本作を読み進めていると、かつ丼も、ロコモコも、カレーも、ラーメンも、そしてパンも食べてみたくなりました。東京から新幹線と在来線に乗り継いで3時間以上かかる地方都市の中心部にある商店街には飲食店が少しずつ活気を見せています。
夜逃げした夫のとんかつ屋を引き継いだ妻が奮闘し、若いボクサーにかつ丼とともに勇気を与える~「勝っ、だからドンマイ」~だけでなく、店の繁昌の秘訣は女将の名前にありました。
キッチンカーではロコモコで繁昌したが、店舗を構えるためにスパイスカレーを店のもう一つの目玉にしたいが、なかなか味が決まらない。妊娠中の妻が試作に没頭する夫を置いて、夫の実家に行くとその答えがありました。
ラーメンの名店の店主が突然亡くなりました。店の味を再興したいという多くの人たちの声に押され、挑戦する30代の女性が示した「言葉に尽くせぬ努力」は実ったのか?
最後に、パン屋の跡取りが小麦ではなく、米粉製のパン屋を目指す、その理由は?
この4つの短編は最後でつながり、飲食街は個店だけではなく、コミュニティーとして躍動します。「自分が一番飯をくわしてやりてえ相手を思い浮かべ」て厨房に立つ、その生き様に本屋のオヤジの心にも発火しました。やっぱり、志ですね、成功の鍵は。
『できたてごはんを君に。』(行成薫著、集英社文庫、本体価格660円、税込価格726円)