あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図

2018-07-30 16:00:08 | 

 AIやロボットの発展でこれからの業界や仕事がどうなるのかが気になるところ。統計データを駆使して、将来展望を明かしたのが本書。

 AIやロボットが取り入られるのは

①成長市場で人手が足りない産業:運輸、福祉
②就業者数が多い産業:製造業、卸売・小売業
③平均給与が高い産業:金融業、保険業
④平均給与が低く、人手を集めにくい産業:農業、林業

と予測されており、ほとんどの業界で避けられない。日本の現状では、人手不足なので、AIやロボットの活用は進められるのが自明です。しかし、人とコミュニケーションを取らないと仕事がはかどらない業界では、リアルの人が活かされ続けます。

 業界別では、私が従事している小売では、恐るべきデータを知りました。それは、

20代の若者の1日の移動回数が、1999年の2.4回から、2015年には1.8回に減少している

ことです。つまり、家から出ていない、あるいはアクティブに動いていない。消費はリアルよりデジタルに移行していると想定されます。客数の対前年比でも、リアルで伸びているのは、インバウンド需要に貢献したドラックストアや百貨店だけで、コンビニでさえマイナス。コンビニよりも便利なインターネット通販なのでしょう。

 テクノロジーが進展すれば、逆に、リアルに課せるのは、その場で人と接したい、また、どうしても訪れたい空間を作ることが必要になってきます。あの人から買いたい、あの店で買いたい、あの人と話したいと思っていただける、人であり、店にしなければなりません。

『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(泉田良輔著、クロスメディアパブリッシング、本体価格1,480円)

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本当に日本人は流されやすいのか

2018-07-28 16:25:40 | 

 バブル崩壊後、30年近く、日本は構造改革を実行し続けているが、結果が出ていません。その原因はどこにあるのか?その根本を考察し、本当に取らざるおえない真っ当な国づくりへの方策を提唱しています。

 第一義に考えなければならないのは、構造改革路線を選択した日本人観にあるとしています。それは、

 「日本人は自律性、主体性を欠き、同調主義的で個が確立しておらず、権威に弱く、それに依存する」

という見方です。欧米人のような自律した個人へ変革すべしと方向で進んでいますが、はたしてそれでよいのか?

 著者が強調するのは、「日本型自律性」は存在し、欧米とは自律性の獲得のメカニズムが違う点です。欧米では、「原理主義の道徳観」に基づいた「相互独立的自己観」があるのに対し、日本では、 「状況重視の道徳観」から発する「相互協調的自己観」が古来から実在します。つまり、「自己発見や自己実現といったものは、多様な他者の観点の内面化を通じて自分をなるべく偏りなく見つめる認識の構えを身に付け、自分が多様な関係の網の目の中の存在であることを自覚」し、その場でいかなる思考や行動をとればよいかを決定できる人格こそが日本での自律です。

 しかし、欧米型への指向を促されている日本人は幼少の頃より、しつけやしきたり、また言語など、無意識レベルでは状況重視のなかで育っているため、メンタリティーが引き裂かれた状況に陥り、ひきこもりや自死という道を選ぶ人の出現しているのは自明なことです。

 それでは実際に取るべき路線は、日本型への回帰の構造改革です。個の自律を求めるのではなく、自分が関係するステークスホールダーとの協働、協業のなかで、自己を確立し自信を醸成していくことが大切です。インバウンドで日本を訪れる外国人は、その日本らしさに惹かれてお越しになられているのに、日本人がそれを忘れている状況です。日本人は本来持っている良さを思いだし、見直すことが先決かもしれません。

『本当に日本人は流されやすいのか』(施 光恒著、角川新書、本体価格820円)

 

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影法師

2018-07-17 15:46:17 | 

 前回紹介させていただいた、『読書という荒野』(見城徹著、幻冬舎、本体価格1,400円)のなかで、見城さんが「驚異的なオールランドプレイヤー」と評した百田尚樹さん。百田さんの代表作『永遠の0』よりも、この『影法師』をイチオシされていた。これは読まずしてはおれない。

 茅島藩八万石を舞台に、武士の最下位層、下士の戸田勘一と、中士(中士の上には支配層の上士がいる)の磯貝彦四郎は、藩校で共に学び、同じ剣術道場で汗を流す。彼らは、刎頸の契りを結び、親友として成長する。彦四郎は勉学も剣術も藩内一の存在で、人間的魅力も大いにあり、勘一は彦四郎を常に追いかける立場であった。しかし、勘一の財政的に苦しい藩政をよくするためへの考え、また、実戦的な剣術の力などは彦四郎を刺激し、彦四郎は

 「勘一は茅島藩にはなくてはならない男」

だからこそ、「どんなことがあっても貴女(おまえ)を護る」

と言い切る。

 勘一は下士から、最後は筆頭国家老にまで抜擢される一方、彦四郎は不幸な侍人生を歩み、最後は不遇の死を遂げる。なぜ、彦四郎と共に藩政を携われなかったのか?その秘密を探っていくと、「勘一は茅島藩にはなくてはならない男」、「どんなことがあっても貴女(おまえ)を護る」につながる、とても清々しいエンディングを迎えます。

 一人に光があたると、どうしても影が生まれる。逆に言えば、影がないと光は存在しない。勘一を藩の中心人物にするために、あえて影になる、友情に感動します。私は、この作品は、平成の『さぶ』(山本周五郎著)だと思います。見城さんの推薦する意味がよくわかりました。

『影法師』(百田尚樹著、講談社文庫、本体価格648円)

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読書という荒野

2018-07-08 10:02:53 | 

 今までの人生を振り返り、読書が自らをどう変え、また、文芸書編集者となってからは、書いてもらいたい著者の作品を徹底的に読み、著者にプラスになる感想を書き続けた、読書半生を書き綴っています。圧倒的な読書量、透徹した読書論には平伏すしかありません。特に、子どもの頃の読書量は半端ではない。毎日1冊、学校の図書館から借りては読む、ここは並の読書家ではありません。たぶん、子ども時代に読むべき本を読んでいる、この経験が大差を生んでいるのでしょう。

 『僕が考える読書とは、実生活では経験できない「別の世界」を経験し、他者への想像力を磨くことだ。重要なのは、「何が書かれているか」ではなく、「自分がどう感じるか」なのである。』

 『読書はやはり決定的な影響を与えている。本とは単なる情報の羅列ではない。自分の弱さを思い知らされ、同時に自分を鼓舞する、現実を戦うための武器なのだ。』

 読書における深い意味は人生を決定づけるバックボーンを自らに生み出し、思考する土台を形成することは本書で痛いほどわかる。なぜ、読むべきかは読むことにしか溶出されず、その意味でも編集者・見城氏の血の滲むほどの読書という世界を知ることは、書店人の私にとって、強烈なインパクトです。本を創り出す情熱は商売にも大いなる糧になりました。

『読書という荒野』(見城徹著、幻冬舎、本体価格1,400円)

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(愛蔵版)やなせたかし 明日をひらく言葉

2018-07-05 17:20:44 | 

アンパンマンの生みの親、やなせたかしさんの箴言集。

還暦前に「それいけ! アンパンマン」を刊行、69歳でテレビアニメ化され、94歳であの世に旅立ったやなせさんは大器晩成の典型のように、ご本人は書かれていますが、企業の広告、そして、独立後も一線を走っていたと思います。当時の漫画界の巨人である手塚治虫氏と比較するとどないもなりませんが、自分自身を良く見つめ、いかにすればよいか、また、自分の得意な分野は何かを理解し、努力し続けた人でした。

「好きなことならコツコツ努力することもつらくない。楽しみながら、いつの間にか何かをつかむこともできる。」

「運にめぐりあいたいなら、なんでも引き受けてみるといい。」

「今の仕事に不満を持っていたら、天職には出会えない。」

「その日、その日を大事に、一歩一歩積み上げていく。その平凡なことを何十年も続け、ささいなことを積み重ねるならば、いつの日か、平凡は非凡な結果に変わるのです。」

「こどもはいつも先生。もうなくなってしまった純粋な心を大人に教えてくれる。」

「老境は人生の秘境」

「今までやってきたことが、全部、役に立っているんだよ。無駄なことはひとつもない。」

やなせさんの言葉を読むと、アンパンマンじゃないけど、「勇気百倍」になれます。百年近い人生を歩み、言葉を紡いでこられた偉人の人生の歩き方は、我々を後押ししてくれます。

『(愛蔵版)やなせたかし 明日をひらく言葉 』(やなせたかし著、PHP研究所、本体価格620円)

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