あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

教養の書

2022-03-30 14:40:03 | 

 人は生きていく上で、教養が必要なのはわかっていますが、教養とは何であり、それをどのように吸収すればよいかは誰も教えてくれません。本屋ですから、教養になる本はたくさんありますが、「きほんのき」を知るために、本書を読みました。大学の教養課程に入る前に、この本を読んでいれば自分の人生が変わっていたとは思いますが、40年以上前までさかのぼることは出来ません。

 人間は生物として子孫へ命を継承する存在ですが、それとともに「知的遺産の継承の担い手」でもあり、そのためにも教養は学ばなければなりません。また、生きる上で、「自分をより大きな価値の尺度に照らして」、自分の位置はどこになるのかを相対的に観察するためにも、学びが必要です。そして、至らなければ、素直に自己変革をできるスタンスを保持することも大事です。

 読書が教養人への道には欠かせませんが、「本を読む人と読まない人は全く異なった種類の人間」と捉えており、読書によって、時空を超えてつながれることは他人と交換不可能な人になれます。

 最終的には、「社会の担い手」であり、「道徳の主体」となるためにも教養を遠ざけることは避けなければなりません。

 映画好きな著者は映画を題材にして、教養を説明するのは理解しやすかったですね。

『教養の書』(戸田山和久著、筑摩書房、本体価格1,800円、税込価格1,980円)

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オオルリ流星群

2022-03-14 15:52:14 | 

 高校3年生の文化祭でオオルリをかたどった空き缶タペストリーを作った同級生たちが卒業後28年を経て、元国立天文台出身で仲間の一人の山際彗子が自分の天文台を持つ夢実現に協力すべく集合します。それぞれが独自の道を歩みながらも、誰しも大なり小なりのミドルエイジクライシスを抱きつつも、高校時代の夏の思い出の再現に立ち向かいます。しかし、空き缶タペストリーの企画提案者で運営の中心人物の槙恵介は卒業後1年目に謎の自殺、梅野和也は仕事でうつになり、その場にはいません。

 天文台の建設現場はオオルリがやってくる山の上。「人間は誰しも、一つの星を見つめて歩いている」が、その星を見失うこともあるし、再度違う星を探すこともあります。しかし、星を探すことを忘れてはならないし、「手の届くことから始める」ことが必須です。中年の彼らは天文台を作る過程で自分を見つめ直し、新たな一歩を踏み出すはずです。

 伊与原 新さんの今回の作品は、天文学をメインにオオルリの生態などを絡めた物語です。

『オオルリ流星群』(伊与原 新著、KADOKAWA、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

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ある一生

2022-03-11 15:08:34 | 

 オーストリアのアルプス山麓で、私生児として生まれ、母親も亡くなり、親戚に預けられたエッガー。彼の人生の物語は20世紀の大きな流れに翻弄されました。貧しい生活を送りながらも、マリーに恋情を抱き、自身の稼ぎで家庭を持つために、アルプス観光のハードインフラであるロープ―ウェイ建設に命を懸けて取り組みます。口下手なエッガーのプロポーズはとても素敵で、こんなことをされたらどんな女性も落ちるでしょう。

 森林限界の石ばかりの地で家を構えますが、夜半に起きた雪崩でマリーを喪い、茫然自失のエッガーは第2次世界大戦に兵士として戦場に立ち、ロシアに抑留させられ、戦後数年を経て、地元に戻ってきます。山のガイドの職を自ら生み出し、登山やハイキングのお供に従事します。晩年はアルプスの自然に沿った生き方を送ります。

 取り立てて偉業を成したわけでもない、どこにでもある一生かもしれませんが、なぜか読む者を幸せにしてくれます。彼の生きるペースがアルプスに準じているからかもしれません。派手さよりも職人気質の生き様に惚れますね。

『ある一生』(ローベルト・ゼーターラー著、新潮社、本体価格1,700円、税込価格1,870円)

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ふたつのしるし

2022-03-04 17:04:51 | 

 柏木温之(はるゆき)、通称ハルは子ども頃より少し注意力が欠如しており、アリの行列をずっと眺める、長じては地図を見入っていれば何時間も集中力を保てる男の子でした。学校ではいじめられ、高校で中退します。

 大野遥名(はるな)は、金沢で生まれ育った子どもの頃から優等生で外見も美人であるが、出る杭は打たれるので、他者には反応をしないように目立たないでひっそりと生きてきました。東京の大学に入学し、そのまま大手の会社に就職します。

 彼らはお互い記憶に残らないような、微かな接点を持っていました。

 学校へ行かないハルは家出同然で東京を離れます。電気工事会社に入社し、配線図と出会ってから、子どもの時の癖が活きて、俄然仕事にのめりこみます。遥名の勤める会社の工事現場で彼らは再会し、ハルは恋に落ちてしまいますが、人との接触を嫌うので、全く進行はしません。

 2011年3月の大震災でハルの心情は揺れ、思いもしない大胆な行動をとります。その後は・・・。

 点と点が一気に結びつき、見えない糸は顕在し、人は変わっていきます。どこにその可能性が秘めているかもしれません。ふたつのしるしは結実し、新しい人生を歩みます。

『ふたつのしるし』(宮下奈都著、幻冬舎文庫、本体価格500円、税込価格550円)

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フツーに方丈記

2022-03-02 16:39:39 | 

 著者は25歳から東京で年収90万円の隠居生活を始め、台湾に移住して隠居可能かトライして、コロナのために3年半で帰国しました。コロナ後も見据えて、鴨長明の「方丈記」を読んで感じたことを綴っています。

 新型コロナウィルスの感染が拡大して、一番に注意しなければならなかったのが「3密」の回避でした。著者のように密集しない生活を送っていると問題がありませんが、密集しないようにするにはどうすればよいか?これは

 「社会システムに(可能な限り)依存しない」「できるだけ自給自足する」「人間中心の世界から自然に身を置く」

こと。私も里山整備で板宿の山にたびたび訪れますが、自然に抱かれると、街中で知らない間に蓄積されていたストレスは解放され、すがすがしい気持ちになります。人間社会にいると他人からの目を気にするし、世の空気が個人を攻撃します。もちろん、社会悪なことはできないにしても、自分のやりたいことを実行する、それも、コロナに感染して死ぬ可能性もある中、すぐ行うことが重要になってきます。平均寿命から判断するのではなく、いつ死んでも納得した生を享受できるように生きる。過去は変えれないし、未来はどうなるかわからないのであれば、今を楽しむ。やはり、方丈記は読み応えあるエッセイです。

『フツーに方丈記 』(大原扁理著、百万年書房、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

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