あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

カイト  パレスチナの風に希望をのせて

2014-08-25 16:40:08 | 

  スピルバーグ監督により映画化された『戦火の馬』 の原作者のマイケル・モーパーゴの作品をまとめ読みしました。今日は、『カイト パレスチナの風に希望をのせて』です。

 舞台はパレスチナ。イギリス人の映像記者マックスは、パレスチナと、そして、壁を隔てたイスラエル入植地の状況を取材に来ました。パレスチナで出会った少年、羊飼いのザイードは丘の上で凧を揚げていた。マックスが話しかけても、何一つ答えないザイード。彼はある事件をきっかけにしゃべることが出来ませんでした。しかし、マックスの映像機器、特にカメラに興味を持ち、ファインダーを覗き、撮影をしたいがために、マックスに近寄る。マックスはザイードが凧を揚げ、壁の向こうのイスラエル入植地の様子をファインダーに収めました。ザイードは凧を揚げて、空高く十分に揚がった時点で糸を離し、壁の向こう側へ飛ばしていきました。その凧には

「サラーム」

と書かれています。日本語で「平和」です。

 夕暮れが近づき、マックスはザイードの家に宿泊させてもらいました。 翌日も、マックスはザイードと丘に登りました。ここからはクライマックスなので、本書に感動は譲ります。

 今もパレスチナ・ガザ地区での戦闘は続いています。戦火で市民が亡くなり、悲鳴と失望は止みません。市民の望むものは「サラーム」以外の何物でもありません。「平和」こそ大切な宝物です。

 『カイト パレスチナの風に希望をのせて』(マイケル・モーパーゴ 作/ローラ・カーリン 絵/杉田七重 訳、あかね書房、本体価格1,200円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「つながり格差」が学力格差を生む

2014-08-16 17:03:27 | 

 教育社会学を研究されている、大阪大学人間科学部教授の志水宏吉先生のお話しを、数年前に板宿小学校でお聴きしました。学力格差をいかに少なくするかを、本書の内容も含めて学びました。その時には提起されていなかった、「つながり格差」について読んでみて、目からウロコがこぼれる思いをしました。

 「全国学力・学習状況調査」(いわゆる学力テスト)が2007年(平成19年)から行われています。かつて、1960~64年にも、中学生の悉皆調査がされており、その調査の比較をすると、とても興味深い考察がなされました。

 1964年の学力テストの結果は、都市部を有する自治体の成績が良く、いなかのそれは低迷している結果が出て、都鄙格差と考えられています。富(親の経済的豊かさ)+願望(親の高い学歴や子に対する思い)=選択という図式のペアレントクラシーが明確に現れていました。

 2007年の結果は、秋田県、福井県、富山県などの日本海側の県の成績が高く、逆に大阪府の低迷が特徴的でした。このような結果になった要因を次のように志水先生は考えられています。

 離婚率の低さ――家庭・家族と子どもとのつながり
 持ち家率の高さ――地域・近隣社会との子どもとのつながり
 不登校率の低さ――学校・教師と子どもとのつながり

による、家庭、地域、学校での、子どもたちと周囲との「つながり」格差が学力に強く影響するとしています。かつて地域間で見られた生活環境や情報環境の違いは全国的に均質化・画一化し、地域差は消滅しましたが、都市化に伴い、伝統的な地縁・血縁関係の弱体化、バブル崩壊後の社縁(会社を通じたつながり)や家族縁(家庭内のつながり)が希薄になり、都市部でより深刻なため、離婚率、持ち家率、不登校率が子どもの学力に影を落としています。

 都市部でも学力が素晴らしい子どもはいますが、その一方で、いわゆる、「しんどい」層が歴然と存在し、平均を出すと好成績につながっていない。地域内でも学力格差の克服こそが必須の要件であり、「学力格差の拡大は、社会的排除の昂進へと抜きがたく結びつく」とするように、人間の成長における壁になってしまいます。

 このつながりを生むのは地域の力です。そういう意味では、井戸書店での論語塾も大きく寄与していると自負しておきましょう!

『「つながり格差」が学力格差を生む』(志水宏吉著、亜紀書房、本体価格1,600円) 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「サル化」する人間社会

2014-08-16 15:21:02 | Weblog

 この度、京都大学の総長になられた、ゴリラ研究の第一人者・山極寿一氏は、「人間とは何か」を探るために、霊長類学と人類学の研究をされてきました。人類と祖先を同じのゴリラのフィールド調査を通して、現代人間への痛烈なメッセージを述べておられます。

 ゴリラはとても興味深い行動を取っています。

 ・群れの仲間のなかで序列を作らず、優劣の意識はない
 ・勝ち負けの概念がなく、喧嘩の仲裁は非常に平和的
 ・じっと相手の目を見つめることによるコミュニケーション
 ・威嚇されても相手の視線を避けない  
 ・相手が何をしたいのか、自分が何を望まれているのかを汲み取り、どういう態度をとるべきなのかと状況に即して考える
 ・共存脳力があり、仲間で食物の分配をする   
 ・同性愛行動を取る(人間には同性愛行動を起こしやすい性質が進化の遺産として受け継がれている)

 それに対して、同じ霊長類ながら、サルは純然たる序列社会であり、ゴリラとは対照的な社会を形成しています。サルは個体の欲求を優先し、勝ち負けは明確です。

 そして、人間は、子育てや食を分かち合うために、「家族」と、家族の補完的な役割をする「共同体」という集団に所属しています。この2つの集団内で、普遍的な社会性、すなわち、「見返りのない奉仕」をしたり、「互酬性」のある行動を取り、集団に対する「帰属意識」を持っています。これはゴリラの平和、平等主義の側面を受け継いでいます。

 しかしながら、新自由主義、グローバル経済に突入し、勝ち組と負け組の区分がなされ、個人の利益、とともに効率の追求する社会に指向する結果、食事を共にしていた家族はバラバラになり、孤食化し、集団への帰属意識も薄らぎ、人間本来の姿から乖離しています。また、インターネット、メール、SNSなどのデジタルによるコミュニケーションが進み、「文字」だけによる情報の交換が効率よく行えるようになりました。家族や共同体が持っていた、態度、顔、表情、目の動きを通じての、対面的、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションは非効率になってしまった感があります。このように、現代においては、

「人間社会は加速的にサル社会化している」

と山極総長に看過されています。我々と祖先を同じにする、ゴリラを見直し、見習う、謙虚さが必要ですね。

『「サル化」する人間社会』(山極寿一著、集英社インターナショナル、本体価格1,100円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

神変 役小角絵巻

2014-08-16 15:03:54 | 

 本日は井戸書店のスタッフの田中さんのオススメです。

 『利休にたずねよ』の著者・山本兼一さんの、唯一の古代日本歴史小説の『神変 役小角絵巻』です。

 租庸調や奴隷の制度、口分田で国造りを進める女帝・持統天皇。民草(たみくさ)の生活が苦しくなる一方、山に住む役小角(えんのおづぬ)は

「人間に上下があってはならぬ!」

「人は助け合って生きるのだ!」

と考え、国造りを妨げようと奮闘する。ファンタジアな場面もありつつ、迫力ある模写が読み応えあります。

『神変 役小角絵巻』(山本兼一著、中公文庫、本体価格860円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

仕事は輝く 石を切り出すだけの仕事に働く喜びを見つけた物語

2014-08-13 08:27:21 | 

 ビジネス寓話で有名な 「石切り職人の話」は仕事の意義を再確認させてくれます。3人の石切り職人はそれぞれ、「お金のため」「教会を作るため」「教会を作ってみんなが安らかでいられるように」と答えます。


  本書は、この寓話に参考に、主人公・アルダが石切り職人の見習いからプロフェショナルになるまでの成功小説です。


  給金をもらったアルダに異国の行商人は、「仕事の悩みを解決し、幸せと成功をもたらす『秘法』を学べる」巻物を勧められます。当時の彼の1か月の給料の値段でしたが、


  「本当に富を生むことができるのは、頭の中にある考えだ。この世界で富を築く者は、富を生む考え方を学んだ者だ。」

という行商人の言葉で購入します。

 その秘法には、

 セルフイメージ~「何の専門家であるか」、

 カスタマー~「顧客の期待を超える」、

 ミッション~「仕事の意味」

を繰り返し学ぶことの重要性が書かれていました。秘法に従って、人間としての成長を歩むアルダは自国の市民を守り、豊かに暮すための城壁を建設する石切り職人へと変貌します。秘法の導きでリーダーシップも高めています。職場の組織員みんなで読んで語り合うための1冊ですね。

 『仕事は輝く 石を切り出すだけの仕事に働く喜びを見つけた物語』(犬飼ターボ著、飛鳥新社、本体価格1,204円) 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

何のために

2014-08-05 15:51:31 | 

 「返事は0.2秒」

 「頼まれごとは試されごと」

 「できない理由を言わない」

 「今できることをやる」

 鉄板ルールを名フレーズにした講演を、全国で年に300回行われる、中村文昭氏の新刊『何のために』が出版されました。

 現代人は豊かなので、生活に困ることはないですが、就職しても肌に合わなければ、すぐ辞める傾向にあります。鉄板ルールからは逸脱していますが、我慢が足らない。とりあえず就いた仕事を辛抱して続けて、

 「今日から『何のために』を考えよう。毎日毎日、考えたろ」と思った瞬間から、道が開けた気がします。

と平成の寅さん・中村氏は述べています。自分自身の信念、志は仕事を通じて生まれることが多いです。それを見い出すと、すべてが明るく見えてきます。そして、中村氏の何のためには

