舞台は満州事変後の中国上海。京都帝国大学医学部を卒業した宮本敏明は24歳で、政治とは関係なく、中国人と共同で研究する自由な雰囲気の上海自然科学研究所へ細菌学科研究のため渡りました。当時、石井四郎帝国陸軍軍医中将のもと、細菌戦研究がなされていた満州では兜製薬の研究所員、元軍医の真須木一郎が「キング」と名付けられた治療法もワクチンも存在しない細菌兵器を開発し、真須木一郎が「キング」を持って失踪した中、論文の一部が上海にある日本総領事館から宮本の手元に届けられました。その理由は治療薬の開発に着手して欲しいためでした。真須木の「キング」開発の目的は
「人類共通の敵に立ち向かうために、一切の利害関係を棚上げにし、戦争を中断し、死に物狂いになって努力する過程で、人類は真の意味で国境を超え、民族の差異を超え、共に手をとって前へ進む存在に生まれ変わる可能性がある。そのとき、有史以来初めて、この地上から戦争というものがなくなる」
というもの。「キング」を地上に撒くことによって、人類は滅びるかもしれないが戦いは止む。その後は冒険小説と医療の場面が続き、終戦を迎えます。
今回の新型コロナウィルスがどのような経緯で発生したのかは現段階では不明ですが、細菌兵器でないことを祈り、また、世界の科学者が今後も倫理を失わないで欲しいと思い、読了しました。
『破滅の王』(上田早夕里著、双葉文庫、本体価格800円)