あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? 不便益という発想

2017-03-29 13:59:05 | 

  世の中、「便利でなければ商売に非ず」の風潮がのさばっています。「便利、早い、安い」の錦の旗は間違いなく、官軍です。超便利なインターネット通販の登場後、我々の商売は不便の塊みたいなものです。お客さんにとっては、「在庫があるかないかわからないけれども、店に行って、無ければ肩を落として帰る」ところになりました。便利な存在は普通の店舗を不便のそれに落とし込めました。

 しかし、便利だけが世ではないと心強く訴えてくれるのが本書。このクソ長い書名の提案は「不便も取り入れると良いことがあるよ!」という「不便益」のススメです。

 便利志向の世の中では、何も「しなくてもよい」から「させてくれない」状態になり、流されるままになっています。できて当たり前になり、そこには快が生まれません。それに対して、「手間をかけ頭を使わされるという不便は、自分を変えてくれる。」益を与えてくれます。具体的には、「習熟を許す」「主体性を持たせる」「スキル低下を防ぐ」「人を嬉しくさせる」「俺だけ感を抱かせる」など、その人自身への優等な勢いを与えてくれます。

 車やスマホのナビゲーションは最短で目的地までの道程を示してくれます。途中で楽しいそうな場所を見つけて、方向を変えようものなら、素直にコンピューターに従うように助言があります。道草や寄り道は死語状態になりますが、時間の効率を無視し、行き当たりばったりで訪ねると非日常な事象に出くわし、喜々とすることがあります。これも不便益でしょう。

 「便利」というものさしばかりで測ると、人までが僭越的になるような気がします。また、「便利」が浸透すると、そのしわ寄せが違う所で生じているのは宅配業者を見れば理解できると思います。

 「在庫があるかないかわからないけれども、店に行って、無ければ肩を落として帰る」場所から、「えぇ~、こんなお店があったの!」と驚かれる場所へ変貌したいですね。

『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? 不便益という発想』(川上浩司著、インプレス、本体価格1,500円)

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日本史を精神分析する

2017-03-24 15:52:35 | 

  著者の岸田秀先生は、「人間は本能の壊れた動物であり、『幻想』や『物語』に従って行動しているにすぎない」とする唯幻論を『ものぐさ精神分析』で著し、本書は歴史を精神分析すると各国の本来の姿が瞬く間に見えてくる史的唯幻論で書かれています。

  日本は二つの自己が介在し、引き裂かれている国であり、その自己とは、

 「外的自己」=「日本が外国の属国であることを容認し、外国を崇拝し、外国に適応しようとする」「開国派」

 「内的自己」=「外国との関係を避けて自己の中に閉じ籠もり、外国を軽視し排除して、自己の独立自尊を守ろうとする」「鎖国派」

です。日本の歴史はこの二つの自己を往ったり来たりしながらさまよっています。一番わかりやすい例は、安土桃山時代は「外的自己」、江戸時代は「内的自己」、幕末維新を経て、明治は「外的自己」、先の大戦時は「内的自己」、そして、戦後は「外的自己」と、この二つの自己のシーソーのどちらかに乗っています。大陸と海によって隔たっている日本の地理的な環境から、大国である中国とアメリカを意識せざるをえない歴史を歩んでいます。現代はアメリカの属国になっていると、岸田先生は説き、建国以来一度も持ったことのない「諸外国との関係で国を築くという発想をもつこと」を日本がすべきと述べています。

 日本以外の、中国、韓国、アメリカ、ヨーロッパなど、各国を史的唯幻論で真っ裸にする本書は、目からウロコの刺激的文明論でもあります。是非、ご一読を!

『日本史を精神分析する 自分を知るための史的唯幻論』(岸田秀著、聞き手=柳澤健、亜紀書房、本体価格1,800円)

 

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大地がよろこぶ「ありがとう」の奇跡

2017-03-20 16:28:23 | 

  北海道洞爺の「佐々木ファーム」代表の村上貴仁さんは慣行農法に疑問を感じながら仕事に取り組んでいました。しかし、息子の突然の死、そして、妻の腎臓疾患を境にして、

 「命の営みとは何か?」「命と向き合うとは?」「命の循環とは?」

を考え尽くして、「いつでも死ねると言う覚悟をもちながら、生きられる限り生きて、人の役に立つことをやる」と悟りました。また、大地に向かい慣行農法で農薬を散布することは命を奪うことに繋がるためもうできないと考え、自然農法へと切り替えます。この時期に小林正観さんの本に書かれていた「ありがとうの奇跡」に感化され、年齢の1万回の「ありがとう」を言うことを自分に課しました。36万回の「ありがとう」を唱えることで、家族への意識が変わり、そして、自分自身が生まれ変わりました。

  佐々木ファームの生産した農作物が腐らないという評判になり、「すべての命に感謝し、すべての命を大切にする農法、「ありがとう」農法が生まれました。すべての存在に感謝し、共に生きていく、まさに共存共栄、「ありのままの命を認めること」になります。「ありがとう」の言葉は発信者を謙虚にし、当たり前を有難いと感じる、その好感度の波長が周りのすべてを感化していくのでしょう。ありがとうは奇跡を呼ぶのですね。

『大地がよろこぶ「ありがとう」の奇跡』(村上貴仁著、サンマーク出版、本体価格1,400円)

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まんがでみる ボトムアップ理論

2017-03-19 16:07:33 | 

  まんがのビジネス書は敬遠するのですが、ボトムアップ理論を店のスタッフと共有するために取り上げました。

  ボトムアップ指導の提唱者の畑喜美夫さんは、U-17、U-20日本代表として活躍し、順天堂大学時代には、史上初の大学サッカー三冠に貢献。 その後、指導者として広島観音高校へ赴任し、当時弱小だったチームを数年で全国レベルに伸し上げ、インターハイで全国制覇を成し遂げられました。その独自の哲学が注目され、現在は広島県立安芸南高等学校に勤めるかたわら、ボトムアップ理論の講師としても活躍されています。

  さあ、このボトムアップ理論は、従来のトップダウン(上意下達)のピラミッド型の組織とは反対の、「ボトム(下部)から意見や情報を吸い上げていく」下意上達型の反・ピラミッドの組織運営です。このような組織になるには、その成員であるボトムを指導者や監督、上司がその人格を認め、彼らの成長を引き出す方法です。育成の3本柱として、「挨拶・返事・後片付け(3S整理・整頓・掃除)」の良い習慣を身に付け、練習での「オン・ザ・ピッチ」だけでなく、日頃の過ごし方である「オフ・ザ・ピッチ」でも良き習慣を持続させ、「自主自立」したチームを形作っていきます。そのためには、リーダーと成員との密なコミュニケーションが不可欠であり、交換ノートをやり取りする緻密さを持っています。「自主自立」の面では、全員でスタメンの選手を決める、決める基準をオーソライズしておく、一人ひとりがなんらかな役を持ち、その部分ではリーダーの存在になるなど、各人のやる気を引き出す仕組みになっています。

  AIの進展など、考えないでも事が進む中、流されるばかりのスタッフですが、何事も当事者として「すべてのことを見直す」ぐらいの器量で事に当たって欲しいので、この本をミーティングの課題図書として採用しました。但し、リーダーが成員の成長を辛抱強く待つことが大切になってきます。サッカー部だけでなく、どんな組織でも応用が効くビジネス書です。

『まんがでみる ボトムアップ理論』(畑喜美雄著、ザ・メディアジョン、本体価格1,200円)

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ルポ 希望の人びと

2017-03-15 14:44:52 | 

  「歳を取ったら、足腰と脳みそだけはしっかりとしとかなあかん」という認識は皆さんお持ちだろうと思います。特に、統計データから、80代の4割は認知症であることから、「平均寿命まで生きるということは『認知症に向かって生きている』認知症への旅」であることは間違いありません。そうであるならば、認知症に対する常識を明確なものにして、老年期の予習をしなければなりません。

  認知症の人はケアされる対象だと思っていましたが、認知症の人たちが発信し、互いに連携し、当事者団体が発足している事実に驚かされました。そして、彼らの言葉は生きるということを再確認させてくれます。

「今日が生かされている最後の日だと思い、感謝して過ごすこと。」

「私たちはみな、一度限りのいまを生きているのだから。」

「病気は変えられない。でも自分は変えられる。人生に起きることは10%、どう対応するかが90%、その対応が人生を決める。」

  まさに、人間学の根本原理を説かれています。

  そして、認知症に対する、社会、また認知症本人が持つ偏見を変えること~それぞれ自分自身の人生を歩むこと~こそが、当事者たちの生きる使命になり、それが彼らの認知症の進行を押し留めています。生きる意味を持つことは万人の必然なのでしょう。

  認知症の人々を地域住民も一員として、いかに地域が温かく見守りケアするかが今後の課題になることは間違いありません。その意味では地域の人たちがローカリズムの真髄を知り、行動を起こさなければなりません。「育てるべきは地域のまなざし」であり、そのまなざしは認知症だけでなく、すべての人たちに向けられ、誰もが幸せに暮らせるまちづくり、人づくりを目指さなければなりません。

『ルポ 希望の人びと ここまできた認知症の当事者発信』(生井久美子著、朝日新聞出版、本体価格1,500円)

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本所おけら長屋 第八巻

2017-03-11 13:47:39 | 

 人情と笑いを兼ね備えた時代小説連作集の八巻目。本所おけら長屋に飛び込んでくる無理難題を長屋の住民が力を合わせて素敵に解決します。その壱「すけっと」やその弐「うらしま」のように、最後にサゲをしっかりとかましている、まさに落語のシナリオ然としているものがあるかと思いきや、その参「ふところ」、その四「さしこみ」、その五「こしまき」の如く、人情たっぷりに涙を誘う作品まで、ゆったりと安心して読める小説。

 今回も生きる上での名言が散りばめられています。

 《我慢して生きるしかない。我慢して生きるしかないのだ。そうやって生きていれば、必ず良いことが訪れる》

 「人っていうのはよ、見たもの、聞いたものに、すべからく関わりを持っちまうものなんでえ。そんな関わりに武家も町人もねえんだよ。」

 「人には、人の心の底を見抜くことが難しい。見掛け、地位、お金、そんなものに惑わされる。犬にはそれがないわ。犬には心しか通じない。本当に優しい人、本当に面倒をみてくれる人に懐くんだわ。」

 その五「こしまき」には泣かされましたね。犬の「富士」(飼い犬名)の飼い主である郷田豪右衛門への忠臣ぶり、信頼の行動は、人には決して見せない、飼い主の惻隠の情を十分に理解している賜物。人情だけでなく、犬情も使うとは、さすが畠山健二先生の腕の見せ所です。

 応援している心が通じていらっしゃるのか、新刊刊行の度に来店して下さる畠山先生。毎年、いかなごの季節に来られ、昨年は我が妻のくぎ煮をお渡ししましたが、今年は解禁直後の高級魚のため、お渡しできませんでした。「帰りの新幹線のアテにするつもりだったのに。」と捨て台詞を残していかれました。

『本所おけら長屋 第八巻』(畠山健二著、PHP文庫、本体価格620円)

 

 

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未来の働き方を考えよう

2017-03-04 18:11:07 | 

  これからの働き方を考えるために読みたい1冊で、特に、学生さんには自分の今後の人生をデザインするにはもってこいです。

  世界、そして、日本には大きく3つのパワーシフトがあり、それに応じて生き方を考察する必要があります。その3つの潮流は
①IT革命による大組織より個人の方が有利になる
②グローバリゼーションによる先進国から新興国へのパワーの移行
③人生の長期化(高齢化)によるストックからフローへの優位性の移行
です。特に②の動きが速く、世界は一つの制度や考え方に収斂されます。この流れに逆行するのがトランプ大統領やヨーロッパの右派勢力でしょうか。

  その上で、自分の人生の有限性と豊かな人生を構築していくなら、ワークライフバランスをしっかりと想定し、絶対にやりたいことは「今でしょ」精神で行動に移すべきです。「そのうちに」と言っていては、そのうちが無くなる可能性も出てきます。

  最後に、オリジナル人生の設計の条件を次のようにあげています。
①手に入れたい人生を明確にする
②複数の将来シナリオを持とう!
③市場で稼ぐ力をつけよう!

 副題の「人生は二回、生きられる」の通り、人生二毛作で愉快にいきましょう!

『未来の働き方を考えよう 人生はニ回、生きられる』(ちきりん著、文春文庫、本体価格650円)

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