あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手

2024-07-15 09:32:14 | 

 天下分け目は関が原とされていますが、天下統一に向けての両雄の戦いとなると小牧・長久手の戦いとなるでしょう。本書は両雄の独白の応酬で進みます。

 織田信長・信忠が本能寺の変でこの世を去った後、名目上は織田家の跡目争いの形を取りながらも、実質は天下統一を目指す、羽柴秀吉VS徳川家康の決戦。戦力では秀吉軍が有利にもかかわらず、三河武士の命を恐れない凄まじい威力に、戦闘では家康軍に軍配は上がるも、天下を得る戦いには、軍師・黒田官兵衛を有する秀吉が勝利を得て、豊臣政権がその後成立します。言い換えれば、合戦力では徳川に、心理戦・人間観察による打つ手には羽柴に勝利の形をもたらしています。

 家康の外交担当のNo.2の家老であった石川数正の出奔の理由は歴史上は定かではありませんが、本書での推理は頷けます。さすがは家康とも納得します。家康の名言「人の一生は、重き荷を負うて遠き道をゆくがごとし。いそぐべからず。」の通り結果を生んだのもこの戦いだったと思います。

『関ケ原よりも熱く 天下分け目の小牧・長久手』(白蔵盈太著、文芸社文庫、本体価格720円、税込価格792円)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

おやときどきこども

2024-07-11 16:42:18 | 

 博多で塾を経営されている鳥羽さん。彼の人間を観る(診る、看る)視点はとても温かい。特に子どもへの愛情は深い。塾で三者(親子と塾の先生)面談での模様が多数書かれていますが、子どもの教育や生活態度について親は語る根本は保身であったり、上手く育てれないために自罰的になるため、精神的、心理的な圧力が自分の子どもへ負荷されます。それが何度も繰り返し行われると子どもにはトラウマになったり、子どもの潜在意識に負の意識が沈殿していきます。

 そうならないためにも、現実のいまここに味わいつつ向き合い、「大人に必要なのは、子どもを理解することではなく、子どもと自分との関係性を理解すること」と述べられています。子どもの課題に対し、俯瞰的に観察し、子どもの心を開いていくように話すべきと頭でわかっていても、実際は自分に引き寄せて考え話してしまいます。

 子どもを育てるのは初めてでも、子どもとして育てられた経験から、親からの手ほどきを子どもに施してしまう、負の連鎖にならないためにも、親としては一読すべき本だと思います。子どもが親になった今でも、この本を読むと後悔しかありません。

『おやときどきこども』(鳥羽和久著、ナナクロ社、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

しゃべれども しゃべれども

2024-07-07 11:51:37 | 

 主人公・今昔亭三つ葉は二つ目の26歳の落語家。しかしながら、近頃は高座での調子がいま一つで、自分の落語に自信が持てない。そんな彼におしゃべりを学びたいがために、落語教室をしてほしいという。テニスのコーチをするいとこ、おしゃべり教室に通っていたOL、大阪から転校してきたが、大阪弁しか話せないためにイジメを受けている小学5年生男子、そして、仕事でうまくしゃべれない野球解説者が集い、『まんじゅうこわい』を稽古します。最後には発表会までやってしまい、その顛末はお読みください。

 落語家として悩みを抱える三つ葉はこれからどうするべきか、どう落語を捉え、いかなる落語家になるかについて考えるにあたって、落語教室に通う4人へのアドバイスが自分の心にも突き刺さっていると思います。そういう意味では、「教える」ことは一番の学びであることになっているのでしょう。つまり、アウトプットをすることが人を育てるんですね。

『しゃべれども しゃべれども』(佐藤多佳子著、新潮文庫、本体価格710円、税込価格781円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今夜、喫茶マチカネで

2024-07-04 14:39:58 | 

 明日発売の増山実さんの新刊の舞台は待兼山。私にとってはこの山名は聞き覚え大ありで、大学の教養の2年間登りました。その麓の商店街の、1階はらんぷ堂書店、その上の喫茶マチカネ街での物語。このご時世か、65年の歴史にピリオドを打つということで、9月末に両方の店が閉店の意向を店主から訊いて、毎月1度夜9時から待兼山界隈の思い出話を語る「待兼山奇談倶楽部」を開催することに。いくつもの人情深い話が披露され、このまま店を閉じるのがもったいない思いにさせてくれました。

 私は「銭湯のピアニスト」がとても印象に残りました。あんなことが銭湯で行われていたとは想像もつかないし、苦学生の大学生活に潤いも与えていたんですね。さらに「風をあつめて」では、らんぷ堂書店の開業の思い~「少しでも平和でいい世界にするために、自分が良いと思った本を、みんなに届けること」には書店主としても心が打たれました。

 どこの街にもいろんな日々の1ページがあり、その積み重ねで街は構成されています。自分の今日の行動や発言が今と未来を形作ります。

『今夜、喫茶マチカネで』

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

碁盤斬り 柳田格之進異聞

2024-06-27 17:03:38 | 

 只今、ロードショー中の『碁盤斬り』は落語の「柳田格之進」をベースにした作品。実直で曲がったことの嫌な浪人・格之進の囲碁の物語に、彦根藩在籍当時のストーリーを加味した話にぐっと引き込まれました。

 裏長屋で娘のお絹と貧しい暮らしを送る格之進。書や篆刻を作り売り生計を立てようとするも、お絹の縫物の手間賃の方が足しになりながら、さりとて真っすぐな性格はそのまま、囲碁と少しの酒を楽しみに長屋住まいを楽しんでいます。囲碁の対局を通して質屋の萬屋の源兵衛と親しくなったが、月見の宴を楽しむ日に萬屋の離れで二人は碁盤を挟んで対局しますが、貸していた五十両が戻り、源兵衛の手元に手代が渡すも、源兵衛が小用をした折に五十両の行方が分からなくなります。格之進が盗んだのではないかという嫌疑を萬屋はかけるも…。このあたりは落語そのものです。

 格之進が覚えのない罪をきせられた事件を理由に彦根藩を去る前、妻が琵琶湖で自死してしまったその訳も分からなかったが、当時の同僚が真相を格之進に伝えることから、仇討ちの旅に出ます。ここからが落語に付け加えられたストーリーで緊迫した場面が続きます。

 さて、囲碁を通して、人とはが語られています。「碁を打てば人間が磨かれます。自ずと気品が備わってくるものです。それが勝負の本当の目的のように思うのです。」勝ち負けに終始すれば、心が卑しくなります。「正々堂々嘘偽りなく」は今の世にも響きます。

『碁盤斬り 柳田格之進異聞』(加藤正人著、文春文庫、本体価格720円、税込792円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

いのちのひろがり

2024-06-26 14:27:12 | 

 生命誌を提唱している中村桂子さんの思いを絵本にしています。子どもたちだけでなく大人も是非読んでもらいたいです。

 家や庭にやってくる昆虫や気持ちを和らげてくれる花々。中村さんは親愛の情を持って話しかけます。その理由を探るために、人間の祖先の旅に出かけます。その終点は一個の細胞です。私たちも母親のお腹の中で精子と受精卵からできた細胞から出発します。

 次には地球の誕生から現代に至るまでの進化の旅に出ます。地球に生存している動植物はどのように生まれてきたか?46億年の時間はとてもドラマティックです。

 最初はすべて細胞から分化していっただけの生物。仲間であることは間違いない。分け隔てなく「生」を謳歌するべきだし、それを阻害してはなりません。人間同士の争いは細胞に対して恥ずかしい行いだということは断言できます。

『いのちのひろがり』(中村桂子・文、松岡達英・絵、福音館書店、本体価格1,300円、税込価格1,430円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ありがとうの神様

2024-06-24 16:39:22 | 

 お亡くなりになって12年経ちますが、まだ売れ続けています。これはスタート地点が分かりやすいからだろうと思います。

 人間は「こうなりたい!」と願うものですが、いまの時点の自分をすべて受け入れて感謝の念を抱こう!~「思い通りにならなくていい」「こうなりたいという思いさえ持たなければいい」と述べてます。つまり、競争や他人との比較を避けて、「いかに喜ばれる存在になるか」に焦点を絞れと。頼まれごとは素直に実行することで、信用を得る。

 「ありがとう」を言い続けると、「ありがとう」と言いたくなる現象が引きおこるのなら、幸せにつながるということです。「不平不満」「愚痴」「泣き言」「悪口」「文句」はNG。何があっても「ありがとう」です。

『ありがとうの神様』(小林正観著、ダイヤモンド社、定価1,600円、税込1,760円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

左脳さん、右脳さん。 あなたにも体感できる意識変容の5ステップ

2024-06-21 16:07:57 | 

 ある日突然、思考が消えて、完全なるマインドフルネスになった著者・ネドじゅんの体験談であり、意識変容への手順を説いています。これはまさに潜在意識への到達であり、その先にある全体、大自然への融合の道筋が書かれています。

 その一歩として、「呼吸」があげられています。「エレベーターの呼吸」は本当に気を静める深呼吸であり、雑念を振り払い、「過剰になった思考を収め、身体の内側の生命エネルギーと触れ合える」状態に達します。それを邪魔するのは思考です。本書では「左脳さん」こそが意地悪な存在。「右脳さん」の働きを全開にすることが幸せを導きます。

『左脳さん、右脳さん。 あなたにも体感できる意識変容の5ステップ』(ネドじゅん著、ナチュラルスピリット、本体価格1,400円、税込価格1,540円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

きみのお金は誰のため

2024-06-21 15:25:33 | 

 「お金」の存在は有難がれるし、みんなが欲しいと思っています。その先入観を打ち砕く、「お金の教養小説」です。

 投資会社の上司から錬金術師の話を聴いてくるように言われた久能七海は、そのお屋敷の入り口を、たまたま出会った中学2年の佐久間優斗に尋ねました。案内すると土砂ぶりの雨に遭遇し、二人して屋敷に入りました。屋敷のボスは二人に「お金」について語り始めました。それは、

ーお金自体には価値がない。
ーお金で解決できる問題はない。
ーみんなでお金を貯めても意味がない。


というお金の謎を開陳。その一つ一つに、彼ら二人に問いかけながら解説を行っていきます。その内容は本書に譲り、ボスの視点は全体から俯瞰したものであり、「現在は過去の蓄積で成り立っている」や「投資によってできるのは、あくまでも未来の提案でしかない」など、自利ばかり考える人間には多くの刺激を与えてくれます。また、買い物ひとつにしても、「自分の行動の影響を理解した上で選択する」という延長線上に「街の本屋」の減少について書かれていることには驚きつつも、気にかけて下さっているのかと思えば、著者を応援したくなります。

『きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と社会のしくみ』(田内学著、東洋経済新報社、本体価格1,500円、税込価格1,650円)

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

元気じゃないけど、悪くない

2024-06-17 17:26:45 | 

 著者の旦那さんが私の高校時代の同級生と酔っぱらって当店にお越しになられた。これも出会いです。そこで「嫁の本です。」と紹介してもらいました。読まんと申し訳ない。

 2020年初夏を過ぎ、心身の調子を崩され、にっちもさっちもいかない。更年期か、はたまた身体のどこかに変調をきたしているのか、病院嫌いな私からは考えられないほどの各専門医院へ通院され、また、心の変調には読書からオンラインでのコミュニケーションや講座視聴まで、元気になるまでの遍歴を記録されています。一番つらかったであろう「めまい」の原因究明には読者の一人として拍手を送りました。

 もちろん、健康第一です。その上で何事もケセラセラで、なるようにしかならないという「ええかげん」な心持の人の方が生きやすいかなぁ~と感じました。また、「HELP!」と叫べる人間関係を築いておかないとあきませんね。その意味でも、健康な時には「喜ばせる」存在になりたいですね。

 私は悩まない質ですので、本書に参考文献として書かれている本たちに興味をそそられます。これまで手を伸ばさなかった分野ですもの。

『元気じゃないけど、悪くない』(青山ゆみこ著、ミシマ社、本体価格1,900円、税込価格2,090円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする