世の中、「便利でなければ商売に非ず」の風潮がのさばっています。「便利、早い、安い」の錦の旗は間違いなく、官軍です。超便利なインターネット通販の登場後、我々の商売は不便の塊みたいなものです。お客さんにとっては、「在庫があるかないかわからないけれども、店に行って、無ければ肩を落として帰る」ところになりました。便利な存在は普通の店舗を不便のそれに落とし込めました。
しかし、便利だけが世ではないと心強く訴えてくれるのが本書。このクソ長い書名の提案は「不便も取り入れると良いことがあるよ!」という「不便益」のススメです。
便利志向の世の中では、何も「しなくてもよい」から「させてくれない」状態になり、流されるままになっています。できて当たり前になり、そこには快が生まれません。それに対して、「手間をかけ頭を使わされるという不便は、自分を変えてくれる。」益を与えてくれます。具体的には、「習熟を許す」「主体性を持たせる」「スキル低下を防ぐ」「人を嬉しくさせる」「俺だけ感を抱かせる」など、その人自身への優等な勢いを与えてくれます。
車やスマホのナビゲーションは最短で目的地までの道程を示してくれます。途中で楽しいそうな場所を見つけて、方向を変えようものなら、素直にコンピューターに従うように助言があります。道草や寄り道は死語状態になりますが、時間の効率を無視し、行き当たりばったりで訪ねると非日常な事象に出くわし、喜々とすることがあります。これも不便益でしょう。
「便利」というものさしばかりで測ると、人までが僭越的になるような気がします。また、「便利」が浸透すると、そのしわ寄せが違う所で生じているのは宅配業者を見れば理解できると思います。
「在庫があるかないかわからないけれども、店に行って、無ければ肩を落として帰る」場所から、「えぇ~、こんなお店があったの!」と驚かれる場所へ変貌したいですね。
『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? 不便益という発想』(川上浩司著、インプレス、本体価格1,500円)