あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

百歳の遺言 いのちから「教育」を考える

2018-04-27 16:42:41 | 

  教育とは何かが改めて自らの頭にインストールできた対談集です。

  「上から教え育てる」ものこそが教育だという既成概念が私の頭にはありました。

  しかし、生物は、「常に周りの環境がどうであるかを知って、それぞれが生きていく」存在であり、環境変化の情報を体全体で得て適応していく、つまり、「生きることは情報の処理」であると考えています。情報のインプットにより、正常な生というアウトプットをすることが「学ぶ」であり、生物は「上から教え育てられる」のではなく、自らが学ぶ存在であり、この本来持っている学びたい力を「引き出す」こと、言い換えれば、環境の中から課題を読み取り、それを解決していくことが「生きる」とすれば、この過程に疑問を投げかけることを助けるのが教育なのでしょうね。

  そして、自分で考えるだけでなく、この過程を自分とは異なる受容体を持つ人はどう考えたかを知ることは有意義なことであり、これが先人、先哲の知恵を学ぶということになるでしょう。その意味でも「読書」の重要性が叫ばれなければなりません。

『百歳の遺言 いのちから「教育」を考える』(大田 堯・中村 桂子著、藤原書店、本体価格1,500円)

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モリー先生との火曜日  

2018-04-24 15:33:09 | 

  大学卒業約15年後、スポーツコラムニストのミッチ・アルボムは恩師のモリー先生の姿をテレビの番組で偶然見て驚きます。徐々に動きを妨げられる、筋委縮性側索硬化症(ALS)という難病に侵されていました。モリー先生は「死を人生最後のプロジェクト、生活の中心に据えよう」と決心し、ミッチが抱く、生と死、そして、人生における様々な問題に対して、1対1の最終講義が毎週火曜日に行われました。

  モリー先生は人生の意味について、多くの名言を吐露されています。

「われわれのこの文化は人びとに満ち足りた気持ちを与えない。文化がろくな役に立たないんなら、そんなものいらないと言えるだけの強さを持たないといけない」

「人生に意味を与える道は、人を愛すること、自分の周囲の社会のために尽くすこと、自分に目的と意味を与えてくれるものを創りだすこと」

「人生でいちばん大事なことは、愛をどうやって表に出すか、どうやって受け入れるか、その方法を学ぶことだよ」

「自分の今の人生のよいところ、ほんとうのところ、美しいところを見つけなければいけない。(中略)年齢は勝ち負けの問題じゃないんだ」

「死で人生は終わる。つながりは終わらない」

 言葉とともに感動をおぼえたのは、動きの衰えるモリー先生と、彼の世話をするミッチにはタッチ、触覚というコミュニケーションを媒介として、より深い情の交換をしていること。人間本来の感覚は、人生の旅路には不可欠だと思いました。

『モリー先生との火曜日』(ミッチ・アルボム著、NHK出版、本体価格950円)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

英雄の書

2018-04-20 15:24:17 | 

 インターネットが普及し、世の様も大きく変化してきました。そして、AIが急ピッチに進化して、一寸先はどうなるのか?不安の念がよぎりますが、そんな時代にどう生きるのかを明確にしてくれるのが本書です。

 まずは、「失敗したら『しめた』と思え!」はまさに失敗ウェルカム!であり、その先に挑戦が待っています。「必要なときに、必要な回路にだけ、すばやく電気信号が流れる」のが成功者の脳の必要条件であり、そのためには失敗すればするほど、余計な回路に信号が流れることがなくなる、つまり、脳の成長に繋がります。そして、失敗の経験のためには、①失敗はだれのせいにもしない、②過去の失敗にくよくよしない、 ③未来の失敗におどおどしないの3点に注意を喚起しています。「いまここ」であり、積極性と主体性重視ですね。

 次は、「孤高になれ!」というメッセージ。周りの同調圧力に屈することなく、他人の声は気にせず、しかし、他人に何をしてあげるかだけは無視するな!とはとてもありがたいお言葉。そのための脳の使い方も書いてくれています。

 さらには、「自尊心を抱け!」です。これは世の常識を疑い、「自分が正しいと思ったこと」を「他者や社会のために」貫くスタイルです。貫けば貫くほど、周囲の無理解を生み、孤高への道を歩まざるを得ません。

 そして、「他者思い」は「使命感」に結びつきます。命を使うほどに執着しやりとげることを考え行動することこそ、これからの時代には必然となります。

 著者が、39歳の時に上司に言われた言葉、「圧倒的に上質な異質になれ」は本書の結論でしょう。異質になるには徹底的に世を眺め、深く考える必要を感じます。これこそ、AIができないことでしょう。

『英雄の書 すべての失敗は脳を成長させる』(黒川伊保子著、ポプラ新書、本体価格800円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本人の叡智

2018-04-15 16:03:12 | 

 前回の『教養読書』では、古典を読み、先人たちとの対話の必要性を学びました。この『日本人の叡智』は江戸時代から平成までの98人の先達の書、もしくはその言葉を記したものを、古文書の読み解きの達人である磯田道史先生が編集し、著しています。各人の一言とその言葉の背景を紹介する、古典読書のダイジェスト版。ここから、気になった人を探求してはいかがでしょうか。

 先達への道しるべの前段、「はじめに」で光る一文をアウトプットされています。

 「人は、かならず死ぬ。しかし、言葉は遺すことはできる。どんなに無名であってもどんな不遇であっても、人間が物事を真摯に思索し、それを言葉に遺してさえいれば、それは後世の人々に伝わって、それが叡智となる。この叡智のつみかさなりが、その国に生きる人々の心を潤していくのではないか。」

