あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

青い約束

2014-07-23 18:33:10 | 

  ポプラ社の瀬野さんが来店されたときに紹介してくれたのが本書です。

 「友情の大切さ、仕事人としての誠実さに涙しますよ!」という触れ込みに、「ホンマでっか?」と思いましたが、案の定、やられました!泣いちゃいました。

  金融アナリストとして、顧客や市場からの投票によるランキングで上位をキープし続けている修一は、経済担当の新聞記者として一線で活躍する、高校時代の親友・有賀と、二十年の時を経て再会しました。高校時代、二人ともボクシング部に所属し、ともに競い合い、将来の夢を語り合い、そして、恋愛も経験して…。高校ボクシングも引退し、夏休みに、修一の恋人の純子、有賀を片想いするサキと4人で島へ遊びに行きました。突然の豪雨で帰路に着き、ここから辛い事件に遭遇します。そして、親友であった二人は別々の道を歩みました。

  しかし、修一はその事件の真相を知りたくて、また、有賀は修一にそれを伝えたい思いが心の奥に秘めていました。再会後、日本経済の膿みについて語り合い、金融機関は日本国のことより自社の利益を追求する態度に怒りを覚え、共に行動を起こします。この辺りは半沢直樹を彷彿とさせます。そして、エンディングは涙で滲みました。真相は有賀からの「手紙」で語られます。

  私が印象に残ったのは、有賀が日本経済について語る文章です。

  「星も同じだよな。ここに見えている光のうち、すでに星そのものは消えてしまって、光だけが届いているものがあるだろう。(中略)本当はすでに死んでしまっている星の、昔の光。(中略)こういう夜の青い光の中にいると、何だか自分が思い出の中で生きているような気がするよ」

  日本の国の財政は国債という借金で成り立っています。その借金は後世に託される様相は、すでに死んでしまっている星のようでもあります。自利ばかり追い求め続ける思考を変え、ネイティブアメリカンのように、七世代後の人がどう考えるかを起点にしていかなければ、さみしい未来しか残せないのでしょうね。この日本経済の状況と彼らの親友としての姿に相関を感じながら、ページを追いかけました。

 『青い約束』(田村優之著、ポプラ社文庫、本体価格640円) 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ

2014-07-15 16:17:05 | 

 ミシマ社さんの平川克美さんの前作『小商いのすすめ 「経済成長」から「縮小均衡」の時代へ』を読み、戦後の大田区の町工場の倅がその当時の暮らしぶりを振り返り、本書では自身の社会人としての生き様を述懐し、グローバル経済の問題、そして、経済成熟時代の生き方を、前作よりより鮮明に語っておられます。

 商店街での買い物から、スーパー、コンビニ、ショッピングモールでのそれに移行する中で、消費の意味の違いが明確にされています。前者では、買い物という商品交換は二次的で、情報の交換、人的なつながりの維持のために出向いていました。しかし、後者になると、ただ単に商品交換のみ、人と人のやり取りは匿名に、透明に近づいています。人的な煩わしさは解消されますが、これで幸福なのだろうか?

 これについては次のように述べられています。

 「スーパーではなく路面の個人店で買う人がいる町には強さがあります。路面店には顔を知った親父さんがいる。たしかにスーパーに比べるとちょっと高いけど、顔見知りのオヤジさんが売ってくれるものには安心感がある。そこで消費したおカネがどこかで地域コミュニティの存続の役に立っているかもしれない。そういったことを意識している訳ではなくとも、地元に対する愛着もあって少し高くとも我慢してその店で買う。」

 人がその土地に自立し生きていくためには、消費のやり方を変える必要があるのではないかという提案です。そうすることで、「人間性を取り戻」し、一人一人が交換不能な人間になるのでしょうね。「安い」「便利」の消費から、人間が生きるために必要な本来の消費に移行しましょう!

 最後に、阪神淡路大震災を経験した者として、もう一つ付け加えると、「煩わしい」と思われるかもしれないでしょうが、常時の人的なつながりは非常時には生きてきます。ライフラインは、文字通り、人の命と命のつながりですから。

 『「消費」をやめる 銭湯経済のすすめ』(平川克美著、ミシマ社、本体価格1,600円)

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日本語が世界を平和にするこれだけの理由

2014-07-12 07:45:29 | 

 カナダ・モントリオールで25年間、カナダ人に日本語を教えてきた金谷先生が日本語の特徴、そして、英仏語との差異を明確に示した書です。

 日本語で「好きです」という気持ちを表す言葉には、主語も目的語もなくとも、意味が通じます。これは「好きだ」という「状況」を伝える言語である日本語の特徴を表しています。もちろん、主語は「私」であり、目的語は「あなた」ですが、二つともその状況の中に溶け込んでいます。

 これが英語になると、「I love you」となり、文法は「S+V+O」で、主語と目的語は必ず必要となります。日本語と同じように、「love」とだけ言おうものなら、「誰が?誰を?」と訊かれることは必定です。つまり、「主語(私)と目的語(あなた)を切り離して対立する」、「自己主張」の言語こそが英語です。

 この観点から日本語を考察すると、「私」と「あなた」を同じ場所に立たせ、「好きです」という感情をお互いに抱かせ、同じ方向を見る、「共視」や「共感」を作り出す言語です。金谷先生の教え子で一度来日し、日本語を日常的に話す日本人に接してカナダに帰国すると、誰もが「心が変わる」、「静かに話をする」、「攻撃的な性格が姿を消す」ということを知っておられます。だからこそ、書名の通り、

 「日本語は世界を平和にする」

という信念を持って、正しい日本語を使える日本人になりたいと思いました。この本は多くの人に読んでもらいたい!

『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』(金谷武洋著、飛鳥新社、本体価格1,200円) 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

禍家(まがや)

2014-07-10 15:28:11 | 

 毎日暑い日々が続き、いよいよ本格的に夏の到来です。この季節に欠かせないのが怪談です!井戸書店でもホラーフェアを開催中でその中から『禍家(まがや)』(三津田信三著、角川文庫、本体価格560円)をご紹介します。

 今春、中学生になる棟像貢太郎(むなかたこうたろう)は両親の事故死に伴い、東京郊外の大きな家に祖母と共に越してきます。初めて訪れる地に、なぜか懐かしさを感じるが、気のせいだと思いつつ帰宅した貢太郎に、まっ暗闇が覆い被さり、そこから数々の恐怖の体験がはじまります。

 引っ越した家で、怪奇現象が貢太郎にだけに、なぜ次々とおこるのか?
この町に鎮座する上総の森と、かつてこの町を支配していた一族の秘密とは?そして、そもそもなぜ、祖母はこんな大きな家に引っ越すことができたのか?

 ホラー小説でありながらも、ミステリーの要素も込められている独特 の作風で、最後のページの最後の1行まで目が離せない作品です!

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドラッカーと論語

2014-07-07 14:55:03 | 

  ドラッカーの経営論「マネジメント」を論語で読み解くと多くの共通点が発見されました。

 孔子が生きた時代は春秋戦国期、中華世界の人々が、武から文への移行のなかで、「組織」というものの運営を、史上初めて求められました。ドラッカーはナチスの時代に生き、全体主義からの解放には「組織」を考慮しなければならないと考え、時代は違えども、「論語」と「マネジメント」は同じような状況下で考えられました。

 論語における、「学而時習之」は「かつて取り入れた古い『学んだこと』(情報)が鍛錬の末、しっかりと身に付いた生きた知識になれば、新しい自分が育まれる」ということを示し、

 「学」→「習」→「仁」(思いやり)

へと繋がります。すなわち、「仁」を持つ人による組織の統率が必要になります。

 「マネジメント」では、「フィードバックを通じた学び」をすることによって、「いかなる場合においても、自らの過ちを認めて反省し、自分自身のあり方を改めていく姿勢」、すなわち、誠実さが醸成されるとしています。組織はこの「フィードバックを通じた学び」をすることによって、イノベーションを形成します。

 また、組織は、社会で何が求められ、社会のなかで自分たちは何ができるかを知る、すなわち、「己を知る」ことが必要になりますが、組織が外界とのコミュニケーションでそれを確認できます。「己を知る」ことができれば、マーケッティングが可能となり、組織の大きな道筋が明確になります。

 つまり、継続的な学習が斬新な切り口を創造できる人を生み、マーケッティングとイノベーションを生み出します。そのためには、「自分たちは何をすべきか?」を常に考え続ける習慣を持ち続けることを忘れてはいけません。人は安きに流れますが、克己心を磨いて、「学」を貫かなければなりません。そのためにも、教養書の読書に励みましょう!

 『ドラッカーと論語』(安冨 歩著、東洋経済新報社)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする