「石田梅岩」という名は、日本史の教科書にわずかに登場する程度しか記憶にありませんが、商売人にとっては、こんな有難い人物はいないと考えます。商売人として培った考えを、多くの商人に伝え、教授することによって、彼の死後、彼の思想を「石門心学」として、商人の地位向上だけでなく、生き方にまで発展させました。また、資本主義をプロテスタントの教えと融合させたウェーバーや経営の本質を見抜いたドラッカーと同様の考えを、彼らより200~250年前に提唱していた先見性に驚きを隠せません。その要諦を書いた本書は、商人のバイブルになるはずです。
石田梅岩の教えは、「正直」「勤勉」「倹約」「自立」というキーワードに収斂されますが、私が大きな気づきを受けたのは「倹約」です。倹約とは、
「三つを二つにすませる工夫をする」
と述べられていますが、
その倹約した「一つ」を「世間(世界)のために使う」ことが真の倹約としている点、
また、「人間が本来持っている『正直な心』を取り戻すための実践方法」として、倹約を位置づけていること
に大きくうなされました。
そして、彼のお金に対する認識の根底には、「金銀は天下のお宝なり。銘々には世を互いにし、救い助くる役人なり」と看破する、「お金というものはもともと個人の所有物ではなく、公=社会のものである」という事実がマグマのように噴出しています。
究極は、天地と不離一体となる商い、つまりは正直に、日々勤勉に務める商いこそが、世のため、人のため、そして、自分の成長のためになるという信念を生み出しています。
商人に完成形はない、日々新たなりの思いでこれからも書店道を歩んでいきます。
『魂の商人石田梅岩が語ったこと ビジネスの極意と人生の知恵』(山岡正義著、サンマーク出版、本体価格1,700円)