あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

一富士茄子牛焦げルギー

2020-12-30 10:38:16 | 

 明石在住のたなかしんさんのこの作品は新年には舞台化されます。

 父と息子の掛け合いはまさに漫才、さすがは大阪の親子です。

 正月の朝に、おやじが初夢を見たと言います。牛みたいな大きな茄子の背に乗り、富士山頂で、「餅が焦げないようにしてください」と願った!?

 ホンマかいなと疑いつつも、オーブントースターで餅を焼いても焦げ目がつかない!おとんの夢が 正夢になった!

 もうひとつ、夢が叶えられると富士山に告げられたおとんは息子に、今度はお前が夢を見るために寝ろ!と。3年前の交通事故で亡くなったおかんを生き返らせてほしい~という願いは・・・

 あの世のおかんの息子への熱い思い、これにはジーンときますね。

 「幸せはな、自分で見つけるんや。(中略)幸せは見つけたもん勝ちや。」「しょうもないことに時間を使わんと、ちゃんと自分お幸せのために使い。心の分量は決まってるんや。」

 まさに、お正月に読めば、新年を明るく生きれことができるパワーを与えてくれます。

『一富士茄子牛焦げルギー』(たなかしん著、BL出版、本体価格1,500円)
 

 

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洞窟オジさん

2020-12-30 09:33:52 | 

 両親の虐待に耐えかねた加村一馬さんは、昭和35年、当時13才の時に、愛犬シロを連れて家出、そして、山中でのサバイバル生活が始まります。この家出はまさに計画的であるものの、足尾鉱山の洞窟を振り出しに、新潟、福島、富士山の樹海、茨城県の小貝川流域と流浪の民になり、獲物を追い求めました。山ではイノシシやシカ、ヘビにネズミ、コウモリ、野ウサギを、川では釣り名人と言われるほどになり、獲物を売ったお金で暮らす生活へ移行しました。「小野田さんのような生活だ」と告げられても、彼はその小野田さんがわからない。

 釣り仲間のおじさんの厚意で、現代人になってからも、人間関係で悩む加村さんもやはり、「人の間」と書く人間。彼を優しく見守り、彼の良さを引き出そうとする人たちの存在は、彼に「感謝や愛情」を育む心を芽生えさせました。これこそが現代日本人に不足しているから洞窟オジさんが物語になるのです。

 巻末に絵入りでのサバイバル術があるのも、現代日本人の不足の知恵ですね。

『洞窟オジさん』(加村一馬著、小学館文庫、本体価格630円)

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スマホ脳

2020-12-30 08:58:29 | 

 世はデジタル移行中ではあるが、そのスピードの急激さゆえ、人間が本当に使用していいのか、その影響はどうかは誰もが答えられない。しかし、研究成果が徐々に出始めつつあり、本書の提言はもっと知られるべきです。

 人類の歴史の99.9%の時間を飢餓、殺人、干ばつ、感染症など、我が身を危険に陥れる環境の中で生きているため、人間の脳は狩猟採集民のままで、その指令が身体には「闘争か逃走か」を選択させています。「何かが起こるかも知れない」という事態に対し、新しい情報を得て行動を選択するために脳内物質のドーパミンが湧き出されます。人間にとってこのメカニズムがベースなため、スマホの存在が恐ろしい、スマホを触り、情報を得たいと思う人間の心理を助長するのを強固に後押ししているのです。

 もちろん、現在は新型コロナウイルスの恐怖に人類が曝されているとはいえ、それを克服できても、デジタルの弊害が人間の心を悩まし続けます。人間らしく生きるとはどういうことかを再確認させてくれます。いかに便利でも、デジタルから「闘争か逃走か」を考えなければなりません。

『スマホ脳』(アンデシュ・ハンセン/著、久山葉子/訳 、新潮新書、本体価格980円)

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人を動かす 

2020-12-23 17:19:48 | 

 自己啓発書のいの一番はこれでしょう。社会人になるまでに熟読するか、あるいは大学や高校で新社会人誕生準備コースを創設して、本書を学べば社会での活躍が期待できますね。

 カーネギーは明言しています。

 「およそ人を扱う場合には、相手を論理の動物だと思ってはならない。相手は感情の動物であり、しかも偏見に満ち、自尊心と虚栄心によって行動するということをよく心得ておかねばならない。」

人とはどういうものかという認識がブレなければ、人を動かすことができます。本書には30の原則が書かれており、どれもこれも頷かされるものです。例えば、

 「人の立場に身を置く」「議論を避ける」「"イエス"と答える問題を選ぶ」「思いつかせる」「わずかなことでもほめる」など、自分自身が出来ていない点も多くあり、自分のOSを更新しなければなりません。世界の古典、またアメリカ歴史や実業界でのアイデアをふんだんに盛り込んだ知恵は人間社会で生きていく上での必携アイテム集です。

『人を動かす』(D・カーネギー著、山口博訳、創元社、本体価格650円)

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日本史サイエンス 蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る

2020-12-23 16:51:36 | 

 史実は文書などで残っていることから成り立っていますが、これを気象、兵站や兵隊の行動学、船体工学などのサイエンスから事実かどうかを見定めていき、3つの歴史の真相に迫っています。それは、

 【謎の一】蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか?

 【謎の二】秀吉はなぜ中国大返しに成功したのか?

 【謎の三】戦艦大和は「無用の長物」だったのか?

です。特に【謎の二】はどう考えても無理だろうと思っていましたが、実現するための条件を徹底的に暴いており、とても興味深かったですね。準備がないと無理という結論から、秀吉は本能寺の変の発生に関与していたのかなど、さらに謎が深まるばかりでした。また、【謎の三】に関しては、高校までの授業で速足の近現代史ではほぼ学ばなかった戦史を知ることができ、戦艦大和の日本海軍の戦略での位置づけを理解できました。

 サイエンスからの考察は歴史をより真実に近づけるものであり、今後もこの手法で取り組んでもらいたい。

『日本史サイエンス  蒙古襲来、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る』(播田安弘著、講談社ブルーバックス、本体価格1,000円)

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デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士

2020-12-17 16:14:26 | 

 耳の不自由な人の環境は身近になかったので、この本を通じて新しい世界を垣間見ることができました。

 両親と兄が耳の聞こえない家庭に育った主人公の荒井尚人だけが家族の中で耳が聞こえる存在でした。小さいころから、家族とは手話で、そして家族と社会の人たちとの通訳という立場で成長しました。警察の事務員として社会人となり、当たり前ながら、警察内で正義を主張すると辞めざる負えない状況に置かれ、生活のために手話通訳士の職を得ました。そして、あるろう者の法廷通訳を引き受けることが過去の事件の解明に向かうことになります。

 まずもって知らなかったのは、

「ろう者にとっての言葉とはあくまで『日本手話』のことであり、『日本語』は『第二言語』に過ぎない。(中略)従って、日本手話と同時に日本語を解し、日本文化を受容するろう者は、二つの言語を持ち二つの文化を知る『バイリンガル・バイカルチュラル』な存在として定義される。」

です。ろう者も言葉は一つだけと思っていましたが、そうではなく、ろう者にもこのことから差別が生まれているとは想定外でした。そして、この事実が事件の扉を開く鍵になりました。

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』(丸山正樹著、文春文庫、本体価格700円)

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