 無名でも言葉を遺すとは生きる上では、自分の思考を鋭くさせるだけでなく、後世への贈り物になるという意味では至極大切であり、実践していかなければなりません。

 さて、98人のうち、「おぉ、すごい!」と私が感じた人を3人あげれば、山梨勝之進、山本玄峰、司馬江漢ですね。本当にこんな生き様をした人を先人に持てて、一日本人として祝着至極です。

 そして、嬉しかったのは、須磨の偉人・島田叡も載っていたこと、さらには、坂本龍馬のおい「坂本直」の稿に、土居晴夫先生の名を見つけたこと。坂本龍馬の血筋の土居先生は、坂本龍馬、坂本家の研究者で、板宿の住人でした。先生のおうちで坂本龍馬や、先生の趣味の鉄道や旅のお話を時間を忘れ、夜分にまでお聴きしたことを思い出しました。

『日本人の叡智』(磯田道史著、新潮新書、本体価格720円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

教養読書

2018-04-11 16:07:07 | 

 活字離れ、本離れは止まりません。昨年、母校で高校生に読書推進の講演をした際も、壇上からアンケートを取っても、月に1冊も読んでいない学生もいたのには愕然としました。確かに、読書をする意味を教えられていないし、スマホやゲームのように興味を簡単に持てるものでもない。しかしながら、21世紀を生きる人間としては、「問いを立て、考える」ことをしなければ、AIにすべてをもっていかれる未来は見えています。その根本として、読書は欠かせないと私も考えます。

 さて、著者の資生堂名誉会長、福原義春氏は、戦時中に有り余る時間を読書に捧げた人であり、古典や名著を読み続けてこられました。だからこそ、読書の意味についての言葉は極めて重く、胸に響きます。

 「読書は人の生存にとっての必需品ではないが、人生の必需品なのだ。」

 「我々の先祖である膨大な数の人たちが考え、人生体験をし、冒険をし、あるいは一生かかって作った思想が文字になって残っている。本を読むなら、それを私たちが比較的容易にいくらでも吸収することが可能になる。」

 「いまいる私たちがどのように生き、どのように死んでいくのかということ。そしてそのために、本を書いた著者と向き合って、あなたがどのように生きて、どのように亡くなったのか、そして、あなたが人生でいちばん愛したものというのはどんな価値であったのか、何であったのかを著者と対話するということ。それが、古典を読むことの意味になってくる。」

 「文字を読み、読書をし、たくさんの先人の人生観を自分の中に編集していくと、『自分とは何なのか』というところに最後は辿り着く。」

 「人はいままで読んだ本でできている。」

 より良い人生を築き上げるに、読書しないという選択はありえない。

『教養読書』(福原義春著、東洋経済新報社、本体価格1,400円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

発達障害は最強の武器である

2018-04-09 06:57:36 | 

 自身の人生を振り返り、ADHDであると自己判断した著者。また、マイクロソフト日本法人社長だった本人から見ても、ビル・ゲイツを筆頭に、幹部社員はその傾向を強く有していると考えています。つまり、

 不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(すぐに行動してしまう)、過集中(過剰に集中する)

が特徴として観られ、実際に生き残っている企業のトップにもこの傾向が強いと断じられています。他社と同じことをしていては、猛スピードの巻き起こるビジネス界では置いて行かれます。「進取の精神に富み、過去の失敗に囚われず、思いついたことは何でもやってみる」ことは最重要であり、だからこそ、今後、AIが発展すれば、企業トップにおいては、書名の通り、「発達障害は最強の武器になる」結論となります。

 脳の機能障害をこれほどポジティブにとらえることは、我々の視点も変えさせてくれます。

『発達障害は最強の武器である』(成毛眞著、SB新書、本体価格800円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脱皮成長する経営

2018-04-03 15:08:25 | 

  「共創」という言葉をキーワードに検索していたら、本書に遭遇しました。副題にある、「無競争志向がもたらす前川製作所の価値創造」の、前川製作所さんの社名を全く存じ上げなく、しかし、読み進めると、とても興味深い経営をされている企業であることを知りました。

 産業用冷凍・冷蔵装置、食品・食肉加工装置、エネルギー、ケミカルという4主要事業を展開するグローバル企業。産業用途がメインで、非上場なので、私にとっては知り得てませんでしたが、一般にも関係するであろう、フィギュアスケートやカーリングなどの会場の冷却装置では欠かせない存在です。1924年(大正13)に冷凍機輸入、設置業者からスタートし、製氷事業に進出し、冷凍機製造へと発展し、事業拡大しています。企業規模が大きくなればなるほど、町工場のDNAを深堀していく姿勢を堅持しています。それは、

①顧客に寄り添う ②多能工 ③ユーザー感覚 ④恥の文化(「できません」はタブー) ⑤自前主義

を体現しています。顧客の課題に対して、経営者感覚でスピード感を持って対応する、セミオーダーもしくは完全オーダーの製造業として、無競争のジャンルを自ら創り出していっています。

 また、書名にある「脱皮」は、「組織の文化を更新し、新たな製品で新しい顧客を対象として、新しいビジネスモデルで成長を遂げる」と定義されており、既存の土俵から少しずらした、新しい土俵を築き、展開しています。ここには、顧客のことを一心に思い、考え、行動し、顧客の課題解決に奔走する人材の育成が欠かせません。AI時代になればなるほど、「考える」ことが大切になり、考える集団を自社に持つことがどれだけ成長に貢献するか自明かと思います。脱皮は考える結果です。私たちも考え尽くして、脱皮するイメージを持ちたい。

『脱皮成長する経営』(恩藏直人・永井竜之介 著、千倉書房、本体価格2,400円)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする