あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

人口減少社会という希望

2014-01-29 17:27:32 | 

  日本は2005年から人口減少に入りました。これに対して、悲観的な見方が多い中、広井良典先生は勇気づけてくれます。

  日本は明治維新以降、戦前は富国強兵・戦争勝利、戦後は経済成長を旗印に、国力も、経済も、人口も拡大してきました。しかし、この流れに矛盾や疲労が露呈し始めました。それは、本当に豊かで幸せを実感できるのか?ということです。つまり、物質的生産の量的拡大が現出しますが、人間は個人をベースとして生き、地域から離陸します。

  広井先生はこれに対して、ポスト成長時代の社会として、『定常型社会』を提唱されています。これは、「人々が一つのものさしではなく、それぞれの創造性や多様性を発揮して楽しんでいく社会」と定義されています。時間的・空間的・精神的ゆとりを社会に持たせ、コミュニティ内の人と人とのつながりを可能にしていきます。結果、内的・文化的な発展が生じ、人間は地域へ着陸をします。

 そして、そのベースになるのが『コミュニティ経済』です。これは、「経済の中にあった互酬性や相互扶助の要素の回復」と「経済を再度、コミュニティや自然とつないでいく」のが特徴です。「ヒト・モノ・カネ」が地域内で循環し(地域内に広まるように灌漑し、地域外に漏れないように漏れ口を塞ぐ)、職住近接の地域、そして、労働生産性から環境効率性への移行(人は積極的に使い、自然資源の使用を抑制する)のがその姿です。

 これは理想境だ!と感じられるでしょうが、「幸福」という指標から測れば、『定常型社会』が現実に形作られるのが素直な流れだと思います。また、現代日本の自然災害多発の状況下、阪神淡路大震災を経験している人間から見ても、コミュニティでの人と人のつながりが薄ければ、被災度が増すはずです。水・電気・ガスがライフラインと思われていますが、ライフラインはその文字からすれば「命綱」であり、命綱は人と人、あるいは人と自然のつながりにこそ第一義はあることは忘れないようにしなければなりません。

 『人口減少社会という希望 コミュニティ経済の生成と地球倫理』(広井良典著、朝日新聞出版 、本体価格1400円)

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成長から成熟へ さよなら経済大国

2014-01-26 12:43:19 | 

 昨年10月にお亡くなりになった天野祐吉さんは、広告をしっかりと批評したコラムニストでした。この本は、「広告」という窓から世の中を見てきた60年間の批評です。

 のっけからズバッと斬りこんで、今の世の中は「歪んでいる」と観察しています。「マスク」「原発」「テレビショッピング」「福袋」「リニア新幹線」の5つを取り上げ、現代人に疑問を投げかけています。

 「歪み」の原因は大量消費社会~大量生産・大量消費・大量廃棄~であり、都市化社会であり、その行く先はグローバリズムと看破しています。この社会は「計画的廃品化」の資本主義がOS(オペレーション システム)であり、製品の機能、品質、欲望の廃品化を企てないと、OSが機能しません。この流れを後押ししたのが「広告」です。製品に差異がなくなると、広告という味付けで差別化を図る構図ですね。

 しかし、現実の経済は成長ではなく、成熟に入っており、その意味ではOSを書き換える必要があります。OSを「生活大国」として、「貧乏暇あり国」に、幸せ実感社会へ目指すことを訴えています。経済力、軍事力ではなく、「文化力を大切にする『別品』の国」へシフトすれば、中国の動きに対しても「国柄が違うからねぇ~」と対応できそうですね。

 とにかく、文明という観点からも、転換点に我々は生きているということは間違いなさそうです。(本体価格740円)

 

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嫁の遺言

2014-01-20 16:42:19 | 

 人情味ある家族小説が好きで、お店でも定番で陳列しています。『家族の言い訳』の森浩美さんの作品、『ふるさと銀河線 軌道春秋』の高田郁さんなど、お客様にとっても引く手あまたですよね。

 そして、私にとっては新しい作家さんを発見しました。その名は加藤元(かとうげん)さん。お名前から男の方かと思いましたが、女性です。怒られるますね。この『嫁の遺言』は、表題作を含め、7つの短編集です。どれも家族の触れてはいけない琴線を触りながらも、家族愛を深めるストーリーばかりです。主人公は洗練された関東人だけでなく、やぼったい関西人が登場したり、名古屋弁や広島弁も読める、豊富なキャストです。

 この中で私が気に入ったのは、「あの人への年賀状」。散髪屋さんを営む年老いた母の店舗兼住居を息子と二世帯住宅にするのに、1階の店舗を駐車場にしようと息子が母に相談するため、散髪屋さんに訪れるところからストーリーは始まります。そこに姉が登場し、母の隠された過去が弟に語られます。じんわりと心に満ちて、引き潮はないといった感じですね。また、今回も感動本との出会いを大切にします。(加藤元著、講談社文庫、定価680円[税込]) 

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減速して自由に生きる ダウンシフターズ

2014-01-16 17:34:46 | 

 10日ほどのご無沙汰でした。

 待望の文庫化です。大学卒業後、百貨店に販売担当として勤務していた著者の高坂さんは、現在の辻褄の合わない消費世界に疑問を抱き、退職。1年間は日本や世界を見聞し、昔からの夢であったBARを開店するために、友達のいる金沢で修業。池袋から徒歩10分の地に、6.6坪の小さなオーガニック・バー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」を出店。成長や発展とは無縁で、生活できるだけ売上があればという考え方で、1日5名のお客さんをお迎えすれば充分、あとは好きなことを自分で手間暇かけてする生活スタイルを楽しんでおられています。そして、バーだけでなく、自分の家族の食べるお米と大豆を生産する暮らしを営み、謙虚に生きてられています。

 私たちが今、上がっている土俵にしがみついているとしんどい気分に苛まれますが、成長や発展とは無縁で、生活できるだけ売上があればという考え方の土俵に登れば、精神的には軽くなり、違う視界が開けます。スケールメリットではなく、スモールメリットの追求、お金より時間重視を貫けば、新しい人間関係が生まれ、ハッピーに生きていけます! 

 最後になりましたが、書名は『減速して自由に生きる ダウンシフターズ』(高坂勝著、ちくま文庫、定価 798円[税込])です。

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エジソン脳をつくる「脳活」読書術

2014-01-07 09:48:44 | 

 脳の働きからいかに読書をすればよいかを解説したです。

 皆さんご存知のように、脳には左脳と右脳があります。左脳は分析力の脳で、すでにあるものを改良する作業に適しています。右脳はイメージやひらめきを司る脳で、0から1を生み出す脳ともいえます。エジソン脳は、右脳でひらめいたことを左脳で実験・分析する、失敗したら、再度イメージを働かせる循環を行っています。これを読書と相関してみると、

 「読書は情報を脳に送り込んでいるだけの作業で、それを生かすか殺すかは、あなたが行動=出力するかどうかにかかっています」

となります。つまり、読んで納得するのではなく、情報入力、即実践、行動の習慣を付けることが大切です。但し、過去の記憶データーが読書による入力情報を否定する場合があるので、まずは情報をありのままに受け入れる素直さを兼ね備えないといけません。そこで、「今までの自分を否定するような情報を入れていかなければいけない」と教えてくれています。今までに読んでこなかった、自分にそぐわない、もしくは自分の主張とは相いれないと思われる本も読んでいくことに挑戦することも不可避です。

 最後に、読書をする人へのエールを著者の西田先生からいただきましょう!

 「不思議なもので、必死に生きている人の前には、必要な時に、必要な人間が必ず目の前にあらわれる。それと同じで、必死に生きている人の前には、必要な時に必要な本があらわれる」

 本気に生きよう!(西田文郎著、エンターブレイン 、定価1,470円[税込])

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偉人を育てた母の言葉

2014-01-06 17:15:59 | 

  子どもの頃、あまり本を読まなかったが、母親がいつかは読むだろうと、伝記のシリーズが買ってありました。本棚がなく、下駄箱の上の方に積まれてあった。もちろん、子どもの手に触れる場所ではないが、息子の思いが熟成するまで辛抱強く置かれてました。

  小学校6年に歴史を学び、戦国武将に興味を持ってから、下駄箱の上の伝記に手を伸ばしました。織田信長、豊臣秀吉、徳川家康と順に読んだ記憶があります。そこから本を読む習慣がゆる~く付き始めたかと思います。

  大人になってから、伝記はいくつになっても読むものだということを、神戸の哲人・森信三先生から学び、再度読み始めました。

  さて、偉人になった人には必ずと言っていいほど支援してくれる人が近くにいました。一番の理解者は父であり、母だったのではないでしょうか。愛情いっぱいに優しい対応であったり、反対に愛情込めてきつく語ったりと、さまざまな接し方をしています。

 宮沢賢治の母・いちは、

「ひとというものは、ひとのために、何かしてあげるために生まれてきたのです」

と言い、ガンディーは母プタリバーイのことを、

「わたしのうちになにか清らかさがあると思われるなら、それはわたしが、母から受け継いだものです。」

と話しています。母は我が子の強さも弱さも知り、子の行く末をしっかりとリードしてくれる存在ですね。(大坪信之著、致知出版社、定価1,365円[税込]) 

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幸せのメカニズム 実践・幸福学入門

2014-01-05 11:26:30 | 

 昨日に引き続き、ポジティブ心理学の本を紹介します。

 ポジティブ心理学から生まれたのが「幸福学」です。人の生活をより生き生きしたものにするポジティブ心理学ですから、行き着くのは人の幸福ですよね。これへの道筋には経済成長路線への裏返しかもしれません。

 人が幸福だと感じる理由はさまざまですが、大きく2分すると「地位財」と「非地位財」に分かれます。

 「地位財」は所得、社会的地位、物的財などの周囲との比較により満足を得るものです。個人の進化や生存競争には重要です。

 それに対して、「非地位財」は健康、自主性、社会への帰属意識、良質な環境、自由、愛情などがあげられ、他人との相対比較とは関係なく幸せが得られるものです。個人の安心・安全な生活の為には必要です。

 この2つの財をバランスよく持つことが幸せを感じることにつながります。

 そこで、著者が強調するのは、どうすれば幸せになるかのメカニズムを知ることです。そして、幸せの因数分解の結果、幸せの四つ葉のクローバーを発見しています。それは、

  やってみよう!因子

  ありがとう因子

  なんとかなる因子

  あなたらしく!因子

であり、これらの因子を育てるには、多様な人が多様な価値観を持ち、多様な目標を持てる社会の実現が大切と述べられています。

 私が重要であると思っている「多様性」がやはり不可欠ですね。「You are OK!」を心に持って生きていきましょう!(前野隆司著、講談社現代新書、定価840円[税込])

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心のなかの幸福のバケツ

2014-01-04 15:38:54 | Weblog

  「なぜ心理学はネガティブな面ばかりを追いかけるのか」という疑問から、1950年代から50年以上にわたりポジティブな面を研究した祖父ドン・クリフトンと、その孫トム・ラスが書き上げた本書は、副題が「仕事と人生がうまくいくポジティブ心理学」ですので、ポジティブ心理学がわかりやすく書かれています。

 原稿を書き上げていたころ、「ポジティブ心理学の祖父」「強みの心理学の父」と呼ばれていた祖父は末期癌、そして、孫も16歳から、何の前触れもなく、各種の臓器に腫瘍ができるフォンヒッベル・リンダウ病に罹っていました。病気から考えると、この2人は完全なネガティブな心理に陥るはずですが、

 「ポジティブな感情のほうが、ネガティブな感情よりも強い影響力をもちうる」

という本の結論が彼らを強くして、この本が上梓できたのではないかと思います。

 ポジティブ心理学のポイントは

 「バケツとひしゃくの理論」

で表現されています。

「人は誰でも心にバケツをもっている。バケツに水があふれているときが最高の状態だ。逆にバケツが空の時が最悪の状態だ。人はバケツのほかに、ひしゃくももっている。他人と接するときは、かならず、このひしゃくを使う。相手のバケツに水を注ぐこともあれば、バケツから水をくみ出すこともある。誰かのバケツに水を注げば、自分のバケツにも水がたまる。」

 仏教の利他と同じです。そじて、ポジティブになるための5か条は

1.バケツの水をくみ出すのをやめる

2.人のよいところに注目する

3.親友をつくる

4.思いがけない贈り物をする

5.相手の身になる

ということを習慣化することを提案しています。ポジティブになるのはちょっとした気遣いかもしれませんね。(トム・ラス、ドナルド・O.クリフトン共著、高遠裕子訳、日本経済新聞出版社、定価 1,365円 [税込])

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