 「人を喜ばせること」

です。忘己利他の精神が彼を輝かせています。日本人は誰しも、「人のお役に立ちたい」という気持ちが強いはず。目の前のことを一所懸命にやることで、その仕事が天職になる人を大勢知っています。過去と他人は変えられないのであれば、いまここで精一杯の力を発揮することで自らと未来が変わっていくのだと思います。

 さらに、日本の精神は「ありがとう」と「おかげさま」であるという考え方には、諸手を挙げて賛同します。現代日本人は西欧文化の影響か、「当たり前」という思いが強すぎ、すべては自らの手で成し遂げているかの錯覚に陥っている節があります。謙虚に素直に処するためにも、この二つのフレーズが鉄板になることを期待しています。

 「何のために」(中村文昭著、サンマーク出版、本体価格1,500円)

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

10万人を超す命を救った沖縄県知事・島田叡

2014-08-02 15:14:44 | 

  須磨は西須磨の偉人・島田叡の本が出版されました。『10万人を超す命を救った沖縄県知事・島田叡 』(TBSテレビ報道局『生きろ』取材班著、ポプラ新書、本体価格780円)です。

  8月3日(日)神戸新聞のKBC通信にも掲載文を書きました。それを以下に繰り広げます。

  もうすぐ、79回目の終戦記念日が訪れます。集団的自衛権の行使が閣議決定され、政治からは目が離せません。そんな中、神戸市須磨区の偉人・島田叡氏の本8月上旬に出版されます。
 戦火が沖縄に及ぼうとした時、前任の知事は病気と称して帰任せず、打診を受けた島田叡氏は拒否せず、敢然と沖縄県に赴任する。住民目線を貫いた行政、県民の疎開、食糧米の調達、県と軍の関係改善など、着任すぐに改革を実行。「命(ぬち)どぅ宝」の思いで、県民の生命を守るも、彼は行方不明のまま、終戦。学生時代の優秀な野球人ゆえのフェアプレー精神や、評価を求めず、身命を賭しての仕事観など、我々は彼の生き様から学ぶべき点が多い。

 彼ほどの人間学のモデルはないでしょう。「断じて敢えて行えば、鬼神も之を避く」を座右の銘とし、自利よりも他利を優先させ、沖縄には「葉隠」と「南洲翁遺訓」の2冊を忍ばせて赴きました。県民には「生きろ」と言い続け、自身の命を奉げた人生は語りつがれなければなりません。

 「後の世に語りつがれず祭られず さらすしがばねみやびなるらん」

という歌そのものの生き様は官吏の亀鑑以外の何物でもありません。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

まるごと畑喜美夫

2014-08-02 14:38:44 | 

 畑先生のことは雑誌で読んだ記憶がありましたが、この本で彼の人材育成の取り組みがよく理解できました。

 1965年広島市生まれの畑氏は、小学生では広島大河フットボールクラブに入部、浜本監督の指導の下、サッカーに打ち込み、高校は静岡県の東海大学第一高等学校へサッカー留学。高校3年時にU-17二本代表に選出され、順天堂大学でもU-20日本代表、ソウルオリンピックの代表候補になりながら、腰椎ヘルニアを発症し、辞退しました。大学4年生時には、全日本大学サッカートーナメント、インカレに全国制覇を達成するも、腰の状態が改善されず、プロの道は断念し、教師の道を目指しました。

 広島県立廿日市西高校から始まった教諭・サッカー部監督は、1997年に広島観音高校に赴任時に大きく変貌しました。大河FCで学んだ浜本監督の指導法をベースに、選手主導のボトムアップ指導法を確立し、2006年に県総体に優勝し、インターハイは初出場初優勝に導きました。公立高校でスカウトなし、スパルタ指導もない、ボトムアップが開花しました。

 選手が自主性・主体性を持ちながら、考えて創造してやっていくやり方で、練習メニューから試合の出場選手まで選手が決定し、選手みんながチームを育てていく方法は、選手が指示待ちにならず、やる気をたぎらせ、サッカーに打ち込む姿を生んでいます。畑先生の目指すことは、サッカーバカになるのではなく、高校時代に育まれた「心」が社会に出ても発揮することに主眼を置いてます。「サッカーだけ上手くなるのではなく、『日常生活のすべてでうまくなる』という考えです。つまり、選手の人間力をどれだけ引き出せるかがキーポイントになっています。整理整頓清掃を丁寧にすることによって、選手の心の準備を促し、畑監督と選手間のサッカーノートで「考える習慣」を付けさせています。選手たちは、サッカー部のミッションとビジョンを理解し、いかに行動すべきかを考え、チーム内の濃密なコミュニケーションが選手個人をより自立した存在にしています。

 この指導法はスポーツだけではなく、子育てや企業でも十分活用される考え方です。選手や部下がいかにやる気を出して取り組むかは、リーダーの「見守る」姿に凝縮されています。

 『まるごと畑喜美夫  徹底検証なぜ、ボトムアップ指導は強くなるのか? 自主的・自発的に動ける個・組織がこれからの未来を輝かせる』(ザメディアジョン、本体価格1400円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする