ジョン・レノンの便秘の物語。えぇ~それが小説!?そうなんです。途中までは、ジョンの体調不全の話を読まされますが、妻ケイコの助言で訪れた「アネモネ医院」の診療から怪奇な現象とともに、ジョンの精神的な状況と便秘が快癒します。
著者・奥田英朗氏のデビュー作に取り上げたジョン・レノンの4年に渡る隠遁生活。1976年から79年までの毎夏を軽井沢で家族で過ごしていました。ジョン・レノンに関する書籍では、生誕からビートルズ解散まではたくさん書かれていますが、この隠遁生活についてはほぼ記述がない。また、隠遁生活後に作ったアルバムが家族愛を綴っていることから、奥田さんはこの間に「彼の心を癒すような出来事があった」と想像して書かれました。
ジョンの病名である「過敏性大腸症候群(心因性の腸の不調)」は奥田さんが実際に患った病であり、そして、便秘に至っています。精神を病んだ奥田さんの経験がジョンの物語に大きく投影されています。治療し始めてからの不思議な事象の連続は、ジョンの人生における気がかり、つまりトラウマの解消につながり、特に母との関係、また、母の生い立ちを知ることが、ジョンのその後の生き様を明るくしました。「運命にやさしくなれるんですよ、大人になるっていうことは。」の言葉がそれを表しています。
最後に、書名の「ウランバーナ」というのは、サンスクリット語で「苦しみ」という意味であり、「盂蘭盆会」の語源です。このジョンの話はお盆に起きています。
『ウランバーナの森』(奥田英朗著、講談社文庫、本体価格680円)