あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

反省記

2020-09-29 16:21:49 | 

 著者の西和彦さんは、我々、出版に携わる者なら知らない人はいないでしょうし、板宿の住民としては極めて馴染みが深い方です。アスキーのファウンダーであり、須磨学園さんの学園長です。半生記ならぬ反省記。西さんの人生とはいえ、日本のパソコンの勃興期からの歴史を物語り、後半はアスキーの転落記、そして、未来の教育への舞台に今は立つ、その姿はすさまじい。

 機械を見れば分解する、IQ200の子どもはモノづくりに興味を持ち、コンピューターに魅せられて、大学生の頃にアスキーを立ち上げ、コンピューターの情報関連の泉となり、ソフト開発に足を踏み込み、マイクロソフトのビル・ゲイツと成功の果実を得る、その道のりはまさに凄い!しかし、袂を分かったビル・ゲイツと自らを比べてしまったがために、事業の拡大路線を突き進み、経営を活かすことが出来ずに、すべてを失いながらも、自らが育った実家の教育事業に帰結し、日本の、世界のデジタルの世界に強い人材育成に軸足を置いておられます。

 本書から学んだ、人生の扉を開けるキーは、

 「興味のある場所に行け!」

ということ。同好の士が集えば、自分にとって重要な情報は交換され、会いたいと思える人とも出会える。悩むより「行け!」ととてもシンプルであり、分かりやすい。ちょっとした決断を恐れずに、一歩前進することは大切です。

『反省記 ビル・ゲイツとともに成功をつかんだ僕が、ビジネスの“地獄”で学んだこと』(西和彦著、ダイヤモンド社、本体価格1,600円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

青年の思索のために

2020-09-24 13:32:45 | 

 新潮文庫の古本で1冊は持っていますが、紙も焼けて極めて読みにくい。もう数年前、新潮さんから文庫で増刷1500部あると聞いて、連絡したら全部買いきりである方が買われると知って驚きましたが、たぶん、イエローハット創業者の鍵山秀三郎さんの注文だったのでしょう。復刊されて手に取って、やっと読めたという心境です。

 私がこの本を古本でも欲しいと思ったのは、行徳哲男さんの『感奮語録』(致知出版社)第三章「人間の魅力」に「老職工とカーネギー」というくだりがあり、そこには下村湖人が『老職工とカーネギー』という短篇を残したと書かれており、それはどの本に収められているのか探したら本書だったという、私だけのストーリーがあります。

 読み進めると、ラインマーカーを引きたいとことが多く、学ぶべき点が数々ありました。

 「社会の進歩と幸福とに何等かの役に立つかぎりにおいて、真の出発と言える」

 「人間の営みとは、要するに、われわれの身辺に間断なく流れているさまざまの偶然を出来るだけ多くとらえること、いいかえると、偶然を偶然のままに放置しないで、片っぱしから必然に変えていくこと

 「偶然をとらえ、それを絶好の機会とし、或いは天啓として生かすためには何が必要でありましょうか?それはいうまでもなく、不断の用意であり、努力であります」

 「悲運に処する最上の道は、(中略)悲運の中に天意を見出してそれに感謝すること」

 「人間にとって真にむずかしいのは傲慢な心に打ち克つことであり、へりくだろうと意識することなしにへりくだることである」

 「尊敬されれば尊敬されるほど謙虚な人はまちがいなく尊敬されている人であり、尊敬されれば尊敬されるほどいばる人は、その実、ほんとうには尊敬されていない人である」

 感謝や謙虚の心を養わなければならぬと思い至った読後でした。何度も読み続けていきたい1冊です。

『青年の思索のために 』(下村湖人著、ごま書房新社、本体価格1,500円)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今はちょっと、ついてないだけ

2020-09-15 17:11:58 | 

 バブル期にネイチャリング・フォトグラファーという肩書で、様々な秘境への探検のテレビ番組に出演していた立花浩樹は、連帯保証人として大金の負債を返すために故郷の実家で極貧の生活をしていました。やっと返済をしたころ、あるきっかけで再度、東京へ行って写真をやり直そうと決意します、「今はちょっと、ついていないだけ、そのうちいい運がやってくるよ」という母の声に背中を押されて。

 東京でもかすかな縁を手繰りながら、彼の写真は依頼者には評価が高く、少しずつはツキが転がり込んできました。しかし、踏ん切りが悪いのか、彼の周辺の人びとからの意見を聞きながらも悩みつつの進行です。

 「どこへいくのだろう。行き先はわからないけれど、今は、ここにいる。そして、願えばきっと、どこにでも行ける。」

 そして、虫が変態するように、一皮むけて前進します。虚像と考えていたネイチャリング・フォトグラファーが本物になる日が近づいています。挫折した中年男性の敗者復活はすがすがしい風を心に吹かせてくれます。諦めないでいれば、類は友を呼び、夜は空けます。

