さだまさしさんは、小説も素晴らしい。『アントキノイノチ』でグッと引き込まれてしまって、今回の文庫新刊も大変面白い。舞台は東京下町葛飾四つ木銀座の小さな飲み屋「銀河食堂」。この店に集まる、四つ木の面々が飲みながら食べながら、地元の話題で盛り上がる。そのどれもが、人情落語のような、ツボを押さえた感動の物語集です。
さだまさしさんの歌で「償い」を知っている人も多いと思います。交通事故の加害者のゆうちゃんが賠償金を毎月の給料日に被害者の奥さんへ送ります。その歌詞通りのストーリー「オヨヨのフトシ始末『七年目のガリバー』」では胸が熱くなります。奥さんの「私は心から謝罪する人を許さないような人間ではない」という言葉は、「過ちて改めざる 是(これ)を過ちと謂(い)う」という論語を思い出しました。
また、特攻隊で命を落とした兄が最後に聞いたジャズの曲を探す、「むふふの和夫始末『びい』」でも、その曲の歌詞に心打たれました。兄がどんな思いでこの曲を聴きたかったのか、大きなメッセージを残しています。
「銀河食堂」で提供される食も、素朴で美味なのでしょう、この物語を引き立てます。
『銀河食堂の夜』(さだまさし、幻冬舎文庫、本体価格670円)