あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常

2021-08-31 15:47:08 | 

 同じ新刊書店でも、店主の考え方や立地が違えば、自ずと店の色も変わってきます。新規開店し、5年を経た荻窪のTitleの辻山さんが感じたことを綴っています。

 「街に店を出すとは〈違う〉人生に否応なしに触れることだ。」 

 本は人の営みや人の生きた考えを記しているものであり、莫大な書籍数からその店に合うと店主が判断したものを選んでいます。お店の在庫から選ぶお客様も様々であり、いろいろなやり取りを行います。ジャンル別で陳列している当店の棚を見て、「こんな探しにくい棚、やめたらええのに」とおっしゃったお客様もおられました。一般的な書店の棚は、版型別、出版社別に陳列し、それに慣れている人にとっては当店の棚は理解しにくいでしょう。しかし、私から視ると、一般的な書店の棚は書店員が管理しやすい棚、つまり、注文品が入荷しても陳列しやすい仕様になっていおり、お客様への棚ではないと考えています。

 「どんな本屋も偏っているのである。」

 偏って当たり前。その町を構成している人の特徴は自ずと偏っているはずですから、お客様を考えて棚作りをすれば、金太郎飴にはならず、多様な書店色に彩られて当然であり、その方がお客様にとっても面白いはず。A店はこのジャンルはしっかりとしているが、B店は違うなぁと感じられ方が嬉しいでしょう。

 「個人で店を続けるには売上と同じように自分の情緒が安定していることが必要」

 こんな本が棚にあるの?~この棚にはこの本が無くてはならない存在だから、売れなくても置き続けています。その存在感が棚を引き立たせていると考えます。もちろん、商品回転数を考慮すると唸らざるを得ませんが、棚の代表格は必要です。

 辻本さんは兵庫県神戸市に実家があり、読み進めると、「源氏書房」という店に出入りしていたというくだりで、須磨寺界隈で暮らしていたんやと思えば、すごい親近感を勝手に抱きました。

『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』(辻本良雄著、幻冬舎、本体価格1,600円、税込1,760円)

 

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どう生きるか、山田方谷の生き方と『古本大學』に学ぶ

2021-08-25 15:11:49 | 

 幕末の備中松山藩の藩政改革を断行した山田方谷。支配者側の武士の倹約をトップから行い、莫大な赤字を抱え、ひっ迫していた藩財政の負債を整理するだけでなく、優良な財政運営に転じ、産業振興、民政の刷新、長州の奇兵隊のモデルとなった農兵軍や軍備の増強による軍改革、庶民を含めた教育と人材の登用など、まさに大政治家です。

 本書は彼の人生と、彼の述書の『古本大學』の内容を関連付けながら、いかに生きるかを解説しています。

 まず、第一義に、「心の底からの誠意」を持って何事にも取り組んでいます。

 その上で、「藩人民全員、士も民も豊かにする」ことを目指しています。

 この二つの理念を実現すべく、自ら学び、実践しています。

 現在の選挙によって国民に選ばれる政治家とは違い、藩政を司る上士が代々と運営していますが、志の高さ、また、それを磨く自己の研鑽の点からトップである藩主から選出されなければ、ここまでの実績を示すことは出来なかったでしょう。藩主から請われても、固辞していた方谷ですが、いざ任務に就くと、その精神性の高さから迸るように大改革を行いました。彼には保身など全くなく、全身全霊を藩民のために尽くしたと言っても過言は無いでしょう。

 代表的日本人にしてほしいし、NHKの大河で取り上げてほしいと思います。

『どう生きるか、山田方谷の生き方と『古本大學』に学ぶ』(池田弘満著、明徳出版社、本体価格2,000円、税込2,200円)

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うしろめたさの人類学

2021-08-16 13:21:44 | 

 エチオピアをフィールドにして構築人類学を研究されています。「物事の構築性をふまえたうえで(中略)視点を転換する」学問で今を読み取っています。

 経済においては、市場で商品は交換されていますが、購入してしまった商品は贈与という形で他者へ渡すことができます。交換では商取引になり、感情は生まれませんが、贈与では感情を引き起こし、つながり、関係を感じます。「交換は、人間の大切な能力を覆い隠してしまう」のに対し、「贈与は人のあいだの共感を増幅し、交換はそれを抑制」します。交換と贈与で構築される「経済」で「感情」や「関係」を生じさせて社会を生み出しています。そして、国境を引くことで国家が誕生します。国家と市場は持ちつ持たれつの関係です。

 さて、その上で、よりよい世の中を私たちが作るにはどうすればよいか?を考察しています。そこで登場するのが「うしろめたさ」という感情です。国家がしくみとして弱者や被災者を支援するだけではなく、人々が公平への欲求を認識し、少しでも不均衡に正当性を自覚化するためには、「人との格差に対してわきあがる『うしろめたさ』を起動しやすい状態にする」倫理観を宿らせることで結論付けています。

 煩わしさを排除する形で交換で済ます方に流れますが、交換だけでなく、社会で起きたことに対して、少しでも贈与の行為を起こせないか?さらには、モノを贈与するのではなく、他者にペイ・フォワード、恩送りをすれば素敵な世の中に変わるのではないか、自分の周りの人に善意を施すことを念頭にして生きたいと思いました。

『うしろめたさの人類学』(松村圭一郎著、ミシマ社、本体価格1,700円、税込価格1,870円)

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おもいで写真

2021-08-13 20:40:28 | 

  おふくろが亡くなって、葬儀屋さんに遺影用の写真を求められました。健康な時にそれに見合う写真を探すのは縁起でもないと思われますが、本人にこれにすると納得してもらうことが大切だと思いました。笑顔で正面を向いている写真はなかなかありません。

   本書の主人公の結子は祖母が亡くなったという知らせを受けて故郷に戻ります。葬儀のすべての段取を同級生の一郎が執り行ってくれますが、遺影写真がはぼんやりとしてはっきりしていない印象でした。

   故郷に留まる、茫然自失の結子に、地域のお年寄りの遺影写真を撮る仕事を役場のサービスとして一郎が創ってきました。しかし、縁起でもないと断れつつも、人生での「おもいで写真」としてならば許可をしてもらえることで、各々の思いでの場所での撮影は進みます。

   人にはそれぞれ生きてきたストーリーがあり、その写真一枚でこれからの人生も変貌していきます。おもいで写真が老後にひとつの彩りを与えてくれることはとても素敵だと思いました。

   この物語を読んで、私の懇意にしている美容室のオーナーに次のように提案しました。

   「おふくろの遺影写真を探すのにも苦労したし、誰しもそれ用にわざわざ写真を撮影する機会を設ける人もなかなかいない。ヘアーカットをして美しくした後に、お店のサービスとして写真を撮ってあげたらどうですか?お客さんのスマホで撮れば、プライバシーにも触れないし。」

   この提案は即座に採用になりました。三脚と照明さえ用意すれば明日から可能です。

『おもいで写真』(熊澤尚人著、幻冬舎文庫、本体価格590円、税込価格649円)

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進化思考

2021-08-10 16:05:12 | 

 AIの進歩で、人間がすることが「創造」しかなくなるのではないかと言われていますが、創造を啓発するような教育も受けていないし、創造のやり方について書かれた本さえもないということを契機に生まれたのが本書です。この創造を生物の進化から考察してみた、500ページに及ぶ、枕にもなりそうな大書です。

 創造とは、「変異」と「適応」の二つのプロセスを経て生まれると定義されています。変異とは、失敗を恐れず、狂ったようにトライすることであり、それには九つのパターンをあげています。その上で、成果のあるトライが適応されるかどうかについては四つの視点を紹介しています。漫才のボケは「変異」であり、ツッコミが「適応」という表現の方がしっくりと分かりやすいですが、ボケない限り、笑いの種は生まれないし、ツッコミの洗礼を受けなければ笑いが生じません。つまり、笑いでの「すべる」、つまり失敗を嫌っていて、ボケないとダメ!ですから、失敗してもやることの意義を認め、失敗を奨励することが創造の第一歩になります。偶然の結果で大発見はよくあるわけですから。

 本書は創造価値が大切になる時代の教科書となるでしょう。

『進化思考 生き残るコンセプトをつくる「変異」と「適応」』(太刀川英輔著、海士の風、本体価格3,000円、税込価格3,300円)

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「食べない」生き方

2021-08-10 15:27:39 | 

 今から8年前の本ですが、全く古びていません。というもの、「空腹」「少食」という単語が入った書名の本が出て続けていますし、この本の著者の森美智代さんは甲田光雄先生の患者であり、甲田先生亡き後の西式甲田療法の後継者が彼女ですから、現時点の甲田療法の代表作になるでしょう。

 森美智代さんは短大卒業後に、脊髄小脳変性症になり、医者も匙を投げた状態でしたが、学生時代から断食などでお世話になっていた甲田医院を訪れると、「治るよ」という甲田先生の言葉から、西式甲田療法に身を捧げます。その方法は少食へ導き、身体のゆがみを取り除き、皮膚も鍛えるというものです。歴史上で一日三食、しかも過食が出来るほどの大量の食糧の供給を受けるようになったのは、日本人で言えば、戦後からの80年弱。それまでは飢えと闘う毎日だったため、身体が少食にしか対応できていません。難病やガンなども甲田医院では治ると、森さんのように1日青汁1杯50キロカロリーの食生活でも不自由なく生活できます。これが書名の通りの生き方です。

 西勝造先生の、「一日一食は聖者の生活であり、一日二食は人間の生活、一日三食は獣の生活である」という言葉は的を得ていますし、甲田先生の「愛と慈悲の少食は世界を救う」という考えも、自分自身の健康だけでなく、人類が少食になれば世界の食糧問題も解決するという、人類愛、地球愛に結実します。

『「食べない」生き方』(森美智代著、サンマーク出版、本体価格1,400円、税込価格1,540円)

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雨夜の星たち

2021-08-02 15:04:00 | 

 世の中、同調圧力に屈する人や忖度が当たり前の中、他人の考えや意見を全く意に介さず、自分の気持ちのままに生活する主人公の三葉雨音を描いています。

 学校を卒業後に損保会社のOLをするも、組織内の人間関係の嫌な部分を垣間見て離職。下宿の1階の喫茶店オーナーの霧島がお客さんの声から始めたお見舞い代行業(入院患者のお見舞いや通院の手伝いを家族に代行して行う)に雨音は就きます。その理由は

他人に興味がない

彼女には最適と思われたからです。「やってくれ」と言われたことはやるが、依頼主の期待以上の事はしないし、依頼されてもできないことは無理と正直に言う姿勢を保持しています。彼女を世の中の常識にはめようと、家族を含めて、周りの人々はやっきになりますが、雨音はどこ吹く風です。姉に幼少の頃からの雨音に対する気持ちを打ち明けられても、霧島の生い立ちの秘密を知らされても、雨音は気持ちを動かさず、今の自分を生きています。

 昔から、「長いものに巻かれろ」ということは、心理的、精神的には生きやすいかもしれません。しかしながら、自分の色を出してもよくなりつつある現代、独立独歩の道を歩むことの意味を問うている物語です。さて、あなたはどうしますか?

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