014年4月1日に屋久島からスタートしました。そこから足掛け7年になりますが、旅の途中では嬉しいこと、またややこしいことなど悲喜こもごもの毎日。しかし、夢の実現への道筋では、

 「本気になれるものを見つけられるか」、また、「ひとつのことを続けられる力が『本気』」

と述べ、その中で、「『利他的』な視点が大事になってくる」と答えています。自分の挑戦だけど、それに利他的な意味が付与されるとチャレンジへの原動力も増してきます。

 登山のことでも、「1座1座を丁寧に登る」、「登山を通して、自然界と自分たちが住む世界を行き来させていただいている」という意識は、山に登る人は持たなければなりません。

 この本は子どもたちへ向けて書かれていますので、お子さまの読書にも最適です。

『それでも僕は歩き続ける』(田中陽希著、平凡社、本体価格1,400円、税込1,540円)

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宇喜多の楽土

2021-04-03 10:38:10 | 

 豊臣政権下の五大老の一人・宇喜多 秀家の生涯を描いた歴史小説。豊臣VS徳川の大舞台に身を置きながらも、自分の足元では宇喜多騒動という内紛を抱え、激動の人生を歩みました。秀吉の恩顧を胸に抱く秀家に対し、家康の「世の流れに逆らわなかったからこそ、乱世を生きぬくことができたのです。」の言葉に動ぜず、 

「流れに従うのでも抗うのでもなく、自ら流れを生み出す」

という気概を持ち、関ヶ原を戦い、備前に楽土を構築しようとしました。敗戦後は、薩摩島津家に逃れたが、八丈島へ流されました。16年を経て、加賀前田家から10万石を分与し、大名への復帰の申し出も断り、1655年まで生き延びました。最後は南の島が秀家にとっては楽土になったのでしょう。

 どう生きるかに納得した生き方であったことだけは間違いありません。

『宇喜多の楽土』(木下昌輝著、文春文庫、本体価格770円、税込847円)

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