三重県津市の浅田家。お母さんは看護師、お父さんは主夫、息子2人。年賀状のために息子たちの写真を毎年恒例に撮るお父さんの影響もあって、次男の政志は写真家を目指すために、高校卒業後、大阪の写真の専門学校に入学。下宿生活で呆けてしまい、学校も行かず、このままでは退学になるやもしれずの政志の卒業制作のテーマは「一生にあと一枚しかシャッターを切れないとしたら」。これに対して、敢然と立ち向かう政志は原点の家族写真、それもコスプレで。お父さんが消防士になりたかったと言われれば、消防署で制服を借り、家族で撮影するというように、これをシリーズで撮りました。そして、東京で個展を開催し、出版社社長の目に留まり、写真集『浅田家』(赤々舎、本体価格2600円)が刊行。販売は芳しくあるはずがなく、書店の店頭からも姿を消そうとしているときに、写真界の芥川賞である、第34回 木村伊兵衛写真賞(2008年度)受賞の報が出版社に届き、一躍メジャーに。その後も一般応募の家族写真を撮り続け…。
家族はさまざまな背景や課題を持って生きています。ファインダーから覗くと簡単にシャッターを切れる場合もあるし、押しづらいこともあります。それでも、「一生にあと一枚しかシャッターを切れないとしたら」という思いで写真を取れば、写真も変わってきます。
「写真は、思い出を残すためだけでなく、時には、いまを生きるための力になる」
「たった一枚の写真が、その人の人生を変えてしまうことだってあるかもしれない」
「何の写真を撮りたいのか?ではなくて、写真で誰を喜ばせたいのか?」
この本では家族愛、仕事への執念、そして、人としての生き方がじわーっと感じられます。笑って笑って、そして、泣いて泣いて読了しました。
『浅田家!』(中野量太著、徳間文庫、本体価格630円)