あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

できたてごはんを君に。

2023-06-30 14:01:33 | 

 本作を読み進めていると、かつ丼も、ロコモコも、カレーも、ラーメンも、そしてパンも食べてみたくなりました。東京から新幹線と在来線に乗り継いで3時間以上かかる地方都市の中心部にある商店街には飲食店が少しずつ活気を見せています。

 夜逃げした夫のとんかつ屋を引き継いだ妻が奮闘し、若いボクサーにかつ丼とともに勇気を与える~「勝っ、だからドンマイ」~だけでなく、店の繁昌の秘訣は女将の名前にありました。

 キッチンカーではロコモコで繁昌したが、店舗を構えるためにスパイスカレーを店のもう一つの目玉にしたいが、なかなか味が決まらない。妊娠中の妻が試作に没頭する夫を置いて、夫の実家に行くとその答えがありました。

 ラーメンの名店の店主が突然亡くなりました。店の味を再興したいという多くの人たちの声に押され、挑戦する30代の女性が示した「言葉に尽くせぬ努力」は実ったのか?

 最後に、パン屋の跡取りが小麦ではなく、米粉製のパン屋を目指す、その理由は?

 この4つの短編は最後でつながり、飲食街は個店だけではなく、コミュニティーとして躍動します。「自分が一番飯をくわしてやりてえ相手を思い浮かべ」て厨房に立つ、その生き様に本屋のオヤジの心にも発火しました。やっぱり、志ですね、成功の鍵は。

『できたてごはんを君に。』(行成薫著、集英社文庫、本体価格660円、税込価格726円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

持続可能な魂の利用

2023-06-26 15:51:02 | 

 日本の世の中、「おじさん」に支配されている。会社でも通勤途上の電車の中でも「おじさん」が君臨している。海外で生活するとそれが余計に浮き上がってくる。「日本社会は、常に女性に制服を課しているようなものだった。女性に『望ましい』とされる服装と名句が社会通念として存在し、それが人生のどの段階に進んでも、彼女たちを縛った。」

 社会に対して痛烈なメッセージを訴える、✕✕をセンターにしている女性アイドルグループを追っかける30歳代の女性は同僚と共に革命を起こすべくデモを起こす。ジェンダーギャップが125位の日本は本当に変わるのか?

 自分もおっさんの一人として、おっさんが女性たちの魂を痛めつけていると思ってもいなかったが、本書を読んで後頭部をバットで殴られた印象を持った。これは日本のおっさんが読むべき1冊です、ジェンダーギャップ改善のためにも。

『持続可能な魂の利用』(松田青子著、中公文庫、本体価格760円、税込価格836円)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お家さん 下

2023-06-23 16:00:24 | 

 お家さん下巻では、鈴木商店の海外への販路拡大、台湾への進出が続き、日本の商社としては三菱や三井を凌ぐ規模にまで拡大し、よねにも褒章が授与され、順風満帆でした。しかしながら、好事魔多しではありませんが、鈴木商店は焼き打ちに合います。世間に対し、何も後ろ指をさされるようなことはやっていない、後の世が判断すればわかると金子が語っても、危機管理は不十分でした。しかし、その危機も乗り切り、これからもっと伸ばしていこうとするも、第一次世界大戦後の不況、関東大震災による影響、また、鈴木商店の体制の近代化の遅れが起因となって、会社は没落していきました。

 国家の発展まで視野に入れていた鈴木商店ですが、その根幹は「店は構えの大きさやない。表に掛けたのれんに恥じんひたむきなまでの商いの夢が、店を大きゅう育てるのや。」 という思いだったのですね。そののれんには商いのドラスティックさよりも、お家さんを筆頭に社員全員の情の深さが匂う物語でした。

 神戸市は現在、人口減少に悩んでいますが、かつては、日本第2位の大都会であったこと、それには鈴木商店の存在があればこそだったのには驚きを感じるとともに、神戸の人にはこの歴史は知っておいて欲しいと思いました。

『お家さん 下』(玉岡かおる著、新潮文庫、本体価格670円、税込価格737円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ぼくもだよ。 神楽坂の奇跡の木曜日

2023-06-15 15:56:53 | 

 点字や朗読ボランティアによって子どもの頃から本に親しんできた、盲目の竹宮よう子のブログを見た、出版社の七瀬希子から書評の依頼が舞い込んで来ました。書き進めると、文面には自身の体験や感想が滲み出し、エッセイとなり、学生時代のエピソードを短編小説にまでの企画となりました。

 本間達也は脱サラして神楽坂の路地裏で〈古書Slope〉を経営しているが、なかなか売れずに苦戦しています。近くの版元の七瀬希子はこの店を気に入り、何度か来店し、本間と親しくなります。売れ上げが伸び悩む出版社も、書店とのコラボレーションを企画して、営業上問題が生まれない〈古書Slope〉からスタート。企画の一つの竹宮よう子の短編小説を読んだ彼も時間をさかのぼることになります。

 「自分がいいと思った本を奨めたくて古書店になった」本間の気持ちは痛いほどわかります。「想いを売る」ことが忘れ去られ、出版界の一部品になる危険は販売不振の中に転がっています。反省させられた物語でもあります。

 また、神楽坂の飲食店が実名で物語に散りばめられています。ひとつひとつ食べ歩きたいですね。

『ぼくもだよ。 神楽坂の奇跡の木曜日』(平岡陽明著、ハルキ文庫、本体価格720円、税込価格792円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お家さん 上

2023-06-12 12:05:39 | 

 森と林の2名で幹事をしている「森林読書会」という名の読書会では神戸にゆかりのある人の著書もしくは書かれた本を探し出して読んでいます。前月の城山三郎著『鼠 鈴木商店焼き打ち事件』を深めるために、今月は本書を選びました。

 『鼠 鈴木商店焼き打ち事件』では焼き打ちを受けた鈴木商店の真実を淡々と事実を重ねていました。それに対して、本書は鈴木商店の代表者である鈴木よねの伝記小説ですので、情感たっぷりに読んでいけます。大番頭の二人、金子直吉、柳田富士松、そして、子どもたちや従業員、女中へよねの思いがひたひたと伝わってきます。金子が鈴木商店に一途に働く訳も、また、会社の役に立ちたい従業員、女中も、お家さんのよねが供するの恩情、そして、それにつながる出来事が深くかかわっていることがわかります。

 オクと称して鈴木家の家庭と従業員の衣食住をより良くしていた、よねは夫の岩治郎の死後、鈴木商店の実際の経営は大番頭に任せ、彼らが働きやすい環境整備、そのための嫁探し、また、須磨の本宅でのさまざまな社としての催しに注力していました。「動かず、働かず、ただ庇(ひさし)を彼ら(店員)のために広げてその要領の深さ大きさを用意してやる存在」に徹してました。よねは常に新しい目的を見つけ出し、それを全うしていく姿は格好いいと感じました。

 『お家さん 上』(玉岡かおる著、新潮文庫、本体価格630円、税込価格693円)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

百年の藍

2023-06-08 12:13:11 | 

 関東大震災前日から阪神淡路大震災を経て、現代まで百有余年のジーンズの物語。関東大震災の被災者救援物資としてアメリカからのブルージーンズが岡山の児島の、足袋を生産する繊維会社の息子・鶴来恭蔵の手に渡りました。彼は会社を継ぐことは避け、絵描き志望で、竹久夢二に私淑しようと東京にやってきてました。この出来事がドリームを呼び込みます。被災後、児島に戻り、ジーンズを作ろうと試みますが、いくつもの壁が立ちはだかります。その後、恭蔵が追い求めたジーンズへの夢はいかになったか?

 「自分の道を信じて生きとる人間が、一番幸せなんじゃ。」「自分たちの人生は、自分たちで決めたらえんじゃ。」

 静の祖母が語る言葉は読む者を勇気づけてくれます。先行き不安な本屋のオヤジにも強力なベクトルを与えてくれました。この祖母・りょうは鶴来の会社を離れ、神戸にやってきて、元町の海会堂書店に引き寄せられ、働きたいと願うと、ギャラリー担当での採用になり、その後はギャラリー杣田で杣田さんと一緒に美術家のたまごを育てる仕事をします。こんなところに海文堂書店や島田さんが登場するとは、神戸の書店人にとって嬉しいことです。

『百年の藍』(増山実著、小学館、本体価格2,000円、税込価格2,200円)6月28日に刊行予定です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大人の人間学塾ベスト10冊

2023-06-05 15:39:32 | 

 井戸書店では2015年8月から、「大人の人間学塾」という読書会を毎月1回開催しております。

毎月1冊読んでいるため、100冊を超えた今、読書会参加者でベストテンを選びました。その10冊は

 

「ぼくの命は言葉とともにある 9歳で失明18歳で聴力も失ったぼくが東大教授となり、考えてきたこと」(福島智著、致知出版社)

 

「あふれでたのはやさしさだった 奈良少年刑務所絵本と詩の教室」(寮美千子著、西日本出版社)

 

「フツーに方丈記」(大原扁理著、百万年書房)

 

「モモ」(ミヒャエル・エンデ/作 大島かおり/訳、岩波書店)

 

「炎の陽明学 山田方谷伝」(矢吹邦彦著、明徳出版社)

 

「もの作りは者づくり ロボット博士の伝授録」 (森政弘研究会/編著、佼成出版社)

 

「夜と霧」(ヴィクトール・E.フランクル著、池田香代子訳、みすず書房)

 

「メメント・モリ 死を想え」(藤原新也著、朝日新聞出版)

 

「太古から今に伝わる不滅の教え108」(エリコ・ロウ/文 牛嶋浩美/イラスト、かざひの文庫)

 

「木のいのち木のこころ 天・地・人」

(西岡常一・小川三夫・塩野米松著、新潮文庫)

 

です。

 

どの本も読む人の心の琴線に触れるはずです。お越しになって手の取ってもらえば望外の喜びです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

70歳の正解

2023-06-05 14:58:16 | 

 立ちはだかる『80歳の壁』を乗り越える前に、『70歳の正解』を読みました。80歳の時に心身ともに健康体でいるにはどうしても60~70歳代の生活習慣に依存していることは当たり前です。それについて詳細に述べられています。

 「健常な状態から、要介護状態になるまでの中間的なステージ」であるフレイルに陥らない防止策が「あかさたなはまやらわ」で始まる10の動詞でまとめられています。詳しい内容は本書をお読みいただきたいのですが、そのうちの3つをあげておきたい。

 「ま」は「学ぶ」です。脳の健康寿命を考えても、「勉強は最高の脳の健康法」と断言されています。最終目的は「アウトプットすること」であり、本を1冊書こうと呼びかけられています。

 「や」は「役に立つ」です。「健康長寿の第一条件は、『自然に体を動かす」、要するに『働く』こと」なので、「働ける間は、働き続ける」ことを提唱されています。老後は定年を迎えてのんびりとでは、脳がもたないらしい。遊ぶだけでなく、負荷をかけるためにも仕事や学びが必要なのです。

 「わ」は「笑う」です。笑えばナチュラルキラー細胞が増えます。私が落語をして笑っていただけると、私も幸せな気持ちになるでしょう。

 老年期の生き方の本と判断しがちですが、年齢に関わりない本を和田さんが書かれていることもわかりました。

『70歳の正解』(和田秀樹著、幻冬舎新書、本体価格900円、税込価格990円)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

栗山ノート

2023-06-02 13:40:58 | 

 WBC侍ジャパンの栗山監督は退任されました。重責のポストであり、優勝したんだから勇退という言葉を使っていいでしょう。栗山さんは毎日書いているノートにどう表現したのでしょうか?気になる所です。

 小学校から野球を始めた栗山少年は野球ノートを書いていました。練習や試合の反省や改善点、今後の取り組み方など、中学、高校、大学とそのノ-トに書く内容は変わり、最後にはひとりの人間として自分を磨くノートになりました。日本ハムファイターズ監督時代のノートを抜粋した本書は、野球での個々の事象に合った、中国や日本の古典、また、森信三先生の教育者の言葉も加味しています。

 栗山さんが読書家であることだけでなく、ノートに自分の考えをアウトプットし続けたことが素晴らしいと思います。日々の中で自分がどう考え対処すべきかの判断は、論語などが書かれた2500年前と全く変わりません。いにしえの書から学び、現実の問題にどう向き合い、実践するは、ノートの蓄積がヒントを与えてくれるでしょう。

『栗山ノート』(栗山英樹著、光文社、本体価格1,300円、税込価格1,430円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする