あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学

2021-03-31 14:42:07 | 

 グローバル資本主義は効率を求めるために、大規模化と集中化を招き、弱肉強食の度合いが激しくなり、またデジタル化したため、商品は低価格になり、便利にはなりましたが、人類、あるいは人類の住む地球への悪影響が肥大化しています。それは格差の拡大であり、地球温暖化による異常気象の勃発です。

 タコが身を食うように、人間自身が生きづらくなる世の中にしているのですが、これをいかに解消すればよいか。著者の森永卓郎氏はガンディーの思想に解決策を求めています。「どこまでの範囲の人の幸福を考えるか」という視点です。一人の人が全人類の幸福を考えることは不可能であり、「隣人をいたわり、気遣う」ことしかできない。つまり、消費や投資を通じて、近くの人を助けることにより、全人類の幸福につながります。「地域内再投資」の考え方です。地元で同じものが買えるのであれば、わざわざ通販で購入するのをやめる。投資する資金があれば、できるだけ地元の会社へ委ねる。ローカルへ、小規模へ、地域への分散を志向し、行動しなければなりません。

 今回の新型コロナウィルスによるパンデミックもグローバル資本主義へのキツイ灸かもしれません。人口の集中していない、顔の見える度合いの強い地方には感染は拡大しません。

『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』(森永卓郎著、インターナショナル新書、本体価格800円、税込価格880円)

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人生、何を成したかよりどう生きるか

2021-03-30 16:08:04 | 

 内村鑑三の『後世への最大遺物』を現代文での講演録にしたのが本書です。1897年に刊行されていますから、120年超前ですが、内容は全く古びてはいませんし、現代の自己啓発本としては全く問題はありません。

 内村鑑三は「後世への最大遺物」は

お金、事業、教育(あるいは本を書いて思想を遺すこと)、生き方

であるとしています。最初のお金は儲けたお金をどう使うか、どう活かすかです。すべては世の中を良くするためです。そして、誰しも生きている以上は、「生き方」だけは残せます。

 「あの人は信じる思想を実際に積み重ねて、この世で真面目な一生を送った」という事実を後世の人に遺したい

ということだけでも肝に銘じたいと思います。

『人生、何を成したかよりどう生きるか』(内村鑑三著、佐藤優解説、文響社、本体価格1,450円、税込1,594円)

 

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やわらかな知性 認知科学が挑む落語の神秘

2021-03-22 15:49:15 | 

 落語をする身としては、学問的見地からの落語に興味津々です。著者の野村亮太さんは早稲田大学の落研出身です。

 認知科学から考察すると、落語は「演者と客の相互依存的な関係」で決定付けられます。噺家が噺の筋での登場人物同士のコミュニケーション、そして、噺家と客とのメタコミュニケーションという二つの状況をお客さんは行き来しながら楽しんでいます。

 では、噺家の落語のうまさは何で判断されるのか?客を楽しませるためには、噺家が心地よい噺のリズムを醸しだし、演者と客の間に生まれる一体感ー著者はこれを「響感」と呼んでいますーに包まれています。その時に、「笑い」とともに、「客のまばたきが同期する頻度」が上がることを発見されています。

 こういった響感を生む率が高い落語家が名人と称されますが、名人への道も次のように考えられています。継承されてきた落語をそのまま演じる「アクター」から出発して、その落語に手を加え、現代に合うように変えていくアレンジャーを経て、「演者の生き様に対する思想」から自分なりの噺へ脱皮させたり、「演じられる噺の裏側から深く汲み取る」ように創造的に変容させるクリエーターにまで昇りつめます。そこには感性と技術が必要でありながらも、その底辺には「人の情に触れることが楽しさを生む」視点が不可欠です。

 噺家の生きる理念があってこその落語であることを知ったのはこれからの趣味の世界を広げてくれます。

『やわらかな知性 認知科学が挑む落語の神秘』(野村亮太著、dZERO、税込2,420円)

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師弟 笑福亭鶴瓶からもらった言葉

2021-03-17 15:24:33 | 

 4月22日(木)発売の本書のゲラを読ましていただきました。芸歴34年の笑福亭銀瓶さんの半生記は間違いなく感動本の1冊です。一人の落語家の生きた道、また、上方落語の奥行きを感じさせてくれます。

 1967年神戸で在日コリアン3世として生まれました、このルーツこそが銀瓶さんの生きる道を輝かしています。入門間もなくの頃、鶴瓶師匠に訊かれた言葉、「お前、韓国語できるんか?」「お前なぁ、ルーツの国の言葉なんやから、勉強しといたらどないや」には、その時点は何も思わない、あるいは嫌悪感を抱いていた彼が、高校時代に読んだ、司馬遼太郎の『龍馬がゆく』に感化された上での、「何をして、生きていこう」「何になりたいんだ?」という自分自身への問い、そして、落語家としての独自の道、これらがスパークして、必死に取り組んだ結果が韓国語落語でした。

 韓国での落語会では日本語を学ぶ学生に韓国語、そして、日本語で落語を演じ、「日本語は美しい言葉である。」「世界に類のない落語という文化を生み出した日本は、素晴らしいと思う」という感想を彼が抱くのは、日本で生まれ、日本語を母語とする落語家という、もう一つのルーツを再確認したのでしょう。

 落語への熱情は、入門20年で繁昌亭奨励賞、21年には第四回繁昌亭大賞に結び付き、同じ尼崎に住む人間国宝・桂米朝師匠に「一文笛」の稽古をつけてもらい、上方落語を次につなげることを使命に置かれています。ここのくだりは、上方落語の至宝との交流ですね。

 入門後2年を過ぎ、「弟子を辞めたい」という申し出に対し、「お前から勝手に辞めることはでけへん。俺は今、お前を辞めさすつもりはない」という鶴瓶師匠の愛情という土台の上で、銀瓶さんの努力の結晶が今の彼を創っています。

 この本の中で書かれている、古典芸能を演じる多くの師匠連中からの、落語という芸への数々の考察や思いは落語ファンにはたまらなく面白く、上方落語の隠された深い芸道の一面も表現されています。400超のページ数も苦にならず、楽しめます。

『師弟 笑福亭鶴瓶からもらった言葉』(笑福亭銀瓶著、西日本出版社、本体価格1,800円、税込1,980円)

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長いお別れ

2021-03-09 14:07:16 | 

 長生きすれば長寿は喜ばれる一方、高齢化社会という側面からみると介護の問題が現れます。「要支援」、「要介護」という認定用語は家族への負担を軽減するしくみですが、心理的には重くのしかかります。

 認知症と診断されてから死に至るまでの10年間の道のりを描いています。会話は徐々に伝わらないし、言うていることが理解できない、そして、足が達者であれば徘徊し、行方不明となります。妻と3人の娘が世話をし、心配もします。この小説の良さは、認知症の東昇平の最期は、カリフォルニアに住む孫のタカシが校長先生との面談でぽろっと吐露し、それに対して、校長先生は「ロンググッバイ」と認知症を表現する点です。直接著わすのではなく、海の向こうの孫が生きていた頃の祖父を想う、余韻に浸れます。

 誰しも認知症になれる可能性を秘めて日々の生活をしています。将来を憂いても仕方ないので、今日のいまここに励もうと思いました。

『長いお別れ』(中島京子著、文春文庫、本体価格660円)

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