同じ新刊書店でも、店主の考え方や立地が違えば、自ずと店の色も変わってきます。新規開店し、5年を経た荻窪のTitleの辻山さんが感じたことを綴っています。
「街に店を出すとは〈違う〉人生に否応なしに触れることだ。」
本は人の営みや人の生きた考えを記しているものであり、莫大な書籍数からその店に合うと店主が判断したものを選んでいます。お店の在庫から選ぶお客様も様々であり、いろいろなやり取りを行います。ジャンル別で陳列している当店の棚を見て、「こんな探しにくい棚、やめたらええのに」とおっしゃったお客様もおられました。一般的な書店の棚は、版型別、出版社別に陳列し、それに慣れている人にとっては当店の棚は理解しにくいでしょう。しかし、私から視ると、一般的な書店の棚は書店員が管理しやすい棚、つまり、注文品が入荷しても陳列しやすい仕様になっていおり、お客様への棚ではないと考えています。
「どんな本屋も偏っているのである。」
偏って当たり前。その町を構成している人の特徴は自ずと偏っているはずですから、お客様を考えて棚作りをすれば、金太郎飴にはならず、多様な書店色に彩られて当然であり、その方がお客様にとっても面白いはず。A店はこのジャンルはしっかりとしているが、B店は違うなぁと感じられ方が嬉しいでしょう。
「個人で店を続けるには売上と同じように自分の情緒が安定していることが必要」
こんな本が棚にあるの?~この棚にはこの本が無くてはならない存在だから、売れなくても置き続けています。その存在感が棚を引き立たせていると考えます。もちろん、商品回転数を考慮すると唸らざるを得ませんが、棚の代表格は必要です。
辻本さんは兵庫県神戸市に実家があり、読み進めると、「源氏書房」という店に出入りしていたというくだりで、須磨寺界隈で暮らしていたんやと思えば、すごい親近感を勝手に抱きました。
『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』(辻本良雄著、幻冬舎、本体価格1,600円、税込1,760円)