日本は2005年から人口減少に入りました。これに対して、悲観的な見方が多い中、広井良典先生は勇気づけてくれます。
日本は明治維新以降、戦前は富国強兵・戦争勝利、戦後は経済成長を旗印に、国力も、経済も、人口も拡大してきました。しかし、この流れに矛盾や疲労が露呈し始めました。それは、本当に豊かで幸せを実感できるのか?ということです。つまり、物質的生産の量的拡大が現出しますが、人間は個人をベースとして生き、地域から離陸します。
広井先生はこれに対して、ポスト成長時代の社会として、『定常型社会』を提唱されています。これは、「人々が一つのものさしではなく、それぞれの創造性や多様性を発揮して楽しんでいく社会」と定義されています。時間的・空間的・精神的ゆとりを社会に持たせ、コミュニティ内の人と人とのつながりを可能にしていきます。結果、内的・文化的な発展が生じ、人間は地域へ着陸をします。
そして、そのベースになるのが『コミュニティ経済』です。これは、「経済の中にあった互酬性や相互扶助の要素の回復」と「経済を再度、コミュニティや自然とつないでいく」のが特徴です。「ヒト・モノ・カネ」が地域内で循環し(地域内に広まるように灌漑し、地域外に漏れないように漏れ口を塞ぐ)、職住近接の地域、そして、労働生産性から環境効率性への移行(人は積極的に使い、自然資源の使用を抑制する)のがその姿です。
これは理想境だ!と感じられるでしょうが、「幸福」という指標から測れば、『定常型社会』が現実に形作られるのが素直な流れだと思います。また、現代日本の自然災害多発の状況下、阪神淡路大震災を経験している人間から見ても、コミュニティでの人と人のつながりが薄ければ、被災度が増すはずです。水・電気・ガスがライフラインと思われていますが、ライフラインはその文字からすれば「命綱」であり、命綱は人と人、あるいは人と自然のつながりにこそ第一義はあることは忘れないようにしなければなりません。
『人口減少社会という希望 コミュニティ経済の生成と地球倫理』(広井良典著、朝日新聞出版 、本体価格1400円)