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板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

THE LAST GIRL 

2019-01-30 13:53:37 | 

 少子化の進む日本で、子どもへの虐待の報道は収まりません。力なき者への仕打ちは許されることではありません。これがマイノリティーの民族に向けられたら、どうなるか?それはジェノサイド、大虐殺になります。男性は虐殺され、少年は洗脳を受けて、軍人にされ、女性は性的奴隷となるばかりでなく、一つの商品として売買、贈答されています。これが現実の姿として、ISISがヤズィディ教徒に対して実行しました。著者のナディア・ムラドさんは性暴力の対象になりながら、運良く脱出し、すべてをさらけ出して、人権を守るために声をあげ、2018年度のノーベル平和賞を受賞されました。本書には、ヤズィディ教徒がISISから受けた試練、彼女が囚われ、逃げてから現在に至るまでの事実を著しています。

 その内容は「壮絶」としか言いようがありません。想像を絶する苦渋は、精神的な「死」を与えられた彼女の、「絶望は死に近い」「壊された」という言葉に象徴されています。この内容を知ったら、戦争反対、人権擁護は人間として当たり前でしょう。彼女は、「生きのび、もしできるなら、たまたま許されたかのように持ち続けている命で、何か意味あることをしたいと思っているだけだ。」とポジティブな存在として輝こうとしています。

 また、彼女の脱出劇を考察すると、成功には「運」が間違いなく必要であることがわかります。彼女がドアをノックし、助けてくれたナシールは、「人間としての親切心を少しでも持っている人なら、誰でも同じことをしたでしょう」と考える存在だったからこそ、救出されましたが、ISISの体制側、もしくは協力者なら、囚われの身に再度戻ります。

 異なる環境の下、人はこの世に生まれてきます。誰もが、ただただ、「仁」~思いやりの心を持つ存在であればと思います。そのためには、自らがそんな人になり、仁者、徳のある人として学び続けなければならないと感じました。

『THE LAST GIRL』(ナディア・ムラド、ジェナ・クラジェスキ著、東洋館出版社、本体価格1,800円)

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