あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

江戸一新

2022-11-24 17:09:07 | 

 12月20日発売予定『江戸一新』(門井慶喜著、中央公論新社)のゲラを読ましてもらいました。明暦3年の明暦の大火による復旧、復興への物語です。主人公は老中・松平伊豆守信綱です。

 彼は姉から「臆病者な子じゃのう。(中略)いや、それでいい。臆病者はそれ故に、たくさんものを考える」あらかじめ精いっぱい思案する。そなたは日本一の臆病者になりなされ。」と言われ、自身の身の振り、強みを磨き、「知恵伊豆」と呼ばれる人となりました。

 些事さえもインプットし、その上で当時の江戸の人間が抱える課題を、江戸一新とされる都市開発で解決し得る、恐るべしアウトプットの持ち主です。その後の江戸の発展、また、文化の熟成を考えれば、現代の東京、そして、クールジャパンの生みの親かも知れません。

 「生きるとは考えること。いや考え抜くこと。」この言葉は、AI時代に生きる我々にも主体性を持って生きるための格言かもしれません。

『江戸一新』(門井慶喜著、中央公論新社、本体予価1,800円、税込予価1,980円)

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オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題

2022-11-16 15:15:34 | 

 楽をすると脳にはよくないようです。コロナ禍のため、従来は対面で行われていた、会議、授業、講演会などがオンラインに置き換わりました。感染対策から、営業もオンラインになり、顧客とひざ突き合わせて交渉とは至っていません。これで本当に良いのか?脳科学からの考察では次の点で悪い結果が現れています。

 ・オンラインではお互いの目線が合わず、相手の感情を読み取れない、心が同期しない状態に陥り、意思の疎通が出来ていない

 ・スマホやパソコンなどの双方向型デジタル機器を1時間以上使用している子どもたちは、それほど使用していない子供たちに比べて、学力の低下が読み取れる

 ・3時間以上使用している子どもは、大脳灰白質と大脳白質がほとんど発達が止まっている

 ・大人も自尊心の低下、不安と抑うつ、うつ状態に陥ることが多い

 ・依存症となりうる

 私もこれらデジタル機器の使用に関して警鐘を鳴らす本を多く読んで来ましたが、著者である川島先生も「意識の高い人しか読まない」と断言しています。上記のことを考慮すれば、国民の精神の安全や、人しか資源のない日本の国力の低下につながります。こと、家庭教育の場面でデジタル機器の使用の抑制をしていかなければ、機械の奴隷になりかねません。

 私自身は、脳にとっては紙メディアが優位である点からの読書推進を図りたいために読んでいますが、ここまで明確になっているのであれば、出版業界としても声高に叫ぶべきです、紙は間違いなく脳に安全であることを。

『オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題』(川島隆太著、アスコム、本体価格1,270円、税込価格1,397円)

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ゆびさきの宇宙 福島智・盲ろうを生きて

2022-11-14 16:14:30 | 

 森林読書会という名の読書会で今月末に取り上げる本が本書。私は2009年に単行本で読みましたが、再読しました。この本を課題図書にすることにしてから、福島智の半生を描いた『桜色の風が吹く』の上映を知り、その後、著者の生井久美子さんから映画についての情報のお電話を頂戴し、読書会にも参加してもらえることになりました。選書してからすごいスピード感でご縁のつながりが導かれています。

 著者の生井さんは朝日新聞の記者として、2005年に障害者自立支援法案について福島智先生にインタビューしてから、福島先生の半生を書きました。9歳で全盲、18歳で盲ろうとなり、暗黒かつ無音の宇宙で苦悩するも、「自分には『使命』があると考えて『生きる』ことにする」と決断し、「この苦渋の日々が俺の人生の中で何か意義がある時間であり、俺の未来を光らせるための土台として、神があえて与えたもうものであること」を信じました。多くの人の支援を受けて大学入学から大学研究員になり、日本のヘレン・ケラーの存在「福島智」になり、盲ろう者の支援、また、障害学の地平を切り開いていきました。

 母親が開発した指点字で他者と会話ができるようになった中で、人間として一番重要な要素を他人との「コミュニケーション」と位置づけ、姿も声も知り得ない相手の「魂の接触」「その人の存在との接触」を大切であると述べています。他者の存在を分け隔てなく認め、生きる者同士の交流を輝くものにするという人間観は本当に素晴らしい。われわれ健常者からは伺い知れない世界を提示してくれます。

 読書会までに映画も観に行きたいですね。

『ゆびさきの宇宙 福島智・盲ろうを生きて』(生井久美子著、岩波現代文庫、本体価格1,100円、税込価格1,210円)

 

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Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」

2022-11-08 15:04:54 | 

 人間は生きている間に決まった嗜好やクセが付いてきます。本の選び方でも同じですね。同じ著者の本や同じジャンルの本を読む傾向があり、日頃読まない範疇は避けますね。1万円選書ではそんな人には思いかけない本が届く仕組みですね。

 さて、本書のアンラーンは「思考におけるクセを捨てろ!」ということです。無意識にしていることやこうすれば間違いないという考えは現状が変わりなく続くのであれば問題ありません。しかし、今回のような新型コロナウイルスがまん延して、在宅勤務やオンラインでの会議や授業などが普通に行われるようになると、クセを改めないといけない事態に陥ります。だから、常にクセを客観的に見直す必要があり、本書ではその方法も詳述しています。人生100年時代になり、アンラーンをする習慣を持つことが幸福な生涯を彩る手法になるはずです。

 最後に、『「読書」には、実は大きなアンラーン効果がある」としています。なぜなら、「本には未知の情報が書かれており、それによって新たな気づきや発想が得られる」ことを記しておきます。

『Unlearn(アンラーン) 人生100年時代の新しい「学び」』(柳川範之・為末大著、日経BP、本体価格1,600円、税込価格1,760円)

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身分帳

2022-11-07 15:20:57 | 

 少年刑務所を含めて、約23年間を刑務所で過ごした山川一(はじめ)は満期で旭川刑務所を出所し、東京の身許引受人の弁護士宅へ電車で向かうところから物語は始まっています。44歳の彼は刑務所内でも問題を起こし続け、刑期が延長されるばかりでした。周囲の人たちは彼を暖かく迎い入れようとし、一般社会の一人の人間として生きていこうとしますが、今までの人生で積み重ねてきたクセというか性格のため、また、高血圧症を患い、生きづらさを感じます。彼の略歴が書かれた「身分帳」には犯罪を重ねた人生だけではなく、彼の誕生から幼少期の不幸な記載も綴られています。父は誰かもわからず、母でさえ微かなイメージしか残っていません。

 出所後5年後の平成2年10月末にアパートで病死を遂げます。わずか5年だけの社会復帰も平安な暮らしとは言えず、寂しい行路病死人となりますが、出所後に彼を支えた人々に葬儀も永代供養まで施されました。数人が集まった偲ぶ会でも彼への愛は参加者の口からこぼれています。

 人の一生なんてどういう結末になるかはわかりません。彼の人生から振り返れば、幼少期の親の愛の存在が最重要であること、学童期の学習も当たり前ながら不可欠であることが分かります。しかしながら、人生の半分程度を塀の中で暮らしても、記憶に残る人が一人でもいるのであれば、それでもいいと感じました。多くの伝記の一つとして読む機会と考えます。

『身分帳』(佐木隆三著、講談社文庫、本体価格840円、税込924円)

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さかさま人生を生ききる

2022-11-01 14:34:06 | 

 小中学校の教諭を経て浄土真宗のお坊さまになられた著者・土屋昭之さん。仏陀の教えからどう生きると良いか、その思考の方向性をとても分かりやすく書いてくれています。

 まずはどう生きるか?その答えとして、ご先祖になる積もりで生を積み重ねろとされています。このように考えることは「死」の先までに標準を合わせるわけであり、「死」を恐れず、「最後のひと呼吸まで生きる」という指針につながります。

 そして、「生きている」ことを「あたりまえ」と思わず、「よくぞ」生きていると考えることで「生」の有難さを心の底から感じていけます。

 とはいえ、生きる以上は煩い悩むことに出くわします。例えば、嫌いな食べ物に対しても食べず嫌いにならず、その食べ物と「遊び楽しむ」気持ちでつきあっていけば、知らないうちに好き嫌いを超越する状況になります。同じように、嫌いと思う人に対しても、嫌がらずに「つきあいつける」、一緒に遊ぼうという思いを持てば、人間関係の悩みも解消に導かれます。つまり、煩悩に対して、相手を評価することなく、その悩みの根源は「自身の不浄」にあると考え行動する大切さを説かれています。

 他者に対して、ことごとくみな金色に輝いた人とする「悉皆金色(しっかいこんじき)」や、好き醜いが有ることが無い「無有好醜」というメガネで見れば、全く問題はなく、全ての原因を自身に帰することが、良き「ご先祖」の誕生に結びつきます。

 本書は税込770円という価格ながら、金額には表わせない素晴らしい教えです。座右の書にしたい。

『さかさま人生を生ききる みなで親しむ「ブッダ・釈尊の智慧」』(土屋昭之著、朝日新聞出版、本体価格700円、税込770円) 

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