あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

昨日までと違う自分になる

2023-12-28 16:34:17 | 

 81歳でゲームアプリを独学で開発して、テレビCMでも一躍有名になった若宮正子さん。現在は88歳でICTエバンジェリストをされてますが、生き方の根幹がスゴイのひと言です。

 「非常識っていうものを排除しないほうがいいんです。(略)コピペじゃない生き方をしたいです。」

 「これからは変わらないことがリスクになっていく時代です。」

 「失敗とか、恥をかくことを恐れていては駄目ですよ。」

 88歳なら変わることを厭い、今まで通りで良いと思う人が大半でしょうが、全く逆。時代に即応し、自らのオリジナルを磨く。見習うことが多いエッセイです。

『昨日までと違う自分になる』(若宮正子著、KADOKAWA、本体価格1,300円、税込価格1,430円)

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りんごの木を植えて

2023-12-27 16:51:18 | 

 私のオヤジはステージ4の胃がんに対して積極的な治療はしませんでした。母もステージ3~4の肺がんでしたが、彼女はそれまで元気一杯だったため、抗がん剤治療をしましたが、副作用の下痢に苦しんでいました。ふたりとも80代後半でしたが、対照的な晩年でした。

 さて、本書の主人公の小学校5年生のみずほは二世帯住宅で祖父母と一緒に住んでいます。彼女が大好きなおじいちゃんは今年で80歳を迎えます。しかし、体調が悪そうだなぁと家族が感じていたら、5年前のガンの再発が原因でした。家族のみんなは元気になってもらいたい、もっと長生きしてもらいたいと思っていますが、積極的な治療はせず、今まで通り、家族や友だちと過ごし、自分の残りの時間を有効に使いたいと宣言します。おじいちゃんの死生観は

 「死は生きることの終わりやなくて、つづき。」「死んでも、残った人の心の中にいっしょに過ごした思い出が残る」「自分らしい生きかたして、柿の実がぽとりと落ちるように、自然にまかせて終わりたい」

であり、彼の周囲の人たちと楽しい時間を共有します。80歳の誕生日を迎えて、まもなく亡くなりますが、どういう終末を過ごすかは本当に大切ですね。本書は児童書ですが、大人が読んでも死について考える素敵な1冊です。

『りんごの木を植えて』(大谷美和子著、白石ゆか/絵、ポプラ社、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

 

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温かいテクノロジー

2023-12-25 16:05:42 | 

 AIの出現からその進歩の行方を探ると否定的な予測が多いですね。仕事が奪われるやAIに人間社会が支配されるなど、本当にそうなってはAIを開発した人間の存在そのものが消滅してしまう危険があります。AIやロボットの開発の主眼が効率や生産性を重視する方向に置かれています。

 本書の著者の林さんは逆に人間に即応したAIを搭載したロボットの開発をしています。家族型ロボット「LOVOT」はペットの代替になり得ており、飼い主の心情を読み取り、人を癒したり勇気を与えたりします。そして、最終目標は「人生にフルタイムで伴走する『ライフ・コーチ』を担うドラえもんを開発すること。そのためには人間への洞察が深くなければなりません。愛とは何か?感情とは?幸せは?

 そして、未来の人間の役割は、「答えが見えない問題」を解く存在になることです。創造性や柔軟性を発揮しなければなりません。

『温かいテクノロジー AIの見え方が変わる人類のこれからが知れる22世紀への知的冒険』(林要著、ライツ社、本体価格1,900円、税込価格2,090円)

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母さんがどんなに僕を嫌いでも

2023-12-22 13:29:31 | 

 『いとはんのポン菓子』(歌川たいじ著、光文社文庫)に感動したので、歌川たいじさんの半生記を記した本書を読みました。東京の下町の小さな町工場の家に生まれた彼は子どもの頃から、母からDVを受け、学校ではいじめられていました。工場に勤める人たち、特に年配の女性である、通称ばあちゃんは彼を愛情深く優しく見守りました。

 しかし、小学3年生の3学期に、父母の関係が不穏になり、4年になって、家族と離れて施設に入所させられました。離婚の交渉時に彼の存在は厄介と判断され、まさにネグレクトの対象でした。離婚後は母に引き取られ、姉と3人で暮らしますが、母からの虐待が酷く、また、学校でもいじめられ、高校も中退し、さらには家出しました。都内の食肉市場にアルバイトで働き、休憩時間には読書を、また、大学受験資格を取り、通信教育で大学に入学。ここから積極的に、ミュージカル出演に募集に応募し、芝居にも励む中で友だちが出来て、彼の人生は明るくなっていきます。

 しかし、うつを発症し、アルコール依存症で破産状態の母と向き合う覚悟で、母との関係だけはなんとか持ち直したい思いでした。身体も心の傷も消えませんが、「理解は、見えなかった愛情を照らしだしてくれる、サーチライト」と考え、母の人生そのものを理解しようとします。その後は本書に任せますが、「幸せとは、死んでも裏切れないだれかがこの世にいるということ」だけは間違いありません。

『母さんがどんなに僕を嫌いでも』(歌川たいじ著、角川つばさ文庫、本体価格700円、税込価格770円)本書は小学中級から読めます。

 

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落陽

2023-12-21 15:38:56 | 

 明治神宮外苑の再開発で3,000本の樹木が伐採される予定という報道があります。SDGsや昨今の地球の沸騰化に対して逆行すると思いますが、明治神宮のできる頃の状況について気になったので、本書を読みました。

 天皇陛下は1200年ほど京都に居られました。明治維新となり、日本国が欧米列強に対抗するための国づくりにおいて、明治天皇は東京への遷都に伴い、皇居を江戸城跡へ移されました。そして、明治45年に逝去され、陵墓は京都伏見城址に内定していたため、明治天皇を祭る神宮造営への運動が興り、内苑は代々木御料地、外苑は青山旧練兵場が最適とされたが、今回の神宮の森づくりに参画した帝国大学農科大学は、神宮に適する針葉樹林の生育には不適な風土と判断し、大激論が勃発。最終的には常緑広葉樹林を植えることで決着し、その樹木は全国の民間人からの献木でまかなわれました。

 記者瀬尾亮一はこの一件を取材し続け、すべての国民の精神的支柱であり続けた明治天皇のご心情を探りました。近代国家にならんとした日本の天皇として、「何を許容し、何を守るべきか」悩み続けられたこそ、神宮へ寄せる国民の思いも深いものがあったのでしょう。明治神宮の造営の経緯を知り、外苑の樹木伐採への疑問符はさらに大きくなりました。「自然は常に正しい、誤るとすればそれは人間である」は事実でしょう。

『落陽』(朝井まかて著、祥伝社文庫、本体価格720円、税込価格792円)

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