『今はちょっと、ついてないだけ』(伊吹有喜著、光文社文庫、本体価格620円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ふたご

2020-09-11 13:19:40 | 

 SEKAI NO OWARIでピアノを担当しておられる藤崎彩織さんの小説です。バンドのボーカル担当の深瀬さんの「彩織ちゃん、小説書いてみなよ」の一言で、5年を経て出来上がった物語はバンド結成までのストーリー。

 ピアノしか自分の友達はいないと思っていた、中学2年生の夏子は、学校の吹き抜けの階段でよく見かけた、1年先輩の月島に話しかけ、それ以来、友達以上恋人未満の状態でひっきりなしで出歩き、電話で話しました。高校に入った月島は何もする気を起こさぬようになり、高校は中退、アメリカに留学するとパニック障害を起こし、帰国。夏子の家に来た月島は再度の発作で夏子の首元にカッターナイフを突きつけるも、夏子の弟のとっさの判断で難を逃れました。月島は精神病院に入院し、夏子も月島を避けようと思うも、電話がかかってくると話をし、退院後は一緒に近所を歩くという以前の付き合いに戻っていました。月島は徐々に回復しますが、夏子は彼に振り回されるばかりでした。

 何をしても続かず、途中で投げやる月島は「バンドをやる」と宣言、メンバーを集め、結成するも難題ばかり。しかし、病が癒えてくると、月島はやる気もリーダーシップも発揮し始め、クラシックピアノを大学で学んでいた夏子もバンドに引きずり込み、ステージに立つと、音楽業界の人から声がかかり、その後はどうなるのかと期待を持たせての最終ページでした。

 このふたりの磁力は何なのだろう?微妙な吸引力と、あからさまな反発力は心を穏やかにしたり、ずたずたに切り込むも、最後には緩やかに引き合う。お互いの存在が在って当たり前のようにしか感じれないし、ふたりの生きざまは醜いながらも、どこからかは一筋の輝きを発光しているみたいだ。書名の「ふたご」とはこんな関係のような気もします。

『ふたご』(藤崎彩織著、文春文庫、本体価格690円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フラミンゴボーイ

2020-09-07 17:02:11 | 

 私の好きな作家のひとり、マイケル・モーパーゴの本が今年の課題図書高等学校の部に指定されていました。それではと読み始めました。

 イギリスの青年ヴィンセントが、部屋に飾ってあったゴッホの風景画の地、南フランスのカマルグへ旅立ったが、かの地で高熱に襲われ倒れました。現地の農場のロレンゾに助けられ、一緒に暮らすケジアの住む家で病を癒すことになりました。ロレンゾは発達障害であるが、動物には特に興味が強く、農場にいる家畜や、カマルグに生息するフラミンゴの病気も治す能力も発揮します。だからこそ、彼は「フラミンゴ・ボーイ」と呼ばれていました。

 但し、ヴィンセントはロレンゾのこと、そして、ケジアが英語を流暢に話す理由を知りたくて、ケジアに自己紹介を求め、長い物語が始まります。第2次世界大戦にドイツ軍がフランスにも侵攻し、ユダヤ人や少数民族は強制的に収容され、悲しい時を経て今に至っている中に、多くの奇跡や美しい人間模様が綴られています。

 このストーリーで貫いている思いは「もうあきらめないこと」です。何事も諦めは禁物。人や動物の病や、社会、民族、人間関係を治すのもこの意思の強さで決まることを訴えています。

 野生のフラミンゴの舞う姿も見たいなぁと思いました。

『フラミンゴボーイ』(マイケル・モーパーゴ著、小学館、本体価格1,500円)

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コロナ後の世界

2020-09-05 08:05:30 | 

 予測はなかなか当たらないものですが、先が読めないからやはり知りたいのが人情でしょうか。各社から今後の世界の姿の本を出版されていますが、世界の識者6人による1冊を読みました。

 「このウイルスが経済面に及ぼす影響は、『変化の担い手』というよりも、『促進剤』と側面が強い。」

 時代は一挙に変わることを意味しています。苦境に立たされていた産業はコロナ以前に受けていた変化が促進されるのでしょう。これは経済だけではなく、生活全般に及ぶでしょう。だから気を付けないといけないことを打ち出しています。

 日本の女性の社会進出の低さ

 GAFAの市場拡大

 情報の大切さ

 そして、「自分の職業キャリアの価値の見直し、生きる意味を再考する」、つまりは学び続ける必要性

を念頭に置くことはこの本の教えでした。

『コロナ後の世界』(ジャレド・ダイアモンド他、大野和基編集、文春新書、本体価格800円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする