あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

衰退産業でも稼げます

2019-06-26 16:09:19 | 

 書店も衰退産業の最有力候補でしょう。本書の「商店」の章の扉で明確に書かれています。

 「全国で書店の数が減っていますが、大型書店やアマゾンなどのネット書店に品揃えや利便性で負けただけでなく、そもそも書店がオリジナルな商品を販売したり、付加価値がある売り方をしていないのが問題」

としています。独自商品や個性的で時代に合った販売方法を開発していくことが必須です。

 本書では、商店、旅館、農業、伝統産業などの衰退産業がいかにして儲けることが出来るかを述べています。それには、「ビギナーズ・マインド」「増価主義」「地産外商」「地産外招」のキーワードがあげられています。長年従事している人は客観的にものを見ることが出来ないわけですが、まずは初心の視点で観て、その産業の価値を見出す。さらに、価値を増幅させ、地域では人口が減少するので、通販で地域外、これは世界までに外商し、地域外から自らが存在する地域へ足を向けてもらう「外招」を促すしくみを産み出していくべことを提唱しています。

 まずは、初心。再度見つめてみましょう。

『衰退産業でも稼げます―「代替わりイノベーション」のセオリー』(藻谷ゆかり著、新潮社、本体価格1,500円)

 

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友情について 僕と豊島昭彦君の44年

2019-06-26 15:17:56 | 

 ステージ4の膵臓癌に冒され、余命の中央値が291日と宣告された、埼玉県浦和高校時代だけ親しく付き合った豊島昭彦氏と同窓生が集う場で40年ぶりに再会した佐藤優氏。

 「佐藤君と話をして、僕の人生を整理したい。」

という相談に対して、

 「話を聞くだけではなく、君の人生について本にまとめてみないか。」「豊島君が体験を得て受けた財産を、後の人のために遺すんだ。これが本の公的な意義だ。」それは何よりも、「人生における撤退戦を迎えてている豊島君は自分の人生で本当に守らなければならないもの、命に代えてでも遺しておくべきもの」が繰り返される歴史や、自分の子や孫以降の世代には活字は活きた遺産になるでしょう。

 豊島さんは一橋大学から日債銀に入社。バブルが弾け、日債銀の破綻、あおぞら銀行へ移行し、ゆうちょ銀行へ転職する会社人生はまさに激動の日々でした。あおぞら銀行では、直属の上司が外国人になり、言葉だけでなく、仕事のやり方まで苦慮し、また、ゆうちょ銀行では民間とはいえ、官の意識が強烈に残る社風、上司のパワハラに近い仕打ちに心理的に打撃を受けてきました。

 彼の人生とともに、高校卒業以来会っていなかった佐藤優氏の生き様も並行して綴られ、同窓会で深く語り合う体裁の内容です。彼らは私の1学年先輩(もちろん学校は違います)、ほぼ同時代を生きてきて、金融や官僚の生き方なんて、全く無縁でしたが、生きる上での基本はそう変わらないなぁと思いました。自分史を自費出版する方々もおられますが、書き残す意味は十分あると認識しました。

 さらには、卒業後40年間、別々の道を歩もうとも、「相互理解の深さ」こそが時間を超えた友情を育むということも、実感として理解できます。

『友情について 僕と豊島昭彦君の44年』(佐藤優著、講談社、本体価格1,600円)

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人生を変えてくれたペンギン

2019-06-18 16:59:19 | 

 冒険好きの若きイギリス人のトム・ミッチェルは南米を旅するために、アルゼンチンの学校の教師の職を得ます。休みには南米の大自然を満喫する中、ウルグアイのプンタ・デル・エステの海岸で出会ったのは原油まみれで死んでいた数千羽のペンギン。そこに1匹だけ生存しているペンギンを見つけ、きれいに洗い、海に戻そうとしたが、このペンギンはミッチェルの背を追いかけ、結局、彼はペンギンをアルゼンチンへの旅の友にしました。動物園に渡そうと考えたものの、動物園にいるペンギンの姿を観察すると、学校の寄宿舎で共に生活を始めようと決心しました。

 このペンギンは「フアン・サルバドール」と名づけられ、学校中のみんなから好かれる存在になります。悩み事のある学生が、「フアン・サルバドール」に相談に来ると、「フアン・サルバドール」は真剣な表情で聴いてくれる、聴き上手。それに、「頭や目の動きで受け答えして、相手を会話に引き込んだ」というコミュニケーションの達人でした。「フアン・サルバドール」の表情から悩みの答えを引き出す、あうんの呼吸の持ち主でした。

 「フアン・サルバドール」を友達や同僚に預けて、ミッチェルが南米を歩いたのは1970から80年代には、人間による地球規模の環境破壊が叫ばれ始め、ミッチェルの生活するアルゼンチンは政情不安定。「フアン・サルバドール」は人々に安らぎを与え、癒しの元になっていました。人間世界に暮らしても、自然の存在に人が触れる意味を教えてくれます。人間ではなく、自然のリズムに巻き込まれることが、自然の一員である人間にも必要なのでしょうね。

『人生を変えてくれたペンギン 海辺で君を見つけた日』(トム・ミッチェル著、ハーパーコリンズ・ジャパン、本体価格694円)

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せんせい。

2019-06-09 10:25:33 | 

 6/14に全国される映画『泣くな赤鬼』が所収されているのが本書。ブックカバーも映画版で販売しています。学校時代における、先生と生徒の様々な行い、言葉、思いを、年を経て、両者が振り返る短篇6話です。

 若い先生は若気の至りだったり、自分の夢を追いかけることに執着し、また甲子園に出場することを願い、子どもたちに十分に気を配れなかったり、厳しく接したり…。逆に、先生は何を考えていたんだろうかと、大人になった子どもたちは再考したり…。

 最初の「白髪のニール」では、ニール・ヤングの曲をギターで弾きたい物理の先生が夏休みに生徒にギターを学びます。「ロックは始めることで、ロールはつづけることよ。ロックは文句をたれることで、ロールは自分のたれた文句に責任をとることよ。」と言う先生はその後もその言葉通りに生きていることを、ギターを教えた生徒は知り、感極まります。

 画家を目指していた美術の白井先生は授業でも顧問の美術部でも、生徒のことを顧みず、ひたすらキャンバスに向かってました。その白井先生が老人施設であるグループホームにいることを知り、在学中に先生に厳しいことを言い、先生にビンタをくらった男子生徒が先生を訪ねます。先生が現在描いた絵を観た生徒は、「先生がずっと描きつづけてきたものが、やっとわかった。それは、私もいまー誰だってずっと、目に見えないキャンパスに描きつづけているものでもあった。」とモヤモヤとしていたわだかまりが溶解する、「マティスのビンタ」。

 すべてを解決してくれるのは時間であり、先生も生徒も視野狭窄な状態だったことをわからせてくれる物語ばかり。自分に置き換えて考えると、学生時代の出来事を思い出させてくれます。恩師に会って話したいという誘惑にかられました。

『せんせい。』(重松清著、新潮文庫、本体価格520円)

 

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平場の月

2019-06-07 16:06:26 | 

 第32回山本周五郎賞受賞作品に惹かれて読みました。私の柄にはない、大人の恋愛小説。埼玉で生まれ育って、地元で住む女性たちは何らかな関係を保ちながら生活をしています。主人公の青砥くんは結婚し、二人の息子の父親だが、マイホームのマンションを購入するあたりから、夫婦仲が悪くなり、結局は離婚。母親の介護もあり、地元の印刷会社に舞い戻って、実家に暮らす一人です。

 検査で訪れた病院の売店で青砥が会ったのは、中学の同級生の女性、須藤。実は、中学時代、青砥は彼女に告白したが、見事に振られていました。再開後、互助会と称して何度か会い、中学以降の生い立ちを語り合います。須藤は大学卒業後、大手銀行に勤め、その後、とても普通ではない婚姻関係、そして、若い男に貢ぐ経験もしてきた上で、中学の同級生に会う、まさにふりだしに戻った感じです。

 半分同棲のような生活を送る二人でしたが、須藤は大腸がんを発症。手術、抗がん剤治療後も、二人は夫婦のような間柄を続けますが、3か月の定期検査の結果後、須藤は結果良好の意味のVサインを青砥に提示しました。青砥は、「一緒にならないか」とプロポーズをするが、「それは言っちゃあかんやつ。」と答える須藤。挙句の果てには、「青砥とは、もう一生、会わない。」と断言し、二人は別れます。青砥は須藤に未練が残り、何とか元のさやに納めようと彼女に会おうと、働く病院の売店を覗くが、全く会えません。

 クライマックスは本書に譲りますが、50代の主人公たちと同年配だからこそ、考えさせられますね。病に冒されて、頼るべき人がいない、援けてあげたいが、それができない、いや、させてくれない~人間一人では生きていけない、頼り頼られの関係を地元だからこそコツコツと作るべきですね。誕生時には多くの人に祝われますが、この世を去る時にも多くの人とその一時を共有したいなぁと思いました。

『平場の月』(朝倉かすみ著、光文社、本体価格1,600円)

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うつろ屋軍師

2019-06-01 15:02:27 | 

 『最低の軍師』(箕輪 諒著、祥伝社文庫、本体価格740円)を読んで、あまりにも面白かったので、(『最低の軍師』はこのブログに書きました↓)

https://blog.goo.ne.jp/idomori28/e/c8ade3785ed37558b68b531bc575b274

次はこの作品に挑戦しました、著者のデビュー作『うつろ屋軍師』。主人公は、織田信長(おだのぶなが)の重臣だった丹羽長秀(にわながひで)に仕えた、江口正吉(えぐちまさよし)、別名うつろ屋。妄想で実現不可能だろうと思えることを構想し、着実に実行する軍師であり、荒武士でもありました。丹羽長秀に取り立てられ、羽柴秀吉とも面識がある人材。羽柴秀吉を天下人にするべく、同盟関係を結び、動いた結果、百二十三万石の石高を有した丹羽長秀の死後は、丹羽家を弱体化すべく、秀吉の辛辣なる手段による改易により、四万石への大減封(げんぽう)させられ、家来たちは他家へ職を求めて異動。次の国主、丹羽長重の筆頭家老に江口正吉が大抜擢、丹羽家復興の挑戦を歩みます。

 著者の箕輪 諒さん、最低の軍師』でも同様、ほとんど知られていない人物を取り上げられていますが、主人公はドラマチックに輝く存在であり、どん底を味わうも、ネバーギブアップの精神で水面上に浮かび上がってくる、読んでいても胸空く存在です。石高の数字ではなく、武家として小粒でもピリリと辛い、天下一の集団になろうという思いがひしひしと伝わってきます。こういう人物に焦点を当てられる歴史小説、もっと読まれるべきですね。

『うつろ屋軍師』(簑輪 諒著、祥伝社文庫、本体価格790円)

 

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