あなたの本の世界を変えましょう!

板宿の書店主から見た、本・まち・環境を語ります!

銀河食堂の夜

2021-02-27 14:14:27 | 

 さだまさしさんは、小説も素晴らしい。『アントキノイノチ』でグッと引き込まれてしまって、今回の文庫新刊も大変面白い。舞台は東京下町葛飾四つ木銀座の小さな飲み屋「銀河食堂」。この店に集まる、四つ木の面々が飲みながら食べながら、地元の話題で盛り上がる。そのどれもが、人情落語のような、ツボを押さえた感動の物語集です。

 さだまさしさんの歌で「償い」を知っている人も多いと思います。交通事故の加害者のゆうちゃんが賠償金を毎月の給料日に被害者の奥さんへ送ります。その歌詞通りのストーリー「オヨヨのフトシ始末『七年目のガリバー』」では胸が熱くなります。奥さんの「私は心から謝罪する人を許さないような人間ではない」という言葉は、「過ちて改めざる 是(これ)を過ちと謂(い)う」という論語を思い出しました。

 また、特攻隊で命を落とした兄が最後に聞いたジャズの曲を探す、「むふふの和夫始末『びい』」でも、その曲の歌詞に心打たれました。兄がどんな思いでこの曲を聴きたかったのか、大きなメッセージを残しています。

 「銀河食堂」で提供される食も、素朴で美味なのでしょう、この物語を引き立てます。

『銀河食堂の夜』(さだまさし、幻冬舎文庫、本体価格670円)

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太古から今に伝わる不滅の教え108

2021-02-18 15:08:53 | 

 ネイティブアメリカンの本は数多く読んできましたが、全世界の人種の太古から伝わる教示は初めてでした。どれも新鮮でありながらも、現代人にも含蓄の多い言葉の数々でした。

 森喜朗東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会前会長の「女性蔑視は解釈の仕方」という発言に関しても、スワヒリの格言である、『賢人は警告を祝福として受け取るが、愚か者は侮蔑と受け取る』からすると、この一件は後者に属すると思われますし、チベットの格言の『1本の糸では布にならない。1本の木では森にならない。』では多様性の重要性を示しており、本当に良き教えです。シュメールの格言『人を侮れば、侮られる、人を呪えば、呪われる。』なども、発言者への強いメッセージです。

 といっても、アフリカの格言『金は打たれて輝きだす』ですから、自身の変身、あるいは脱皮もしくは変態の良い機会ととらえれば良いのですが、強烈なレッテル付けがなされたのですから、相当の過酷な脱ぎっぷりが必要です。

 私は、ネイティブアメリカンであるチェロキー族の言葉、

『あなたが生まれた時には、あなたは泣き、世界は喜んだ。
  あなたが死ぬ時には、世界が泣き、あなたは喜べるような人生を生きろ』

を胸に留めて生きていきたいと思います。

 108の名文をぜひお読みください。きっと生きる指標にぶちあたると思います。

『太古から今に伝わる不滅の教え108』(エリコ・ロウ著、牛嶋浩美イラスト、太陽出版、本体価格1,500円)

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それでも、陽は昇る

2021-02-15 13:42:06 | 

 東日本大震災から10年を経て、まだ大きな余震が発生するという、人にはまだまだ地震のメカニズムや予報など、不明な点は多いですね。いつまた天災が起きるのかを気にしながらも、阪神淡路大震災では26年の年月を経て、街は復興したとはいうものの、被災者はいかに生きるべきかを問われているように思います。神戸市民も26年前を経験していない人は6割近くになり、被災から復旧、復興への道のりは明確にして、バトンタッチをしていく必要があります。

 阪神淡路大震災から10年を経た時に、復興事業として、板宿では「つなごう・いたやど きづこう・おぢや」というイベントを行いました。中越地震で震災を経験したが、復旧や復興は知らない小千谷市の児童と、震災は知らないが、復興や防災を知っている板宿の子どもを交流してもらおうというものでした。お互いの未知を、お互いから学ぶシナリオでした。

 この『それでも、陽は昇る』では、神戸・長田のコロッケおじさんに、「復興計画は、絶対に背伸びをしたらあかん、身の丈に合ったものを」と語らせています。つまり、復興での「失敗の記録」を伝えることに軸を置くべきというメッセージを伝えています。こんなに復旧や復興をした、凄いだろうではなく、こんな失敗をしてしもうた、だから気を付けてね!こそが重要な発信には目を覚まされました。

 私も書店業としての、復旧、復興の記録は持っています。しかし、その中での失敗には目をふさいでいます。再度の見直しをすべきですね。

『それでも、陽は昇る』(真山 仁著、祥伝社、本体価格1,500円)

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おもかげ

2021-02-08 15:30:43 | 

 国立大学1期校を現役合格し、総合商社に就職し、海外駐在などを経て、関連会社の役員で65歳の定年まで勤め上げた竹脇正一は、送別会の帰りに地下鉄で倒れ意識を失い、病院の集中治療室に運ばれます。家族や友人がお見舞いに訪れますが、彼の心は病院を抜け出し、人生における謎や未練の解決に彷徨います。

 彼は生まれて間もなくの12月25日に捨て子になり、いわゆる孤児院で育ちます。彼の戸籍謄本は真っ白であり、生年月日も12月15日と決まられました。また、節子と結婚後、男の子を授かり、戸籍も少しずつ記載事項が増えますが、4歳の時に交通事故で亡くす。他にも、悔いることがぽろぽろと出てきます。

 なぜ、自分は捨てられたのか?母親はどんな人なのか?息子はどんな思いなのか?

 死ぬ間際に走馬灯のように記憶がさかのぼり、正一は納得の人生を終えるのか、いや過去のことを納得して生き還るのか?身体は動かなくとも、精神がアクティブに動き、一生を全うできたと思えれば最高です。いつ、どんなことで生を終えるかわからない。やはり、いまここで全力を投じたいと思い、読了しました。

『おもかげ』(浅田次郎著、講談社文庫、本体価格840円) 

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時給三〇〇円の死神

2021-02-06 07:53:23 | 

   著者が兵庫県在住なら読んでみようと手に取った本は、20万部を突破していることを恥ずかしながら知りました。

 クラスメートの花森雪希に、高校生の佐倉真司は告げられます、「それじゃあキミを死神として採用するね」と。時給300円、残業代や交通費は出ないし、勤務は早朝も深夜も時間は関係ない上に、業務内容は「この世に未練を残す≪死者≫をあの世に送る」という意味不明なもの。まとまった金の必要だった真司は契約書にサインをする。

 最初の死者は、真司の好きな同級生の朝月静香。彼女から始まった死神のアルバイトの内容や死者の思いで知り得たことで、真司は他人の生きるということは自分にとっての多くの学びを得ていきます。

 そして、学校でも美人で明るい性格の花森と一緒に行動することでいつしか芽生える恋心も、花森の実像を知りながらも温かい雰囲気の中のエンディングを迎えます。「幸せの花が、道端に一輪咲いていた。」と真司は確認します。

 常識外れの設定下、やっぱり生きるっていいなぁと思えた1冊でした。 

『時給三〇〇円の死神』(藤まる著、双葉文庫)

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ギフト

2021-02-04 17:18:39 | 

 

今回は井戸書店でアルバイトをしてくれている(今は休憩中⁉)のYUHOちゃんからの投稿です。

久々に井戸書店に寄って、
たまたま目にして購入。

とても温かい短編集でした。
仕事、恋、友達…モヤモヤやイライラを抱えて登場する主人公たち。
しかし、最後には、登場人物の温かさに微笑みたくなるものばかりでした。

特に私が好きだったのは、結婚のパーティーの抜け道に出てくる「コスモス畑」のお話。
心の距離が離れてしまったかつての親友からの結婚パーティーの招待状が届く。躊躇いながらも封をあける主人公…。会場は二人の思い出の場所「コスモス畑を横切って」だったー。

本書は、
ストーリーだけでなく、
その間に描かれる
淡い水彩画もとても魅力的で癒されました。

本屋にふらっと寄って、目に止まったものを買う良さを感じました😊

『ギフト』(原田マハ著、ポプラ文庫、本体価格620円)

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